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学院中等部 5学年生
執刀科見学
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王宮の医務室に到着する。手術室をイメージしていたけど、ごく普通の部屋の一室だった。消毒もされていないように感じる。ここで手術をするの?清潔が保たれてないけど大丈夫?
そんな私の不安など察せられる事もなく、普通に歩いてきた執刀医と車イスの患者が現れ、手術準備が始まった。まずは患者に麻酔をかける。器具に綿花を詰め、患者の口に当てた。少しすると患者が眠り始めた。それを確認して執刀医が患部を露出させる。化膿し骨が飛び出した上に巻かれた包帯に不安がよぎる。本当に大丈夫なの?あれ。清潔が保たれてないどころじゃない。
この時点で2人の女性生徒が退室した。真っ青な顔をしていたから心配だ。
煮沸消毒した器具が並べられる。煮沸消毒かぁ。その場でグツグツ煮られているのを見ると、不思議な感覚になる。オートクレーブは無いのかな?誰か伝えてないのかしら?原理は分かるけど、機械の内部は不明だから、私は役に立てないけど。
手術が始まった。方法は前世でしていたのと同じ方法。細かい手技は違うけど、その辺りは分からない。看護師だったからね。医師とは違うのよ。手術の手技は見ているだけだったし、器具出しはした事があるけど。
手術後に質疑応答の時間が設けられて、細かい説明がなされた。縫合は魔法糸を使うらしい。ひとり1本ずつ渡してくれたけど、この糸で縫合すると傷口が早く治るらしい。手術の説明してくれたのは、執刀医の助手だという男性。私を見て少し驚いていた。たぶん小さいからだと思う。身長が伸びないのよね。
執刀室の清潔については、手術台に掛けられたシーツに浄化魔法が付与してあるのと、手術台自体が魔導具で、清潔に保たれているらしい。
「その部分を気にしたのは、お嬢様が初めてですよ」
助手は褒めてくれたけど、そんな事は無いよね?
「この分野は幸いにも資料や人員の遺失を免れました。病科は失われたモノが多すぎたのです」
助手は沈痛な表情を浮かべたけれど、貴族的に聞くと「だから執刀科の方が優秀だ」って聞こえてしまう。何人かはそう思ったみたいで、後で「あんな風に言わなくても」って話し合った。
義足についての説明もしてくれた。動物の皮や腱が使われていて、一見では義足と分からない。見ただけでは分からないけど装着して歩くと、それと分かるそうだ。
「失礼いたします。フェルナー侯爵様のお嬢様では?」
質疑応答が終わって、帰る準備をしている時に声をかけられた。さっきの助手だ。
「彼女に何か?」
この場にダニエル様もシェーン様も居ない。2人とも通常護衛として待機している。だからアルベリク・リトルトンが警戒心を顕に聞いてくれたのはありがたいけど、何故あなたが聞くのでしょうか?護衛をしてと頼んでいないよね?私は。
「あなたは?」
私も警戒して聞いた。
「失礼しました。私は侯爵家付きの医師、レスリー・ウェイドの息子で、アーサー・ウェイドといいます」
たしかにフェルナー侯爵家付きの医師の名はレスリー・ウェイドだけど、結婚歴はなく、子供もいないと本人から聞いている。
「あなたがウェイド医師の息子であるという証拠は?」
「ここにはありません。しかし付いてきていただければ証明出来ます」
それを鵜呑みにするほど、私はバカじゃない。学習能力もある。呼ばれたから信じてノコノコと付いていく訳がない。
「申し訳ございませんが、私は学院から見学に来ております。勝手な行動は許されておりません」
「え?あの……」
「まいりましょう、リトルトン様」
アルベリク・リトルトンも信用しきれないけど、この助手よりははるかに信用出来る。
「リトルトンなど信用しない方が良いですよ」
助手は叫んでいたけど、私もアルベリク・リトルトンも振り返らなかった。
「リトルトン様、大丈夫ですか?」
「お気遣いありがとうございます」
あの助手はリトルトンの名を知っていた。と、いう事は、サン=コームについても知っているんだろう。表に出していない名なはずのリトルトンを「信用しない方が良い」って言うんだもの。
「彼に心当たりは?」
「無いですね。もっともどこで恨みを買っているかまでは、分かりませんが。家業が家業ですからね」
馬車溜まりに着いて、馬車に乗り込んだ。
「フェルナー様、何かございましたの?」
「先程の助手に呼び止められました。我が家付きの医師の名を言っておりましたけど、信用出来なかったので、そのまま戻って参りました」
「気を付けなければなりませんわね。フェルナー様はフェルナー侯爵家のご令嬢というだけでなく、光の聖女様でいらっしゃいますもの」
「それを仰らないでくださいまし」
先輩達はコロコロと笑っているけれど、私は笑い事じゃないんですよ。
「いつもの護衛の方も来ておられますわね」
「執刀室にはさすがに入られませんでしたけれど」
「フェルナー様はどちらがお好みですの?」
「あら、今はリトルトン様と親しくしておられるではないですか」
「あれはリトルトン様の一方的な想いでございましょう?」
恋バナってどの世界の女性も好きなのかしら?
きゃあきゃあと姦しい先輩方と、学院に帰った。帰ってからものんびりはしていられない。レポートを書くという仕事が待っている。レポートというか、見学した感想?気付きとか学んだ事も書くから、やっぱりレポートかな。とにかく書かなければならない。
質疑応答の時間にはメモが取れたけど、執刀室に筆記用具は持ち込めなかった。携帯用でもインクが飛ぶからという理由だそうだ。
執刀室内の執刀医の手順や、患者の様子など、思い出して書き出していく。これを後で時系列順に書き直して、纏めなければならない。
レポートの提出期限まではまだ日はあるけれど、時間を置くと記憶が薄れてしまう。だからほとんどの人は、次回の特別講座で提出出来るように書き上げるし、遅くても次々回までには提出する。レポートの量も様々で1枚にさらっと纏める人と10枚位を費やす人が居るそうだ。
私は次回の特別講座で提出した。
「キャシーちゃん、この後時間、良いかな?」
レポートを提出したら、ついでとばかりにサミュエル先生に呼び出されてしまった。
なんの件だろう?助手に付いてくるように言われた事?あれ、先生には言ってないんだよね。レポートの内容について?それならその場で言っているかな?
サミュエル先生の教員室(執務室?)に入ると、ソファーに座るように言われた。
「キャシーちゃん、何か報告していない事があるよね?」
「助手に呼び止められた件ですか?」
「分かっているじゃない。何故報告しなかったの?」
「必要ないと思ったからです」
「キャシーちゃん……。今回は複数から報告があったよ。どうして言わないの?」
「別に王宮だから言わなかったとか、実際には何もなかったとか、そういう理由じゃないですよ。自分で対処出来た。だから言わなかった。それだけです」
「王宮の兵士達が心配してたよ。絡まれているように見えたって。一緒にいた男性が上手く切り抜けてくれたみたいだって言っていたけど、リトルトンの事だよね?」
「そうですね。リトルトン様から何か聞かれました?」
「概要はね」
「助手はリトルトン様の家名をご存じでした。リトルトンを信用しない方が良いと言っていましたから」
空気がピリッとした。あ、やっぱりこれは言っていなかったのね。
そんな私の不安など察せられる事もなく、普通に歩いてきた執刀医と車イスの患者が現れ、手術準備が始まった。まずは患者に麻酔をかける。器具に綿花を詰め、患者の口に当てた。少しすると患者が眠り始めた。それを確認して執刀医が患部を露出させる。化膿し骨が飛び出した上に巻かれた包帯に不安がよぎる。本当に大丈夫なの?あれ。清潔が保たれてないどころじゃない。
この時点で2人の女性生徒が退室した。真っ青な顔をしていたから心配だ。
煮沸消毒した器具が並べられる。煮沸消毒かぁ。その場でグツグツ煮られているのを見ると、不思議な感覚になる。オートクレーブは無いのかな?誰か伝えてないのかしら?原理は分かるけど、機械の内部は不明だから、私は役に立てないけど。
手術が始まった。方法は前世でしていたのと同じ方法。細かい手技は違うけど、その辺りは分からない。看護師だったからね。医師とは違うのよ。手術の手技は見ているだけだったし、器具出しはした事があるけど。
手術後に質疑応答の時間が設けられて、細かい説明がなされた。縫合は魔法糸を使うらしい。ひとり1本ずつ渡してくれたけど、この糸で縫合すると傷口が早く治るらしい。手術の説明してくれたのは、執刀医の助手だという男性。私を見て少し驚いていた。たぶん小さいからだと思う。身長が伸びないのよね。
執刀室の清潔については、手術台に掛けられたシーツに浄化魔法が付与してあるのと、手術台自体が魔導具で、清潔に保たれているらしい。
「その部分を気にしたのは、お嬢様が初めてですよ」
助手は褒めてくれたけど、そんな事は無いよね?
「この分野は幸いにも資料や人員の遺失を免れました。病科は失われたモノが多すぎたのです」
助手は沈痛な表情を浮かべたけれど、貴族的に聞くと「だから執刀科の方が優秀だ」って聞こえてしまう。何人かはそう思ったみたいで、後で「あんな風に言わなくても」って話し合った。
義足についての説明もしてくれた。動物の皮や腱が使われていて、一見では義足と分からない。見ただけでは分からないけど装着して歩くと、それと分かるそうだ。
「失礼いたします。フェルナー侯爵様のお嬢様では?」
質疑応答が終わって、帰る準備をしている時に声をかけられた。さっきの助手だ。
「彼女に何か?」
この場にダニエル様もシェーン様も居ない。2人とも通常護衛として待機している。だからアルベリク・リトルトンが警戒心を顕に聞いてくれたのはありがたいけど、何故あなたが聞くのでしょうか?護衛をしてと頼んでいないよね?私は。
「あなたは?」
私も警戒して聞いた。
「失礼しました。私は侯爵家付きの医師、レスリー・ウェイドの息子で、アーサー・ウェイドといいます」
たしかにフェルナー侯爵家付きの医師の名はレスリー・ウェイドだけど、結婚歴はなく、子供もいないと本人から聞いている。
「あなたがウェイド医師の息子であるという証拠は?」
「ここにはありません。しかし付いてきていただければ証明出来ます」
それを鵜呑みにするほど、私はバカじゃない。学習能力もある。呼ばれたから信じてノコノコと付いていく訳がない。
「申し訳ございませんが、私は学院から見学に来ております。勝手な行動は許されておりません」
「え?あの……」
「まいりましょう、リトルトン様」
アルベリク・リトルトンも信用しきれないけど、この助手よりははるかに信用出来る。
「リトルトンなど信用しない方が良いですよ」
助手は叫んでいたけど、私もアルベリク・リトルトンも振り返らなかった。
「リトルトン様、大丈夫ですか?」
「お気遣いありがとうございます」
あの助手はリトルトンの名を知っていた。と、いう事は、サン=コームについても知っているんだろう。表に出していない名なはずのリトルトンを「信用しない方が良い」って言うんだもの。
「彼に心当たりは?」
「無いですね。もっともどこで恨みを買っているかまでは、分かりませんが。家業が家業ですからね」
馬車溜まりに着いて、馬車に乗り込んだ。
「フェルナー様、何かございましたの?」
「先程の助手に呼び止められました。我が家付きの医師の名を言っておりましたけど、信用出来なかったので、そのまま戻って参りました」
「気を付けなければなりませんわね。フェルナー様はフェルナー侯爵家のご令嬢というだけでなく、光の聖女様でいらっしゃいますもの」
「それを仰らないでくださいまし」
先輩達はコロコロと笑っているけれど、私は笑い事じゃないんですよ。
「いつもの護衛の方も来ておられますわね」
「執刀室にはさすがに入られませんでしたけれど」
「フェルナー様はどちらがお好みですの?」
「あら、今はリトルトン様と親しくしておられるではないですか」
「あれはリトルトン様の一方的な想いでございましょう?」
恋バナってどの世界の女性も好きなのかしら?
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質疑応答の時間にはメモが取れたけど、執刀室に筆記用具は持ち込めなかった。携帯用でもインクが飛ぶからという理由だそうだ。
執刀室内の執刀医の手順や、患者の様子など、思い出して書き出していく。これを後で時系列順に書き直して、纏めなければならない。
レポートの提出期限まではまだ日はあるけれど、時間を置くと記憶が薄れてしまう。だからほとんどの人は、次回の特別講座で提出出来るように書き上げるし、遅くても次々回までには提出する。レポートの量も様々で1枚にさらっと纏める人と10枚位を費やす人が居るそうだ。
私は次回の特別講座で提出した。
「キャシーちゃん、この後時間、良いかな?」
レポートを提出したら、ついでとばかりにサミュエル先生に呼び出されてしまった。
なんの件だろう?助手に付いてくるように言われた事?あれ、先生には言ってないんだよね。レポートの内容について?それならその場で言っているかな?
サミュエル先生の教員室(執務室?)に入ると、ソファーに座るように言われた。
「キャシーちゃん、何か報告していない事があるよね?」
「助手に呼び止められた件ですか?」
「分かっているじゃない。何故報告しなかったの?」
「必要ないと思ったからです」
「キャシーちゃん……。今回は複数から報告があったよ。どうして言わないの?」
「別に王宮だから言わなかったとか、実際には何もなかったとか、そういう理由じゃないですよ。自分で対処出来た。だから言わなかった。それだけです」
「王宮の兵士達が心配してたよ。絡まれているように見えたって。一緒にいた男性が上手く切り抜けてくれたみたいだって言っていたけど、リトルトンの事だよね?」
「そうですね。リトルトン様から何か聞かれました?」
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