3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 8学年生

聖国からの使者、再び

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 ルーカス・デュ・アンゲロイ様とマイケル・デュ・アンゲロイ様がスタヴィリス国を訪問したのは、私達が帰ってきて20日後だった。

 聖国からの正式な使者という事で、私も王宮に赴く事になっている。おかげで朝からてんやわんやの大忙しだ。忙しいのはお義母様とフラン達侍女だけど。私はみんなに言われるがまま、入浴して、マッサージされて、香油を塗られて、ドレスを着せられて、お化粧されて、髪を結われているだけだもの。

「フラン、何故肖像画家が控えているの?」

「もちろんお嬢様のお姿を残す為ですわ」

「もちろんの意味が分からないのだけど?」

「まぁ、お嬢様ったら」

 フランがオホホホホと笑うけれど、意味が分からないのは本当だ。肖像画を描かれる心当たりが無い。

「お嬢様、後程ご説明いたします」

 フランがにこやかな顔はそのままに、声だけ真剣に言った。何か事情があるみたい。

 髪結いが終わると、いったん休憩。この後はサミュエル先生が迎えに来てくれるんだって。

 シェフが食べやすいようにと作ってくれた、サンドウィッチを口にする。ひとくちサイズのパンの間に、キュウリやハムやチーズが挟んであった。飲み物にはストローが差してある。

 ストローは金属製。その昔はライ麦の麦わらを使っていたのだけれど、ヘタってしまうからと金属製に変わっていったんだって。

「お嬢様、肖像画家の件ですが、聖国に贈られるようですわ。お嬢様が光の聖女として任命されるのは、ほぼ決定という事ですね」

「ほぼ決定なのね」

「今さら何を仰られているのです?怪我人がたくさん居ると聞けば、飛び出していかれるのに」

「仕方がないじゃない。光魔法使いに出動要請があったんだもの。わたくしが行くのが1番早かったのよ」

「それはそうだったのでしょうけどね。フランは後で聞いて卒倒しそうになりましたよ」

「謝ったじゃない」

「お謝りにはなられるのですけれどね。なんでしたっけ?反省はするけど後悔はしないのでしたっけ?」

 あ、これはずぅっと言われるヤツだ。でも本当だもの。突っ走ったり無茶を反省はするけど、それを後悔はしない。私の無茶で、助かる命があるならその方が良い。

「お嬢様、フランはお嬢様のやりたい事を否定してはおりません。ですが、心配はさせてくださいませ」

「うん。ありがとう、フラン」

「本当にお返事はよろしいのですわよねぇ」

 さっきまでちょっと感動的だったじゃない。どうしてこうなるのかしら?

「お嬢様、お部屋を移りましょう。肖像画家が待っております」

 ドアの外からお義父様付きの執事の声がした。肖像画は描かれちゃうのね。

 今回はラフなスケッチだけで終わるはずだ。肖像画はすぐに描ける物じゃない。油彩画だし、揮発油や樹脂を使うらしいから、匂いも気になる。部屋に匂いが付いちゃうしね。

 部屋を移動すると、椅子が用意された部屋に、お抱えの肖像画家が待っていた。私を見て、丁寧に頭を下げてくれた。

「お嬢様、そちらの椅子にお座りください」

 示された椅子に座る。慣れる程ではないけれど、何度もやっていると次にどうすれば良いか、分かってくる。

 肖像画家の指示に従い、座ってポーズを取る。私は女だから椅子に座って身体を捻ったりする位だけど、男性はポーズを変えたり何パターンもスケッチするらしい。

「ねぇ、ターナー、ターナーの絵は陰影をしっかりと描いているわよね?」

「そうですね。光有る所に影有りが私の持論ですから」

「そうよね」

 ずっと私の中にある疑問。光魔法の対となる魔法はないのかという事。闇魔法とか黒魔法?とか、有っても良いと思うんだけど。

「どうかなさったのですか?」

「たいした事じゃないのよ。今回のわたくしのドレス、白っぽいでしょう?ターナーは事も無げに描き分けるけれど、白い衣装って描きにくくないのかな?って思ったの」

「そこが肖像画家としての腕の見せ所ですよ」

「領城の肖像画も、ターナーが描いたの?」

「領城というと、ご家族の肖像画ですか?私ですね」

「友人が驚いていたわ。そっくりだって。動き出しそうって言ってたわ」

「それは画家にとって、最高の賛美ですね」

 この部屋にはフラン達侍女も控えている。時間になったらサミュエル先生が迎えに来るから、その用意もしてある。

 銀色のレティキュール手提げバッグと共に用意されているジュエリーは、サミュエル先生の瞳の色のペリドット。

 婚約者の色だからって、ペリドットになったけど、欲を言うならローレンス様のサファイアを着けたかった。サミュエル先生はそれでも良いよって言ってくれたんだけど、色が違いすぎるし、レティキュール手提げバッグに青と黄色のトルマリンがあしらわれている。明らかにサミュエル先生の色味とは違うけれど、そこは許してほしい。サミュエル先生はプラチナブロンドなのよね。

「お嬢様、お疲れ様でした」

「ありがとう、ターナー」

 肖像画家ターナーが後片付けをしている間に、私はフラン達によってジュエリーを付けられた。肖像画には後で描き足すんだそうだ。その頃にはローレンス様が帰ってきているかもしれないし。

「お嬢様、ブランジット様がお出でになりました」

 今度はお義母様の執事が呼びに来た。

「はい。今行きます」

 侍女がドアを開け、ドレスを捌いて部屋を出る。階段を降りた先にサミュエル先生が待っていた。

「綺麗だね」

「ありがとう存じます」

 可愛らしいピンクのバラとギプソフィラカスミソウの花束を、渡された。

「意外です」

「何が?」

「ピンクのバラとギプソフィラカスミソウの花束なんて」

「可愛すぎかい?」

「はい」

「キャシーちゃんのイメージでって侍女達が選んだんだよ。私は口を出させてもらえなかった」

 なんだか納得してしまった。

 サミュエル先生と同じ馬車に乗って、王宮に向かう。

「今日はプロクシィも一緒だよ」

「セレスタ様も?どなたがエスコートを?」

「ジョシュア」

「教会侍衛官の?」

「兵士とか騎士でも良かったんだけど、プロクシィが辞退した」

「慣れてませんでしょうしね」

 王宮に着いた。サミュエル先生にエスコートしてもらって、エントランスに入る。エントランスの隅っこには、セレスタ様が所在無さげに立っていた。セレスタ様の隣には、教会侍衛官のジョシュアがセレスタ様を守るように立っていた。

「セレスタ様」

「ひかっ……、フェルナー様」

「待っておられたのですか?」

「あ、えっと、その……」

「一緒に入りましょうか」

「キャシーちゃんとプロクシィはこっちだよ。ジョシュア、警備は?」

「聖女様とプロクシィ殿の御身おんみの安全は、命に代えましても」

 その言い方、嫌だなぁ。「命に代えても守る」という言い方は好きじゃない。この場では顔にも声にも態度にも出さないけどさ。

 控室にはルーカス・デュ・アンゲロイ様とマイケル・デュ・アンゲロイ様が居た。

「光の聖女様、プロクシィ殿、お待ちしておりました」

 促されてソファーに座る。私の隣にはセレスタ様が座った。

「簡単に説明しておくね。今回の夜会の趣旨は貧困街での救助活動の、言ってみれば報奨かな。それとプロクシィの公表。今までは勝手に光の聖女を名乗った罰としてのプロクシィという称号だった訳だけど、この夜会が終われば正式に聖国から認められた「光の聖女のプロクシィ代理人」という立場になる。今まではキャシーちゃんの影というか、何をやってもキャシーちゃんが動けないからという理由が有ったけど、明日からは個人として動ける」

 サミュエル先生が説明してくれた。サミュエル先生って王族にも教会関係にも通じているから、説明役を買ってくれたんだと思う。

「良いのでしょうか?」

「聖国からの正式な使者が来たでしょ?その為なんだよ」

「光の聖女様の為じゃなくて?」

「じゃなくて。キャシーちゃんと話したいという理由も有るみたいだけどね」












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