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第14話 リスクが分かった日
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ヘイカーがドアノッカーを鳴らすも、クージェンドは出て来なかった。代わりにリゼットが顔を見せる。
「ヘイカー……話は聞いたわ。良かったら入って。クージェンドはもう帰ってしまったけれど」
ヘイカーはお言葉に甘えて入る事にした。元々話をしに来たのだ。追い返される事なく入れてもらえてホッとした。
「大丈夫?」
「へ? 何が?」
「その……振られるというのは、心穏やかでいられるものではないでしょう」
リゼットに気遣われ、ヘイカーは苦笑する。クージェンドに振られた所で、別に何ともあるわけがない。
「その……ごめんね」
「何で謝ってんの?」
「もっと気遣っていればと思って……私の料理を食べに来てくれたのは、クージェンドに会いたかったからでしょう? なのにあなたが来る時はさっさとクージェンドを帰らせてしまって、私の不味い料理を食べさせ……」
「リゼットの料理を不味いなんて言った事、ねーって」
ヘイカーが否定すると、リゼットは一瞬驚いたように眉を上げ、それからゆっくりと表情を笑みに変えた。
「久々に、リゼットと呼んでくれたわね」
その顔は、嬉しそうだった。
「ごめん……」
「何故謝るの?」
「オレ、リゼットに友達やめるなんて、酷い事を……」
ヘイカーの言葉に、リゼットは首を振った。
「いえ。その前、私がクージェンドに家族の話をさせるような発言をしてしまったから。ヘイカーはそれで気を損ねたのよね? そこまでクージェンドの事を、愛していたのね……」
「や、リゼット、それなんだけど……」
「いいのよ。辛い気持ちは分かる。私は、友人としてヘイカーを支えたい。また……私と友達になって貰えないかしら」
『友達』の言葉に、ヘイカーは安堵した。もう嫌われて元には戻れないと思っていたものが、修復される。またリゼットと友人関係に戻れる。
「うん。なってやるよ。もう一度、友達に」
横柄に言ってみたが、それでもリゼットは女神の様な笑みを見せて喜んでくれた。ありがとうの言葉と共に。
「で、同性愛者だと思われたまま、ずっとトモダチやってんのか」
呆れた様に言うのは、カールである。結局ヘイカーは同性愛者だと勘違いされたままになっている。それを否定しようとすれば、リゼットが好きでロレンツォに嫉妬していた事を話さなければならなくなり、必然的に告白しなくてはならない事になるからだ。
告白する勇気が無いヘイカーは、否定出来ぬまま友達を続けるしかなかった。
「しっかしあれから一年だぞ? 下手すりゃ一生友達止まりだぜ?」
「う、うっせーよ。オ、オレは今のままで結構幸せだから、いーんだよ」
「ったく……またロレンツォみたいな奴が現れて、取られっても知らねーぞ」
溜息をつかれてしまったが、カールに言った言葉の通り、ヘイカーは割と幸せだった。
告白して関係が壊れるよりかは、今のままの方がよっぽど良い。ヘイカーは保身に走るタイプである。
カールからチーズの代金を受け取ると、ヘイカーは次にクルーゼ家へと向かった。
最近はチーズの注文がない日も、リゼットの家にお邪魔している。ほぼ毎日、と言っていい。リゼットは必ずヘイカーの分の食事を用意してくれていて、二人は一緒にそれを食べる。
「最近、どう? あなたの運の悪さは」
今日は、そんな会話から始まった。
「上々。毎日厄日っつーか。今日も森のモンスター討伐隊で、先鋒命じられるし」
「戦闘とは関係の無いところで、あなただけ毒虫に噛まれた事もあったわね」
「あれはヤバかった。リゼットがいなきゃ、オレ死んでたよ」
「……ねえ、思ったんだけど」
リゼットは真面目な顔でこちらを見ている。いつ見ても、綺麗だ。
「もしかして、それがリスクではないの?」
「リスク?」
ヘイカーは記憶を掘り起こす。確か、この雷の魔法を覚えた時。アンナが、魔法にはリスクがあると言っていた。
「雷の魔法の? どういうリスクだって?」
「だから、その……運が悪くなるリスクよ」
「運、ねぇ……」
ざっくりとした表現に、ヘイカーは首を捻らせる。つまり、具体的にはどうなるリスクなのだろうか。
「先日、魔法部隊のメンバーと、個人面談を行ったでしょう。皆に聞いてみたけれど、やはり雷の魔法を覚えた者だけ、運が悪くなったような気がすると言う者が多かったわ」
「へぇ……」
「ここからは私の勝手な分析に過ぎないけど、聞いて。元々強運の持ち主には、さほど影響はない。そして運の悪さは、相性度に比例していると思う。雷の魔法と相性が高いもの程、運が悪いのよ。それともうひとつ。覚えている魔法の量によって運の悪さが増す。あなたは雷の魔法を、全て使えるわね?」
「あ、ああ、全部使えっけど……」
何だか嫌な流れの話だ。リゼットの分析が正しければ、雷の魔法と相性が良く、全ての魔法を使う事が出来ているヘイカーは、メチャクチャ運が悪いという事になる。確かに一人だけ魔物に狙われて追いかけ回された事もあるが、それも運の悪さによるものだろうか。
「あまり言いたくはないんだけど……あなたは雷の魔術師の中でも、かなり運が悪いわ」
「……」
事実とはいえ、実際に言葉にされると落ち込む。
「ともかく……私と離れて遠出しなければいけない時は、注意して。私は魔法部隊を管轄しているとはいえ、ずっと見守るわけにはいかないから」
「……うん」
はっと嘆息すると、リゼットが申し訳なさそうに眉を寄せている。
「ごめんなさい、あなたはこの魔法を外せないというのに、嫌な情報ばかりを……」
「い、いや、いいって」
「その、あなたの事が、心配で……」
そう言いながらリゼットは顔を横に向けた。何故か、その美しい顔を朱に染めながら。
「リゼット……?」
「その、迷惑なら言って」
「へ? 何が? 全然、有難いよ」
「そ、そう」
ヘイカーが言うと、リゼットはホッとしている。確かに運の悪さが雷の魔法にあるという事にはショックを受けたが、情報が無いよりはあった方がマシである。魔法をつけたままでの対処法もあれば、なお良かったのだが。
魔法を外せない以上、上手く付き合って行くしかないようだ。この先の自分の運命を想像してヘイカーはやはり息を吐いていた。
「ヘイカー……話は聞いたわ。良かったら入って。クージェンドはもう帰ってしまったけれど」
ヘイカーはお言葉に甘えて入る事にした。元々話をしに来たのだ。追い返される事なく入れてもらえてホッとした。
「大丈夫?」
「へ? 何が?」
「その……振られるというのは、心穏やかでいられるものではないでしょう」
リゼットに気遣われ、ヘイカーは苦笑する。クージェンドに振られた所で、別に何ともあるわけがない。
「その……ごめんね」
「何で謝ってんの?」
「もっと気遣っていればと思って……私の料理を食べに来てくれたのは、クージェンドに会いたかったからでしょう? なのにあなたが来る時はさっさとクージェンドを帰らせてしまって、私の不味い料理を食べさせ……」
「リゼットの料理を不味いなんて言った事、ねーって」
ヘイカーが否定すると、リゼットは一瞬驚いたように眉を上げ、それからゆっくりと表情を笑みに変えた。
「久々に、リゼットと呼んでくれたわね」
その顔は、嬉しそうだった。
「ごめん……」
「何故謝るの?」
「オレ、リゼットに友達やめるなんて、酷い事を……」
ヘイカーの言葉に、リゼットは首を振った。
「いえ。その前、私がクージェンドに家族の話をさせるような発言をしてしまったから。ヘイカーはそれで気を損ねたのよね? そこまでクージェンドの事を、愛していたのね……」
「や、リゼット、それなんだけど……」
「いいのよ。辛い気持ちは分かる。私は、友人としてヘイカーを支えたい。また……私と友達になって貰えないかしら」
『友達』の言葉に、ヘイカーは安堵した。もう嫌われて元には戻れないと思っていたものが、修復される。またリゼットと友人関係に戻れる。
「うん。なってやるよ。もう一度、友達に」
横柄に言ってみたが、それでもリゼットは女神の様な笑みを見せて喜んでくれた。ありがとうの言葉と共に。
「で、同性愛者だと思われたまま、ずっとトモダチやってんのか」
呆れた様に言うのは、カールである。結局ヘイカーは同性愛者だと勘違いされたままになっている。それを否定しようとすれば、リゼットが好きでロレンツォに嫉妬していた事を話さなければならなくなり、必然的に告白しなくてはならない事になるからだ。
告白する勇気が無いヘイカーは、否定出来ぬまま友達を続けるしかなかった。
「しっかしあれから一年だぞ? 下手すりゃ一生友達止まりだぜ?」
「う、うっせーよ。オ、オレは今のままで結構幸せだから、いーんだよ」
「ったく……またロレンツォみたいな奴が現れて、取られっても知らねーぞ」
溜息をつかれてしまったが、カールに言った言葉の通り、ヘイカーは割と幸せだった。
告白して関係が壊れるよりかは、今のままの方がよっぽど良い。ヘイカーは保身に走るタイプである。
カールからチーズの代金を受け取ると、ヘイカーは次にクルーゼ家へと向かった。
最近はチーズの注文がない日も、リゼットの家にお邪魔している。ほぼ毎日、と言っていい。リゼットは必ずヘイカーの分の食事を用意してくれていて、二人は一緒にそれを食べる。
「最近、どう? あなたの運の悪さは」
今日は、そんな会話から始まった。
「上々。毎日厄日っつーか。今日も森のモンスター討伐隊で、先鋒命じられるし」
「戦闘とは関係の無いところで、あなただけ毒虫に噛まれた事もあったわね」
「あれはヤバかった。リゼットがいなきゃ、オレ死んでたよ」
「……ねえ、思ったんだけど」
リゼットは真面目な顔でこちらを見ている。いつ見ても、綺麗だ。
「もしかして、それがリスクではないの?」
「リスク?」
ヘイカーは記憶を掘り起こす。確か、この雷の魔法を覚えた時。アンナが、魔法にはリスクがあると言っていた。
「雷の魔法の? どういうリスクだって?」
「だから、その……運が悪くなるリスクよ」
「運、ねぇ……」
ざっくりとした表現に、ヘイカーは首を捻らせる。つまり、具体的にはどうなるリスクなのだろうか。
「先日、魔法部隊のメンバーと、個人面談を行ったでしょう。皆に聞いてみたけれど、やはり雷の魔法を覚えた者だけ、運が悪くなったような気がすると言う者が多かったわ」
「へぇ……」
「ここからは私の勝手な分析に過ぎないけど、聞いて。元々強運の持ち主には、さほど影響はない。そして運の悪さは、相性度に比例していると思う。雷の魔法と相性が高いもの程、運が悪いのよ。それともうひとつ。覚えている魔法の量によって運の悪さが増す。あなたは雷の魔法を、全て使えるわね?」
「あ、ああ、全部使えっけど……」
何だか嫌な流れの話だ。リゼットの分析が正しければ、雷の魔法と相性が良く、全ての魔法を使う事が出来ているヘイカーは、メチャクチャ運が悪いという事になる。確かに一人だけ魔物に狙われて追いかけ回された事もあるが、それも運の悪さによるものだろうか。
「あまり言いたくはないんだけど……あなたは雷の魔術師の中でも、かなり運が悪いわ」
「……」
事実とはいえ、実際に言葉にされると落ち込む。
「ともかく……私と離れて遠出しなければいけない時は、注意して。私は魔法部隊を管轄しているとはいえ、ずっと見守るわけにはいかないから」
「……うん」
はっと嘆息すると、リゼットが申し訳なさそうに眉を寄せている。
「ごめんなさい、あなたはこの魔法を外せないというのに、嫌な情報ばかりを……」
「い、いや、いいって」
「その、あなたの事が、心配で……」
そう言いながらリゼットは顔を横に向けた。何故か、その美しい顔を朱に染めながら。
「リゼット……?」
「その、迷惑なら言って」
「へ? 何が? 全然、有難いよ」
「そ、そう」
ヘイカーが言うと、リゼットはホッとしている。確かに運の悪さが雷の魔法にあるという事にはショックを受けたが、情報が無いよりはあった方がマシである。魔法をつけたままでの対処法もあれば、なお良かったのだが。
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