3歳で捨てられた件

玲羅

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学院高等部 青学年生

話し合い

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 グッと涙をこらえる。「下唇を噛むと涙が止まるのよ」と言ったのは誰だっただろう?もう顔も思い出せなくなった先輩のひとりだったか。担当していた患者さんが亡くなってしまって、涙が止まらなかった時に、声をかけてくれた。

 髪の手入れが終わったら、マッサージを受ける。相変わらず侯爵家のマッサージ担当のメイドは腕が良い。絶妙な力加減で身体が解れていく。

 入浴後着替えてから少し休もうと思ったら、廊下からバタバタと騒がしい音が聞こえてきた。

「何かしら?」

「見てまいります」

 フランがドアを開ける。

「嫌だってばぁ」

「お客様、お待ちくださいませ」

 最初の声はカティさんよね?その後は侯爵家の入浴担当のメイドのはず。

「何事です」

「あ、助けてぇ」

 タオルで身体を覆っただけのカティさんが飛び込んできた。

「カティさん?」

「キャスリーンちゃん、助けてっ。あの人がお風呂を覗いてきてっ」

 カティさんの視線の先には、バスローブを持ってオロオロしている入浴担当のメイド。入浴を手伝おうと入ってきたメイドに驚いて、タオル1枚で逃げたのか。

「カティさん、大丈夫ですわ。彼女は入浴担当のメイドです。お髪のお手入れとお身体のマッサージが仕事ですのよ」

「へっ?そんなお姫様みたいな……」

「1度受けてみませんか?気持ち良いですわよ?」

 フランがメイドからバスローブを受け取って、カティさんに羽織らせる。

「良いの?アタシはそんな身分じゃないのよ?」

 一人称が私からアタシになった。これが彼女の素かしら?

「お義兄様の恩人で、我が家の大切なお客様ですもの。この位は当然ですわ」

 微笑むとものすごく覚悟を決めた顔で、カティさんはメイドに付いていった。

「あの方がローレンス様の……」

「えぇ。丁重におもてなししてください」

「かしこまりました」

 夜にお義父様がサミュエル先生と一緒に帰ってきた。

「キャシーちゃん、後で話を良いかな?」

「はい」

 その会話にローレンス様お義兄様が1歩前に出る。

「ラリー?」

 不安そうなカティさんの声に、ローレンス様お義兄様も不思議そうに1歩下がった。

「ローレンス君、久しぶりだね」

 サミュエル先生がローレンス様お義兄様に話しかけた。

「お久しぶりです」

「無事で何より。そちらの女性は?」

「彼女は、カティ。カティ・グーラフと言います。僕……私の命の恩人です」

「恋人かい?」

「その認識で間違ってはいません」

「ふぅん。グーラフさん、天守国について聞きたいんだけど、良いかな?」

「え、あ、はい」

 その間にお義父様がローレンス様お義兄様に話をする。内容は次期当主資格について。すでにランベルトお義兄様が次期当主としてフェルナー領で働いている事を伝えていた。一瞬きつく目を瞑ったローレンス様お義兄様は力なく笑った。

「大半は思い出しているのですが、所々曖昧な部分があります。ランベルトに任せられるならそうしてもらった方が、フェルナー領の為だと思います」

「明日にはランベルトもこちらに来る。その時に話し合いの場を持つ。ローレンスも同席し、意見を述べなさい」

「はい。あの、妹は……」

「キャスリーンの事か?あの子は明日から別邸に行く。救民院での仕事もあるし、なにより友人達とのお泊まり会が控えているからな。今回はキャスリーンがホストもてなし側だから、先に行くそうだ」

「そんな時期に迎えに来てくれたんだね。ありがとう、キャスリーン」

「いいえ。医師資格も取りましたし、わたくしが最適だったという事情もございます。お気になさらないでくださいませ」

 ローレンス様お義兄様の手が、私の頭に伸びた。それを避ける。

ローレンス様お義兄様わたくしは頭を撫でられるような年齢ではございませんでしてよ?」

「あ、あぁ」

「今は混乱されておられるのでしょう。ゆっくりお休みになってくださいませ」

「そうだな。ありがとう」

 こちらの話が終わった頃、サミュエル先生とカティさんの話も終わったようだ。

「キャシーちゃん、後でね?」

「はい」

 お義父様と執務室に入っていくサミュエル先生を見送る。

 サミュエル先生が私の部屋に来たのは、そろそろ就寝しようという時間だった。当然私は夜着ネグリジェ姿だし、フランが非難の目をサミュエル先生に向けていた。

「悪いね。こんなこんな時間に」

「本当ですわよ?人を訪ねる時間ではございませんわね」

 ガウンを羽織って相対する。フランは少し開けたドア付近に居てくれた。

「そう言わないでよ。で?」

「何がですの?」

「泣く胸は必要?」

「今はまだ……」

「虚勢を張り続けるのも考えものだね。まぁ良いや。侯爵に許可はもらったから、別邸には私も行くよ」

「先生も?」

「婚約の関係もあるしね」

「婚約の……」

 結局婚約者はサミュエル先生なんだろうか。ローレンス様はカティさんと別れないだろうし、身体の関係もありそうだし。

 そこまで考えて、ズキンときた無視出来ない痛みに少し顔が歪む。

「無理してるでしょ?ダメだよ?キャシーちゃん」

「無理をしなければいけない時ですわ、今は」

「厄介な性格だね」

「元々ですわ」

「頭のひとつも撫でてやりたいけどね」

 チラリとフランに視線を送って、苦笑しながらサミュエル先生が言う。

「先生はわたくし位の子が居ても、おかしくはございませんものね」

「昔は私が年齢で揶揄からかっていたのに、立場が逆転しちゃったね」

「それだけ成長いたしましたのよ?」

「そうだね。ところでその紙は?」

「例の暗号ですわ。結局役に立ちませんでしたけれど」

「解けたのかい?」

「一応は。ただし意味が分かりません。単語にはなりましたけれど」

「見せてもらえる?」

 サミュエル先生に紙片を渡す。

「『PCELOIN SURBIA AVARITIA』か。PCELOINはプセロイン天主国の事だろうね。SURBIAは……スービアかな?AVARITIAはアバリティア?」

「そこまでは分かります。スービアとアバリティアの意味が分かりません」

「カティ嬢に聞いてみようか?何か分かるかもよ?」

「先生にお願いいたします」

「良いのかい?」

「あの方に相対するのは、わたくしは……」

「時間がかかるか。そうだよね。いいよ。私が聞いておくよ。彼女はなんというかまっすぐだね。それしか見ていない」

「それはまっすぐなのでしょうか?」

「まっすぐでしょ。人の迷惑解さず一直線。ああいう人間は自分の心に正直すぎる程まっすぐだよ。聞いただけでもローレンス君に迫ったらしいし。それも何度も」

「聞きたくございません」

「聞かなくてもいいよ。あぁ、もうこんな時間だね。遅くまでお邪魔してしまった」

「今日は帰られますの?」

「客室に泊めてもらう予定だよ。……どうしたんだい?寂しがってくれるのかな?」

「寂しいですわ、と言った方が、可愛いのでしょうね」

「世間一般的にはね。でも私は自分を律し続けて侯爵令嬢であろうとするキャシーちゃんが好きだよ。十分に可愛いと思うし」

揶揄からかわないでくださいませ」

 ハハハ、と笑って、サミュエル先生が席を立つ。

「明日は気の済むまで泣いて良いからね」

 去り際にソッと囁かれた。気の済むまでって……。

「それじゃあ明日」

「はい。おやすみなさいませ」

サミュエル先生との話を終えて、フランによるお肌のお手入れを受けて、ベッドに入る。別邸にいつまでという期間は決まっていない。私の心の持ちようだって事だよね?私はお義父様達に甘やかされてるなぁ。

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