3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 3学年生

別れの時

 レオナルド様の理知的な瞳を見て思った。この方、粗野に見せているだけだ。なにか訳があるんだろうけど、そこまで踏み込めない。出会ってそこまで時間も経っていないし。

「そろそろ時間だね。フェルナー嬢、帰るよ」

「もうですか?」

「ホリディ家のお嬢様もお待たせしているしね。帰りの事も考えないと」

「分かりました。それではレオナルド様、お邪魔いたしました」

「あぁ。久しぶりに楽しい時間を過ごせた。待避所に馬車を停めてあるんだろう?送っていく」

 レオナルド様が立ち上がった。

「キャスリーン」

「はい」

 前を歩くレオナルド様に呼び掛けられた。

「いつかフェルナー領に行く。また会ってもらえるか?」

「えっと……」

「今は王都に居るからね。無理だと思うよ。それに彼女には婚約者がいる」

 ラッセル様の言葉に、ピタリとレオナルド様が止まった。

「こんなに若いのに?」

「彼女は貴族だしね。引き取られた時から彼女に恋い焦がれていたらしいから。ほとんど執念だよ」

「重すぎないか?その婚約者」

「いやぁ、そこまで想われて、と思っておこうよ」

「あんたは貴族じゃねぇのか?」

「宮仕えだったけどね。一応は子爵家の出だよ。家督は兄が継いだし、次男の僕はお払い箱ってわけ。家に縛られる人生は兄に放り投げてきたよ」

「ラッセル様って子爵家の出だったんですか?」

「おいおい、お嬢さんも驚いてるぞ」

「申し訳ございません。存じ上げなくて」

「話してないからね。籍は抜いてもらったし。今は悠々自適の身だよ」

 ホリディ家の馬車が見えてきた。とたんにレオナルド様の眼光が鋭くなる。

「レオナルド様、お顔が……」

「あのお嬢様の前だと、力が入っちまうんだよ」

「先程までのお顔も素敵だと思いましたけど?」

「ああいう好意を寄せてますってのは苦手なんだ」

「そういう過去もありそうだね。面白……っと」

「おい、面白がんなよ。おっさん」

「良いねぇ、おっさん呼び。気に入った。また来ても良いかい?」

「もてなしなんて出来ねぇぞ?」

「期待してないよ。それに僕が来るとフェルナー嬢の情報も手に入るよ」

 小さな声だったから聞こえなかったけど、直後にガシッと握手してたから、何か良からぬ事を考えている気がする。

 待避所に着くと、マーシャ様が馬車から降りてきた。マーシャ様はレオナルド様に恋してる気がする。レオナルド様はさっきの返答から、脈は無いんだよね?悲しいなぁ。

「レオナルド様、また侯爵家にもお越しくださいませね」

「鳥獣肉が獲れたらな」

「そのような物はついでで良いのですわよ。またお会いできる日を楽しみにしております」

 両手を胸の前で組んでレオナルド様を見上げるマーシャ様。恋する乙女って感じだなぁ。

「早く出発しないと日が暮れるぞ」

 レオナルド様がそっけなく急かす。私はその時には馬車の中に居たけれど、チラッとレオナルド様が私の方を見た。

「あのお嬢さんを送らないといけないんだろう?まだまだ子供じゃないか。あまり引き留めていると可哀想だろう?」

 ダシにされた気がする。

「分かりましたわ。キャスリーン様をお待たせしてはいけませんものね。またお越しくださいませね。約束ですわよ」

 マーシャ様がレオナルド様に念を押して馬車に乗ってきた。窓の側に座り名残惜しげに外を見ている。ラッセル様が騎乗してレオナルド様の側に行ったらしく、マーシャ様がブツブツと何やら文句を言っていた。

 馬車が動き出しても窓の外を見ているマーシャ様を、微笑ましく見てしまう。

「見えなくなってしまいましたわ」

 ポツリと呟いて、マーシャ様が窓から身体を離す。

「キャスリーン様、どんなお話をなさいましたの?」

「ラッセル様と主にお話しされておられました。わたくしとは……前世の国の話位ですわね。それも踏み込んでは話していませんし。あ、婚約者が居る事はお話いたしました」

「どうしてそのようなお話を?」

わたくしは貴族だって話からですね。貴族って早くから婚約者を決められるんだろう?って聞かれて、わたくしには居ますけど、他の方の事情は分かりませんとお答えしました」

「他には?わたくしの事とか」

 探りを入れられてるなぁ。

「特には。先程も言いましたけれど、ラッセル様とお気が合ったようで、2人で楽しそうに話されておられましたし」

「それでもお話しされたのでしょう?」

 追求はホリディ家に着くまで続いた。

「疲れておられますわね」

 滞在している部屋に入ると、フランに笑って言われた。

「マーシャ様はレオナルド様がお好きなのね。転生者同士の話の時にはマーシャ様は外しておられたから、何を話したのかって追求されちゃったわ」

「あらあら」

 外出着から着替えさせてもらって、フランの話を聞く。

「フランは何をしていたの?」

「ホリディ家の侍女達と交流しておりました。ホリディ家は皮革加工品が名産品でございますから、そういったお話とか」

「皮革加工品?」

「こういった栞ですとか」

「素敵。刻印で模様を付けているのね」

 私が普段使っているのは、アーモンドの木片を薄く削って、花模様を透かし彫りにした栞だ。染めてあっていろんな色がある。加工がきちんとしているから色移りする事はないし、友達にも人気だ。栞って私達は結構使うから、お互いに贈りあったりしている。ガビーちゃんから貰った栞は押し花が漉き込まれていた。

「失礼いたします。フェルナー様、奥様がお呼びになっておられます」

「はい。すぐにまいります」

 フランがささっと身だしなみを整えてくれる。部屋を出てメイドさんに付いていくと、客用サロンに案内された。

「フェルナー様、お呼び立ていたしまして申し訳ございません」

「いいえ。こちらこそ滞在させていただき、ありがとうございます」

 客用サロンにはもう1人男の人が居た。執事服というかベストを着用しているイケオジ様だ。

「明日には帰ってしまわれるのですわよね?」

「はい。慌ただしくて申し訳ございません」

「あのね、街道沿いに盗賊が出たようですの」

「盗賊が?」

 この世界の都市部周辺には魔物は居ないけれど、盗賊なんかは普通に居るんだよね。それと野性動物も襲ってきたりする。狼とか熊とか。

 街道沿いは各領の私兵が巡回してたりするから比較的安全なんだけど、比較的ってだけで絶対安全じゃない。だから私も攻撃魔法を覚えさせられたし、フランも私を守る為の武術を嗜んでいる。私としては私を守る為にフランが傷付くのは絶対に嫌なんだけど、フランに「お嬢様が傷付くのはわたくしが絶対に嫌なんですよ」と微笑まれてしまった。

「ですからね、ホリディ家から隣領まで護衛を付けさせていただきますわ」

「お気遣い、ありがとうございます」

 ホリディ領から王都までは、フェルナー領は通らない。代わりに間にあるのがカッツィーレ伯爵領とアヴァレーツィオ侯爵領の一部だ。なぜ一部なのか。数代前のカッツィーレ伯爵が領土と引き換えにアヴァレーツィオ侯爵家に借金をした名残らしい。つまりはカッツィーレ伯爵領の一部をアヴァレーツィオ侯爵に売ったんだね。今は領土の売買には王家の許可が要るし厳しく調査されるけれど、その当時はそこまで厳しくなかったらしい。

 ホリディ侯爵夫人が隣領まで護衛をと言ったのは、隣のカッツィーレ伯爵領との境までという事だ。

 護衛を付けてくださるだけでもありがたいと思う。自領で他家の馬車が襲われて、万が一その貴族や家族が死傷したら、家の評判に関わるからだと思うけど。


 翌日、ホリディ侯爵家の私兵に守られて、私はマーシャ様とホリディ家の皆様に別れを告げた。

「お世話になりました」

「ご満足いただけましたかしら?」

「はい。侯爵様にもよろしくお伝えくださいませ」

「キャスリーン様、今後も仲良くしてくださいませね」

「こちらこそお願いいたしますわ、マーシャ様」

 マーシャ様と握手を交わして、ホリディ家を後にした。


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