ハングリーアングリー

春野わか

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ロード・オブ・ザ・グルメ/女王の帰還

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「ああ、満足した。また参加したいね」

 スタート地点の東京駅に戻ってきた好実は御土産の蒲鉾と焼売を手にし、達成感で胸を熱くして塔子に笑顔を向けた。

「──ソレハナイ」

「え? 」

 聞き慣れた塔子のものとは違う声が響きギョッとする。
 塔子の全身が緑色に発光していた。

「何?一体どうしたの? 」

 肉体も肝っ玉も神経も太く、熊にさえ引かなかった好実といえども、親友の突然の変化に動じて一歩後退する。

「ワタシの名前は塔子ではナイ」

「何か光ってるけど顔は佐谷姉妹の姉の儘じゃない。じゃあ誰だって言うのよ」

「ワタシの名前はパフィオペディラム・サンデリアナム」

「そんな長い名前どっから引っ張ってきたのよ。ともかくアンタ誰? 」

「ワタシは──ダイエットの女神、もう一度イウ。パフィオペディラム・サンデリアナム」(※植物の名前です)

「パフィオ……言えないムリ!女神? ダイエットの?ホントにいたのーー? 」

 塔子が緑色に発光している事よりも、ダイエットの女神なんて本当にいたのかという衝撃で口の形がOの字になる。
 名前が長いと何だか偉そうで、発光してると神々しく見える。
 でも発光するウナギやキノコもあるし、見た目は佐谷姉妹の姉の儘だし。

「ソウデス。貴女はワタシに何度も誓いましたね。オボエテいますか?ダイエットの女神様、どうか私に力を貸して下さい。今度こそ頑張るからと。でも、もうムリなのです。ワタシの力では貴女の欲望をトメル事は不可能とサトリました」

「あ!もしかして、味覚ツアーで料理が逃げ出したり、熊が出てきたりしたのって塔子のせい? 」

「ソウデス。貴女の欲望をトメようと力を駆使シマシタ。でもムリでした」

 佐谷姉妹の姉の顔の女神が溜め息を溢す。

「何よーー!私を止めようとした事なんか今まで一度も無いじゃない!それどころか私を煽るように何時も食べてたじゃない」

 楽しかった思い出は全部試練だったというのか。

「ワタシはダイエットの女神。いくら食べても太りません。貴女を見守ってイタのです。ダイエット道はケワシイ道。ダイエットを志す者、ヨクボウに打ち勝たねばなりません。誘われてもコトワル、鉄の意思がヒツヨウなのです」

 東京駅、仕事を終えたサラリーマン達は気にも止めず二人の横を通り過ぎて行く。
 東京には様々な人間が集まるからパフォーマーかと一瞥をくれるのが精々だ。

「ママあ、あの、オバチャン光ってるよう」

 しかし小さな子供は興味を示すようだ。

「ダメ!マア君、指差しちゃ。頭のおかしい人よ。きっと」

 母親が子供の手を掴み足早に去って行く。

 そして好実も周囲の雑音が耳に入らない心境にあった。

「ズルいズルーイ!やっぱりアンタの仕業だったんだ。味覚ツアーに誘ったらノリノリだったじゃない!共犯の癖に!そん時に止めてれば豪雨や熊を召還する必要無かったんじゃないの?  」

「今回がラストチャンスと決めていたので、女神ですがホトケ心を出して、貴女の食欲を抑制しようとココロミましたが完敗です。もうワタシに誓わないで下さい。ツキアイきれません。ツカレました」

「そんな!味覚ツアーが終わったら今度こそって思ってたのにぃ。大体、神様の癖に人間のつまらない美的価値基準であたしにダイエットを強要するつもり? 」

「今度こそはキキアキました。美では無く貴女の食欲はケンコウに悪い。ワタシのせいではありません。貴女が望み、誓ったのも貴女。誓いを破り続けたのも貴女。真のダイエッターなら心を鬼にしてオイシソウな料理をシリゾケるべきでしょう。もうオワリです。サヨウナラ、ツカノマの友よ」

 塔子、いや、ダイエットの女神から放たれる光が一層眩くなり、天高く昇って行く。

「待って!塔子ーー」




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