3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 7学年生

冬期休暇

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 冬期休暇に入った。フェルナー家が寄越してくれた馬車に乗り込み、タウンハウス王都フェルナー邸に帰る。

 帰るとすぐにお義父様に執務室に呼ばれた。珍しい。こんな時間にお義父様が家にいるなんて。いつも恒例のお義母様のお出迎えも無い。何かあったの?こんな事は初めてだ。

 急いで着替えて、執務室に行く。

 呼ばれた執務室には、ランベルトお義兄様も居た。お義父様もお義兄様も顔色が悪い。

「キャスリーン、よく聞きなさい。ローレンスが行方不明だ」

「え?」

「野盗に襲われたらしい。馬車ごと崖から落ちて、見つからない」

 今、お義父様は何て言った?ローレンス様が行方不明?崖から馬車ごと転落した?

 喉の奥が痛い。頭も痛い。吐き気がしてきて、世界がぐるぐる回る。

「キャスリーン、しっかりしなさい」

「お義父様……」

「大丈夫だ。望みを捨てるな」

「……現場に連れていってください」

「駄目だ。危険すぎる」

「じっとしていられません。連れていってください」

「駄目だ。キャスリーンが行ってどうなる?ローレンスが無事に見付かるとでも?」

 言葉を返せなくて、私は黙ってしまった。

「キャスリーン、捜索隊が探している。信じて待ちなさい」

「……はい」

「キャシー、気を確かに持つんだ。兄貴はきっと大丈夫だ」

「お義兄様……」

「キャスリーン様、大丈夫ですよ。ローレンス様がキャスリーン様を置いて行くものですか」

 フランが慰めてくれる。その声も震えていた。

「お義父様、お義母様は?」

「臥せっている。報せを聞いて倒れてしまってな」

「フラン、お義母様のお部屋に行きます」

「待ちなさい、キャスリーン」

 お義父様に呼び止められた。

「キャスリーン、座りなさい」

「お義父様?」

「座りなさい」

 言われるがままに座ろうとして、ふらついてしまった。お義兄様が支えてくれる。

「キャシー、無理をするな」

「大丈夫ですわ」

「大丈夫に見えない。キャシー、お前、真っ青だぞ」

 ソファーに座らされた。

「大丈夫ですわ。お義母様のお見舞いに行かないと」

「母上の見舞いは後でも出来る。今はお前だ」

「ランベルトの言う通りだ、キャスリーン。心配なのは私達も同じだ。だが捜索隊は出しているし、報せを待ちなさい」

「は……い」

 お義父様からなんとか聞き取った話によると、ローレンス様は教会の用事出張で出掛けた先からの帰路で、野盗に襲われたらしい。教会の馬車には教会の神紋が入っていて、一目で教会所属の誰かが乗っていると分かる。通常は教会の馬車が襲われる事は無い。信心深い人も多いし、教会関係者は尊敬を集める対象だ。

「なのに襲われたのですか」

「我が家の護衛も侍衛官もおったのだがな。ことごとく犠牲になったそうだ。無事とは言いがたいが、なんとか命があったのは従侍衛官、ひとりだけだ。その従侍衛官が命からがら助けを求め、事件が発覚した。野盗は捕らえられたが、ローレンスの乗った馬車がアルビレオン河の崖から落ちていくのを見たそうだ」

「そう、ですか」

「王宮からも捜索隊は出していただいている」

「キャシー、今日はもう休め」

「眠くありませんわ。ローレンス様が大変な思いをしているかもしれないのに、眠れません」

「そういう事じゃない。心を落ち着かせろと言っているんだ。キャシーが倒れたら、兄貴が悲しむ。休んだ方が良い」

 ローレンス様は死んでいない。それを誰もが信じている。少なくともここにいる全員が。

 その事実が私を支えてくれた。死んでいない、必ず見つかるというのが、たとえ儚い希望であってもかまわない。信じる事、それが大事だ。

「お義母様の所に行ってまいります」

「大丈夫か?」

「はい」

 ランベルトお義兄様が付き添ってくれた。

「お義兄様は今回の襲撃、何が目的だと思われますか?」

「今、サン=コーム外科医インディクター総元締めの家が取り調べているらしいぞ。当主自ら単騎で駆け付けたらしい」

「アヴァレーツィオが……」

「敬称は付けておけ。屋敷の中でもな」

 不用意に敬称無しで口にしてしまった。

「アヴァレーツィオ様もキャシーを気に入っているという噂だが?」

「どうやらそうらしいですわ。初対面での印象が強すぎて、ちっとも嬉しくございませんけれど」

「あぁ、あれな。迫力もあったし、キャシーが倒れるんじゃないかと心配した」

「前世にはたくさんあのような色彩の人がいましたから、恐怖はございませんでしたけれど、人を物のように言う言動に嫌悪感を覚えました」

「キャシーはそういうのが嫌いだもんな」

 お義母様の部屋に着いた。お義母様はベッドで横になっているらしい。

「お義母様」

「キャシーちゃん、ローレンスが、ローレンスが……」

「お義母様、諦めてはなりません。わたくし達だけでも信じましょう。ローレンス様がそう簡単に、儚くなるとは思えません」

「キャシーちゃん……」

「お義父様もランベルトお義兄様もわたくしも、信じております。お義母様も信じてくださいませ」

「キャシーちゃん、えぇ、そうね。私達が信じなきゃね」

 お義母様の白い顔に、ホンの少しだけ赤みが差した。

「お休みになられますか?」

「いいえ。私もしっかりしないといけないわ」

「ご無理はなさらないでくださいませね?」

「大丈夫よ。キャシーちゃんこそ無理しちゃ駄目よ?」

 ベッドに起き上がったお義母様の身支度を、侍女が整えている間に外に出る。

「どこに行くんだ?」

「礼拝堂に」

 待っていてくれたらしいお義兄様に短く答え、屋外にある礼拝堂に向かった。寒気が身を包む。息が白い。素早くマリアさんが近付いてきて、ショールを羽織らせてくれた。ダニエル様が走っていくのが見えた。

「ありがとう」

「今から礼拝堂に向かわれるのですか?」

「えぇ。無事をお祈りしたいの」

「ですが、今の時期の礼拝堂は……。ダニエルが魔道具を作動させに走りましたが」

「大丈夫よ。寒さなんて苦にならない。ローレンス様は極寒の川に落ちてしまわれたの。きっと凍えておられるわ。どなたかが助けていると良いのだけれど」

 礼拝堂に着くと、ダニエル様に止められた。

「お嬢ちゃん、もう少し待ってくれ。あぁ、控室に入ろう。控室なら少しは暖まっている」

「ダニエル、通して?一刻も早くお祈りをしたいの」

「駄目だ。とりあえず控室に。身体が冷える」

 マリアさんにもグイグイ押されて、控室に入れられてしまった。

「ダニエル、マリア。お願い」

「駄目だ」

「駄目ですよ」

 お義兄様も駆け付けてきた。しっかり防寒着を着込んでいる。

「キャシー、これを預かってきた」

 分厚いフワフワの大きなコートを手渡された。

「ありがとうございます」

「それから気付いているか?ダニエルとマリアを呼び捨てにしてたぞ」

「え?」

「余裕がないんだろ?お祈りは止めない。お祈りするのは良いが、いったん落ち着け」

「……はい」

 深呼吸しようとして、上手く息が吸えない事に気が付く。

「キャスリーン様、大きく息を吐いてください」

 呼吸を意識すると、細かく浅い呼吸になる。手が痺れてきて過呼吸に陥っている事に気付く。

「キャスリーン様、大丈夫ですよ。ゆっくり大きく息を吐いて、吸って、吐いて」

 マリアさんが私を座らせて、背中をさすりながらゆっくりと話しかけてくれる。

 自分でも意識して、大きくゆっくりと呼吸する事を心掛ける。頭痛が治まらない。手が震える。

 大きく腰を折って、前屈みになる。マリアさんが少し慌てたように助け起こそうとしたのを止めた。

「この、ままで、大丈、夫」

「かしこまりました」

 フランが静かに入ってきた。

「キャスリーン様、お茶をお淹れしましょうか?」

 ハッ、ハッ、ハッ、と速い呼吸音が聞こえる。返事をしたいのに返事が出来ない。
















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