3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 4学年生

武術魔法披露会

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 武術魔法披露会の当日は、いつものように救護班として駆り出された。去年の事があるから、私は救護室の奥で治療する為に控えている事になった。救護室の先生も一緒にいてくれるし、ダニエル様とシェーン様も控えてくれている。2人は護衛だけど武術魔法披露会の間はサミュエル先生の部下という立場で動いてくれる。

「まぁまぁまぁ、噂のお2人も一緒だなんて、嬉しくなっちゃうわぁ」

 救護室の先生はお義母様位の恰幅の良い女性だ。前世でいうと、気の良いおばちゃんタイプ。でも仕事になるとピシッとするのよね。言葉遣いも雰囲気も変わる。

「ミーア先生、フェルナー嬢を頼みます」

「お任せくださいな。ブランジット先生はご用事がおありなんでしょう?間に合わなくなりますわよ」

 救護室のミーア先生に半ば追いやられるように、サミュエル先生が出ていった。サミュエル先生は貴族の対応に駆り出されるらしい。

「フェルナー様も大変ですわね」

「先生にまでご迷惑をお掛けしてしまって、申し訳ございません」

「あらあら。フェルナー様は光の聖女様などと呼ばれてはおりますけれど、大事な大事な学院生のひとりですもの。教師として守るのは当然ですよ。ご遠慮なさらないでくださいな」

「ありがとうございます」

 私達がいるのは2つの会場のちょうど中間の部屋だ。今まではそれぞれの現場で治していた怪我を、今年はひとつに集約したそうだ。そっちの方が効率が良いらしい。

 武術魔法披露会では熱が入る過ぎるあまり、本気の戦いを繰り広げる生徒が何人かいる。そういう人達は引き際を見誤る事があるのだそうだ。スカウトに来ている人達に良い所を見せたいというのもあるのだと思う。

 武術の場合は、警備の人達が止めに入る。でも魔法は途中でキャンセル出来ない。一応は昔の賢者と呼ばれる大魔法使いが作った防御魔法の施されている場所で魔法の試合は行われてはいる。魔道具を通じての利用が多くなっている世界だけど、魔法の腕を磨く人は何人もいるし、過去には戦争や紛争で名を挙げた『英雄』と呼ばれる人達も居た。その人達に憧れる子供もまた多い。今はスタヴィリス国は戦争をしていないけれど、他国では常に内乱中という場所もある。

 最初に運ばれてきたのは飛んできた剣が見事に大腿部に突き刺さった、とても運の悪い通りすがりの勧誘者スカウトのおじ様。

「避けないから」

「いやぁ、油断してたんだよ、あ、イテテ」

 このおじ様は剣が突き刺さっているというのに、お仲間さん達と朗らかに会話をしながら運ばれてきた。王宮の人事部の人らしい。勧誘者スカウトって魔法庁と軍部のだけだと思っていたら、人事部の人も来てるのね。

「これはこれは、フェルナー卿のお嬢様ではありませんか。そうか。お嬢様は光魔法の使い手でしたね」

 喰えない人だなぁと思う。どう考えても私がここに居るって知っていたよね?

「彼女は学院の大切な生徒ですのよ?分かっておられますわね?」

 ミーア先生が笑顔でおじ様とお仲間に釘を差す。おじ様とお仲間はコクコクと頷いた。ミーア先生の笑顔って、威厳があるというか逆らえない雰囲気なのよね。普段は優しいおばちゃまって感じなのに不思議。

 治療は私がして、その間おじ様達はミーア先生にお説教されていた。その様子を部屋の隅で控えているダニエル様とシェーン様が面白そうに見ていた。

「よろしいですこと?ヘッケンバウワー卿は不注意が過ぎます。このような細い剣だったから良かったものの、あのような大剣でしたらどうなさっていたおつもり?教会の奇蹟に頼るしかなかったんですのよ?」

 大剣と言われて指差されたのは、シェーン様の提げている剣。ダニエル様は大きなナイフ?なんだかいろんな武器が出てくるのよね。フェルナー家の私兵に聞いたら暗器使いだと言われたけど、よく分からない。暗器って何?

「先生、その辺りで。確認をお願いいたします」

「あ、あら。ごめんなさいね、フェルナー様。綺麗に治っておりますわね。痛みもないようですし」

 とか言ってバシバシっとおじ様の肩を叩く。非常に良い音がしたけど、大丈夫かな?

 さっきミーア先生が言った『教会の奇蹟』とは、ブレシングアクア聖恵水を指す通称らしい。ある程度年齢の上の方にはこちらの方が意味が通りやすいのだそうだ。ブレシングアクア聖恵水の製法が秘密にされていた頃の名残なんだって。

 ヘッケンバウワー卿と呼ばれたおじ様は、大袈裟に痛がりながら救護室を出ていった。

 次に入室してきたのは、風の魔法であちこちに切り傷を負った学院生。中等部の先輩だ。こちらはミーア先生が治した。

「あ、そうだ。フェルナー嬢、ランベルトから伝言。帰りには迎えに来るって」

「かしこまりました。申し訳ございません、伝令のような真似をさせてしまって」

「良いよ良いよ。あいつとは友人だからね」

 ニカッと笑った先輩は、声を潜めて私に聞いた。

「ところでさ、ランベルトとエスクーア嬢って、どうなってんの?婚約は難しそう?」

「そんな事は無いと思いますけど。何かございましたか?」

「いいや?いつも通り順調に勝ち上がってる。エスクーア嬢も甲斐甲斐しくランベルトの世話を焼いてるしね。あ、そうだ。エスクーア嬢も順調に勝ち上がってるよ」

「良かったです。お怪我はなさっておられませんか?」

「あー、うん。大丈夫、だと思う」

 なんだか妙な言い回しだなぁ。

「お怪我をなさったのですか?」

「ちょっと、ね。ポーション水剤を飲んでたから、大丈夫だと思うよ」

 スッとシェーン様が出ていった。様子を見に行ってくれたのかな?

「心配はいらないよ。ランベルトは丈夫だから」

「アンバー様は?ご無事ですか?」

「彼女は大丈夫だよ。怪我もしていない」

 先輩はそう教えてくれて、救護室を後にした。

 入れ替わりにランベルトお義兄様がシェーン様に引っ張られてきた。

「お義兄様、どこかお怪我を?」

「かなり強く腕を叩かれたようです。ポーション水剤は飲んでおりましたが」

「大丈夫だって。ちょっと痛みはあるけどさ」

「診せてください」

「良いって。おい、離せって」

 シェーン様が少し強引に、お義兄様の左腕の袖をめくった。大きな内出血が見られる。色も赤黒い。それに腫脹しゅちょうが見られた。

「お義兄様、ポーション水剤では怪我は治りません。体力と魔力の回復は出来ますけれど。後は自己修復力を高めて、怪我の治りを早めるだけなんです。分かっておられますか?」

「分かってる。そんな泣きそうな顔をするな」

「泣いてなどおりません」

 ランベルトお義兄様の手を握って、治癒を発動する。その頃になってアンバー様が駆け込んできた。厳しい顔のダニエル様に羽交い締めにされているお義兄様と、無表情のシェーン様を見て、スンッとした顔になった。

「キャスリーン様、ランベルト様のお怪我はどうですか?」

「骨にヒビが入っておりました。かなりの痛みがあったはずです」

「やっぱり。やせ我慢をしていたんですね?」

 アンバー様がぺしぺしと、治ったお義兄様の腕を叩く。

いてぇ痛いって、アンバー、やめろ」

「キャスリーン様にまで心配をお掛けして。兄失格ですよ」

「アンバー様?兄に失格も何も無いと……」

「怪我をしたなら無理をせず素直になればよろしいのです。きゃーっなんて声援に応えて無理をなさるから」

 あらら、ちょっとヤキモチが入っちゃってますねぇ。そーっとダニエル様とシェーン様がお義兄様から離れた。もちろん私もミーア先生も。

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