3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 9学年生

穏やかな休日

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 翌日、セシルさんの指導で、お菓子作りを。そう。手伝ったのだ。一緒に作ったのではなく。

 どうやら、私はこういった手作業の適正を、前世に忘れてきたらしい。前世にお菓子作りをしていたのかは、覚えていないけれど。

「良いのよ。キャスリーンちゃんは侯爵令嬢なんだから。お料理なんてしなくても」

「それでもやってみたかったんですの」

「お手伝いだけでも嬉しいのよ?あそこで役に立たないからと見ているだけのラッセルさん達より、ずっと役に立っているわ」

「セシル、焼けたわよ」

 リーサさんがセシルさんを呼ぶ。リーサさんはしっかり共同作業していた。

「今行くわ。今度のはシガレットにしましょう。アーモンドスライスもあるわよね?チュイール風のも作ってみる?」

 何がどう違うのか、さっぱり分かりません。

「チュイールはアーモンドスライスを使ってるの。食感が違うのよ。シガレットは円柱状に丸めたものね。ラング・ド・シャの生地って、焼き上がりは柔らかいから、結構遊べるのよ」

「フォーチュンクッキーとか?」

「出来るわよ。少し大変だけど」

「大変なんですか?」

「ラング・ド・シャの生地は柔らかいけれど、すぐに固くなっちゃうのよ。だから時間との勝負ね」

「耐油紙があれば作れるんじゃない?半分に折れば書く物も選ばないし」

 リーサさんが次の天板を用意しながら言う。

「それなら先にエッグタルトを作っちゃう?」

「どうしてですか?」

「ラング・ド・シャ生地は休ませる必要があるのよ。タルト生地は先に休ませてあるから焼いてアパレイユを入れて、もう1度焼くの」

「アパレイユ?」

「詰め物よ。アパレイユは液状または半液状の混合物、フィリングは調理済みの材料を使った固形または半固形の詰め物ね。ニホンでいえばクリームパンやアンパンの中身はフィリングね。アパレイユはフレンチトーストの液とかキッシュの液体、プリンの生地なんかもアパレイユになるわ」

「「へぇぇ」」

「キャスリーンちゃんに説明しているのよ。あ、つまみ食いしちゃダメ!!」

 ラッセル様と、ラッセル様に唆されたらしいエドガーさんが、ラング・ド・シャを1枚口に放り込んでいた。

「うん。美味しいねぇ」

「これは売り物に出来ますよ」

「後でみんなで食べようと思っていたのに。ラッセルさんとエドガーさんにはあげませんからね」

「そんな殺生な」

「エッグタルトはあるのでは?」

「キャスリーンちゃん、言っちゃダメよ。お仕置きなんだから」

 まぁ、お互いに本気では無いようだし、ラッセル様なんか楽しんでいるわよね。

「キャスリーンちゃん、フォーチュンクッキーの中の紙、任せて良い?」

「大きさはどの位ですか?」

「適当で良いわよ。ラング・ド・シャ生地に入る程度なら」

 ラッセル様とエドガーさんに協力してもらって、紙を用意する。エドガーさんがすごく丁寧に紙を切ってくれて、私はそこに良い意味の言葉を書いていく。文句はラッセル様が考えてくれた。とはいっても「happy」「lucky」「Happiness」「Best Wishes」「congratulation」の5種類だけど。それを3セット。つまり15枚。

「15枚で良いんですか?」

「えぇ。それを2つ折りにしておいて」

「かしこまりました」

「あー。頭ナデナデしたい。でも出来ないぃ」

「手が油で汚れてるし、調理中だからね。諦めなさい、セシル」

「嫌ぁだぁぁ」

「はいはい。手を動かして早く終わらせれば、キャスリーンさんを愛でる時間が増えるわよ」

「うぅ……。頑張る」

「セシルお姉さま、頑張ってくださいませ。楽しみにしておりますわ」

 コソッと後ろからラッセル様が囁いた言葉を言ったら、セシルさんがグリンとこっちを見た。ちょっと怖い。

「キャスリーンちゃん、もう1回言って?」

「セシルお姉さまですか?」

「そう、それ。ムフー。お姉ちゃん、頑張っちゃう」

「あ、ズルい。キャスリーンさん、私には?」

「リーサお姉さま、で良いですか?」

「うふふふふ。良いわぁ。キャスリーンさん、待っててね。美味しいのを食べさせてあげるから」

 厨房にいる料理人達の微笑ましげな視線を浴びながら、セシルさんとリーサさんが張り切ってお菓子作りを再開した。

「フェルナー嬢、ちょっと良いかな?」

「はい」

「伝心機の使い心地はどう?」

わたくしはあまり使えていないのですが、重宝しております。簡単なメッセージ機能があれば嬉しいのですが、難しいですわよね?」

「メッセージ機能?たとえば?」

「連絡が欲しいとか、待ち合わせ日時とか、そういった簡単な物です。定型文の中から選んで送信出来れば」

「ショートメッセージか。難しくはないだろうけど、色々と制約もあるだろうね」

「ですわよね。このメッセージはこういう意味でとか置き換えられて、暗号に使われそうですし」

「あり得るね。軍事方向に使われる可能性は、ゼロじゃない」

「ノーベルと同じ道は歩みたくないね」

「ですわよね」

 その危険性を知っているからこそ、火薬や軍事方面に転用出来る情報が失われているのだろうし。医療もそうだけど、こうして徹底的に軍事方面の知識がことごとく失われているのは、何らかの意思だと思う。

 魔銃はあるけど射程は長くないと、叔父様も言っていたし。火薬じゃなくて魔法による発射方式だから、ディスターヴ妨害する事も可能なんだって。ディスターヴというのはディスターバンスの略語系かと思ったら、他では使わない専門用語っぽい物らしい。確かに使わないけれど。

「いまだに剣と魔法の世界なんだよね」

「その魔法も広域攻撃は出来ないしね。広域に作用するのは、光魔法だけらしいし」

「今ではその範囲も狭くなっていると聞いたよ」

「そうですわね。わたくしはそこまで広い魔法は使っておりませんが、わたくしの師であるサミュエル先生は、5ヘクタール位が限度だと申しておりました」

「5ヘクタールか。トーキョードーム位だね」

「そうなのですか?」

「知らなかったの?」

「覚えておりません」

「しかし、メッセージ機能か。考えてみるよ」

「無理はなさらないでくださいませ?」

「無理はしないよ」

「おや、終わったようだね。後片付けで役に立ってくるかな?」

 セシルさんとリーサさんが後片付けを始めた。それを手伝おうとしたラッセル様とエドガーさんは、料理人達に妨害されていた。

「出来たわよ。こっちが各種ラング・ド・シャ、こっちがエッグタルト。ラッピングしましょ」

「耐油紙しかないけどね」

「そこは任せておいてよ。耐油紙だけでも可愛くラッピングは出来ちゃうんだから」

「圧着剤を使うの?」

「熱圧着の方ね。小型圧着機は持ってきているのよ」

「ヘアアイロンみたいね」

「これが1番便利だったのよ」

 セシルさんの指導のもと、耐油紙に圧着剤を塗って、袋状にしていく。個包装になったお菓子達を、缶に詰めていく。このやり方の方が日持ちがするんだって。

「この缶、可愛いわね」

「そうでしょ?でも密閉は出来ないのよね」

「密閉は出来ないの?そういえば缶詰とか無いわね。あっても割れやすい瓶詰めばかり」

「たぶん缶詰は軍事転用出来るからだよ。この世界は、見事に大規模戦闘出来る要素が排除されている。知っているかい?火薬を多く集めると、爆発しないんだよ。少量なら大丈夫なんだけど」

「えっ?そうなの?ラッセルさん」

「僕が実験した訳じゃないけどね。やっぱり考える奴は居るんだよ」

「花火は引っ掛からないのよね」

「あぁ、そうだね。ニホン式の花火は綺麗だよね」

 花火って日本のは独特だと聞いた事があるけど。



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