3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
236 / 658
学院中等部 7学年生

夏期休暇 ~説得~

しおりを挟む
 去年までは長期休暇にタウンハウス王都のフェルナー邸に帰る時は、ランベルトお義兄様が一緒だった。今年からはひとりで馬車に乗って、ひとりで帰る。妙に広く感じる馬車内に、少しだけ寂しくなる。そういえば私って、ひとりで馬車に乗った事は無いかも?

 そんな事を考えながらタウンハウス王都のフェルナー邸に帰ると、恒例のお義母様のハグが待っていた。

「おかえりなさい、キャシーちゃん」

「ただいま帰りました。お義母様」

「着替えてらっしゃい。お茶にしましょう?」

「はい」

 自室に入って、フランの手を借りて、着替える。

「フラン、何日か出掛けられる用意をお願い出来るかしら?」

「お嬢様?」

「まだ決定はしていないけど、光魔法使いとしての活動よ」

「光魔法使いとしての……。かしこまりました」

 フランに旅の準備を頼んで、お義母様の所に行く。まずはお義母様の説得かな?

「いらっしゃい。話を聞かせてちょうだい?」

 最初は当たり障りの無い話題から。学院での話や友人達の話。そこからフェアールカク辺境伯領の話に持っていく。黒ウサギさんの話をすると、お義母様が複雑な顔をした。

「ウサギを救った事は褒めてあげたいけれど、噛まれてしまったの?」

「はい。すぐに治癒をかけましたし、そこまで痛みも無かったですが」

「でも怪我をしたのよね?」

「それは、はい」

 でもすぐに治したし、と続けてはいけないんだろうな。お義母様のお説教が長くなりそうだし。

 そんな私の思考はお見通しだったらしく、お義母様に深ーいため息を吐かれた。

「キャシーちゃん、少々怪我してもって思っているのでしょうけど、キャシーちゃん以外には無理な事ですからね?覚えておいてちょうだい?」

「はい」

「お返事は良いのよねぇ」

 呆れられてしまった。

「それで、どこかに行くのだったわね?」

「はい。フェアールカク辺境伯領に。わたくしが長期休暇に入らないと動けませんから」

「何が起こっているか、旦那様は話してくださらないし。キャシーちゃんはまだ学生なのよ?」

わたくしが望んだ事ですわ」

「何が起こっているの?話してちょうだい?」

「いけませんわ、お義母様。この場でわたくしが話す訳にはまいりません」

「そう言うと思ったわ」

 再び深いため息を吐かれてしまった。

 夕刻になって、ローレンス様が帰ってきた。すぐにローレンス様の部屋に呼び出された。私室じゃなくてローレンス様の執務室というか、次期当主の従業室というか。執務机やソファーセット、資料棚など、お義父様の執務室より規模は小さいながらも、十分執務が出来る部屋になっている。

「珍しいかい?」

 キョロキョロしていたら、ローレンス様に笑われてしまった。

「申し訳ございません」

「いいよ。キャシーになら。さぁ、座って」

「はい」

 座ってと言われて示されたのは、執務机の正面に置かれた2人がけのソファー。ローレンス様は執務机の椅子に座った。

「さて、話をしようか」

「そう来ると思っておりました。フェアールカク辺境伯領の事ですわよね?」

「そうだね。キャシーが行く気なのは、エドワード様からうかがっている。反対したいけどね。フェアールカク辺境伯領の状況は神殿でも把握しているよ。神官も派遣しているし」

「ローレンス様は反対されないのですか?」

「さっきも言ったけど、反対したいんだよ?でもフェアールカク辺境伯領から『光の聖女』を求める声が多いんだ。無視出来ないほどにね」

「それじゃあ、行っても良いのですか?」

「それとこれとは話が別だよ。今はプロクシィも行っているし」

「セレスタ様が?」

「キャシー、プロクシィに敬称は要らないよ。本人もそう言ってた。『様なんて付けられると、ムズムズする』ってさ」

「そうは仰られましても」

「キャシーは困ると思うと言ったら、笑ってた。『自分にはたいした力は無いけど、プロクシィの名に懸けてがんばる』って言ってたよ。キャシーによろしくともね」

「やはり行ってはいけませんか?」

「どうして話題を戻すかな?誤魔化されてくれないね」

わたくしの信念ですから」

「私はね、光魔法使いとしてと言いながら、光の聖女として動こうとするキャシーを愛してる。だからこそここで止めたいんだ」

わたくしは自分の力が役立てるなら、その力を使いたいのです。わたくしひとりで全てを救えるとは思っておりません。そんな傲慢な考えは持っておりません。でもお役に立ちたいのです」

 ローレンス様が黙ってしまった。何かを考えている。その考えが纏まるのを待った。

「それがキャシーの考えなんだね?役立てるなら役に立ちたいというのが」

「はい」

「心配しつつも送り出すのが、神殿関係者としての正しい行動なんだろうけど、キャシー愛する人に何かあったら、と考えてしまうんだよ」

 そう言って立ち上がって、私の側に立つ。自然とローレンス様を見上げる体勢になった。

「決意は固そうだね」

「申し訳ございません」

「分かったよ。決して無理はしない。危ないと思ったら、自分の身を守る。この2つを必ず守りなさい。たとえ他の人を見捨てざるをえなくてもね」

「ローレンス様……」

「本当は行かせたくないんだよ?」

「理解しております」

 ふわっと抱き締められた。

「気を付けて行っておいで」

「ありがとうございます」

「それから、父上にも許可は取らなきゃね。説得、頑張って。私は味方をしてあげられないから」

「ローレンス様、一緒に居てはくださいませんの?」

「絶対に反対すると思うけど、それでもいいかい?」

「それは困ります」

「それならひとりで頑張りなさい。応援しているから」

 私をぎゅっと抱き締めてから、部屋から出された。今から少し執務をするんだって。

「お邪魔いたしました」

「邪魔じゃないよ、キャシーなら」

 部屋を出ると、ランベルトお義兄様が待っていた。

「キャシー、これを持っていけ」

 いつもの護身用ナイフと、コイン型ペンダントを渡された。

「ペンダントは兄貴から預かっていた物だ。魔装身具らしい」

「ローレンス様から?ありがとうございます」

「絶対に無理はするなよ?俺達はキャシーを喜んで送り出すんじゃないんだ。キャシーが決めた事だから、送り出すだけだ。必ず怪我無く帰ってこい」

「はい」

「次は父上だろう?帰ってきて待っている。行ってこい」

「ありがとうございます。行ってきます」

 ポンっと背中を叩かれた。気合いを入れてもらった感じで、背筋が伸びる。

 お義父様の執務室に着くと、ノックの前にドアが開いた。

「決意は変わらなさそうだな」

「変わりません」

「フェアールカク辺境伯領の資料だ。読んでおきなさい」

「ありがとうございます」

「ブランジット様から聞かされている。気を付けるように。あいにくブランジット様は一緒に行けないが」

「王家に必要ですものね」

「説得すると言っておられたが」

「説得ですか?」

「キャシーと一緒だ。あの方も光魔法使いとして役に立ちたいと思っておられる。キャシーだけに任せて、自分は王都で安穏と過ごしたくないと仰っておられた」

「サミュエル先生ったら」

「護衛として、エリックとリオンとシェリーを連れていきなさい」

「3名もですか?」

「3名とも清浄と回復が使える。少しは役に立つだろう。それから、義援団として他の貴族から一足先に、何名かずつ向かっている」

「え?」

「光の聖女を守りたいのは、誰も同じだそうだ」

わたくしの為に?」

「それもあるだろうが、見て見ぬ振りはしたくなかったらしい。最初に声を上げたのはアヴァレーツィオ侯爵、それからファレンノーザ公爵、ミザリア伯爵。この3名はキャシーが行くならと声をあげた。他の辺境伯もそれぞれ義援団には加わっていないが、フェアールカク領に向かっている」

「ありがとうございます」

「気を付けていきなさい」

「はい」



しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜

桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。 白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。 それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。 言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

処理中です...