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01 勇者パーティ
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聖暦735年 ユーグランド王国
救国の戦乙女、ルーチェ率いる勇者パーティーが魔王を討伐し、世界は安寧を取り戻した。
はびこっていた魔物たちも魔王討伐と共に影を潜め、人々はようやく穏やかな生活を手に入れられたのである。
女勇者ルーチェの名声は瞬く間に広がり、僅か四人のパーティーの凱旋に、王国中が沸いた。
◇
「ふう、陛下との謁見はいつになっても慣れないね。でも私たちの仲が認められて良かった」
ひとまとめにした長い金髪をなびかせながら、勇者ルーチェは隣に立つ漆黒の美丈夫に微笑んだ。討伐の報告にと訪れた王城で、たった今謁見を済ませたところである。
勇者たち四人と、その女勇者ルーチェにぴたりとくっついて離れない人外の美しさを放つ漆黒の男を、皆がチラチラと横目で眺めている。
そんな不躾な視線にも彼らは慣れているのだろう。意に介さずとでも言うように、五人の中では華奢なふたりがルーチェに向き直った。
「じゃ、ルーチェ。僕たちは魔導塔に行かないといけないから」
「そうか。ならまた連絡するよ」
「お姉様と離れるのは寂しいですが、わたしも魔導塔へ行かないと……」
「もう何言ってんの。今まで飽きるほど一緒だっただろ。凱旋パーティですぐに会えるんだし、さっさと行くよ」
ルーチェを慕う白魔導士を引っぱりながら、大魔導士はため息をついてその場を後にした。
それを眩しそうに見るのは、金髪の襟足を短く刈り上げた筋骨隆々の大男、ベイル・デルモンドである。
「おーおー若いっていいねぇ。それにしてもお前が結婚とはな。陛下はともかく大臣たちは皆面食らっていやがった。久々に胸がすいたぞ」
カッカッカと豪快に笑う熊のような巨漢の彼は、その見た目どおり、この勇者パーティの盾役である。更には聖騎士にして、この国の由緒ある貴族、デルモンド侯爵その人だ。
そんな彼の目線の先には、ルーチェを抱えるように腰に手を回す、漆黒の色男。
勇者パーティーは四人であったが、この美しい男は敵地で出会いルーチェの恋人となり、こうして連れ帰ってきたのだ。
「ったく、抜け駆けしやがって。成果を上げた俺もお前も、明日にゃ釣書が山のように届くとウンザリしてたのによ」
「ははは! もう遅いんじゃないのか? 凱旋の報せが入った時点で、王国中の貴族令嬢がデルモンド侯爵家へ肖像画を送り付けているよ」
「面倒でしかたねぇや。お前も俺と一緒で恋愛や結婚には興味はないと言ってたから、俺たちが一緒になったらちょうどいいと思ってたんだけどな……っと!」
その言葉が言い終わらないうちに、漆黒の男がルーチェの剣を取り、ベイルに切りかかる。
男の剣は、くり出したのが細身とは思えないほど、重い。受け止めた百戦錬磨の重量級盾役の大剣が、ギチギチと嫌な金属音をたてて削られるほどに。
「……殺すか?」
距離を詰めた男の瞳は瞳孔が開ききっていて、その低く響いた言葉が決して冗談ではないことがひしひしと感じられる。男は更に難なく踏み込んで、柄を握る右手に力を込めた。
それは流れるような無駄のない一連の動作。幾千もの死戦を越えてきた屈強なベイルの背中に、ひんやりと嫌な汗がつたう。
「もう。バカなことはよせシュヴァルツ。ベイルは兄貴みたいなものだと知っているだろう。ベイルも。そんなこと言ってられないだろう。なにせベイルには──」
「あーっ! その話はよせ! あんたも、悪かったな。そういう意味で言ったんじゃねぇんだ。互いにうるさいのが寄ってこないようカモフラージュをだな……」
ルーチェの仲裁のおかげで互いに剣を収めるも、シュヴァルツと呼ばれた男の鋭い視線は変わらない。
だがそれを気にするでもなく、ベイルは急に口ごもり、早くこの場を離れようと大股で歩き出した。
「多分もうそろそろ……」
「バッ……! ルーチェ! 縁起でもねぇ!」
さっさと帰ろうと、広く長い回廊を早足で進む。そんな彼に苦笑しながら続くルーチェと、それでも彼女の腰から手を離さないシュヴァルツである。
門はすぐそこだとホッと胸を撫でおろしたベイルだったが、彼の歩みは直前で止まる。
救国の戦乙女、ルーチェ率いる勇者パーティーが魔王を討伐し、世界は安寧を取り戻した。
はびこっていた魔物たちも魔王討伐と共に影を潜め、人々はようやく穏やかな生活を手に入れられたのである。
女勇者ルーチェの名声は瞬く間に広がり、僅か四人のパーティーの凱旋に、王国中が沸いた。
◇
「ふう、陛下との謁見はいつになっても慣れないね。でも私たちの仲が認められて良かった」
ひとまとめにした長い金髪をなびかせながら、勇者ルーチェは隣に立つ漆黒の美丈夫に微笑んだ。討伐の報告にと訪れた王城で、たった今謁見を済ませたところである。
勇者たち四人と、その女勇者ルーチェにぴたりとくっついて離れない人外の美しさを放つ漆黒の男を、皆がチラチラと横目で眺めている。
そんな不躾な視線にも彼らは慣れているのだろう。意に介さずとでも言うように、五人の中では華奢なふたりがルーチェに向き直った。
「じゃ、ルーチェ。僕たちは魔導塔に行かないといけないから」
「そうか。ならまた連絡するよ」
「お姉様と離れるのは寂しいですが、わたしも魔導塔へ行かないと……」
「もう何言ってんの。今まで飽きるほど一緒だっただろ。凱旋パーティですぐに会えるんだし、さっさと行くよ」
ルーチェを慕う白魔導士を引っぱりながら、大魔導士はため息をついてその場を後にした。
それを眩しそうに見るのは、金髪の襟足を短く刈り上げた筋骨隆々の大男、ベイル・デルモンドである。
「おーおー若いっていいねぇ。それにしてもお前が結婚とはな。陛下はともかく大臣たちは皆面食らっていやがった。久々に胸がすいたぞ」
カッカッカと豪快に笑う熊のような巨漢の彼は、その見た目どおり、この勇者パーティの盾役である。更には聖騎士にして、この国の由緒ある貴族、デルモンド侯爵その人だ。
そんな彼の目線の先には、ルーチェを抱えるように腰に手を回す、漆黒の色男。
勇者パーティーは四人であったが、この美しい男は敵地で出会いルーチェの恋人となり、こうして連れ帰ってきたのだ。
「ったく、抜け駆けしやがって。成果を上げた俺もお前も、明日にゃ釣書が山のように届くとウンザリしてたのによ」
「ははは! もう遅いんじゃないのか? 凱旋の報せが入った時点で、王国中の貴族令嬢がデルモンド侯爵家へ肖像画を送り付けているよ」
「面倒でしかたねぇや。お前も俺と一緒で恋愛や結婚には興味はないと言ってたから、俺たちが一緒になったらちょうどいいと思ってたんだけどな……っと!」
その言葉が言い終わらないうちに、漆黒の男がルーチェの剣を取り、ベイルに切りかかる。
男の剣は、くり出したのが細身とは思えないほど、重い。受け止めた百戦錬磨の重量級盾役の大剣が、ギチギチと嫌な金属音をたてて削られるほどに。
「……殺すか?」
距離を詰めた男の瞳は瞳孔が開ききっていて、その低く響いた言葉が決して冗談ではないことがひしひしと感じられる。男は更に難なく踏み込んで、柄を握る右手に力を込めた。
それは流れるような無駄のない一連の動作。幾千もの死戦を越えてきた屈強なベイルの背中に、ひんやりと嫌な汗がつたう。
「もう。バカなことはよせシュヴァルツ。ベイルは兄貴みたいなものだと知っているだろう。ベイルも。そんなこと言ってられないだろう。なにせベイルには──」
「あーっ! その話はよせ! あんたも、悪かったな。そういう意味で言ったんじゃねぇんだ。互いにうるさいのが寄ってこないようカモフラージュをだな……」
ルーチェの仲裁のおかげで互いに剣を収めるも、シュヴァルツと呼ばれた男の鋭い視線は変わらない。
だがそれを気にするでもなく、ベイルは急に口ごもり、早くこの場を離れようと大股で歩き出した。
「多分もうそろそろ……」
「バッ……! ルーチェ! 縁起でもねぇ!」
さっさと帰ろうと、広く長い回廊を早足で進む。そんな彼に苦笑しながら続くルーチェと、それでも彼女の腰から手を離さないシュヴァルツである。
門はすぐそこだとホッと胸を撫でおろしたベイルだったが、彼の歩みは直前で止まる。
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