3歳で捨てられた件

玲羅

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ロマンサ北方国

原因

「黒い石はございませんでしたか?」

「黒い石?」

「黒い石は無かった……。あ、でも、黒っぽい染みならあったけど」

「黒っぽい染みですか?見せていただけます?」

 その『黒っぽい染み』はベッドを挟んだ入口とは反対側にあった。

「これですか」

 黒っぽいというよりは黒い染みよね。絨毯が濃青だから目立ちにくいけれど、広範囲に広がった黒いインクを溢したような染みは、ベッドの下に続いている。

「皆様、ご気分が悪かったり、体調に変化はございませんか?」

「特にはありませんが」

「正直に仰ってくださいませね。とても大切な事ですから」

 私はこの部屋に入ってからずっと浄化し続けている。だから私が来る前に何か身体に変化がなかったかを知りたい。

「……あの、アタシ、この部屋に入って少ししたらダルくなってきたんだけど、そんな事で良いの?」

「おいっ、言葉遣いっ」

「構いませんでしてよ」

 微笑んで言うと、女性はホッとしたように笑顔を見せた。

「このベッド、動かせませんでしょうか?」

「お安いご用ですよ」

 リーダー格らしい男性が請け負ってくれた。お安いご用といっても、土台が木製の重そうなベッドなんだけれど本当に大丈夫なのかしら?

 4人でベッドの4隅を持ち上げて、「よいしょ」と持ち上げてしまった。スゴい。

 ベッドを取り除いた床には、スライムのような真っ黒なゲル状の……うーん。なんと言えば良いのかしら?

「何これ?お掃除しなきゃ」

 先程「ダルくなった」と答えてくれた女性が手を伸ばす。

「触らないでください!!」

 触れる直前に止める。とてつもなく嫌な感じがする。ディザスターラメンティ厄哭の石を初めて見た時のような、不安感と憎悪を掻き立てられるような感じが強い。

「なんなの?仕事の邪魔しないでくれる?光の聖女サマかなにか知らないけれど、こっちは仕事なの!!」

 女性の言葉が刺々しくなる。

「おいっ、お前は控えていろっ」

 少し離れていたリーダー格の男性が言う。

「だって……」

「その方を入口付近まで避難させてください」

「避難?」

「皆様もです。離れてっ」

 私が言っても迫力は無いだろうけれど、なるべく強い口調で言う。今も浄化は最大の強度でかけ続けている。

 どうすれば良い?どうすれば被害を抑えられる?

 まずは黒いゲル状の物を結界で包む。

「すみません、どなたか護衛の誰かを呼んで来て……」

「聖女様?」

 魔力がぐんぐんと減っていく。首から下げたペルクナスの心臓から流れ込んでくる温かい魔力が不意に途切れた。同時に結界が揺らぐ。

コルディア慈恵の聖女様っ」

 飛び込んできたのはシェーンとリディー。

「……シェーン……、リディー……。部屋の外へ……、全員を……」

 力が入らない。頭痛がする。魔力切れが近い事を体調が知らせてくれている。

コルディア慈恵の聖女様っ、しっかりなさってください」

 シェーンが私を抱えて部屋から出した。ここで魔力切れは起こせない。せめて伝える事を言ってからでないと。でも誰に伝えれば良い?どうすれば良い?ペルクナスの心臓からは、もうあの温かい感じはしない。

コルディア慈恵の聖女、何があった!!」

 炎の聖人様が走ってきた。

「炎の聖人様、皇女様のお部屋に……」

コルディア慈恵の聖女?どうした?何があったのだ」

「皇女様のお部屋に、ディザスターラメンティ厄哭の石のような感じの、いえ、もっと強い憎悪を掻き立てられるような感じのするゲル状の物が」

「は?」

「今は中に入らないでくださいませ。シェーン、リディー。魔力回復ポーション水剤はあるかしら?」

「ございますが」

 リタが腰のウェストバッグマジックバッグから、ポーション水剤を取り出す。受け取って飲み干した。少し頭痛が治まってくる。

「ご気分はいかがですか?」

 先程の女性に話しかける。

「あのっ、さっきはごめんなさい。なんだか止まらなくって」

「アレはそういう性質の物だと思います。良かったです。言葉だけで済んで。触れていたらもっと攻撃的になっていたでしょうし」

「もっと攻撃的に?」

「力任せに暴力を振るったり、魔法を使ったりです」

コルディア慈恵の聖女、何か手は?」

 話を黙って聞いていた炎の聖人様が、私に聞いた。

「ございますが、今すぐは……。申し訳ございません」

「とにかくこの部屋には立ち入りを禁じよう。手配をしてくれ」

 炎の聖人様に付いてきていた使用人に、炎の聖人様が命じた。

 誰かが知らせたらしく、両陛下と皇妃様方が駆けつけてきて、一気に騒々しくなった。ここは皇女様の別館よね?騒がしくしてしまっていないかしら?

コルディア慈恵の聖女様、ご無理はなさっておられませんか?」

コルディア慈恵の聖女、大丈夫か?」

「お部屋で休みましょうね?」

「何かしてほしい事は?無い?」

 皇帝陛下を押し退けて、皇后陛下と皇妃様方が口々に聞いてくれる。

「大丈夫ですわ。ご心配くださり、ありがとうございます」

 そうは言っても休む為に、滞在する予定の部屋に連行されるんだけど。この頃にはエドゥアルドとマティアスとオリアナが皇女様の別館の入口に集合していた。

コルディア慈恵の聖女様、ご無理をなさいましたな?」

「エドゥアルド、怒ってる?」

「怒ってなどいませんよ。少々呆れているだけです」

「無理はしていなかった……のだけれど」

 今からするわね。言わないけれど。

「何をなさるのかは聞きませんが、本当に無理をしていると感じたら、オリアナとリディーには力ずくでも休ませるようにと厳命していますからね?分かっておられますね?」

「ごめんなさい。それは守れないかもしれないわ」

コルディア慈恵の聖女様……」

「一刻を争う事態だと思うの。のんきに休んではいられないの」

「分かりました。それでは私とシェーンに、聖女様のお部屋に立ち入る許可をください」

「許可を?」

「えぇ」

 つまりは見張っているという事かしらね?エドゥアルドかシェーン、またはオリアナかリディーがこれ以上は無理だと判断したら、シェーンの香で眠らされちゃうのかしら。

「許可をしなければ私のする事を、許可しないのと言うのかしら?わたくしの自由意思をあなたが決めるの?」

コルディア慈恵の聖女様、その言い方はあまりにも……」

「そういう事でしょう?エドゥアルドはわたくしに無理をさせまいとしている。それはとてもありがたいと思うわ。わたくしは時に周りが見えなくなるから。でも今は、そんな事を言っていられないの」

「聖女様……私はそのような事は……」

 エドゥアルドが呻くように言う。

わたくしの事を考えてくれての、エドゥアルドの言葉という事は分かっているわ。でも今は本当に時間が無いの」

「……分かりました。ですが私も入室させていただきます」

「うふふ。シェーンもかしら?」

「当然です」

 当然なのね。

 結局マティアスも付いてきて、私の部屋はいっぱいになった。それを見てマティアスが退室していく。

コルディア慈恵の聖女様、まさかですか?」

「そのまさかよ。たぶん一番効果的だわ」

 シェーンは私が、ブレシングアクア聖恵水を作れると知っている。でも今の限界量は知らない。他のみんなはたぶん私がブレシングアクア聖恵水を作れると知らない。

 シェーンから耳打ちを受けて、エドゥアルドが渋い顔をしながら魔力回復ポーション水剤を3本取り出した。シェーンの手にあるのは、同じく魔力回復ポーション水剤が2本と黒く丸い小さな丸薬のような物。それと香炉のような陶器。

 お香って火が必要よね?どうするのかしら。

「シェーン、それは?」

「魔道具の1種ですね。これで熱を発生させ香をくゆらせます」

「そうだったのね」


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