3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
75 / 659
学院初等部 3学年生

リーベルト先生の課題

しおりを挟む
 そこまで聞いて、やっと分かった。リーベルト先生が感じた違和感。普通は人目がある場所では婚約者を悪し様に罵ったりしない。自分の評判も落ちてしまうし、なにより貴族の婚約は家と家との契約だ。自分の家より爵位が下だからと見下す人はいるけれど、絶対に隠そうとする。爵位でしか人を見られないと、自身の悪い評判に繋がるからだ。

 それを踏まえて考えると、今日のお2人の態度は不自然だ。まるで婚約者同士の仲が上手くいっていないと、周りに知らしめているような、作為的な物を感じる。

「キャシーちゃん?どうしたの?」

「キャシーちゃん、戻ってきて?リリス様が不安そうよ」

「わっ、わたくしは別に……。でも、キャスリーン様はどうなさったのでしょうか」

 思考に沈んでいると、ガビーちゃんに身体を揺さぶられた。

「ガビーちゃん、リジーちゃん。ありがとうございます」

「え?何かしたかしら?」

「リリス様、少しよろしいですか?」

 みんなと離れた席にリリス様を誘う。リリス様が不安そうに付いてきた。

「先程のお話を聞いて、どう思われました?」

「ガブリエラ様とイザベラ様のお話ですか?不自然さは感じましたけど」

わたくしもです。普通の貴族の婚約は家と家との契約ですから、婚約者が気に入らないといっても、人前であからさまに相手の悪口は言いません。そんな事をすれば、感情のコントロールが効かない未熟者だと、自ら喧伝しているようなものです。貴族は体面を重んじます。好き好んで評判を下げたい貴族は居ないと思います」

「でも、あのお2人、というか、ガウェイン・フィンチー様は人目のある場所でフィオナ・イースデイル様を、口汚く罵倒しておられましたわね」

「えぇ。まるでそうしなければならないように。医師資格取得の為の特別講座の教室って、外から分かりにくいんです。使用していても気付かれにくい。だからお2人共油断なされたのではないかと。推測ですわよ?」

「リーベルト先生の課題の答えですか?」

「はい。この先はわたくし達ではどうする事も出来ません。わたくし達はまだ初等部ですし、何も聞かされてませんもの。次のリーベルト先生の授業の時にこの推論を話す、そこまでにしておいた方がいいと思います」

「分かりましたわ。貴族ってなんというか……」

「その辺りが面倒ですわよねぇ」

 医師資格取得の為の特別講座は週に2回。課題は次の授業で提出予定だ。

「ところでキャスリーン様、この課題はどうやって提出すればよいのでしょう?」

「提出方法の提示がございませんでしたわね、そういえば」

「口頭で、というのも変ですわよね?」

「レポートにまとめておきますか?」

「そうですよね。そうなりますよね。レポート、苦手なんです」

「ふふっ。書き方が?」

「はい。主題、考察ってやっていく内に、どこまでが考察なのかって分かんなくなるんです」

「この課題にそこまで悩まずとも。ここに違和感を感じて、こう考えた、と書けば良いのでは?」

「そうですか?」

 リリス様との話を終え、2人で少しシャーマニー語の勉強をして、その日を終えた。

 次の医師資格取得の為の特別講座の時に、課題の答えとして、私とリリス様の2人がレポートを提出すると、リーベルト先生に驚かれてしまった。

「レポートに纏めてくれるなんて、2人共真面目だねぇ」

「宿題と言われましたので」

「考えてみて、って思っただけなんだけどね。でも、これは預かるよ」

「答え合わせは全てが終わった後でしょうか?」

「そうだね。こっちは口を挟めないしね」

 どうやらリーベルト先生も私達と同じ考えらしい。

 中等部の先輩方によると、ガウェイン・フィンチー様とフィオナ・イースデイル様のカップルは、相変わらずらしい。注意深く見ていると、人目がある場所でしか罵倒はしていないようで、それは兄弟ケンカも同様らしい。

「もうすぐ芸術祭よね?あのお2人はどうなさるのかしら?」

「首を突っ込まない方が良いんじゃないか?家督争いに巻き込まれても面倒だし」

「フィンチー家でしょ?お母様にお聞きしましたら、あまり良い噂は無いようですわ。子供達を競わせ合うのがお好きで、事あるごとに比べて育てるんですって。それと妹様ですけど、フィンチー家にはいらっしゃらないようですわ」

「え?」

「あくまでも噂ですわよ?正妻様は隣国のお方で、連れてお帰りになってしまわれたとか」

「まぁっ」

「はいはい。勉強に集中しようね。噂話は楽しいけどさ」

 初等部と違って、中等部の先輩方は自主学習中だ。医師資格取得の知識を教えているアルトゥール・シェアラー先生に、ご用事が出来てしまったらしい。アルトゥール・シェアラー先生は、60歳は越えているだろう禿頭とくとうの穏やかな先生だ。たまに実施されるテストは情け容赦なく難しいらしいけど。1度見せてもらったけど、20世紀の医療のような内容だった。この世界の医療の常識からしたら、ずいぶんと先進的な内容だった。

 先程話に出てきたように、芸術祭が近付いてきている。私にはもはや音楽観賞会と化しているけど、芸術祭に出場&出品するみんなは日々熱が入ってきている。刺繍倶楽部にも所属しているガビーちゃんなんか、寮の部屋にまで作品を持ち込んでいる。割り当てられたノルマらしい。残念ながら私にはお手伝い出来ない。技術が全然違うから印象が変わっちゃうんだって。

「いつ見ても器用よね」

「キャシーちゃんは専念したら、上達すると思うんだけど」

「専念かぁ」

 時間もその気も無いからね。


 芸術祭の前日、サミュエル先生の所にブレシングアクア聖恵水を納品(笑)した帰りに、初等部の校舎の影で口付けをしているカップルを見かけた。とっさに隠れちゃったけどガウェイン・フィンチー様とフィオナ・イースデイル様だったように思う。

「フェルナー嬢」

 気付いて隠れたというか、シェーン様が私の腕を引っ張って引き戻してくれたというか。まっすぐ進んでいたらカップルに見付かっちゃってたと思う。進行方向だったし。

「申し訳ありません。大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございます」

 校舎の壁に壁ドンされている状態なんだけど、これはどうしたら……。分かるんですよ?シェーン様が身体を使って私を隠してくれているんだって。だけどね、慣れてないのよ。慣れてても困るんだけど。

「もう少しだけ我慢してください」

「はい。カップルはまだ居るんですか?」

「はい。話をしているようです」

「遠回りした方がいいのかしら?」

「そうですね。ぐるりと回る形になりますが」

「でしたら遠回りしましょう」

 カップルを避けて、ぐるっと遠回りをする。シェーン様が私の護衛だという事は知られているから、特に勘繰られる事は無いと思う。サミュエル先生の部屋を通り過ぎて、裏庭の方に回った。裏庭といっても手入れはちゃんとされていて、陰鬱な雰囲気は無い。それどころか静かで涼しくて良いと、お茶会や読書やお昼寝をしている人達が居たりする。

「キャスリーン様?どうなさいましたの?」

 お茶会をしていたクラスメートに、声をかけられた。

「サミュエル先生にご用で伺ったんですけど、帰りはこちらを通ってみようと思いまして。シェーン様には急な変更で申し訳無かったんですけど」

「一緒にお茶をいかがですか?バラのフレーバーティーですのよ」

「申し訳ありません。今から薬草研究会なんです」

「キャスリーン様も熱心ですわねぇ。フェルナー令息もそんな所がお可愛らしいのでしょうけど」

一緒にお茶会をしていた先輩に揶揄からかわれた。

「そういえば夏期休暇で教会に伺いましたら、お見かけしましたわ。参拝の方の対応をなさっておられましたけれど、学院にいらっしゃった時より表情が固くなっておられましたわ。信徒の特にお若い方々には人気でしたけど」

「一顧だになさらなかったのでしょう?フェルナー先輩はキャスリーン様一筋ですものね」

きゃあきゃあと話に花が咲いちゃったようだから、クラスメートに声をかけてから、薬草研究会に向かった。


しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

公爵さま、私が本物です!

水川サキ
恋愛
将来結婚しよう、と約束したナスカ伯爵家の令嬢フローラとアストリウス公爵家の若き当主セオドア。 しかし、父である伯爵は後妻の娘であるマギーを公爵家に嫁がせたいあまり、フローラと入れ替えさせる。 フローラはマギーとなり、呪術師によって自分の本当の名を口にできなくなる。 マギーとなったフローラは使用人の姿で屋根裏部屋に閉じ込められ、フローラになったマギーは美しいドレス姿で公爵家に嫁ぐ。 フローラは胸中で必死に訴える。 「お願い、気づいて! 公爵さま、私が本物のフローラです!」 ※設定ゆるゆるご都合主義

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

婚約破棄されたので、自由に生きたら王太子が失脚しましたあ

鍛高譚
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢 ロザリー・フォン・アーデン は、王太子 エドワード・カミル・レグノード の婚約者として誰もが認める完璧な貴族令嬢だった。 しかしある日、王太子は突如 “聖女” を名乗る平民の少女 セシリア・ブランシュ に夢中になり、ロザリーに無情な婚約破棄を言い渡す。 「これは神の導きだ! 私の本当の運命の相手はセシリアなんだ!」 「ロザリー様、あなたは王太子妃にふさわしくありませんわ」 ──ふたりの言葉を前に、ロザリーは静かに微笑んだ。 「……そうですか。では、私も自由に生きさせていただきますわね?」 だが、これがロザリーの “ざまぁ” 逆転劇の幕開けだった! 神託と称して王太子を操る “聖女” の正体は、なんと偽者!? さらに王室財政を私物化する 汚職貴族との黒い繋がり も発覚!? 次々と暴かれる陰謀の数々に、王宮は大混乱。 そして、すべての証拠が王の手に渡ったとき──王太子 エドワードは王太子の地位を剥奪され、偽の聖女と共に国外追放 となる! 「ロザリー様を捨てた王太子は大馬鹿者だ!」 「やっぱり王妃にふさわしかったのはロザリー様だったのよ!」 社交界ではロザリーへの称賛が止まらない。 そしてそんな彼女のもとに、なんと隣国の 若き王クラウス・アレクサンドル から正式な求婚が──!? 「私はあなたの聡明さと誇り高き心に惹かれました。私の王妃になっていただけませんか?」 かつての婚約破棄が嘘のように、今度は 本物の愛と自由を手にするチャンス が巡ってくる。 しかし、ロザリーはすぐに頷かない。 「私はもう、誰かに振り回されるだけの人生は選びません」 王妃となる道を選ぶのか、それとも公爵家の令嬢として新たな未来を切り開くのか──?

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

処理中です...