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ロレンツォ編
第8話 騎士になれない理由とは
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ロレンツォは帰りがけに家具店を覗き、唸った。ベッドと言うものは、結構値が張る。かといって女の子が眠るベッドに、使い古しのリサイクルを買う気は起こらなかった。コリーンはそれでも良いと言ってくれるだろうが、ロレンツォの方が納得いかない。これも父親の心境だろうか。
「貯金を全部使えば、どうにかなる……か?」
コリーンと同居してから、一ジェイアも貯金に回せていない。減る一方だ。人を一人養うというのは、思った以上にお金のかかるものだなと、ロレンツォは息を吐いた。
最近は、女性とデートも出来ない。一緒にお茶でも如何ですかと言えなくなってから一年だ。仕方ないので、天気や季節の会話をして終わらせている。夜の約束を取り付けられる回数も、ぐっと減ってしまった。寂しい限りである。
休みの日にコリーンを連れて家具店に来ると、彼女は一番安値のベッドを指差してくれた。自分の甲斐性のなさが嫌になる。本当なら、女の子らしいピンクの天蓋がついた、ふかふかのベッドが欲しかろうに。コリーンが選んだのは、マットの薄い、硬くて狭くて痛そうで、転がるだけのベッドだ。
「コリーン、こっちにしろ。別に、金は大丈夫だから」
全く大丈夫でないにも関わらず、ロレンツォは父親の様な威厳や矜持を保つ為にそう言った。それでも天蓋付きベッドは指差せず、コリーンが指差したベッドより、少しランクが上がるくらいのものだったが。これで威厳が保たれたかどうかは、甚だ怪しい。
「でも」
「良いんだ。コリーンだって、すぐに大きくなる。こんな幅の狭いベッドじゃ寝るに寝られない。こっちにしよう」
と、そっちを選んだまでは良かった。しかし支払い段階になり、配達料を含めると予算オーバーしてしまった。ロレンツォは頭を下げて、配達料は後日持ってくるからと頼み込むと、家具屋の店主は嫌な顔を見せつつも承諾してくれた。
「ごめん、ロレンツォ」
「いや。俺もうっかりしていた。配達料とは、盲点だったな」
全く、威厳も何もあったもんじゃない。コリーンに情けない父親の姿を晒してしまい、ロレンツォは苦笑いする。
「ロレンツォ、私、働く。良い?」
コリーンの口からそんな言葉が飛び出してきて、ロレンツォは首を振った。
「駄目だ」
「どうして。ロレンツォ、自立しろ、言った。私、働く。自立する」
「今はまだ自立の時期じゃない。勉強しろと言っただろう」
「でも、生活出来ないの、困る。私働く、少し楽になる」
「子供はそんな事を考えなくていい。大丈夫だ、俺が何とかするから」
もしもここがノルト村ならば、コリーンも労働力として畑で働かせていただろう。しかしここはノルトでは無い。働き口も、職業も豊富なトレインチェである。何になるにしても、今は幅広く勉強しておく事が必要だ。
「ロレンツォ……」
「騎士になれば、生活は楽になるさ」
そう言ったロレンツォは、自分の顔が曇るのを感じた。
上京して早四年。未だ兵士のままだ。騎士への昇格試験を願い出ているものの、その許可が中々降りない。その試験を受けるには、推薦人が必要なのだそうだ。ロレンツォはまだ若く、『ノルトの田舎小僧』のイメージが強いためか、上司も推薦してはくれなかった。
自分では、士官学校生よりも知識はあると思っているし、実戦経験においても、実力においても、彼らには負けない程の力を持っていると思っている。なのに金のある者は士官学校を出て、たった三年の勉強で、ロレンツォより高い地位である騎士になっているのだ。
ふと見ると、コリーンが心配そうにロレンツォを見上げている。そんな彼女の頭を、ロレンツォは優しく撫でてあげた。
「よし、物置の掃除だ。あそこをコリーンの部屋にするぞ」
「……うん」
何か言いたげなコリーンだったが、それを言わさぬ様にロレンツォは微笑んで見せた。
娘に心配をかけるなんて、駄目な父親だな。
良い生活とは程遠い。騎士にさえなれれば、と思うが、それもいつ叶うやら分からない。トレインチェに来て、初めて借金をしてしまった。来月は食費を削るしかなさそうだ。育ち盛りのコリーンを我慢させる訳にはいかない。北水チーズ店のチーズはキャンセルして、しばらくは質素に暮らすしかないだろう。
家に帰ると、二人は物置の掃除をした。いらぬ物は処分し、必要な物はロレンツォの部屋やキッチンの方に移動する。
部屋が綺麗になると、ちょうどそこにベッドが配達された。部屋に運び込むと、それだけで部屋が一杯になってしまいそうだ。机まで置くスペースはないだろう。机を買う予算も無かったが。
それでもコリーンは、自分の部屋が出来て喜んでいた。その姿を見て、ロレンツォも幸せな気分になる。
「服を入れるタンスが必要になるな……俺が使っている棚を空けるから、しばらくはそれで我慢してくれるか?」
「いいの? ありがとう、ロレンツォ」
「どういたしまして」
タンスも結構な値段がする。何年我慢させてしまう事になるか。
そんなロレンツォの懸念通り、一年経ってもコリーンの部屋にタンスが置かれることはなかった。
「貯金を全部使えば、どうにかなる……か?」
コリーンと同居してから、一ジェイアも貯金に回せていない。減る一方だ。人を一人養うというのは、思った以上にお金のかかるものだなと、ロレンツォは息を吐いた。
最近は、女性とデートも出来ない。一緒にお茶でも如何ですかと言えなくなってから一年だ。仕方ないので、天気や季節の会話をして終わらせている。夜の約束を取り付けられる回数も、ぐっと減ってしまった。寂しい限りである。
休みの日にコリーンを連れて家具店に来ると、彼女は一番安値のベッドを指差してくれた。自分の甲斐性のなさが嫌になる。本当なら、女の子らしいピンクの天蓋がついた、ふかふかのベッドが欲しかろうに。コリーンが選んだのは、マットの薄い、硬くて狭くて痛そうで、転がるだけのベッドだ。
「コリーン、こっちにしろ。別に、金は大丈夫だから」
全く大丈夫でないにも関わらず、ロレンツォは父親の様な威厳や矜持を保つ為にそう言った。それでも天蓋付きベッドは指差せず、コリーンが指差したベッドより、少しランクが上がるくらいのものだったが。これで威厳が保たれたかどうかは、甚だ怪しい。
「でも」
「良いんだ。コリーンだって、すぐに大きくなる。こんな幅の狭いベッドじゃ寝るに寝られない。こっちにしよう」
と、そっちを選んだまでは良かった。しかし支払い段階になり、配達料を含めると予算オーバーしてしまった。ロレンツォは頭を下げて、配達料は後日持ってくるからと頼み込むと、家具屋の店主は嫌な顔を見せつつも承諾してくれた。
「ごめん、ロレンツォ」
「いや。俺もうっかりしていた。配達料とは、盲点だったな」
全く、威厳も何もあったもんじゃない。コリーンに情けない父親の姿を晒してしまい、ロレンツォは苦笑いする。
「ロレンツォ、私、働く。良い?」
コリーンの口からそんな言葉が飛び出してきて、ロレンツォは首を振った。
「駄目だ」
「どうして。ロレンツォ、自立しろ、言った。私、働く。自立する」
「今はまだ自立の時期じゃない。勉強しろと言っただろう」
「でも、生活出来ないの、困る。私働く、少し楽になる」
「子供はそんな事を考えなくていい。大丈夫だ、俺が何とかするから」
もしもここがノルト村ならば、コリーンも労働力として畑で働かせていただろう。しかしここはノルトでは無い。働き口も、職業も豊富なトレインチェである。何になるにしても、今は幅広く勉強しておく事が必要だ。
「ロレンツォ……」
「騎士になれば、生活は楽になるさ」
そう言ったロレンツォは、自分の顔が曇るのを感じた。
上京して早四年。未だ兵士のままだ。騎士への昇格試験を願い出ているものの、その許可が中々降りない。その試験を受けるには、推薦人が必要なのだそうだ。ロレンツォはまだ若く、『ノルトの田舎小僧』のイメージが強いためか、上司も推薦してはくれなかった。
自分では、士官学校生よりも知識はあると思っているし、実戦経験においても、実力においても、彼らには負けない程の力を持っていると思っている。なのに金のある者は士官学校を出て、たった三年の勉強で、ロレンツォより高い地位である騎士になっているのだ。
ふと見ると、コリーンが心配そうにロレンツォを見上げている。そんな彼女の頭を、ロレンツォは優しく撫でてあげた。
「よし、物置の掃除だ。あそこをコリーンの部屋にするぞ」
「……うん」
何か言いたげなコリーンだったが、それを言わさぬ様にロレンツォは微笑んで見せた。
娘に心配をかけるなんて、駄目な父親だな。
良い生活とは程遠い。騎士にさえなれれば、と思うが、それもいつ叶うやら分からない。トレインチェに来て、初めて借金をしてしまった。来月は食費を削るしかなさそうだ。育ち盛りのコリーンを我慢させる訳にはいかない。北水チーズ店のチーズはキャンセルして、しばらくは質素に暮らすしかないだろう。
家に帰ると、二人は物置の掃除をした。いらぬ物は処分し、必要な物はロレンツォの部屋やキッチンの方に移動する。
部屋が綺麗になると、ちょうどそこにベッドが配達された。部屋に運び込むと、それだけで部屋が一杯になってしまいそうだ。机まで置くスペースはないだろう。机を買う予算も無かったが。
それでもコリーンは、自分の部屋が出来て喜んでいた。その姿を見て、ロレンツォも幸せな気分になる。
「服を入れるタンスが必要になるな……俺が使っている棚を空けるから、しばらくはそれで我慢してくれるか?」
「いいの? ありがとう、ロレンツォ」
「どういたしまして」
タンスも結構な値段がする。何年我慢させてしまう事になるか。
そんなロレンツォの懸念通り、一年経ってもコリーンの部屋にタンスが置かれることはなかった。
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