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りりり

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第三話 "デア"

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「グレンよ。あの悪夢を、あの忌まわしき混沌 ”デア” を
もう一度起こすつもりか?」

マルティアは、平坦な声でグレンに問いを投げた。
表情から温度感を差しはかることも、彼の質問の真意を識らねば難しいだろう。

グレンはまだ答えない。
こころばかりか、彼の表情が険しくなる。
先程まで烈火の如く激怒していたハガンも、突然のマルティアの介入に呆気に取られている。

数秒の間に、マルティアの表情が
その場にいる誰の目にも明らかなほど、険しくなる。
深く刻み込まれた皺は、彼の過ごした年月のみを表すものだけでなく、歴戦の爪痕も含んでいる。
彼とて叩き上げということは、レイクディアの人間のうち
どの程度が知っていようか。


「”デア” ?」

沈黙を破ったのは、かの猛獣”ハガン”である。
表情から怒りの色は薄れ、老将が放った不可思議な単語をおうむ返しにつぶやく。疑問符をつけて。

「ハガン、お前は知らないんだったな」

ハガンは、居合わせる5人のなかで最も歴が浅いのだ。
他の四人の表情が一気に曇ったことこそ見逃しはしなかったが、それ以上何もない。
知らないこと、そして知るすべのないことの追求は不可能だ。

「私から説明しよう。グレン、お前に語らせるには
あまりに残酷すぎる」

「お心遣い、感謝いたします。少し、食事をとってきます。どうも腹が減って」

グレンはそう言って部屋を出る。
この非常時に呑気に飯など、と非難する者は
その場に一人もいなかった。

むしろ、そうすることが至極当然であるかのように
皆一様に瞳を伏せ、言葉を発しない。
彼らの様子は
何か。踏み込んではならないものに踏み込んでしまったのかと、意外と繊細な面があるハガンにそう思わせた。

「ハガン。すまないな。本来は、お前が部隊長になった時点で話しておくべきだった。まずはそれを謝罪させてくれ」

マルティアは、深く頭を垂れた。
ハガンはやや慌て気味に、マルティアの顔を覗き込む。

「い、いえ。何もそこまで。それより、”デア”ってのは?
俺、頭に血がのぼっちまって。すみません。あとでグレンさんにも、断り入れますんで」

「すまないな、気を使わせて。
”デア”についてだが」

前置きめいて、話を区切ったマルティアは
ソファへ腰を下ろし。
静かに語り始めた。


「”デア” とはな。15年前、レイクディアで起こった”大災禍”のことだ。 グレイヒルを中心に起こったものでな、だからあそこは今も、当時の色が残っているんだ」

苦虫を噛み潰したような表情で、マルティアは語る。
ハガンは思わず前のめりになり、聞き入る体勢をとる。
他の二人は何も言わず、どこを見ているともわからない表情のままだ。


「発端は、”ある力” を巡って起きた戦争だ。

”闇ギルド”や”エーヴィヒ”もその力を求めて、壮絶な争いになった。 争いは苛烈を極めたが、”ティターン” の
”ゼルク・ラークシャサという男が、ある時その力に最も近づいた。

当然、”クライム”や 他の”闇ギルド”は それを許すまいと
奴のもとへ向かったんだが、
奴は出鱈目に強くてな。

当時の”特攻部隊隊長” も、あの”羅刹”の前には力及ばなかったのだ。長らく”特攻部隊隊長”が欠番になっていたのは、皆にトラウマが植え付いたからだ。
誰かが”特攻部隊隊長”になり、もしもまた
あの”羅刹”とぶつかることになれば、、、と考えてしまってな。 気分を害したらすまないが、それほどまでにあやつは強い。

そして、隊長が倒され、いよいよ絶体絶命になった。
やつは、”ある力” を得る直前だった。

他の”闇ギルド”の連中も、大混戦のなかで消耗しきっていたから、止めに出れなかったんだろう。
しかし、そこに立ちはだかったのが

”グレン” だ」

マルティアの脳内に、走馬灯が走る。
思い重い記憶がよび覚まされ、映像化してマルティアの脳内を支配する。

==

「ゼルク、貴様にその力を渡すわけにはいかん。それに、私を倒してからの話だ」

「やはり来たか、グレン‥‥!いいだろう。俺とお前も、そろそろ決着をつけなければならん頃合いだろう?」

「望むところだ。貴様の野望、真っ向から叩き潰してやる」



”” 破壊(デストロイ)””

”羅刹”の声が響き、あたりが燃え上がり爆ぜる。
噴煙に混じって、グレンの放つ一閃が垣間見える。

両者の死闘は壮絶を極めた。
あたり一面焼け野原となり、周りにいた取り巻きや、”闇ギルド” ”クライム” の猛者たちも、あまりの様相に撤退を選んだほどだ。

””天覇鬼斬”” (アマノハバキリ)
グレンの咆哮と、”羅刹”の怒声
そして爆炎が、あたり一面を包み込んだのだ

==


マルティアはひとしきり語り、再び湯呑みの茶を飲んだ。
空になった湯呑みを置き、ハガンを一瞥する。

「それで、、、、そのあとはどうなったんです?
あと、”ある力” ってのは? それに、グレンさんに語らせるのは残酷ってなァ、一体どういうことなんです?」

ハガンは、話の途中で感じた疑問を一気に捲し立てる。
話の途中でそうしなかったのは、マルティアの気迫に押され、口を挟むことは許さんと言わんばかりの空気を察したからだ。


「それは。。。」

今までになく。言いにくそうな様子のマルティアに
ハガンはそれ以上の質問を自粛した。
ただならぬ様子であることも含め、噛みつきはするが
この中で自分が一番の若輩者である自覚が彼の中に存在しており、まだ自分が知ってはならない事情もあると
そう納得したのだ。

「いえ、結構です。すんません、なんか。聞いちゃあならねぇもんを聞いちまったみたいで。

ですが、その”羅刹”ってやつは一体何者なんです?
グレンさんと対等にやりあったうえ、今も現役なんでしょう」


マルティアの感情を推しはかるのは無理だろう。
安堵か杞憂か、どんな心境かは
その場にいる何人もわからない。

マルティアは打って変わった様子で、”羅刹”について言及を始めた



「”羅刹” ゼルク・ラークシャサ 
おそらく。この世界でも頂点に近い能力者だろう。

実力はグレンと互角、ついぞ決着はつかなかったが。
まぁ。”力” をやつに与えないという。最終死線は達成したからな、ある意味、グレンの勝ちだったのかもしれん。

”闇ギルド”のトップ連中は、軒並み特S級犯罪者だが、正直、奴は頭数個出ている。
その証拠に、”ティターン” にちょっかいをかける組織は居ない。だからこそ、今回の件の深淵は皆目見当がつかんわけなんだがな。

”死神”と呼ばれてる男が 今回トラブルを起こした”メギド”のボスなんだが、奴もゼルクのことは避けているはずだ

真正面からぶつかれば甚大な被害を被った挙句、頭同士の一騎打ちともなれば、軍配はおそらくゼルクに上がるだろう。

しかしまぁ、もしそんなことになれば、ゼルクも”ティターン”側も、ただでは済まんだろうがな」

「一体、どんな能力を持ってるんです?そのゼルクってやつは。
さっきから聞いてると、とても人間業には思えなくて。
まぁ、能力者って時点で普通じゃないんですがね」

「詳しくは私も知らんのだが、、、グレンによると
”ありとあらゆるものを対象に性質を付与する、または改変する” というものらしい、概念に干渉するような力だと言っていた。何にせよ、厄介なことこの上ない能力だろうな」

「そんな出鱈目な、、、」

呆れたような表情をするハガンだが、マルティアの表情は真剣そのものだ。

”これは本気でやばい相手だな”
と、すぐにハガンに思い直させるほど険しいものだった。

「しかし、能力さえなんとかしちまえば、そいつだってどうにかできるんじゃないんですか?
ホラ俺、肉弾戦なら絶対負けねぇ」

マルティアは吐き出すように軽く笑う。
嘲るような笑いではなく、困り果てた時につい出てくるようなわらいだ。

「そうは問屋が下さんさ。まぁ、もし何かしらの弱点があるとすると、奴だって一番に理解してるはずだ。
あれほどの手合いが、自身の弱点に関して対策をとっていないわけがない。それに、グレンですら見抜けなかったと言っていたから、仮にあったとしても
一朝一夕でそう易々と看破できるものではないはずだ」

マルティアがそう言い終わった途端。
扉が開く音がした。
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