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目を開くと天井が見える。
随分と寝たように感じるが、今は何時だろう…アラームをかけているはずだがスマホは…
その瞬間、ぼんやりとした頭が一気に覚醒した。
壁一面に大量の写真が貼ってあることに気づいたからだ。薄暗くてよく見えないが、確実にわかる。
ここは、俺の部屋じゃ、ない。
昨日確か俺は遅くまで仕事してて…そうだ、途中で渚から連絡が来て、それがご飯の誘いでなんだか懐かしいなって思っていたら所長が…
所長?
「っ!」
そうだ、思い出した。
スマホを奪われてメッセージを見られ、うざいって言われてショックを受けていたら、所長がスプレーみたいなのを俺に向けたんだ。
でもそこから記憶がない。
記憶通りならば、普通に考えてその後俺をここに運んだのは所長だ。
なんのために?
わざわざ俺を眠らせてまで連れてくる意味はなんだ。
昨日の会話から察するに俺は所長に嫌われているわけで、そんな嫌いな奴を眠らせて連れてくる意味…
そもそもここはどこなんだろう。
寝ている人間を運ぶのは相当な重労働だ。ただでさえ研究所にこもってる細身の所長に遠くまで運ぶ力があると思えない。
研究所の近くかあるいは第三者が運んだ可能性。
現時点でわかるのはこの部屋がだだっ広くて天井は真っ白、壁紙が見えないほど大量に貼られた写真。ドア一つと俺が横たわっているベッドがあることだけだ。
他には一切の家具や装飾はなく、殺風景な部屋とおびただしい写真のギャップが余計不気味さに拍車をかけていた。
色々気になることはあるけど、まずはここから出よう。
そう思って身体を起こそうとして初めて、手足の自由が利かないことに気づいた。
何かで縛られているらしい。頭上を見てみると、ネクタイくらいの幅の布でベッドに固定されてる。薄暗くてよく見えないが、おそらく足も同じように縛られている。
…何が起こっているんだ?
「起きたんだ?おはよう。」
突然の所長の声に、身体がびくりと跳ねた。
自分の置かれている状況に混乱していて、ドアの音に気づかなかったようだ。
所長を見ると、いつも無表情な所長には珍しく口角が上がっている。笑っているらしい。
「し、所長!あ、あの、」
質問しようとしたが、何を聞けばいいんだ。
ここはどこ、なんのために、どうして所長は笑っているのか。
考えれば考えるほど悪い想像しかできない。
眠らせて捕えられた意味、役立たずで嫌われている研究員、もしかして、
「じ、実験台…?」
俺の最悪の想像は口からこぼれてしまったらしい。
所長は一瞬きょとんとした後、大口を開けて笑い出した。
「あはははははははは!ほんとに波は面白いね!いつでも僕を楽しませてくれるよ。」
誰だこれは。
いつもつまらないものを見るような目で俺を見ている所長が。
誰に対しても常にクールで感情が死んでいるような人が。
破顔し大声で笑っている。
普段綺麗な顔で冷たい声しか出さないから怖いイメージしかなくて、そんなところもかっこよくて好きだと思っていたが、今の所長はどうだ。
とても無邪気で可愛らしく、今はそれが恐ろしい。
「はあ、久しぶりにこんなに笑ったよ、お腹痛くなるくらい。やっぱり最高だ。」
そう言いながら、所長は俺の頭を撫でる。
普段ならこんなことされたら天にも昇るような気持ちなんだろうけど、今は何をされるかわからない恐怖で身体が無意識に強張る。
「どうしたの?怯えているの?」
「っし、所長っ」
「なあに?」
「ここは、ど、どこなんですか…」
恐る恐る聞くと、所長の顔は更に明るくなる。
「波、波!よく聞いてくれたね!ここは2人の愛の巣だよ。誰にも邪魔されない、2人だけの世界。ここで波は俺と2人で生きていくんだ!もう俺以外のやつと話す必要もないし、働かなくていい、俺が全部全部やってあげるから、波は俺にお世話されてればいいんだ、嬉しいでしょ?」
身体が震える。
今の所長の言葉の意味が1ミリも理解できなかったことに対してじゃない。
薄暗さに目が慣れ、視界に入っていた写真がようやく何を映していたのか見えたからだ。
それは全て俺だった。
ほとんどの写真は正面を向いておらず、撮られた記憶もない。
しかもこの量からして、随分昔から撮られていたことは明白だ。
「今まではずっと写真とか動画で我慢してあげたんだよ?本当はすぐにでも2人きりで暮らしたかったんだけど、波は働くの好きそうだし、旦那として妻のやりたいことを尊重してあげるのは大事なことでしょ?でもやっぱり不安だったから、変な虫がつかないように所内の奴らには波と話さないっていう誓約書を書かせたし、浜には監視役をしてもらってたんだ。休日も寮に篭りっぱなしだったから、友達もいないと思ってたのに、完全に油断してたなあ。」
写真の中には、おそらく寮内や俺の自室で撮られたであろう写真が何十枚とあった。
寮の至るところにカメラが設置してあったことは確実だろう。
自分の身に何が起こっているのか理解が追いつかず、所長の言葉が全然入ってこない。
「さっき波は実験台って言ってたけど、試すのはもう終わってるんだ。」
おもむろに、所長が俺の顔を両手で包み、覗きこんだ。
怖いくらいの笑顔を浮かべながら。
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