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02 グレン・ハンプトンという男
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◇
グレン・ハンプトンは迷っていた。
王国の栄えある近衛騎士隊長に任命されて十年余り。今の彼は、これまでのどの状況よりも絶体絶命の大ピンチなのである。
「はぁ……妻など私には不要だと、あれほど陛下にお伝えしていたのに」
輝かしい経歴を持つグレンだが、もうすぐ四十路を向かえようとしている。
伯爵家を継承しているが兄弟もなく、跡継ぎもいない。忠誠を誓い、自らのために剣を振るうグレンの身を、主君が案じるのは当然の流れとも言える。
国王陛下はある日突然王命だと言って、とある貴族令嬢の釣書を持ってきた。それがミラベルだった。
彼女は大貴族であるハーコート侯爵家の末娘だ。ハーコート侯爵家といえば大恋愛の末に婚姻を結ぶ家系として有名で、当代の侯爵夫妻もそれは仲睦まじく、三男四女をもうけている。
仲の良い家族に囲まれ、兄弟たちからも惜しみない愛情を受けて蝶よ花よと育てられた末の娘は、社交界でも輝くばかりの称賛を受けていた。
揺れる銀糸のように細く長い髪。宝石をはめ込んだように煌めく、青くて丸い、大きな瞳。
すらりと伸びる手足は庇護欲を駆り立るように華奢で、なのに身体のラインはとても女性的だ。
誰しもが見惚れてしまうほどに完璧なご令嬢、それがミラベルだった。
当然結婚の申し込みは絶えることはなくて、デビュタントから七年経った今でも、男性からの熱い視線を受けているという。
──王家主催のパーティーには必ず出席していたし、どの男にするか、ふるいにでもかけているのかと思っていたが。残念だったな、よりにもよって私とは。王命となれば拒否することは許されないから。……可哀想に。
グレンはミラベルにも告げたとおり、これから先、彼女と夫婦として過ごすつもりはなかった。ある秘密が、彼にはあるからだ。
──だが確かに、彼女がこの屋敷内で不当な扱いを受けるのは本意ではない。仕方がない……彼女も私みたいな年寄りに触れられたくないだろうしな。隣で眠るだけだ。
大きくため息をついて、グレンはナイトウェアの上にガウンを羽織った。
グレン・ハンプトンは迷っていた。
王国の栄えある近衛騎士隊長に任命されて十年余り。今の彼は、これまでのどの状況よりも絶体絶命の大ピンチなのである。
「はぁ……妻など私には不要だと、あれほど陛下にお伝えしていたのに」
輝かしい経歴を持つグレンだが、もうすぐ四十路を向かえようとしている。
伯爵家を継承しているが兄弟もなく、跡継ぎもいない。忠誠を誓い、自らのために剣を振るうグレンの身を、主君が案じるのは当然の流れとも言える。
国王陛下はある日突然王命だと言って、とある貴族令嬢の釣書を持ってきた。それがミラベルだった。
彼女は大貴族であるハーコート侯爵家の末娘だ。ハーコート侯爵家といえば大恋愛の末に婚姻を結ぶ家系として有名で、当代の侯爵夫妻もそれは仲睦まじく、三男四女をもうけている。
仲の良い家族に囲まれ、兄弟たちからも惜しみない愛情を受けて蝶よ花よと育てられた末の娘は、社交界でも輝くばかりの称賛を受けていた。
揺れる銀糸のように細く長い髪。宝石をはめ込んだように煌めく、青くて丸い、大きな瞳。
すらりと伸びる手足は庇護欲を駆り立るように華奢で、なのに身体のラインはとても女性的だ。
誰しもが見惚れてしまうほどに完璧なご令嬢、それがミラベルだった。
当然結婚の申し込みは絶えることはなくて、デビュタントから七年経った今でも、男性からの熱い視線を受けているという。
──王家主催のパーティーには必ず出席していたし、どの男にするか、ふるいにでもかけているのかと思っていたが。残念だったな、よりにもよって私とは。王命となれば拒否することは許されないから。……可哀想に。
グレンはミラベルにも告げたとおり、これから先、彼女と夫婦として過ごすつもりはなかった。ある秘密が、彼にはあるからだ。
──だが確かに、彼女がこの屋敷内で不当な扱いを受けるのは本意ではない。仕方がない……彼女も私みたいな年寄りに触れられたくないだろうしな。隣で眠るだけだ。
大きくため息をついて、グレンはナイトウェアの上にガウンを羽織った。
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