3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 9学年生

貴族籍の写しの受け取り

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 ララさんが帰る日に、ついでに貴族籍の写しを受け取りに行く事にした。

 サミュエル先生は昨日帰っちゃってるし、レオナルドさんとラッセル様とセシルさんは、別邸でのんびりすると言っていた。

「キャシーちゃん、本当に一緒に行かなくて大丈夫?」

「大丈夫ですわよ。ララさんも心配性ですわね」

「心配性だからじゃないのよ?」

「ダニエルさんもマリアさんもいらっしゃいますもの。心配はございませんわ」

「あぁ、うん。そこは信頼してるし、疑ってもいないのよ。でも、やっぱり心配なの」

「受け取りだけですもの。心配には及びませんわ」

 なおも心配だと言い募るララさんを教会で降ろして、総官庁に向かう。もうギャスパー・リンドは居ないよね?ギャスパー・リンドは即日解雇だったと聞いている。あれから5日以上経っているし総官庁には居ないと思うんだけど、なんだか嫌な感じがするのよね。予感というか。

 総官庁に着いた。ダニエルさんとマリアさんが周りを確認して、馬車から降ろしてくれる。

「「フェルナー嬢」」

「リトルトン様とバートリッジ様?どうなされたのですか?」

「ギャスパー・リンドが来るかもしれないと、あの方が仰いましたので」

「あのお方の懸念が的中してしまったようです」

「中にギャスパー・リンドが?」

「誰かが引き入れたらしいですね。我々の手の者が監視していますが」

「先程、警邏隊に通報を行いましたので、もう少しお待ちください」

 守ってくれるのは嬉しいんだけど、アルベリク・リトルトンとミカエル・バートリッジが私の両隣に立って、お互いを牽制しているのが分かるのが、もうね、なんというか……。

 2人が私に対して好意を持っている事は知っている。実際に言われてもいるし。でも、アルベリク・リトルトンには婚約者がいるし、ミカエル・バートリッジは……知らないけど。なんとなく信用しきれない感じがする。

 遠くにウィリアム・トレイシーが居るのが見えた。ミカエル・バートリッジのお目付け役かしら?それともアルベリク・リトルトン?

 荷台に黒く頑丈な箱が搭載された荷馬車が総官庁前に横付けされた。その前後に居た兵士達が総官庁に入っていく。

わたくしは、馬車に戻っていた方が良さそうですわね」

「そう、ですね」

「中に居られれば安全でしょうが」

「お2人もどこかに隠れられた方がよろしいのでは?特にリトルトン様は、ギャスパー・リンドに顔を見られております。直接的に狙われたのはわたくしでしょうけれど、リトルトン様も逆恨みの対象になっているかもしれませんわ」

「心配していただけるのですか?」

わたくしの巻き添えになられては、申し訳ございませんもの」

 喜色を隠さないアルベリク・リトルトンだけど、単に面倒な事になりそうだからです。こういう時、淑女の仮面アルカイックスマイルって便利よね。

 馬車に入ってしばらくすると、盛大に喚いている男性の声と、それを叱りつける兵士の声が聞こえた。馭者との会話用の小窓からソッと見ると、ギャスパー・リンドが拘束されつつも大暴れしながら、荷馬車に放り込まれていた。

 あれって護送車よね?

 喚き声を周囲に撒き散らしながら、ギャスパー・リンドが連れ去られると、静寂が戻ってきた。

「フェルナー嬢、もう良いようです」

「兵士も全員引き上げました」

「ありがとうございます。では受け取りに行ってきます」

「私も行きますよ」

「護衛の数は増やした方が良いですよね?」

 ダニエルさんもマリアさんも居るんだけど。苦笑して答えあぐねていたら、ウィリアム・トレイシーが近寄ってきた。ウィリアム・トレイシーが近付いたら、アルベリク・リトルトンもミカエル・バートリッジも、少しだけ私から離れた。

 ウィリアム・トレイシーの立場って何だろう?

 ウィリアム・トレイシーに2人がお説教されている間に、総官庁入る。受け取り窓口に行って、名前と用件を告げると少し待たされて、エイベル・ファレルが現れた。

 エイベル・ファレルって総官庁貴族籍管理課長よね?どうしてここに居るの?

「お待たせしました。こちらが貴族籍の写しとなります。お確かめください」

 追い付いたらしいアルベリク・リトルトンと共に、貴族籍の写しを受け取る。総官庁の透かしの入った紙に、丁寧に書き写された私の貴族籍の写しには、

『キャスリーン・フェルナー
      [改名前の姓名:キャプシーヌ・セジャン]
                                  フェルナー家の養女となった際に改名』

と記載されていた。あとは生年月日とか生父母の名前とフェルナーの養父母の名前。戸籍抄本みたいだね。というか、戸籍抄本なんだけど。

「お間違いはありませんか?」

「はい。間違いございませんわ」

「間違い無いです」

「取り扱いには十分お気を付けください」

「ご忠告、ありがとうございます」

「失礼します」

 貴族籍の写しを受け取って、馬車に戻ろうとすると、ミカエル・バートリッジとウィリアム・トレイシーがやって来た。途中で誰かと何か話をしているウィリアム・トレイシーを置いて、ミカエル・バートリッジが私を見た。

「ご用事は終わられましたか?」

「はい。お気遣いいただき、ありがとうございました」

「フェルナー嬢、あの方が直接会って話したい事があるそうなのですが」

「2人きりでは無理だとお伝えください。そうですね。サミュエル先生と共になら応じさせていただきます」

「ブランジット様ですか」

「仮とはいえ婚約者ですから。もっともここで決めてしまった事は叱られそうですけれど」

「そうですね。分かりました。あの方に伝えておきます」

 私が馬車に乗るまでしっかりと見届けて、というか、出発するまで見届けて、アルベリク・リトルトンとミカエル・バートリッジは帰ったらしい。馬車の後ろに居たダニエルさんが教えてくれた。

「キャスリーン様、サミュエル様にはご報告しておきますね?」

「あ、ちょっと待って。手紙を書いてしまうから」

 この時代の馬車にはサスペンションがしっかりと付いていて、揺れは少ない。道路も整備されているから、馬車内で手紙が書ける位には揺れない。地方に行くと差があるけれどね。酷い所は本当に酷い道になるから。

 馬車の中でサミュエル先生に手紙を書く。インク付けペンもしくはファウンテンペン万年筆で書くのが正式だけれど、携帯出来るファウンテンペン万年筆も流通していて、携帯ペンセットと呼ばれている。今回はそれを使った。

 携帯ペンセットは、インクがポスージャと呼ばれるスポンジ状の物に染み込ませてある、ファウンテンペン万年筆の携帯セットだ。ちゃんと小さなインクブロッターインク吸い取り器も付いている。ファウンテンペン万年筆の種類を選ばないから、最近のお気に入りだ。私はローレンス様にプレゼントされたファウンテンペン万年筆を入れている。

 惜しむらくは、封蝋が無いのよね。糊はあるけれど、今は持っていないし。マリアさんに預けるから、しなくても良いか。

 手紙を書き終え、マリアさんに渡す。

「サミュエル先生に渡してください」

「確かにお預かりしました」

「封蝋が無いのよねぇ」

「封蝋は携帯出来ませんしねぇ」

「簡単に持ち運べる封蝋とか、あったら良いのだけれど」

「庶民は封蝋は使いませんし、固形糊があれば十分ですからね」

「持ち歩く事は?」

「有りませんね。外で糊を使う事がないですし」

 そりゃそうだ。マリアさんの言っている固形糊は木材をくっつけるような強力接着剤なんだもの。








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