3歳で捨てられた件

玲羅

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聖国へ向けて

王都屋敷とお散歩

 4月に入ってから王都に戻った私達は、聖国行きの準備に追われた。私達というより、屋敷の使用人達ね。

 必要な物は王家が用意すると、以前サミュエル先生が言っていたけれど、私がフェルナー領に行っている間に、仰々しく国の正式な印章が捺され、さらに国王陛下のサインが入った書類が、いくつかの荷物と共に運び込まれていた。

「これは?」

「全員の出国の為の公的身分証明書パスポートだそうです」

 家令のコンラットが答えた。

「キャスリーン様が領地に行っておられる間に、フェルナー侯爵様とサミュエル・ブランジット様がお持ちになられました」

「連絡してくれれば良かったのに」

「サミュエル・ブランジット様が、聖女任命される前の息抜きだから邪魔はしたくないと仰られて。フェルナー侯爵様もその意見に賛成だと」

 お義父様とサミュエル先生、2人の気遣いだったらしい。

「アクセサリー類も持っていくの?」

「そのように伺っております」

「ドレスはこんなに要らないんじゃない?」

「王妃様、王太子妃様、第二王子妃様からのお心遣いのようです」

「こちらは?」

「ピュエンルーデ公爵夫人からの贈り物ですね」

 ドレスではないけれど、品の良いワンピースとブラウスとスカートとストッキング靴下類が、それぞれ5着づつ。

「これも全部持っていくの?」

「リーサ様がそのようにと指示なさっておられましたね」

 ここまで要るのかしら?聖女任命には短くて1ヶ月らしいし仕方がないのかもしれないけれど、大荷物よねぇ。

 贈り物の他にもフランファーレまでの旅程に必要な着替えやタオル類や夜着もたくさん用意されている。

 このタオルもパイル織りのタオルだ。すなわち高級品。私達が普段使っているのはもっと毛足の短いターキッシュタオル。それでも庶民からすれば高級品らしい。

他人事ひとごとねぇ、キャスリーンさん」

 見ていたらしい忙しく動いていたリーサさんに、そんな風に言われてしまった。

他人事ひとごとというわけではないのですが」

「そんなキャスリーンさんに、セッカちゃんのお散歩を頼もうかしら?」

「はーい、行ってきます」

 別に邪魔にされている訳じゃないけれど、邸内は慌ただしいからリーサさんなりの気遣いだと思う。この機会に教会に行ってこよう。

 フランファーレまで転送部屋を使うかと聞かれたけれど、馬車旅を選んだのは私だ。フランファーレは軍港がある王領だから、転送部屋の利用には教会と王家の二重の許可がいる。それにサミュエル先生からも少しで良いから民達に光の聖女の姿を見せてやってほしいといわれたし。

 もしかしなくても、帰ってきた時で良いのじゃないかしら?とも思ったけれど、馬車旅の許可も出たし、滅多に出来ないフランファーレまでの1週間の馬車旅を楽しみたいと思う。

「キャスリーン、教会か?」

「リーサさんに追い出されてしまいました。雪花のお散歩を頼まれてしまって」

 レオナルドさんが来てくれた。マリアさんは邸内から付いてきてくれている。

「雪花も一緒に行けりゃ良かったのにな」

「聖国までは無理ですわよ?許可が出ないと思いますわ」

「フランファーレまでだよ。馬車旅なら平気なんだろ?」

「そうですけれど。フランファーレでお別れするのが辛くなりそうで」

「1ヶ月位だっけ?」

「そう聞いております」

「じゃあ、連れてってやれよ。セッカは賢いからなんとなく分かっていると思うぜ?キャスリーンがどこかに行くのを。だからフェルナー領から帰ってきて、ピッタリと離れないんだろうし」

「帰りはどうするのです?」

「引き連れていく護衛がいるだろうが。アイツらに任せりゃ良い。キャスリーンが居ない間のお散歩係だったんだから、セッカも慣れているだろ?」

「それにセッカさんも、キャスリーン様の護衛として同行すれば、心強いと思いますよ?」

「でも急に連れていくなんて言ったら……」

「大丈夫だぜ?連れていく予想が半分、連れていかない予想が半分だったから」

 ん?どういう事?

「どちらになっても良いように用意は進めていますよ」

「え?」

「キャスリーンならかなり悩むんじゃないかっていうのが、全員の予想だ」

「セッカさんもキャスリーン様が大好きですからね。キャスリーン様がセッカさんを好きなように」

「それにセッカのエサは、俺の収納ピアスに入れてあるしな。帰りの分も用意してある」

 用意が良い事で……。そうか。予想されてたのか。

 セッカは何も聞こえてないように歩いているけれど、足取りが軽いように感じる。タッタカタッタカ跳ねるように歩いているような気がする。

「やけに雪花をフランファーレまで連れてけと仰っておられますけれど、何もございませんわよね?」

「何もねぇよ、俺達はな。私兵達は知らねぇが」

「軽い賭けはしておりましたね」

「軽い賭け?」

「勝った方がキャスリーン様の近くで護衛出来るとかなんとか」

「言ってやるなよ」

「で、この男は直接護衛で聖国まで一緒だと、私兵達に勝負を挑まれまくっております」

「それって、レオナルドさんに勝ったら、レオナルドさんと交代とかいう?」

「違う違う」

「ただの憂さ晴らしですよ。ご心配なく」

 八つ当たりって事よね?

「お怪我はしておりませんわよね?」

「お互いに細かい怪我はあるし打撲もあるが、この程度じゃ動けなくなるなんて事はぇよ。我慢するほどでもぇし。日常茶飯事ってやつだな。怪我って言っても洗っておしまいで良いし、打撲も次の日には忘れている程度だ」

「それなら良いのですが」

「だいたいな?フェルナー邸のセンセーも言ってただろ?小さな怪我にも光魔法を使ってたら、その人の自己修復力自然治癒力が無くなっちまう。だからその辺を見極めろって」

 それは医師資格取得の特別講座でも言われた。光魔法を使ってもらうべきかどうか、医師の判断ひとつなのだから、その判断を間違えるなって。ただでさえ光魔法使いは少ないのだから、負担をかける事は控えるべきだと。

「だからって光魔法は不要なんて事は言っていないからな?俺らから見た光魔法使いは本当に奇跡の存在だ。フェルナー邸のセンセーは光魔法に頼りすぎないようにって俺らにも言ってたし。光魔法に頼りすぎると光魔法使いが疲弊しちまう。そういう事だからな?」

「分かっておりますわ。お気遣いありがとうございます」

「ところでキャスリーン様、どこに向かわれるのですか?セッカさんは嬉しそうですが」

「あら?」

 いつの間にか教会を過ぎて、王宮の方に向かってしまっていた。

「そういえば、レオナルドさんの魔法属性は何ですの?」

 誤魔化すように言うと、レオナルドさんとマリアさんになんだか温かい目で見られた。

「俺か?風だよ。火も多少使えるが、ま、火付け程度だな」

「後発現は?」

「確かめてねぇ。強いて言うなら火じゃねぇ?調べてはいないけどな」

「なぜですの?」

「魔法は便利だ。だがそれに頼りきっても良くねぇ。自分の力でどれだけやれるか。人はそうやって成長するもんだと思ってる。俺だけの考えだけどな。人に強要する気はぇよ」

 さりげなく誘導されて、お屋敷に戻っている気がする。

「疲れてねぇか?キャスリーン」

「えぇ。疲れてはおりませんわ」

「それなら良いけどな」

「疲れたらお申し付けください。この男が背負ってでもすぐに帰りますから」

「セッカはまだ歩けるだろ?見上げんじゃねぇ」

「セッカさんも背負ってほしいのですか?」

「そうじゃねぇみたいだな」

 てってかてってか早足になっちゃったしねぇ。途中でレオナルドさんに変わってもらったら、ものすごいスピードで走り出しちゃったし。

 マリアさんと遅れて着いたら、澄ました顔の雪花と雪花にお説教するレオナルドさんがいて、笑ってしまった。
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