マイナス100Lvの最強国王

青浜ぷりん

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二章 望む来訪者、望まぬ来訪者

※十九話 黒の魔法陣

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「……あ」

 俺が再び門に戻ってきた時には、もうソワンとマノンの勝敗は決まりかけていた。
 
「まじかよ、なんで戻ってきやがった? やっぱりこの女のことが心配になったか? まぁ、こちらとしては好都合だ。よく戻ってきてくれたな」

「ハアッ、ハアッ……何で、トウゴ様……」

 ソワンが楽々言葉を発するのに対して、マノンは苦しそうに言葉を発した。
 すでに体力の限界が近そうだ。

「ごめん、マノン。でも無理だった。俺には全て投げ出して逃げるなんて出来なかった。……マノン、あとは俺が――」
「待った! トウゴ様、そりゃねぇだろ」

 選手交代を告げようとしたとき、ソワンが俺の言葉を遮った。

「お前は俺に勝てない。一度負けたんだから分かるだろ? それじゃあお前に出来ることはなんだ? こいつと俺の戦いを見守ることだ。もしかしたら勝てるかもしれんぞ」

「ッ……」

 戻ったはいいものの、六宮冬悟にソワンに勝てる策などない。
 かといってマノンが勝てるかと言われたら、首を縦に振ることは出来ない。

「トウゴ様……もう、仕方ない人ですね。何となくそんな気はしてたんです。罪悪感から戻ってくるんじゃないかって。あなたは優しい人だから」

 ニコッとマノンは俺に笑いかけた。
 俺の身勝手な行動も許してくれるようだ。

「ソワン!! お願いだ、許してくれ!! 頼む、頼む!! 俺はどうなってもいい。拷問でも何でも、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。だから、こいつらだけは許してくれ……もう戦いを止めてくれ」

 バッ!
 地面に頭をこすりつけて、土下座のフォームを作る。
 心からの願いをソワンにぶつけた。
 助けてくれ。お願いだ、聞き入れてくれ――

「この女との勝負はきっちりつけさせてもらう」

「……そんな」

 呆気なく願いを断られた。
 土下座に同情なんてこれっぽっちも感じなかったようだ。

「俺はこいつと真剣勝負のつもりで戦ってる。よっぽどのことがない限り真剣勝負を中断なんてしない」

「俺との勝負はお遊びって言ってたじゃねえか……」

お遊びだって言ったはずだ。徐々に真剣になっていったんだよ」

「あ、あああ……」

「さて、馬鹿の相手はここまでだ。マノン、行くぞ!!!」

 ゴオオオオッ――!!
 鋼のような巨躯がマノンの元へ高速移動する。

「くっ……グラキーラッ!!」

 パキパキパキ!!

「冷てえぇぇッ!! けど、氷とは綺麗なもんだな!! 気分が上がるぜ!!」

 水色の氷のつららがソワンに命中するが、ソワンは全く意に介していない。
 効果はないようだ。やはり通常魔法では、ソワンには効かない。
 ゴオオッ――!!
 右腕を振りかざし、マノンを殴りつける準備をする。

「あ……やめろ。待て、待て待て待て待て」

 ソワンがこれからマノンにすることを想像した俺は、ただ言葉でソワンを静止させようとすることしか出来なかった。

「ヒーラッッ!!」

 ボオオオオッ!!
 ソワンの体が炎に包まれる。
 だが――

「炎に関してはトウゴ様の方が強かったかな? さぁ、これで終わりかぁ?」

 あっという間にマノンの目の前へとソワンは移動した。
 ヌッと、マノンの体をソワンの陰が覆う。

「止めろ止めろ止めろそれだけはソワンお願いだ」

 見たくない。
 これから起こることを見たくない。

「……あ」

 全てを見なかったことにしようと顔を伏せようとした瞬間、マノンと目が合った。
 青ざめた俺を見て、マノンはニコッと俺に笑いかけた。
 ――こんな時まで俺の心配をしてくれるのか、君は。
 ただひたすらに柔らかい笑顔で、俺を心配させまいと振る舞うような笑顔で。


 ――ゴッッ!!!!!


 鈍い音と共に、マノンの体が宙へと弾き出された。
 ファサッ――
 長いミントグリーンの髪が宙を泳ぐ。
 
 ――ドギャッ!!

 宙の旅を終えたマノンは地面へと着地した。
 皮肉にも、俺が蹲っている地面の前へと着地した。

「マノン、マノン、マノン」

 華奢な体をお姫様抱っこのようにして持ち上げる。
 乱れた前髪をかき分けると、顔に殴られた跡があった。

「……大丈夫、です。生きて、ますよ……トウゴ様に抱っこされて、不思議な気持ちです。王子様みたいです、トウゴ様……」

 俺を心配させまいという気持ちからだろうか、精一杯言葉を振り絞り、冗談を言う。

「……もう、喋らなくていい……ごめん、ごめん、ごめん」

 ごめん。
 自分でそう言いながら、何に対して謝っているのか分からなかった。
 
「いいんです……戻ってきてくれた時、正直嬉しかったんです……。不思議ですよね。逃げて欲しいと思った筈なのに、顔を見ると安心しました」


「二人揃って何話してるんだ? 俺も混ぜろよ。まだ殴り足りないんだよ」

 マダナグリタリナイ。
 その言葉が引き金となったのだろうか。
 六宮冬悟の中に、黒い何かが産まれた。
 

 スベテヲコワセ。
 スベテヲコワシテシマエ。

 何者かが俺にそう問いかける。
 それはまるで、悪魔の囁きだった。
 
 ――すべてを、こわす……

 ソウ、コワセコワセコワセ。
 クルッテシマエ。ウシナウクライナラ。
 サイジョウイマホウノツカイテ。
 サイジョウイマホウガオマエニアタエラレタイミ、

 ――ソレハ、スベテヲコワスタメ――

 スベテナクシテシマエ。ウシナウクライナラ。
 サイジョウイマホウノツカイテ、ソレガデキル。
 ワタシノ、ノゾミヲ。

 ――うん、きっと出来るよ。きっと俺が叶える、リオマ。

「ひ、ひひ」

「……トウゴ、様?」

「ひひひひひひひひひひひひひひゃゃゃゃゃゃゃ」

「おい、何だ何だ? 気持ち悪い笑い方しやがって」

「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひやひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 地面に魔法陣が産まれる。
 しかし、その魔法陣は金色ではなく――

 
 リオマが教えてくれた。
 失うくらいなら奪え。壊せ。
 
 ――リオマ、すぐそっちに行くからね。
 
 リオマ。
 それが誰かは分からない。
 ただ、俺は気が付けばリオマという人物のことしか考えられなくなった。
 そして――

 俺の魔法陣は、金から黒に染まっていった。
 もう正気には戻れない。
 そう感じてしまったのを最後に、俺は自我を失った。
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