【R18】高飛車王女様はガチムチ聖騎士に娶られたい!

レイラ

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02 ヒルデガルド

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「デルモンド侯爵様、勇者ルーチェ様、そしてお連れ様。ヒルデガルド王女殿下が中庭でお待ちでございます。ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」

 逃げるのを見越していたのか、出口で待ち構えていた手練と思わしき侍従に捕まり、天を仰いだ。向けられた満面の笑みに負けじと口角を上げるが、ピクピクと引きつっている。どうにかして切り抜けようと必死で頭をフル回転させるも、良い言葉が出てこない。

「あ、あ~……すまんが、寄る時間がなくてな。王女殿下には申し訳ないが」
「あら! 時間ならたんまりとありましてよ! 侯爵家には今日より十日ほど王城で過ごすと使いを出しましたの。侯爵家の者は皆優秀だと有名なので、何も問題ありませんわね。さぁわたくしに旅のお話を聞かせてくださいな」

 完全に油断していたベイルの逞しい左腕に、柔らかいものがムギュッと押し付けられた。それが何であるのかを理解する間もなく、至近距離で大きく澄んだ空色の瞳に見つめられ、思わず吸い込まれそうになる。

「や、いえ、あの……は?」
「ずっと待っていたのよ。お帰りなさいベイル。さぁ早くわたくしを抱きしめなさい」

 抱きとめていたベイルの左腕を離し、両手を広げ抱擁を要求する美姫は、この国の第一王女ヒルデガルド。しどろもどろになっている壁のように大きなベイルと並ぶとその小ささが強調されてしまうが、これでもれっきとした二十二歳、大人の女性である。

「抱き……! はぁ、何言ってんですか姫さん。毎回毎回そんなバカみたいなこと言ってないで、早くいい人見つけてくださいよ。それになんつー恰好してんですかそんなに乳出して! まだ真昼間ですよ! 人の目を気にしなさい人の目を!」

 あたふたと騎士服のマントを外し、ぐるぐるとヒルデガルドの身体を隠すように巻き付けていく。

「やっ、やめなさいよ! これはわたくしの魅力を存分に引き出せるようにと城の職人が腕によりをかけたのよ! ほら素敵なレースでしょう? 特に胸元がお気に入りよ!!!」
「だからそれを隠しなさいと言ってるんですってば!」

 袖は上品なレースでできている。詰めた首元とデコルテ周りは同様のレース地で隠れているが、大きく開いた胸元からはボリュームのある谷間が覗く。パツッと身体のラインに沿う生地は上質な光沢を放ち、絞ったウエストから一気に広がるスカート部分には、たっぷりのチュールが施されている。
 色香を振りまきつつもふわりと優雅に揺れるシルエットが美しく、着る者を選ぶデザインである。だが小柄ながら豊満な身体を持つヒルデガルドにはぴったりで、職人の本気度が伺える逸品ではある。

「もう。わたくしだって大人なのよ。好きな人への色仕掛けのひとつやふたつ、おかしくないでしょう?」
「何バカなこと……俺みたいなの陛下がお許しになるわけないでしょうが。いくつ歳離れてると思ってるんです? 俺から見たら姫さんなんかまだまだ子供ですよ」
「離れてるって言ったって、たったの十三じゃない。後妻として三十も離れたひとに嫁ぐ令嬢もいるのよ。それに子供子供って、あなたを待ち続けてしまったせいで立派な行き遅れ姫だわ! これはもう責任を取って娶ってもらわないと仕方ないわね!」

 巻き付けられたベイルのマントが落ちないように握りしめて、ヒルデガルドは肩にかかった艶やかな黒髪を片手で払う。言い分はめちゃくちゃだが、王族らしく他の者を圧倒する存在感に、思わず首肯しそうになる。

「何言ってんですか……そこらへんの貴族令嬢とあなたは違うでしょうが……」

 しかしそこはベイルである。閉じた目を揉みながら、何度目かわからないため息をついた。

「うふふ。マントなんて、って思ったけれど、悪くないわね。あなたの香りに包まれて、まるで抱きしめられているみたいだわ」
「な、ちょっ……変態みたいなこと言わないでくださいってば! もうそれ返しなさいよ」
「やんっ♡」
「変な声出すな!」

 無理矢理ひん剥いたベイルの目の前に現れたのは豊満な谷間。それを隠すためのマントだったことをすっかり失念していて、また頭を抱えてしまう。

「さ、もう観念して、中庭までエスコートなさい。ルーチェと、そちらの殿方も騒がしくしてしまってごめんなさいね。お茶と軽食をご用意しておりますの。おふたりの馴れ初めを聞かせてくださる?」

 有無を言わさぬ微笑を携えてベイルの硬く太い腕に手を添えると、ヒルデガルドはルーチェたちを振り返った。

「私たちのことをもうお知りに?」
「当たり前よ。わたくしはこの国の第一王女なのですもの」

 不敵に笑うヒルデガルドだが、それはただの自惚れのせいではない。彼女が王族としての資質を誰よりも持ち合わせていることを、ベイルはよく知っている。
 彼女の父である国王が、自らの後継にヒルデガルドを指名したいと思っているのは有名な話だ。現在の法では女性が王位に就くのは認められていないため、それが叶うことはないのだが。

「ベイルがその身を呈して戦いに挑んだことも聞いているわ。なんて男らしいのかしら素敵。もう魔族の脅威は去ったのだから、これからはわたくしをこの距離で守ってくれるのよねありがとう」
「いや俺は本来聖騎士ですからね。知ってのとおり癒しの力もありますし、今後は神殿にでも」
「なに言ってんの? だめよ! 神殿になんて行ったらベイル目当ての女が群がるに決まっているじゃない! この太い上腕二頭筋も厚い大胸筋も硬い広背筋もぷるぷるの大臀筋も! 全てわたくしのものなのに!」
「姫さんのもんになったことは一度もないし揉むな尻を!」
「んもぅ恥ずかしがらないでいいのよベイル」

 広い王城の回廊で、ヒルデガルドに押され若干引き気味なベイルを、ルーチェは面白そうに眺めながら歩いている。

「愛し君よ、この国ではあ奴のような男が思慕されるモテるのか?」
「……いや? 姫様は筋肉フェチだから」
「ほう」

 シュヴァルツは全く興味無さそうにそう呟いて、ルーチェの腰を更にきつく抱き寄せた。
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