3歳で捨てられた件

玲羅

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学院高等部 青学年生

別邸で ①

 翌日、予定通りに別邸に出発する。

 ローレンス様お義兄様には「慌ただしいね。無理はしてはいけないよ?」と言われたけれど、カティさんがぴったりと寄り添っている姿に「申し訳ありません。わたくしもそうしたいのですけれど」ってむにゃむにゃと誤魔化してしまった。

 サミュエル先生は例の暗号の事をカティさんに聞いてから、別邸に来るそうだ。

「それでは行ってまいります」

「お役目だから仕方がないけれど、無理だけはしないようにね」

 お義母様にもそんなお見送りの言葉を受けた。私の別邸行きは、救民院や教会の仕事の為だと説明を統一されているようで、お義母様もそれに合わせてくれている。

「はい」

 今回は魔術車に乗っていく。私もお願いしたら運転させてくれるかしら?トマスの運転で別邸に向かう。

 別邸ではランベルトお義兄様とアンバーお義姉様、リーサさんと雪花とデルタが、私を待っていてくれた。

 魔術車から降りた私の姿を見た雪花が、リード引綱をちぎれんばかりに引っ張って、お義兄様が必死で止めている。

「雪花」

 声をかけて近づくと、諦めたらしいお義兄様がリード引綱を離した。

 一目散に私に駆け寄る雪花の、手入れされたモフモフとした手触りを楽しむ。

 雪花が柔らかい舌で、ペロリと私の頬を舐めた。

「雪花?」

 その仕草にフッと何かが緩んだ。涙が溢れてしまって止まらない。雪花はそんな私の頬を舐め続けていた。

「キャシー、中に入ろう。外は暑い」

 雪花の首に抱き付いて動かない私に何かを感じたのか、お義兄様が声をかけてくれた。

「はい。お義兄様」

 泣き止んでから雪花を連れて別邸に入る。

「先に身支度を整えていらっしゃい。セッカはこっちよ」

 存外素直に離れてくれた雪花と別れて、別邸の私の部屋に入る。ここでの私付きのメイドが、荷物の整理を始めていた。

「お嬢様、今日の午後にはロシュフォール様がお着きになるそうです」

 この別邸の執事が知らせてくれた。本邸の人数よりは少ないけれど、別邸にも執事は居る。

「そう。お部屋の用意は?」

「出来ております。ラッセル様とレオナルド様とエドガー様は明日、こちらにお越しになると」

「そうなの?」

「はい。マルムクヴィスト様が仰っておられました」

「分かったわ。お義兄様達と話をして来ます。後はお願いね」

 荷物整理中のメイドに声をかけて、執事と共に部屋を出る。

「キャスリーンさん」

「キャシー」

 リーサさんとお義兄様に呼ばれた。雪花は尻尾を緩く振って、お義姉様の足元で私を見上げている。

「お義兄様、ローレンス様がお戻りになられました。その事についてお話ししたいと思います」

「キャシー、大丈夫か?なんだか少し……」

「詳しい事はお義父様からの手紙に記されていると思いますけれど、ザッとお話いたします。こちらへ」

 サロンに入って、お茶を準備してもらう。全員が座ったのを確認して、まずはお義兄様に、お義父様からの手紙を渡す。

 お義兄様が読んでいる間に、近寄ってきた雪花とデルタを撫でて心を落ち着かせる。

「そんな、まさか……」

「どうしたの?」

 お義兄様が黙ってお義姉様に手紙を渡す。戸惑いながらも読み始めたお義姉様の顔が、どんどん強張っていった。

わたくしでは判断しかねましたので、サミュエル先生にも診断していただきました。ローレンス様はわたくしが義妹だと忘れていらっしゃるようです。実の兄妹であると信じておられて。フェルナー家当主の件は、そのお手紙に書いてある通りです」

 出来るだけ事務的に話す。

「カティさんについては、ある程度、昨夜サミュエル先生が聞き出してくださいました。お義父様に報告書の形であげておくと」

「キャシーはそれで良いのか?」

「はい。生半可な覚悟で決めた事ではございません。実際にお2人の姿を見るのはキツいので、逃げてしまいましたが」

「逃げていい。そう言ったのはお前だ、キャシー。俺はその言葉で救われた。今は逃げて甘えていい。頼りになる兄貴分や姉貴分も居るようだし。あの人達は兄貴分というよりは、保護者枠か?」

 保護者枠と言われたのは、ラッセル様とエドガー様だと思う。レオナルド様は兄貴分で良いのかしら?

「キャスリーン様、お気の済むまでこちらに居てください。その間にわたくしが何とかしますから」

「カティさんに嫌がらせなどはお止めくださいね?」

「まずは一般常識だと思いますけれど」

「そうかもしれませんね」

「私はよく分かっていないけれど、そのカティさん?ってずいぶん図太い神経をしていると思うわ」

 黙って話を聞いていたリーサさんが言った。

「それでもローレンス様の恩人ですもの」

「恩人って言うけど、確かに恩人かもしれないけど 、でも今は居候でしょう?」

「……お客様ですわよ?」

 まだ1日だ。それにフェルナー家の待遇としては『お客様』で間違ってはいない。

「ズルズル居付いちゃいそうな気がするわ。ねぇ、キャスリーンさん、そのカティさん?の素性は?」

「サミュエル先生が調べると。主に聴取だと思いますが」

「「「ブランジット様が」」」

 3人から発せられた同じ言葉。ニュアンスは3人とも違う。お義兄様はある程度の信頼をおいている感じ、お義姉様は少し懐疑的な感じ、リーサさんは信頼出来るの?というような感じだ。

「失礼いたします。ブランジット様がおみえになりました」

「タイミングぴったりだな。お通してくれ」

 お義兄様が言って、サミュエル先生が入ってきた。

「どこまで話したのかな?」

 私の後ろに立って聞く。ここには4人しか座れない。

「移動するか」

 お義兄様が言って、意思決定部屋ディスカスルームに移動する。雪花とデルタも一緒だ。

 意思決定部屋ディスカスルームは窓が開けられていて、風が吹き通ってすごしやすかった。私の隣にサミュエル先生が座って、その前にリーサさんとお義兄様とお義姉様が座る。雪花はサミュエル先生の反対側の私の隣に居て、デルタはお義姉様が撫でている。

「内容としてはカティさんの事と、お義父様からのお手紙を読んでいただいて、状況把握までです」

「あの、カティという女性だけど、一応聞き出したよ。ローレンス君を本人に無断で密出国させたプロセイン天主国の、自称王女の侍女という立場だね。聞いた感じでは侍女と名ばかりで、教養はほとんど身に付けていない。自称王女はワガママ放題で、ローレンス君のような境遇の男性は多かったらしい」

「他にもいらっしゃったのですか?」

「彼女の話によるとね。ほとんどが女性を付けられて、身体で引き留めている状態だったそうだ。それで、彼女、カティ・グーラフだけど、プロセイン天主国の高級官僚の娘。あちらでは高級官僚をグーラフと呼ぶらしい。ま、グーラフという家名を名乗っているのは他に3軒あるらしいけど」

「3軒しかないのか」

「プロセイン天主国は国としての体をなしていないからね。彼女は国を出て、ローレンス君に色々聞いて、プロセイン天守国はおかしいと自覚したそうだ。で、グーラフを名乗っているのは、スタヴィリス国で言う貴族と同じなんだってさ」

「さっき、教養はほとんど身に付けていないと言ってませんでした?」

「マルムクヴィスト嬢の疑問も分かるよ。どうも国内だけですべてを完結させていたようなんだよ。国外に出られるのは、自称王家とその世話係だけ。世話係もガッチガチの頭の固い国粋主義者が選抜されていたらしい。グーラフという家名も爵位を表しているけどさ、爵位を家名としている時点で、色々とおかしいでしょ?でもプロセイン天主国ではこれが当たり前らしいんだよね。グーラフ家は3軒あるけど、姻戚関係は無いって言うし。というか避けていたらしい」




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