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【挿絵あり】番外編 うれしはずかし夏休み
08 インモンクラゲ
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ふわふわと漂いながらヒルデガルドに触手を伸ばすのは、インモンクラゲと呼ばれる魔物だった。通常のクラゲとは違い、異様に身体が大きい。人間の子供程はあるだろう。
そして白い半透明の傘の部分に、その名称の由来となったドぎつい淫紋が浮かび上がっている。普通のクラゲには到底あるはずのない、紫とピンクが入り混じった紋様だ。それが太陽の光に反射して、ゆらりと不気味な色を放つ。
「っらぁあっ!」
ベイルは素早くヒルデガルドを肩に担ぎ、水面に浮いてきたインモンクラゲに手刀をお見舞いする。パァン! と水面が二つに割れ、盛大に水しぶきが舞った。
「姫さん! 急ぐから掴まってろ! アイツらに刺されたら厄介すぎる……!」
そう言ってベイルの攻撃に目を回した魔物に背を向け、すぐさま陸へと向かおうと水をかく。
ベイルの言う通り、インモンクラゲというものは人間にとって厄介なものである。淫紋という名からもわかるように、人間の発情を促す分泌液を放出するのだ。運悪くそれを体内に取り込んでしまえば……お察しである。
「チッ、くそ……! 何重にも護りを固めているはずの王家の土地に、どうして魔物なんか……!」
「おそらく、先の出水期のせいだわ」
「はぁ? いくら今年の雨が多かったからって、海の魔物が森になんて」
「…………上流に養殖場があるのよ。インモンクラゲの」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
魔の物の取り扱いは難しい。
本来なら魔物とわかった時点で処分するのは確定事項なのだが、インモンクラゲだけは別である。
奴らの分泌液を特別な手法を用いて精製すれば、最高品質の精力剤となるのだ。
魔物を用いるため、それは王家にのみ伝わる秘術であり、他国の王室との取引材料にもなる重要なものだ。
だがそんな事情など知らないベイルが素っ頓狂な声を上げて振り向くから、遊泳速度が落ちてしまった。
そこへ目を覚まし追いかけてきた魔物の触手が伸びてきて、今だとばかりに彼の臀部を撫で上げる。奴の傘の部分が恥じらうようにピンク色に染まっているのは気のせいか。
「はぁっ?! お前! それはわたくしのよ! 誰の許しを得て触れているの!」
「うわぁぁぁっ! 気持ちわりぃ!」
蹴りを入れようとベイルがもがくのだが、水中のため当然威力は出ない。大きく舌打ちをして、すぐそこまで迫った湖畔へと勢いよく転がり込んだ。
「あんたは俺の後ろに! 獲物だと思って別のも寄って来やがった。クソッ、剣を置いてきたのは俺の落ち度だ」
素早くヒルデガルドを下がらせる。そうしてベイルは地面に刺していたビーチパラソルを引っこ抜き、ポールだけの状態にして構えた。
陸に上がったベイルたちを見て(目があるのかはわからないが)、三匹のインモンクラゲは水面から顔を出しぶるぶると震えると、ぐんっとその身を倍以上に膨張させた。
「気持ちわる……」
「くっそ……! 後でなんでこんなところで養殖なんてしてるのか、よーっく聞かせてもらいますからね!」
ぶしゃぁ! と迫ってくる触手から、勢いよく分泌液がまき散らされた。毒々しい赤紫色のそれが粘膜に触れてしまえば、強制的に発情させられ戦いどころではなくなってしまう。
だがそれを難なく躱し、ベイルは魔物の正面に踏み込んだ。 傘と触手の間にポールを打ち込むと、その力を利用して隣にいたもう一匹を巻きつけ、自らを軸に一回転する。そしてそのままポールごと、インモンクラゲを湖の遥か遠くへと投げ飛ばしてしまった。
「ひぁっ……! ベイルしゅごい……♡」
「あと一匹!」
仕掛けられるより先に飛び上がり、それに気づき伸ばされた触手を肘で弾く。
「うおぉぬめってしたきもちわる……!」
ベイルは右腕に力を籠め、鍛え抜かれた筋肉を更に隆起させた。打ち込むために引いた肩が、背中が、ビキビキと幾重もの筋を浮かせ盛り上がる。
そして拳を固く握りしめ、急所とされている傘部分の淫紋へ、渾身の一撃をお見舞いした。
そして白い半透明の傘の部分に、その名称の由来となったドぎつい淫紋が浮かび上がっている。普通のクラゲには到底あるはずのない、紫とピンクが入り混じった紋様だ。それが太陽の光に反射して、ゆらりと不気味な色を放つ。
「っらぁあっ!」
ベイルは素早くヒルデガルドを肩に担ぎ、水面に浮いてきたインモンクラゲに手刀をお見舞いする。パァン! と水面が二つに割れ、盛大に水しぶきが舞った。
「姫さん! 急ぐから掴まってろ! アイツらに刺されたら厄介すぎる……!」
そう言ってベイルの攻撃に目を回した魔物に背を向け、すぐさま陸へと向かおうと水をかく。
ベイルの言う通り、インモンクラゲというものは人間にとって厄介なものである。淫紋という名からもわかるように、人間の発情を促す分泌液を放出するのだ。運悪くそれを体内に取り込んでしまえば……お察しである。
「チッ、くそ……! 何重にも護りを固めているはずの王家の土地に、どうして魔物なんか……!」
「おそらく、先の出水期のせいだわ」
「はぁ? いくら今年の雨が多かったからって、海の魔物が森になんて」
「…………上流に養殖場があるのよ。インモンクラゲの」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
魔の物の取り扱いは難しい。
本来なら魔物とわかった時点で処分するのは確定事項なのだが、インモンクラゲだけは別である。
奴らの分泌液を特別な手法を用いて精製すれば、最高品質の精力剤となるのだ。
魔物を用いるため、それは王家にのみ伝わる秘術であり、他国の王室との取引材料にもなる重要なものだ。
だがそんな事情など知らないベイルが素っ頓狂な声を上げて振り向くから、遊泳速度が落ちてしまった。
そこへ目を覚まし追いかけてきた魔物の触手が伸びてきて、今だとばかりに彼の臀部を撫で上げる。奴の傘の部分が恥じらうようにピンク色に染まっているのは気のせいか。
「はぁっ?! お前! それはわたくしのよ! 誰の許しを得て触れているの!」
「うわぁぁぁっ! 気持ちわりぃ!」
蹴りを入れようとベイルがもがくのだが、水中のため当然威力は出ない。大きく舌打ちをして、すぐそこまで迫った湖畔へと勢いよく転がり込んだ。
「あんたは俺の後ろに! 獲物だと思って別のも寄って来やがった。クソッ、剣を置いてきたのは俺の落ち度だ」
素早くヒルデガルドを下がらせる。そうしてベイルは地面に刺していたビーチパラソルを引っこ抜き、ポールだけの状態にして構えた。
陸に上がったベイルたちを見て(目があるのかはわからないが)、三匹のインモンクラゲは水面から顔を出しぶるぶると震えると、ぐんっとその身を倍以上に膨張させた。
「気持ちわる……」
「くっそ……! 後でなんでこんなところで養殖なんてしてるのか、よーっく聞かせてもらいますからね!」
ぶしゃぁ! と迫ってくる触手から、勢いよく分泌液がまき散らされた。毒々しい赤紫色のそれが粘膜に触れてしまえば、強制的に発情させられ戦いどころではなくなってしまう。
だがそれを難なく躱し、ベイルは魔物の正面に踏み込んだ。 傘と触手の間にポールを打ち込むと、その力を利用して隣にいたもう一匹を巻きつけ、自らを軸に一回転する。そしてそのままポールごと、インモンクラゲを湖の遥か遠くへと投げ飛ばしてしまった。
「ひぁっ……! ベイルしゅごい……♡」
「あと一匹!」
仕掛けられるより先に飛び上がり、それに気づき伸ばされた触手を肘で弾く。
「うおぉぬめってしたきもちわる……!」
ベイルは右腕に力を籠め、鍛え抜かれた筋肉を更に隆起させた。打ち込むために引いた肩が、背中が、ビキビキと幾重もの筋を浮かせ盛り上がる。
そして拳を固く握りしめ、急所とされている傘部分の淫紋へ、渾身の一撃をお見舞いした。
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