3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 5学年生

芸術祭

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 芸術祭、本番の日、私は手芸倶楽部と刺繍倶楽部の面々に囲まれていた。ヘアメイクも2つの倶楽部員がしてくれて、劇団員は監修してるだけ。この『光の聖女様風衣装』は完全サプライズ的な演出らしく、私の出番は1番最後。その話を聞かされた時、「大トリ?」って驚いて言ったら、なぜか「大トリ」が手芸倶楽部と刺繍倶楽部の面々に流行ってしまった。ちゃんと意味も説明したんだけど、今や「1番最後」という意味ではなく、「急いで」や「大丈夫?」といった意味合いで使われている。良いのかな?

「キャスリーン様、お迎えに上がりました」

 真っ白な軍服を身に付けたシェーン様が、迎えに来てくれた。髪をきっちりと撫で付け、いつも以上に厳しく堅苦しい感じがする。

「ありがとう」

 手を伸ばすとその手を取って、指先に口付けが落とされた。

「えっ?」

「まいりましょうか」

 穏やかに微笑まれ、立ち上がる。

 舞台裏を通ると、出番を終えた人達が道を開けてくれた。

 舞台袖に立つと、客席が見渡せた。思ったより見えるのね。照明が落とされているからそこまで見えないと思っていたのに、前の方の人の表情までよく見える事に驚く。

「キャスリーン様、綺麗です。とてもお似合いですよ」

 不意にシェーン様の声が聞こえた。顔をあげてシェーン様を見ると、視線はまっすぐ舞台を見ている。何を考えているのかまったく読めない整った顔立ち。

 ちょっと待って。今言わないで。どんな顔をすればいいのか分かんなくなっちゃう。

「ありがとうございます」

 とりあえずお礼を言ったら、私を見てフッと微笑まれた。

 舞台ではきらびやかな衣装を身に付けた劇団員が、最後の仕上げとばかりに男女のペアでワルツを踊っている。やがて音楽が小さくなるとヴァイオリンの音が流れはじめた。ささっと舞台からける劇団員達。向かい側の舞台袖の合図で1歩進む。スポットライトが私とシェーン様を包んだ。ザワザワとした騒めきが聞こえる。背筋を伸ばして顔をあげて、早足にならないように気を付けて1歩1歩進む。舞台の中央からはランウェイに進んでいく。アルカイックスマイルを心がけて、ランウェイの先端まで進むと手が離された。そこから3歩ひとりで歩き、スカートをつまみ深いカーツィーをする。ゆっくり5秒ほど数えたら姿勢を正し、左右の客席に向かい再びカーツィー。シェーン様の手を取り再びエスコートされて、舞台上で待つ今日のモデル達の中央に立った。シェーン様が私の後ろに回ったのを確認して、今度はみんなでカーツィーを行う。男性はボウアンドスクレープ。わぁぁっという大歓声と拍手の中、無事に舞台の幕が降りた。

「フェルナー様、素晴らしかったですわ」

「舞台裏を通られた時、思わず道を開けてしまいましたもの。近寄りがたい雰囲気というか、近付いちゃいけない気がして」

「お聞きになって?この拍手はフェルナー様に贈られるものですわよ」

「皆様の分の方が多いと思いますわ」

「何を仰いますの?でもサプライズと聞いておりましたが、こういう事でしたのね」

 舞台袖から控室に移動しようとすると、聞き覚えのある大声が聞こえた。

「すまん、ちょっと通してくれ」

「お義兄様?」

 焦ったような顔のお義兄様が姿を見せた。

「キャシー!!、お前、お前はっ」

「お義兄様、落ち着いてくださいまし?」

「これが落ち着いてられるかっ。お前なぁ、こう言う事は事前に言っておけ」

「固く口止めされておりましたのですもの」

「誰にっ……。それは今はどうでもいい。良いか?着替えてもすぐには出るな」

「どうしてですの?」

「もみくちゃにされるぞ」

「大袈裟ですわ」

「大袈裟なもんか。せめて冬期休暇まではシェーンやダニエルから離れるな」

「離れるなって……」

「アンバーにも言っておく。良いな?決してひとりになるなよ?」

「何を危惧してらっしゃいますの?」

「キャシーの身の安全だ。これ以上目立つな」

「目立つなと仰られても」

「キャシーが舞台に立った瞬間、俺に聞き取れただけでも3組は、キャシーの誘拐を画策してたぞ?頼むから自覚してくれ」

「自覚しておりましてよ?わたくしは目立つ存在だと」

「足りない。キャシーが思っているより、キャシーは目立つしキャシーを連れ去ろうというヤツは多い。それこそここを出た瞬間から狙われるぞ」

「そんな……」

「たぶんいくらでも沸いて出るだろう。光の聖女様の身柄さえ手に入れば良いというヤツは、どんな手段だろうと使う」

「……」

 ランベルトお義兄様の言葉を笑い飛ばそうと思った。だけどあまりにも真剣な顔に頷くしかなかった。

「分かりましたわ。ご指示に従います」

「考えすぎだと良いんだけどな」

「考えすぎではないと思われたからこその、忠告でしょう?ありがとうございます」

「ほら、着替えてこい。引き留めて悪かった」

「いいえ、お義兄様。心配してくださってありがとうございます」

 着替えに控室に戻る。ほとんどのモデルは着替え終えて、数人が残っているだけだった。

「フェルナー様、こちらにどうぞ」

「お疲れ様でございました」

「大成功でございました。ご協力、感謝いたします」

 手芸倶楽部と刺繍倶楽部の部員達に次々と声をかけられる。

「キャスリーン様、お疲れ様でございましたわ」

「ガブリエラ様」

「大成功ですわ。キャスリーン様のお陰です」

「皆様の努力の結晶でございましょう?わたくしはその手助けを、少しさせていただいたのみでございますわ」

 聖女風衣装を脱ぎ、メイクを落とされ、綺麗に結われていた髪を解かれた。

「キャスリーン様、もうしばらくお待ちくださいませね」

 控室を出ようとしたら、ガブリエラ様に引き留められた。

「ガブリエラ様?」

「少々不穏ですもの。お迎えをお待ちくださいませ」

「不穏?」

「キャスリーン様のお姿に惑わされた、不埒な考えを持つ小者共が待ち構えていると情報が入りましたの」

「不埒な考えを持つ小者共……」

 ガブリエラ様の言い方が……。

 待っているとアンバー様とグロッシュ様が迎えに来てくれた。

「フェルナー様、お待たせいたしました」

「お送りいたします」

「ありがとうございます。あの、シェーン様は?」

「外でお待ちですわよ」

 ちょっとホッとした。

 アンバー様とグロッシュ様に挟まれるようにして控室を出る。一斉に視線が向けられたのを感じた。

「キャスリーン様」

 いつもの服装に着替えたシェーン様とダニエル様が、私の後ろに付く。

「キャスリーン様、どこかご希望はございますか?」

「特に変わった展示はございませんでしたわよね?」

「そうですわね。いつもと順番が変わっただけですわね」

 アンバー様とグロッシュ様に聞かれたけど、特に希望は無いのよね。何があるか分かんないし。

「キャスリーン様、お喋りサロンにまいりませんか?」

「『フォニィ』ですか?」

「はい。ヴィクトリア・マッケンステイン様から是非にとご招待いただいておりますの」

「良いのでしょうか?」

「あそこは警備にも気を付けていらっしゃいますからね。大丈夫ですわ」

 ゾロゾロと集団で移動する。会場のカフェに着くと、黒服を着たイケメンさんに出迎えられた。

「ようこそいらっしゃいました。お席にご案内いたします」

 頑張った労いとやらで、私とシェーン様は2人で同じテーブルに案内されてしまった。アンバー様とお義兄様とグロッシュ様とダニエル様は4人で同じテーブルだ。

「シェーン様、ご迷惑ではありませんか?」

「最高の褒美をいただいた気分です」

 お口が上手くていらっしゃる。そんなシェーン様をダニエル様がニヤニヤニマニマ見ていた。

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