3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

芸術祭1日目

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 芸術祭が始まった。オープニングを飾るのはダンス倶楽部の皆様と、この日の為に結成された学生弦楽オーケストラの皆様。この日の為に練習された素晴らしいダンスと演奏だった。

 私はガビーちゃんやリジーちゃん達と2階席で見ていたんだけど、何故かバージェフ先輩と体術倶楽部と剣術倶楽部の先輩方、計4人が私達を守るように一緒にいた。

「バージェフ先輩、この状況は?」

「フェルナー嬢にあげたでしょ?疲労回復ポーション水剤。その味の改善に付き合ってくれているのが、彼らだよ」

「気にするな、ラフィー。世話になっているのはこちらの方だ」

 バージェフ先輩ってラフィーって呼ばれているんだ。ランベルトお義兄様はラフと呼んでいたよね。

「状況の説明になっていないのですが?」

「頼まれたんだよ」

 お義兄様達にでしょうね。

「お世話をおかけします」

「いやいや、フェルナー侯爵家の姫を守る栄誉をいただき、栄誉の極みであります」

 先輩は胸に手を当てて真面目くさって言った後、ニカリと笑った。

「こんな奴らだけど、根は良い奴だから」

「先輩が保証してくださるなら、心強いですわ」

 なにかを考えていたガビーちゃんが、バージェフ先輩に聞く。

「疲労回復ポーション水剤の味の改善は苦味と酸味でしたか。使用しているのは?」

「タラクサクの葉とツィトロン、ネトルとマッテラ茶だよ」

「タラクサクの葉が苦味を、ツィトロンが酸味を出している可能性がございますわね」

「そうなんだよ。でもどうすればいいのか……」

「製造行程を見なければ、わたくしにも何も言えませんわ。芸術祭が終わった最初の倶楽部で、作ってみていただけませんこと?」

「フェルナー嬢、彼女は?グクラン辺境伯令嬢だよね?」

「はい。お身体が弱かったと言いましたでしょう?ご両親が医師や薬師、果ては民間療法まで色々と試されたそうです。ガブリエラ様もそれでお詳しくなられたと」

「嫌ですわ、キャスリーン様。暇にあかせて皆様にご迷惑をおかけしただけですのに」

 ガビーちゃんがコロコロと笑った。

 芸術祭は楽器演奏だけじゃない。楽器演奏と声楽の発表はホールで行われるけれど、絵画と詩歌の披露は展示スペースがあってそこに展示されている。服飾だけはファッションショーも兼ねたオークション形式で行われる。モデルはプロの劇団員さん。貴族学院がパトロンとなっている為に芸術祭ではモデルとなってくれる。実質は国のお抱えだよね。芸術祭で認められて、有名芸術家となっている人も多い。

「今のピアノの子、1学年生だろう?よくあんな曲が弾けるもんだ」

「あの方は、アリス・ブレイクリー様です」

「ブレイクリー男爵家の令嬢か。あそこって何年か前の洪水で大打撃を受けたよね?」

「あぁ、10年程前だ。復興には5年掛かったと言われている」

 政治事例で読んだ洪水の被害を思い出す。全てが頭に入っている訳じゃないけど、洪水被害の規模が大きすぎて、忘れられなかった。

 ブレイクリー男爵領のほぼ中央を流れるテミポイト川が氾濫したのは、夏の終わりの事だった。原因はテミポイト川の上流にあるオルゴィロ領で起きた河川事業の失敗。テミポイト川を塞き止めて橋を架けてたんだけど、塞き止めの際の土塁が甘かったらしく一気に崩れ、ブレイクリー男爵領に入った所でテミポイト川は再び塞き止められた。最悪な事にそれを隠蔽しようとしたオルゴィロ領主は、ブレイクリー男爵に知らせず国にも報告せず、何の対策もしなかった。

 自然ダム湖となったテミポイト川が崩壊し、夏の終わりのブレイクリー領を襲った時には、親切面をして通常の数倍の利息で金を貸し付けたらしい。当然国の監査でバレて、オルゴィロ家は没落した。オルゴィロという家名の貴族は今は無い。

「あれは酷いだったね。今でも覚えているよ。学院生でも寄付を募ったらしいから。私のバージェフ領は少し離れているから、義援金しか送れなかったんだよね」

「それでも助かったと思いますよ」

「ありがとう。フェルナー嬢は優しいんだね」

「今はオルゴィロ領は、どうなっているんですの?」

 リジーちゃんの質問に答えたのは、剣術倶楽部の先輩だった。

「王家の預かりとなっているよ。オルゴィロの当時の領主は本当に愚かだったけど、次代まで愚かだった訳じゃないからね。本来なら次代に引き継がれる予定だったんだけど、次代が嫌がって王家預かりのままだ」

 視線が1階席の一点で固定されている。そこに「次代」とやらがいるらしい。

「お知り合いですか?」

「愚かだった当時の領主の妻が、祖母の再従姉妹はとこなんだよ」

「遠いですけど親族ですね」

「そうなんだよ。声もかけ辛くてね」

 一方が意図的に避けていると、声は掛けられないだろうなぁ。

「お年は離れているんですか?」

「離れてないね。今、中等部の6学年生だから」

 先輩達は中等部7学年生だ。1歳下かぁ。

「ここに居たんだね」

 ローレンスお義兄様が私を見付けて近くに来た。先輩方が騎士のように礼をする。

「お仕事は終わったんですか?」

「もう1人に押し付けてきた」

「お義兄様……」

「休憩時間だよ。キャシーは心配しなくて良い。良い席だね。少し遠いけど」

「バージェフ先輩が選んでくださいました」

「そうか。頼んで良かったよ」

 お義兄様が先輩方に視線を向けた。

「社交界の次世代の華を守らせていただく栄誉を与えていただき、光栄です」

 なんだかお義兄様を見る目が、キラキラしている気がするんですが。

 お昼を挟んでヴァイオリン、ヴィオラの発表が行われる。チェロは演奏人数が少なくて、ピアノ演奏の後に組み込まれていた。

「お義兄様、チェロって演奏人数は少ないんですの?」

「午前中の演奏で全員だよ」

「4人しか居なかったのですけれど?」

「チェロの倶楽部に所属しているのは4人だね。掛け持ちも居ないし」

「そうですの?」

「そうなんだよ。掛け持ちは出来るんだけどね」

わたくしも掛け持ちですし、ガブリエラ様もですわよね」

「ん?グクラン嬢は何を掛け持ちしているんだい?」

「刺繍倶楽部と薬草研究会ですわ」

 澄ました顔でガビーちゃんが言う。ガビーちゃんは倶楽部に昇格したと知ったとたん、速攻で入部届けを提出しに来たんだよね。

「刺繍倶楽部は手芸倶楽部と合同だったね。明日の発表が楽しみだ」

「お恥ずかしゅうございます」

 ガビーちゃんによると、1学年生はチーフやシャツの刺繍を任されたらしい。ドレスの刺繍は上級生が受け持ったらしい。

 刺繍倶楽部は手芸倶楽部の姉妹倶楽部といった意味合いが強くて、協力関係でしょっちゅう一緒に作業している。それだけを聞くと統合しちゃった方が良いような気がするんだけど、そう簡単じゃないんだって。刺繍と縫製では色々と違うのは分かるんだけど、聞いた話だと見下しているとか。刺繍は貴婦人の嗜みだけど縫製までいってしまうとそれは職業婦人となって、貴族としてははしたない行いらしい。とはいっても手芸倶楽部にも、伯爵令嬢が何人か在籍している。

 それでもそういった風潮が残っているのは、そういった思想を持った方が部長を代々勤めているから。伝統なんだって。

「そんな伝統なんて廃止すれば良いのに」

「そう簡単な事じゃないよ。双方に言い分があるしね」

「分かっております」

 お義兄様は苦笑した後、宥めるように頭をポンポンしてくれた。

 1日目の芸術祭が終わった。お義兄様はまだ執行部のお仕事があるらしい。寮に戻る途中で、アリス様が男性に囲まれているのが見えた。













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