マイナス100Lvの最強国王

青浜ぷりん

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二章 望む来訪者、望まぬ来訪者

※十七話 ワガママ

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 ズルズルズル……
 髪を乱暴に掴まれ、門へと連れて行かれる。
 運動会で引かれる白線みたいに、地面に血の線が描かれる。
 もう痛みは感じない。
 痛すぎて感覚が麻痺してるのだろう。

「おいベラ!! こいつを治癒しろ!!」

 髪を掴んでいた手を放し、乱暴に、俺をベラに差し出した。

「ちょっと、やりすぎよ……完全には治らないわ、これ」

 口に手を当て、ベラが異物を見る目で俺を見た。
 血まみれの俺は、高貴な生活をしてきたこいつにはさぞかし醜く見えるだろう。

「別にいいだろ。状態については指摘されてない。生きてさえすればいいんじゃねぇか?」

「まぁ、そうね。こいつを捕える目的は存在の隠蔽という目的が大きいだろうし、構わないでしょう」

 存在の隠蔽。
 それがこいつらの目的か。
 俺の存在はバン王国の歴史にとって都合が悪い。それは確かだ。
 俺がこの世界に来てから、まだそこまで日は経ってない。
 こいつらの力なら、十分俺の存在を揉み消せる。

「よし、それじゃあトウゴ様、懐かしのバン王国へ帰ろうぜ。まぁお前はこれから牢で暮らすわけだがな。ベラ、こいつを一度気絶させる。意識が飛んだら治癒しろ」

「分かったわ。早くしないと、こいつ死ぬわよ」

「……まぁ、て」

 意識が朦朧とする。
 血痰が口の中に広がり、血の不快な味と痰が絡まり上手く発音が出来ない。
 でも、最後に確かめることがある。

「約束は、守れ。ソワン、言ったろ。おれを捕まえたら……ハァ、この村に、手をだすな」

 やっとの思いで最後の望みを言い切る。
 こいつと約束したことだ。
 俺を捕まえたら手は出さない。これが約束だ。
 破れば剣士ソワンの名に傷がつく。
 そう脅し文句も言った。
 だから、約束は守られる筈。

「……ああ、そうだった。約束だったな。分かった、この村には手を出さない。約束だ」

 ソワンはポス、と俺の肩に手を置く。

「この剣でレザンス村を脅かすことはもうしないよ。トウゴ様、約束する」

 良かった。
 約束はちゃんと守ってくれるようだ。
 これで、あいつらは自由だ。
 やっとマノンは解放される。
 普通の女の子らしい生活をして、幸せに生きられる。
 これで――――

手を出さない。お・れ・は――な」 

「っえっ?」

 俺は。
 オレハ。
 ソワンは何故かこの二文字を強調した。

「この村に、もう手を出さないんだろ……頼むぞ、ソワン」

手を出さない。俺は誠実な剣士だ! 一度決めた約束は破らないさ」

 オレハ。
 まただ。またその三文字を強調した。

「ハァ、ハァッ……これでこの村は、レザンス村はお前らバン王国と無関係だ。リーフェン鉱石は他の国をあたれ」

 やっとだ。
 やっと関係が切れた。
 長かった支配がようやく終わる。
 この村に夜明けが――

「これからもこの村にはリーフェン鉱石を輸出してもらう。この村は俺達にとって大切な村だ!! 共に頑張ろう」

「え」

「俺は手を出さない。あくまで俺はな? ソワンという人間は直接この村に手を出さない。約束だもんな。でも、バン王国がこの村に手を出さない、なんて約束してないもんな? な、トウゴ様?」

「 」

「あ、それと輸出にあたって条件をもう一つ追加する。これからこの村に支援する食糧の量を減らす」

「 」

「理由は分かるよな? お前を庇ったからだよ。村ぐるみでお前を庇ったんだよな? そりゃあ駄目だろう。重罪だ」

「 」

「でも恨まないでくれ。全てはお前と、この村の人間が起こしたことだ。なるべくしてこうなった。だから仕方ねぇよ」

「 」

 ソワンはポン、と再び肩に手を置いた。
 その手はしだいに、カタカタと震え始めた。

「……ブッ……ククッ……ブフッ……ハハハハハッッッッ!!!!」

「 」

「そうか、言葉が出ないか!!! クハハハッ……あー、最初からこれが見たかった。お前の絶望しきった顔。やっと見せてくれた」

「……何を」

「だいたいお前さぁ、馬鹿すぎるんだよ。約束ってのは勝ったほうが条件を提示するんだ。お前が捕まったら村に手を出すな? 守るわけねーだろバーカ」

「……この村には手を出すな。この村には手を出すな。この村には手を出すな」

「ハハ、無理無理。支配はゾッコー。それにお前のせいで食糧が減る。つまり前より支配は強まる」

「止めろ」

「止めない。お前のやってきたこと、全部無駄だったなぁ。お前の魔法を見た時、お前はそれなりに努力したんだろうなと思ったんだ。この村の為に必死こいて努力したんだよな」

 嬉しそうにソワンは話し続ける。

「だから、全部壊したくなったんだ。マノンだっけ? そいつの面倒も見てやるよ。牢にいるお前に報告してやる」

 恐れていたことが起きた。
 約束を破り、支配を続ける。
 今まで俺がやって来たことが全て無駄になる。
 マノン。残されたあの子はどうなる。

「ふざ、けるな。ふざけるな、ふざけるな……!!」

「マノンが痩せていく所を報告してやろうか? お望みとあらば――」

「ああああああああああああああッ!!! 殺す、殺す、殺してやる!!! 殺す殺す殺す殺す殺す!!!!」

 疲労、痛みのピークを越えた俺は、気づけば信じられないくらいの大声を出していた。
 痩せていく所。
 こいつらは何故、こんな恐ろしい言葉を平然と口にできる?

「許さない許さない許さない許さない殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

「おー、怖い怖い。狂気に満ちてるな」

「許さない許さない許さない」

「そんなこと言って何になるんだよ。悔しかったら行動で示せ」

「ああああああああああああああッ!!」

 身体は依然として動かない。
 涙と血でグチャグチャになった体はちっとも動いてくれない。

「動け、動けよ……」

 意識を保つことで精一杯なのだから、身体は当然動かない。
 ソワンに罵詈雑言を浴びせる。
 六宮冬悟にはそれしか抵抗する手段が無い。
 弱い六宮冬悟にはそんな情けない選択肢しか残されていない。

「何で、こんなことができるんだよ……何で、何で、何で……何でだよ!! おい、ベラ!! 何とか言えよッッ!!」

「ププッ」

 ベラは血まみれで泣きながら必死に叫ぶ俺を見て、呆れ混じりに笑った。

「質問を返すようで悪いけど、あんたこそ何でこんな村の為にそこまでするの? バン王国の国王として豊かな生活が出来たのに。何不自由ない生活が出来たのに」

「お前らみたいなクズとはやってけないと思ったからだ……今はお前に聞いてるんだよベラ……なんでこんなことができるんだよ!!」

「別に理由なんてないわよ。少なくとも私は、他人にそこまで気を配る余裕はない。でも、あんたよりは正しい道を生きてると思ってるわよ」

 正しい道――?
 今こいつは正しい道って言ったのか?
 他人にあれだけ苦しい道を強いて、それが正しいと言うつもりなのか?

「じゃあ言ってみろよ……お前の何処が正しいのか、言ってみろよ――!!」

「大きな声出さないで。あんたは自分のしたことが正しいと思ってるわけ?」

「……お前らよりは正しいことをしたと思ってるよ。だから、質問に答えろって。お前のどこが正しい道か――」

「威勢だけで物事は上手くいかない。それを見抜けてないあんたより正しいって言ってるの。あんた、自分の間違いに気づけてないみたいね」

「 」

「冷静にあんたのしたことを分析してみなさい。この村にあんたがしたことを」

「俺がこの村にしたこと」

「そう。まずあんたは力があるからってこの村を庇った。100Lvの力とか言って、他人から貰った力でこの村を庇った。そして油断していたら能力を失った。次にあんたがとった行動」

 ベラは淡々と俺を分析し始めた。

「能力を失ったあんたはこの村に向かった。自分がこの村にとってどれだけお荷物になるかも考えずに。そして、この村で優しい言葉をかけられたんでしょ? この村の人間はからね。それであんたは修行でもしたんでしょう? 勝てる筈もないのにこの村に留まって修行して、結果はどうなったかしら」

「…………あ」

「気づいた? あんたがこの村にもたらしたものは、更に厳しい支配の口実だけ。あんたがこの村に行かなければ、まだ何とかこの村の人間はマトモな生活を続けられた。でも、これからはどうなると思う? 食糧を減らされて、マトモな生活できるかしら?」

「……マノン」

「そう、マノンって子も、あんたが来ないほうが幸せだったんじゃない?」

「――――」

 俺が来ないほうが幸せ。
 考えなかったわけじゃない。
 でも、そんなことないと俺は信じてきた。
 能力を奪われたあの日、あの笑顔を疑うことはやめたんだ。

 でも、事実としてそうかもしれない。
 いや、きっとそうだ。ベラの言う通りだ。

「あ、はは。あはははは」

 笑うことしかできなかった。
 自分の惨めさを隠すために、俺は笑った。
 おかしくなったふりをして。

「マノン……本当にごめん……ごめんなさい、ごめんなさい」

 ギュッ。
 突然、後ろから誰かに抱きつかれた。
 甘い匂いがする。
 なびいた髪の毛先が目に映る。
 ミントグリーンの髪色。

「マノン」

「トウゴ様が来ないほうが良かった。そんなわけないじゃないですか。私がトウゴ様を想う気持ちなんて、他の誰にも分かりません。私だけが私の気持ちを知っているんですから」

「離れてくれマノン。血がついたらいけない。……もういいんだ。俺は――」

「駄目です。……トウゴ様、私のワガママを聞いてください。私のことを少しでも想ってくれるなら、私のワガママを聞いてください」
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