マイナス100Lvの最強国王

青浜ぷりん

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二章 望む来訪者、望まぬ来訪者

十話 夢か現か

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 バン王国に力では勝てないと分かっている。
 でも、きっと力以外にもこの現状を変える手段はある筈だ。
 俺は俺なりの戦い方で、この村を守ってみせる。

「マノン、早速やりたいことがあるんだ」

「あ……は、はいッ……」

 先程の抱擁がよほど衝撃だったのか、まだマノンの顔色は赤色から戻らない。

「悪い、つい感情的になっちまったな。驚くのも無理ない」

「いえ……嬉しかった、です……」

 マノンはロングヘアーの毛先をクルクルと指で回しながら、照れ臭そうに言った。
 やっぱ可愛すぎるな。ベラとかいうクソ紫髪野郎の比じゃない。

「この世界の国や政治について教えてほしい。いきなりバン王国とやりあう気はないんだ。とにかく、この世界について知ることが第一だ。それと、魔術本も貸してほしい。魔法を少しでも鍛えておきたい。多分そう簡単にはいかないけど、腐っても最上位魔法の残りカスはある。役に立つはずだ」

「分かりました。おじいちゃんには今日はそっとしておくようにと言いますから、今日は寝て、明日からこの世界について、魔法について学んでいきましょう。トウゴ様ならすぐにこの世界について暗記できると思います」

 ――暗記、か。
 大学受験では、本番の一か月前までゲームしてネットサーフィンして寝てを繰り返していた。
 今まで逃亡し続けてきた勉強に自信はないが、目標があれば頑張れるはずだ。
 そもそも、この世界について知るということがバン王国に勝つための前提条件なのだから、俺は猛勉強しなくてはならない。

 まず、この世界にはどんな国があるのかについて深く知る。
 そしてこの世界の国の中から、俺達を支援してくれそうな安全かつ懐の深い国を慎重に探し出す。
 そしてその国と俺達で協力して、バン王国にレザンス村の独立を認めさせる。
 これが俺の作戦だ。
 正直こんなに都合良く上手くいくとは思えないが、やれるだけのことはやるつもりだ。

 ただ、一つ問題なのは、俺達は支援してくれる国に何を与えられるかだ。
 国にとっては一文無しの俺に協力してやるメリットはない。
 レザンス村のリーフェン鉱石を輸出することも考えたが、リーフェン鉱石は正直交渉の材料として使いたくない。
 バン王国とのトラブルの根本ともいえるリーフェン鉱石を他の国とも取引したら、話がややこしくなりそうだ。
 まあそれは明日考えるとして――

「マノン、お前に個人的に頼みたいことがある」

「何でしょう、トウゴ様。何でも聞きますよ」

「俺を呼び捨てで呼んでくれ。トウゴって」

「……え、ええ!? 呼び捨て、ですか? そんな失礼なこと……」

「いいや、失礼なんかじゃないさ。マノン、お前とは対等でありたい。俺だけ様なんて、上下関係があるみたいで違和感を感じるんだ」

「そんなこと……私はただ、トウゴ様を尊敬しているからそう呼んでいるだけで……今更変えるのは、違和感があります……」

「まあ、いきなり呼び捨ては確かに恥ずかしいか……。やっぱり、強制はしない。好きに呼んでくれ」

「はい。やはりトウゴ様がしっくりきます」

 まあ、呼び方なんて正直気にしてる場合じゃないしな。
 明日からは激務だ。

「マノン、今日は本当にありがとう。お前のおかげで俺は戦える。明日から個別指導、よろしく頼む」

「いいえ、むしろ私がありがとうと言いたいです。トウゴ様がいてくれて良かった。ディエゴ様達率いるバン王国と戦う覚悟が決まりました」
 
「マノン、ディエゴ様、なんて呼ばなくていいんだぞ」

 俺を様付けで呼ぶのは全く構わないんだが、あの髭野郎を様付けするのは更に違和感がある。
 あんな奴に使う敬称なんて無い。

「あんな奴、クソモジャ髭でいいんだよ。マノン、言ってみてくれ。クソモジャ髭」

「え!? そ、そんなこと……でも、トウゴ様が言うなら……ク、クソモジャ髭!!」

 勇気を出して力んだからか、あまりにでかい声でマノンは言った。

「プッ……ハハハッ!! それでいいんだ。ついでにベラのことも、クソ紫髪野郎って呼んだらいいからな」

「もう、トウゴ様……私まで口が悪くなりそうです。――でも、良かった。トウゴ様の笑顔を見れて。トウゴ様が笑ってくれるなら、何度でも言いますよ。クソモジャ髭って」

「ハハッ。これ以上純粋な少女を汚したくないから頼むのはやめとくよ。でもありがとう。ここに来て初めて、健全に笑えた気がするよ」

 人の悪口で笑うのが健全な笑いなわけないのだが、自暴自棄になって自分を卑下して笑っていた昔よりはまだ健全だろう。

「さぁ、今日はもう寝よう。マノン、俺が起きるまで待っててくれてありがとうな。後は大丈夫だからゆっくり休んでくれ」

「いいえ、私がしたくてしたことですから。私は隣の部屋で寝ていますから、何かあったら呼んでください。それでは、おやすみなさい」

「おう。また明日な! おやすみマノン」

 マノンは椅子から立ち上がると、俺を看病していた疲れなど一切見せずに出ていった。
 恐らくトリスタン村長への報告が済んだのか、暫くするとパタパタと廊下を歩く音がして、隣の扉がガチャリと閉まった。

「……隣の部屋で、マノンが寝ている。そう考えると少しソワソワするな。薄い壁の向こうに無防備な美少女。……そういえばここに来てから三大欲求のうちの一つをないがしろにしている」

 まぁ、仕方ない。俺も年頃だ。
 そう自分に言い聞かせて机に置いてあったティッシュを取りに行くことにした。
 布団をガバっと返し、起き上がる。

「――ッ!」

 ――床に足を踏み入れた途端にズキン、と足に鈍い痛みが走る。

「ッてぇ……そうか、足折れてたんだっけ。でも、痛いけど歩くことは出来る。マノンの治癒魔法か? 誰の魔法であろうと、俺は助けられてばっかりだな。――駄目だ、こんなことしてる場合じゃない。さっさと寝て、明日に備えるんだ」

 俺は欲を満たすことを断念し、バサッと布団をかぶりベッドに潜り込んだ。

「何だか凄い眠いな。今日は色々ありすぎたもんな。明日からまた……頑張ろ……う」

 相当疲れがたまっていたのか、ベッドに入りものの数秒で俺は意識を失った。

 ~◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇~










「何で……どうしてこうなるの? こんなの……あんまりだよ……」


 ――誰の声だ……マノン?


「俺が……俺が来たから、なのか……? もしそうなら、俺は……お、俺は……ッ」

 
 俺の声?


「……は…………と名乗る者によって……」


 何だ?


「フフッ、これはトウゴちゃんの失態なのよ」


 ――え?


「ブオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッ――!!!!!!!」


 ~◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇~




「うあああぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!」

 聞き覚えのある低い咆哮で俺は目を覚ました。
 体は汗だくで、胸が苦しい。

「トウゴ様!? ど、どうされましたか!?」

 バァン――と勢いよくドアが開けられ、トリスタン村長が入ってきた。

「村長……いや、何でもない……おはよう」

「何か悪い夢でも見ましたか?」

「あ、あぁ……そうだ、魔物は!? 三つ目の魔物はどうなった!?」

「魔物……? いえ、特に出現しておりませんが。出現したとてここらで出るのはせいぜい低級の魔物ですよ」

 やはり、あれは幻覚なのだろうか。
 幻覚であることを願いたい。
 あれに襲われたら、敵う敵わないではなく震えてマトモに戦えないだろう。

「そ、そうか……良かった、夢か」

 あの咆哮は間違いなく三つ目の魔物の咆哮だ。
 恐らくあれがトラウマになっていて、悪夢でも見たのだろう。

「村長、マノンは?」

「あぁ、マノンは使わない魔術本を譲ってもらうため、朝から村の皆の家を回っています」

「俺の為にか?」

「ええ。トウゴ様に教えるということで張り切っていましたから。通常魔法ですが、あの子も攻撃魔法は使えるんですよ。治癒魔法に関しては上位魔法を使えるんです」

「そうなのか……なら、情けないけれど今のところはマノンの方が俺より強いな。それにしても、朝から家を回ってくれるなんて……これは猛勉強するしかなさそうだな。あ、あと村長、俺は大丈夫だ。迷惑かけたな」

「マノンから事情は聴きました。私も教えられることは何でも教えますので、どうぞいつでも頼って下さい」

「ありがとう。あと、今の夢のことはマノンに言わないでくれ。余計な心配かけたくないからな」

「分かりました。秘密にしておきます。あの子は親を失ってから少々心配性な気質になりましてね。恐らく言わないほうがいいでしょう」

「親を失って……そりゃ心配性にもなるよな……よし、マノンの為にも起きて勉強だ。ところで、今は何時だ?」

「昼の一時です」

 休日の俺の起床時間じゃねーか。

「マジかよ……寝すぎたな……まぁ、疲れてたからセーフ、にしておこう」

「昼食を取ってから勉強にしましょう。そろそろマノンも戻ってくる頃だと思いますので、三人で食べましょうか」

「おう。――トリスタン村長、これから世話になる。改めてよろしく頼む」

「はい。村の皆でトウゴ様を全力でサポートしますので、私の方からも、この村をよろしくお願いいたします」

 そう、俺がこの村を背負っていく。
 この村が今の俺の居場所だ。

「よし、六宮冬悟の人生初の猛勉強、始めるか!!」
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