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励まされましょう。
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「よっ。陰気な顔してんね」
結局、誰にも会わずに自分の部屋に行く事は出来なかった。
嫌味のない声が聞こえ、私は顔を上げた。
紺色の軍服を着込んだ少し気取ったショートヘアの男。この屋敷の跡取りにして、私のご主人様でもあるお方。
年は二十歳に差し掛かろうとしており私とも年齢が近い。幼い頃から同じ屋根の下で過ごしている事もあって、気安く話しかけて来て下さる。そんな人だった。
「……あ、はい。ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃないが」
「申し訳ございません」
“そう言うのじゃなくて”とでも言いたげにご主人様は困ったような表情を浮かべ、髪をぼりぼりと掻いた。私が困らせてしまう返答をしているのはよく分かっているのに、気分が沈んでて謝罪の言葉しか出てこない。
「おいおい、重症かよ……また何かやらかしたのか? 怒らないから、言ってみな?」
「……はい」
洗いざらい話してみた。
先程の失態の事。普段は温厚な給仕長に酷く叱られた事。
不器用すぎて、自分をどうしても好きになれない事も。
彼は瞳を逸らさない。
いつも一言一句聞き漏らさないように、耳を傾けてくれるのだ。
「うーん。そうか。そりゃ鷹華が悪い」
「はい」
「……お前、こう、ネガティブ過ぎる。自分には出来ない、って思ってる感じがするんだ。最初から」
…………。
私は黙ってしまう。
「そんな前置きは忘れて素直にやればいい。『何が出来ないか』って考え続けるより、『どんな事なら出来るのか』って考えた方が前向きだろ?」
「………………」
「最初から挫けてたら、うまく行かない。だからその……何だ。強く生きろ」
「はい!」
ご主人様の話の趣旨そのものは一般論に過ぎない。ただ、すんなりと私の心に入ってくる。きっと私の気持ちをちゃんと聞いた上で返答してくれているからなんだろうな、と思う。
普段の私は自分の気持ちを喋れない。『私が悪い』と言う気持ちが強すぎて、自分の話をする事すら憚られてしまうのだが、彼の前では違う。
嫌な記憶がすーっと引いていく。
私の置かれる状況が何か変わった訳ではないが、話した事で前向きな気持ちになれるような気がした。
「いつも、ありがとうございます。少し気が晴れました」
「そか。良かった」
そう言ってご主人様は、にか、と笑う。
これはこれで……困る! 彼に特別な感情を抱いている事を意識させられてしまうから。
「そ、そう言えば! この間の縁談はどうだったんですか?」
「え? ああ、うん。例の財閥の令嬢でね、綺麗な人だったよ。好きな本が同じでさ、滅茶苦茶盛り上がった」
「いいですね、いいですね。その話、もっと聞きたいです! 聞いたら私、元気になるかも……!」
私は意識的に話を変える。別に無理をしているつもりはない。恋にまつわる話は好きだし、テンションも上がるし、この発言だって半分は本心だ。
跡取りと使用人。その領分を越える物語は、大概悲恋によって締めくくられる。
『虚構少女シナリオコンテスト』タグの他の投稿小説だって大体そう。皆私を不幸にしてポイントを稼いでいるのでしょう? ゆ、許せない。
……こほん。
際どい発言はさておき、閑話休題。
私は、この関係性に満足している。
私は私が心底嫌いだから。
私の好きな人は、私じゃない誰かと結ばれて欲しい。
だから私は辛くありません。
――悲しくなんか、ない。
結局、誰にも会わずに自分の部屋に行く事は出来なかった。
嫌味のない声が聞こえ、私は顔を上げた。
紺色の軍服を着込んだ少し気取ったショートヘアの男。この屋敷の跡取りにして、私のご主人様でもあるお方。
年は二十歳に差し掛かろうとしており私とも年齢が近い。幼い頃から同じ屋根の下で過ごしている事もあって、気安く話しかけて来て下さる。そんな人だった。
「……あ、はい。ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃないが」
「申し訳ございません」
“そう言うのじゃなくて”とでも言いたげにご主人様は困ったような表情を浮かべ、髪をぼりぼりと掻いた。私が困らせてしまう返答をしているのはよく分かっているのに、気分が沈んでて謝罪の言葉しか出てこない。
「おいおい、重症かよ……また何かやらかしたのか? 怒らないから、言ってみな?」
「……はい」
洗いざらい話してみた。
先程の失態の事。普段は温厚な給仕長に酷く叱られた事。
不器用すぎて、自分をどうしても好きになれない事も。
彼は瞳を逸らさない。
いつも一言一句聞き漏らさないように、耳を傾けてくれるのだ。
「うーん。そうか。そりゃ鷹華が悪い」
「はい」
「……お前、こう、ネガティブ過ぎる。自分には出来ない、って思ってる感じがするんだ。最初から」
…………。
私は黙ってしまう。
「そんな前置きは忘れて素直にやればいい。『何が出来ないか』って考え続けるより、『どんな事なら出来るのか』って考えた方が前向きだろ?」
「………………」
「最初から挫けてたら、うまく行かない。だからその……何だ。強く生きろ」
「はい!」
ご主人様の話の趣旨そのものは一般論に過ぎない。ただ、すんなりと私の心に入ってくる。きっと私の気持ちをちゃんと聞いた上で返答してくれているからなんだろうな、と思う。
普段の私は自分の気持ちを喋れない。『私が悪い』と言う気持ちが強すぎて、自分の話をする事すら憚られてしまうのだが、彼の前では違う。
嫌な記憶がすーっと引いていく。
私の置かれる状況が何か変わった訳ではないが、話した事で前向きな気持ちになれるような気がした。
「いつも、ありがとうございます。少し気が晴れました」
「そか。良かった」
そう言ってご主人様は、にか、と笑う。
これはこれで……困る! 彼に特別な感情を抱いている事を意識させられてしまうから。
「そ、そう言えば! この間の縁談はどうだったんですか?」
「え? ああ、うん。例の財閥の令嬢でね、綺麗な人だったよ。好きな本が同じでさ、滅茶苦茶盛り上がった」
「いいですね、いいですね。その話、もっと聞きたいです! 聞いたら私、元気になるかも……!」
私は意識的に話を変える。別に無理をしているつもりはない。恋にまつわる話は好きだし、テンションも上がるし、この発言だって半分は本心だ。
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……こほん。
際どい発言はさておき、閑話休題。
私は、この関係性に満足している。
私は私が心底嫌いだから。
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だから私は辛くありません。
――悲しくなんか、ない。
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