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第13話 告白した日
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騎士として、ヘイカーはそれなりに頑張って働いていた。
リゼットとはカールの家では会うものの、特に互いに意識しなくなった。職務中もすげないものだ。
このまま気持ちが冷めてくれればいいと思うが、心のコントロールは上手くいかない。いつまで経っても、リゼットを諦める気持ちが起こらない。もっと時間をかければ忘れる事が出来るのだろうか。その頃には、おじいちゃんになってしまいそうだ。
その日、ヘイカーはチーズの配達が終わった後、カールの家に遊びに行った。するとロイドが、真面目な顔つきでこちらを見てくる。アンナも同様だ。アイリスは我関せずといった感じで本に没頭していたが。そしてカールは、今にも吹きださんばかりに肩を揺らしている。一体何かあったのだろうか。
「どうしたんだよ? ロイド、アンナ様」
そう尋ねると、アンナが口を開こうとして、ロイドがそれを制した。
「母さん、俺から言うよ」
「そう……?」
アンナは一歩引き、代わりにロイドが一歩前に出る。何だろうか。何を言われるというのだろうか。この空気が怖い。
「ヘイカー」
「うん?」
「今日、フェリーチェのフィオから聞いたよ」
「……えっ?!」
ヘイカーは狼狽えた。カールは知っている事とはいえ、ロイドとアンナにリゼットが好きだという事実を知られてしまったのだと思って。
しかし、ロイドの口から飛び出して来た言葉は、ヘイカーの想像を遥かに超えるものだった。
「ヘイカー、俺の事……好きだったんだって?」
ヘイカーは固まった。と同時に、カールがアンナの後方でブハーーーーッと吹き出している。
「カール! やめなさい! 誰を好きになろうと自由でしょう! 同性愛者でも、それは尊重されるべきよ!」
「へ、へい……ぷ、っぷぷ~~~~っ! っくっくっくっくっく」
カールは口元を押さえ、何とか笑いをこらえようとして肩を揺らしている。その目には涙が溢れんばかりに溜まっていた。
一方のヘイカーは、チーンと乾いた音が聞こえて、ひゅるるると虚無の風が流れるかの様だ。
「ヘイカーの気持ちにちっとも気付いてやれなくて、ごめん。俺にはもう、スティーナっていう彼女がいるし……その、ヘイカーとはこのまま良い友人でいたいんだ」
何でオレ、ロイドに振られてんだ?
告白をしてもないのに真剣な顔で断られ、脳が一度シャットダウンする。
「ヘイカー?」
「ロイド、少しそっとしておいてあげなさい。ショックを受けてるようだわ」
そして徐々に再起動する。何故こういう事態になっているのか分からないが、とにかく同性愛者と思われてしまっているのは確かだ。それだけは否定しておきたい。
「ちがっから……オレ、別にロイドの事……」
「無理しなくていいのよ、ヘイカー。私達は差別をするつもりは無いし、今まで通りうちに遊びに来てくれればいいわ」
いつもと違い、オフモードで優しいアンナ。気を遣ってくれるのは嬉しいが、勘違いは許せない。
「ちげーって!! オレは、オレが好きなのは、ロイドじゃなくって!」
「ロイドじゃないの?」
「この家の隣の……」
「隣の?」
そこまで言うと、カールが表情を柔らかな笑みに変えてこちらを見ているのが分かった。
ここでリゼットだと大声で叫べば、この家の者からリゼットに伝わってしまいそうな気がする。
「ク、クージェンドさんなんだ!!」
アンナがクー、と言い、ロイドがジェンド、とクエスチョンマークを付けて声に出した。と同時に、やはりカールが哄笑を始める。
「ブハーーーーハハハハハッ」
「カ、カール! 止めなさい!!」
「ヒィーーッ、だってよ、クージェンドってっ! ヒッヒッ! よりによって、何で白髪のじいさん……っギャハハハハハッ」
「カール! ヘイカーにもクージェンドさんにも失礼でしょう!!」
「そうだよ。別に人の好みはそれぞれだし、年上好きでもいいじゃないか」
二人の真面目なフォローが、実に居心地悪い。事態を悪化させてしまった自分も悪いが、この二人の正善な対応も悪い。
「だってよ、ヘイカーがクージェンドを……ブハーーーーゲラゲラゲラッ」
「黙りなさいッ」
アンナがカールに手刀を食らわして黙らそうとし、カールは笑いながらもそれを避ける。避けられたアンナは、庭に続く窓を開けて、カールをそこへと放り出した。カールは飼い犬にじゃれつかれて戯れ転がりながら、まだゲラゲラと笑っている。
「ごめんね、後でちゃんと言い聞かせておくから」
「でも、クージェンドさんか……あの人は既婚者で愛妻家だから、望みは……ないと思うよ」
アンナには謝られ、ロイドには分析される。どうでもいいので、もうこの状況から解放されたい。
「望みは無くても、伝えるだけ伝えておきなさい。あの人なら、嫌な顔をされる事は無いわ」
クージェンドが嫌な顔をせずとも、ヘイカーが嫌な顔をするのは確定的なのだが。だがロイドは気付かずに、アンナに同意している。
「行こう、ヘイカー」
「へ? どこに?」
「隣だよ。ついて行ってあげるから」
どうしてこういう話になってしまったのだろう。呆然としているとロイドに手を引っ張られるまま、クルーゼ家に着いてしまった。ロイドがドアノッカーを鳴らすと、いつものようにクージェンドが現れる。
「おや、ロイド君、ヘイカー君。それにカール様まで。どうされましたか?」
いつの間にかカールが野次馬に来ていたらしい。振り返って確認する元気も無かったが、きっと面白がっているに違いない。
「ちょっと、クージェンドさんに聞いて貰いたい事があって」
「お嬢様ではなく、私に?」
首を傾げるクージェンド。ロイドは「ほら」とヘイカーを促して来る。
「ヘイカー君?」
「あー、えーっと、そのーー」
「はい。何でしょう」
「あー、好きっす。好きなんす」
「……はい?」
ヘイカーは死んだ目をしてそう言った。とにかく一刻も早くこの状況を終わらせたかった。後ろでカールがブッと吹き出し、すかさずロイドの肘打ちがカールの腹に決まる音がした。
「それは、どういう意味でしょうか」
「ヘイカーは同性愛者なんです。クージェンドさんの事が、真剣に好きなんです」
ロイドが丁寧な説明をすると同時に、「どうしたの?」とクージェンドの後ろからリゼットが現れた。
「ヘイカー君が同性愛者? それは知りませんでした」
「同性……愛?」
後ろでリゼットが呟いている。もう泣きたい。
「申し訳ありませんが、私は妻子が有り、孫までいる身。ヘイカー君の気持ちは嬉しいですが、応えられません」
「……ヘイカー」
ロイドに憐れみの目を向けられる。後ろで笑いを必死にこらえているカールの気配を感じる。リゼットが困った様にクージェンドとヘイカーを見比べていて、ヘイカーは本当に泣けてきた。
「……いいっす。すんませんっした」
そういう自分が情けなくなって、その目から勝手に涙がポロリと溢れ出て行く。
「ヘイカー!?」
それにいち早く気づいたリゼットに名前を呼ばれ、ヘイカーはその場から逃げる様に駆け出した。
どうしてこんな事になってしまったのか、わけが分からなかった。
誰にも追いつけないような速さで街中を駆け抜ける。そして家に帰って塞ぎ込んでいると、受け取り口の窓からノックが響いた。今日は受け取りに来る人はいなかったはずなのにと思いながら、その小窓を開ける。そこには何故かカールの姿があった。
「ヘイカー、さっきはうちの奴らが悪かったな」
「カール……助け舟くらい、出してくれてもよかったじゃないかよ」
「だってお前、クージェンドが好きとか言い出すんだもんよ」
またもブブっと吹き出そうとしてヘイカーの冷たい視線に気付き、こほんと仕切り直している。
「お前がロイドを好きだって、何でフィオが勘違いしたのか知らねーけど」
本当に、何故そんな勘違いをしてくれたのか。おかげでクージェンドに告白するというハメになってしまった。深く息を吐く。何だか生きて行く気力さえ無くなってしまった気がする。この脱力感は形容し難い。
「で、お前はいつ、本当の好きな人に告白すんだ?」
「……」
「まさか、しないなんて情けねー事言わねーよな」
「どうせオレは、情けない人間だよ。」
「ッハ、ほんっとヘタレだなー!」
自分でも分かってはいるが、思いっきり言われると腹が立つ。それでもこの挑発に「じゃあ告白してやるよ」と言えない自分は心底ヘタレなんだと、さらに落ち込んだ。
「おい、ヘイカー。今がチャンスじゃねーか。言っとけって」
「何がチャンスなんだよ? リゼットはロレンツォと付き合ってるっていうのに」
「ああ? リゼットが、ロレンツォとぉ?」
カールは眉間に皺を寄せ、首を捻っている。そして次に出てきた言葉は、「何勘違いしてんだ、お前」だった。
「勘違い……?」
「あー、あれか? 新聞のAさんっての、あれリゼットの事だと思ったのか?」
「……新聞?」
「あ? 読んでねーのかよ。今週初めの新聞だ。読んでみろ」
そう言ってカールは帰って行った。新聞は、ヘイカーがロレンツォの家に殴り込みに行った次の日からはしばらく読んでいたが、この所はさっぱりだった。
カールに言われた通り、今週初めの新聞を探して読み始める。すぐにロレンツォの文字を見つけ、その記事を走り読んだ。
「ミハエル騎士団隊長のロレンツォが、トレインチェ市内の大学に通うAさんと交際宣言……既に同棲開始……」
Aさん……明らかにリゼットではない。あの時のコリーンという女性だろうか。
では、リゼットとはどうなったのだろう。てっきり付き合っているものと思っていたが、彼女は振られてしまっていたのだろうか。
ならばリゼットは、その事を誰かに聞いて貰いたかったに違いない。誰か、なんて決まっている。ただ一人の友人だったヘイカーにだ。
なのにオレ、リゼットに友達やめるなんて言って……
そう言った時、リゼットはどんな顔をしていたのだろう。ヘイカーは、彼女の顔を見ようともしなかった事を後悔した。
そしてヘイカーは再び家を出る。もう一度、クルーゼ家を訪ねる為に。
リゼットとはカールの家では会うものの、特に互いに意識しなくなった。職務中もすげないものだ。
このまま気持ちが冷めてくれればいいと思うが、心のコントロールは上手くいかない。いつまで経っても、リゼットを諦める気持ちが起こらない。もっと時間をかければ忘れる事が出来るのだろうか。その頃には、おじいちゃんになってしまいそうだ。
その日、ヘイカーはチーズの配達が終わった後、カールの家に遊びに行った。するとロイドが、真面目な顔つきでこちらを見てくる。アンナも同様だ。アイリスは我関せずといった感じで本に没頭していたが。そしてカールは、今にも吹きださんばかりに肩を揺らしている。一体何かあったのだろうか。
「どうしたんだよ? ロイド、アンナ様」
そう尋ねると、アンナが口を開こうとして、ロイドがそれを制した。
「母さん、俺から言うよ」
「そう……?」
アンナは一歩引き、代わりにロイドが一歩前に出る。何だろうか。何を言われるというのだろうか。この空気が怖い。
「ヘイカー」
「うん?」
「今日、フェリーチェのフィオから聞いたよ」
「……えっ?!」
ヘイカーは狼狽えた。カールは知っている事とはいえ、ロイドとアンナにリゼットが好きだという事実を知られてしまったのだと思って。
しかし、ロイドの口から飛び出して来た言葉は、ヘイカーの想像を遥かに超えるものだった。
「ヘイカー、俺の事……好きだったんだって?」
ヘイカーは固まった。と同時に、カールがアンナの後方でブハーーーーッと吹き出している。
「カール! やめなさい! 誰を好きになろうと自由でしょう! 同性愛者でも、それは尊重されるべきよ!」
「へ、へい……ぷ、っぷぷ~~~~っ! っくっくっくっくっく」
カールは口元を押さえ、何とか笑いをこらえようとして肩を揺らしている。その目には涙が溢れんばかりに溜まっていた。
一方のヘイカーは、チーンと乾いた音が聞こえて、ひゅるるると虚無の風が流れるかの様だ。
「ヘイカーの気持ちにちっとも気付いてやれなくて、ごめん。俺にはもう、スティーナっていう彼女がいるし……その、ヘイカーとはこのまま良い友人でいたいんだ」
何でオレ、ロイドに振られてんだ?
告白をしてもないのに真剣な顔で断られ、脳が一度シャットダウンする。
「ヘイカー?」
「ロイド、少しそっとしておいてあげなさい。ショックを受けてるようだわ」
そして徐々に再起動する。何故こういう事態になっているのか分からないが、とにかく同性愛者と思われてしまっているのは確かだ。それだけは否定しておきたい。
「ちがっから……オレ、別にロイドの事……」
「無理しなくていいのよ、ヘイカー。私達は差別をするつもりは無いし、今まで通りうちに遊びに来てくれればいいわ」
いつもと違い、オフモードで優しいアンナ。気を遣ってくれるのは嬉しいが、勘違いは許せない。
「ちげーって!! オレは、オレが好きなのは、ロイドじゃなくって!」
「ロイドじゃないの?」
「この家の隣の……」
「隣の?」
そこまで言うと、カールが表情を柔らかな笑みに変えてこちらを見ているのが分かった。
ここでリゼットだと大声で叫べば、この家の者からリゼットに伝わってしまいそうな気がする。
「ク、クージェンドさんなんだ!!」
アンナがクー、と言い、ロイドがジェンド、とクエスチョンマークを付けて声に出した。と同時に、やはりカールが哄笑を始める。
「ブハーーーーハハハハハッ」
「カ、カール! 止めなさい!!」
「ヒィーーッ、だってよ、クージェンドってっ! ヒッヒッ! よりによって、何で白髪のじいさん……っギャハハハハハッ」
「カール! ヘイカーにもクージェンドさんにも失礼でしょう!!」
「そうだよ。別に人の好みはそれぞれだし、年上好きでもいいじゃないか」
二人の真面目なフォローが、実に居心地悪い。事態を悪化させてしまった自分も悪いが、この二人の正善な対応も悪い。
「だってよ、ヘイカーがクージェンドを……ブハーーーーゲラゲラゲラッ」
「黙りなさいッ」
アンナがカールに手刀を食らわして黙らそうとし、カールは笑いながらもそれを避ける。避けられたアンナは、庭に続く窓を開けて、カールをそこへと放り出した。カールは飼い犬にじゃれつかれて戯れ転がりながら、まだゲラゲラと笑っている。
「ごめんね、後でちゃんと言い聞かせておくから」
「でも、クージェンドさんか……あの人は既婚者で愛妻家だから、望みは……ないと思うよ」
アンナには謝られ、ロイドには分析される。どうでもいいので、もうこの状況から解放されたい。
「望みは無くても、伝えるだけ伝えておきなさい。あの人なら、嫌な顔をされる事は無いわ」
クージェンドが嫌な顔をせずとも、ヘイカーが嫌な顔をするのは確定的なのだが。だがロイドは気付かずに、アンナに同意している。
「行こう、ヘイカー」
「へ? どこに?」
「隣だよ。ついて行ってあげるから」
どうしてこういう話になってしまったのだろう。呆然としているとロイドに手を引っ張られるまま、クルーゼ家に着いてしまった。ロイドがドアノッカーを鳴らすと、いつものようにクージェンドが現れる。
「おや、ロイド君、ヘイカー君。それにカール様まで。どうされましたか?」
いつの間にかカールが野次馬に来ていたらしい。振り返って確認する元気も無かったが、きっと面白がっているに違いない。
「ちょっと、クージェンドさんに聞いて貰いたい事があって」
「お嬢様ではなく、私に?」
首を傾げるクージェンド。ロイドは「ほら」とヘイカーを促して来る。
「ヘイカー君?」
「あー、えーっと、そのーー」
「はい。何でしょう」
「あー、好きっす。好きなんす」
「……はい?」
ヘイカーは死んだ目をしてそう言った。とにかく一刻も早くこの状況を終わらせたかった。後ろでカールがブッと吹き出し、すかさずロイドの肘打ちがカールの腹に決まる音がした。
「それは、どういう意味でしょうか」
「ヘイカーは同性愛者なんです。クージェンドさんの事が、真剣に好きなんです」
ロイドが丁寧な説明をすると同時に、「どうしたの?」とクージェンドの後ろからリゼットが現れた。
「ヘイカー君が同性愛者? それは知りませんでした」
「同性……愛?」
後ろでリゼットが呟いている。もう泣きたい。
「申し訳ありませんが、私は妻子が有り、孫までいる身。ヘイカー君の気持ちは嬉しいですが、応えられません」
「……ヘイカー」
ロイドに憐れみの目を向けられる。後ろで笑いを必死にこらえているカールの気配を感じる。リゼットが困った様にクージェンドとヘイカーを見比べていて、ヘイカーは本当に泣けてきた。
「……いいっす。すんませんっした」
そういう自分が情けなくなって、その目から勝手に涙がポロリと溢れ出て行く。
「ヘイカー!?」
それにいち早く気づいたリゼットに名前を呼ばれ、ヘイカーはその場から逃げる様に駆け出した。
どうしてこんな事になってしまったのか、わけが分からなかった。
誰にも追いつけないような速さで街中を駆け抜ける。そして家に帰って塞ぎ込んでいると、受け取り口の窓からノックが響いた。今日は受け取りに来る人はいなかったはずなのにと思いながら、その小窓を開ける。そこには何故かカールの姿があった。
「ヘイカー、さっきはうちの奴らが悪かったな」
「カール……助け舟くらい、出してくれてもよかったじゃないかよ」
「だってお前、クージェンドが好きとか言い出すんだもんよ」
またもブブっと吹き出そうとしてヘイカーの冷たい視線に気付き、こほんと仕切り直している。
「お前がロイドを好きだって、何でフィオが勘違いしたのか知らねーけど」
本当に、何故そんな勘違いをしてくれたのか。おかげでクージェンドに告白するというハメになってしまった。深く息を吐く。何だか生きて行く気力さえ無くなってしまった気がする。この脱力感は形容し難い。
「で、お前はいつ、本当の好きな人に告白すんだ?」
「……」
「まさか、しないなんて情けねー事言わねーよな」
「どうせオレは、情けない人間だよ。」
「ッハ、ほんっとヘタレだなー!」
自分でも分かってはいるが、思いっきり言われると腹が立つ。それでもこの挑発に「じゃあ告白してやるよ」と言えない自分は心底ヘタレなんだと、さらに落ち込んだ。
「おい、ヘイカー。今がチャンスじゃねーか。言っとけって」
「何がチャンスなんだよ? リゼットはロレンツォと付き合ってるっていうのに」
「ああ? リゼットが、ロレンツォとぉ?」
カールは眉間に皺を寄せ、首を捻っている。そして次に出てきた言葉は、「何勘違いしてんだ、お前」だった。
「勘違い……?」
「あー、あれか? 新聞のAさんっての、あれリゼットの事だと思ったのか?」
「……新聞?」
「あ? 読んでねーのかよ。今週初めの新聞だ。読んでみろ」
そう言ってカールは帰って行った。新聞は、ヘイカーがロレンツォの家に殴り込みに行った次の日からはしばらく読んでいたが、この所はさっぱりだった。
カールに言われた通り、今週初めの新聞を探して読み始める。すぐにロレンツォの文字を見つけ、その記事を走り読んだ。
「ミハエル騎士団隊長のロレンツォが、トレインチェ市内の大学に通うAさんと交際宣言……既に同棲開始……」
Aさん……明らかにリゼットではない。あの時のコリーンという女性だろうか。
では、リゼットとはどうなったのだろう。てっきり付き合っているものと思っていたが、彼女は振られてしまっていたのだろうか。
ならばリゼットは、その事を誰かに聞いて貰いたかったに違いない。誰か、なんて決まっている。ただ一人の友人だったヘイカーにだ。
なのにオレ、リゼットに友達やめるなんて言って……
そう言った時、リゼットはどんな顔をしていたのだろう。ヘイカーは、彼女の顔を見ようともしなかった事を後悔した。
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