ハングリーアングリー

春野わか

文字の大きさ
7 / 9

アシガラドン

しおりを挟む
 額に張り付いた髪と汗を風が爽やかに吹き払う。
 少し息を整えてからツアコンに言った。

「これでBBQ出来ますね」

 ちょっとしたハプニングがあったとはいえ、大量に採れたキノコでのバーベキューにキノコ汁にキノコ御飯が怒りを沈静化してくれた。

 気分も晴れ晴れと再びバスに乗り込む。

「次は昨年オープンしたばかりの金太郎さんのふるさと、道の駅で海鮮丼を召し上がって頂きま~~す。此処、足柄は小田原や箱根よりマイナーですが、海山川の自然に恵まれているので海の物も美味しいんですよ~~」

 と、いう具合で次は道の駅。
 お腹が満たされ少し瞼を閉じかけたところで、バスは未知との遭遇もなく無事に到着した。
 金太郎グッズ一色の道の駅内にある食堂で三種類の丼からチョイスする。
 
 足柄牛ウニ丼、ねぎとろビントロ中トロ載せのトロントロン丼、白米と同量分しらすを山盛りした、しらす溢れる丼。

「どれにしよっかな?全部美味しそうだから迷うなあ。塔子決まった?──塔子?  」

 返事が無いのでメニュー表から顔を上げて見ると、塔子の瞳は焦点が合わずぼおっとしている。

「どうしたの? 」

「きゃーー包丁、包丁!! 」

 突然、塔子の瞳の焦点が合ったかと思うと口から悲鳴が迸る。

 震える彼女の指差す方を見ると、黒いサングラスにマスクという大昔の定番強盗スタイルの男が包丁を振り回し此方に向かってきていた。

───

「いよいよ、次が味覚ツアー最終目的地となります。でも、お土産もご用意してますので楽しみにして下さいね。そういえば皆さんの中に厄年の方いませんか~~?」

 再びバスの中。
 
 何故、そんな質問を唐突にするのか。
 声が裏返るツアコンの緑に変色した顔色と目の下に滲む真紫の隈を見れば分かりきっていた。
 手を上げる者は誰もいない。

 因みに好実は寝ていた。
 暴漢を瞬殺した後、丼を掻き込みエネルギーを補充していたが、寝不足、ハプニング、満腹、と韻を踏めば流石に眠くなろうというものだ。

 その寝顔は百獣の王を思わせた。

「もう家に帰りてえよ」と、男子学生A。

「お母さーん」と、マスカラで目の周りを黒くして啜り泣くのはギャル利根。

 獅子が眠りに付いた隙に、モブキャラ達の本音が車内に満ちる。

「え、ですが~~もう、あんなハプニングは流石に無い──」

 ツアコンの言葉が途中で途切れたのは好実の瞼がピクリと動いたからだ。

「次でラストなので頑張って完走しましょう」

 と、可愛くガッツポーズで本音を抑え込む。
 自分との戦いのマラソンのようだ。

 その後も倒れた大木が道路を塞いでいたり、好実以外の全員の乗客が吐いて車内がゲロ塗れになったりと色々あったが、好実の活躍でツアーの中断は免れた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...