サンタに捧ぐ贈り物

春野わか

文字の大きさ
14 / 16

しおりを挟む
「Hi!マシュー、気分はどう? 」

 マシューは申し訳ない気持ちで一杯だったが彼女の声の明るさにホッとした。

「ごめん、本当にごめん。さっき起きて、もう夜だって気付かなくて。折角のクリスマスなのに」

 ともかく謝るしかない。

「あれだけ配れば疲れるわよ」

「でも、俺、何もかも忘れてた。サンタ役に選ばれて浮かれて。子供達にプレゼントを配る事ばかりで、君へのプレゼントを用意してないんだ。ごめん」

 マシューがそう告げた後、少し沈黙があった。
 怒ったのだろうか。

「マシュー、今から出てこれる? 」

「ああ、勿論だよ。何処で待ち合わせにする? 」

 声が弾む。

「オーナメント通りの何時ものカフェでどう? 」

「オッケー、一時間もあれば着くけど君は大丈夫? 」

「私もそれぐらいあれば着けるわ」

 その後、電話を切った。
 既にシャワーを浴び髭を剃り、服を着替えているのだから直ぐにでも出掛けられる。
 玄関脇に打ち付けたキーフックからトナカイのキーホルダー付きの鍵を取り、雪の日用のブーツに足を突っ込む。
 だが、そこで逡巡し足を抜いた。

「ダメだ!こんな格好じゃ」

 服のセンスは決して良い方では無いと自覚はある。

 悪くもないが無難なセンスで拘りが無い。
 ともかく、クリスマスの夜に恋人と会うというのに、三年前に買って着古したセーターに安物のジーンズは無しだ。

 マシューの服の中で一番値段が高いオフホワイトのカシミアのセーターに黒の細身のスラックスを合わせた。
 ブーツも黒だからスタイルが良く見える筈だ。
 セーターは白で汚れが目立つのが面倒で殆んど着用した事が無いから新品同然。
 少しはマシに見えるだろう。

 ダウンのコートは無難に黒だからコーディネートを損なう心配は無い。
 マフラーはダークグリーン以外に明るめのブルーのがもう一本あったので其方をチョイスした。
 全体的なバランスとしてはグリーンの方が合っているように思えたが、少し冒険してみた。

 普段と大きく代わり映えはしないものの、少しは努力したと認めて貰えるだろう。
 
 外に出ると、冷気を表す吐く息の白さと積雪が、街灯とイルミネーションを却って温かく見せていた。
 バスに乗ってオーナメント通りのカフェに向かう。
 曇った窓に色鮮やかな灯りが映る。
 歩く人々の顔は皆楽しげなのに、寂しさを覚えるのは何故なのだろう。

 乗車して十五分程でバスを降りた。
 腕時計を確認するまでもなく、早く着き過ぎたのは分かっていた。

 オーナメント通りを歩いていると定番のクリスマスソングが聞こえてくる。
 何組かの家族連れとすれ違う。
 向こうから歩いてくる子供は、自分がプレゼントを配った相手だろうか。
 そんな風に考えると楽しくなってきた。

 弾む足取りで歩く。
 足元で雪がキュキュっと鳴る。

 二人で何度か過ごしたカフェ。
 扉にはリースが飾られ、入り口脇にはスノーマンの人形型ライト。
 窓ガラスを通して明るい店内が丸見えだ。
 レジ近くにクリスマスツリーが置かれていて、お客は数組程度。
 普段使いのカフェだから、付き合って一年にもならない恋人同士が特別な夜を過ごすにはカジュアル過ぎる。

 足元の雪をブーツで掘り、またギュギュっと踏み固めて惨めさと手持ち無沙汰を紛らわす。

「はあ……」

 顔を上げて思わず洩れた白い溜め息の先、ピンクベージュのムートンのコートに身を包んだ女性の姿が通りの向こうにあった。

「クイン! 」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...