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妖裁級
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どういうこと? 嫁は一人? 裏切った? この人、幻覚でも見えてるの?
でも、幻覚にしては、憎しみや怒り。悲しみといった負の感情が強く伝わる。幻覚では、ここまで感じないはず。
「お前について、話せる事だけでいい。話してくれ」
彰一が何も言えない私の代わりに、淡々とした口調で聞いてくれた。
「私は……私は裏切ってなど……いない。私の嫁は千鶴一人だ……。許せ……ない。あの男。許せない許せない……ころ、してやる」
その言葉を最後に、憎しみの籠った目に涙を浮かべながら、男は事切れた。目を閉じてしまい、それでも足からの血は止まらずどんどん溢れている。
体は冷たくなっていき、死んでしまったんだと実感してしまう。
「殺してやるって、どういうこと?」
「幡羅さんがなぜこの人を斬らなかったのか。何となくわかったな」
「いやわからん。どういうこと? なんでこの人はこんなに……」
あれ、急に後ろから影が……。
「この男、恨呪になるまで強い恨みを持っちまったらしいなぁ」
って、京希さん。私の声を遮って高みの見物しないでくださいよ。というか、恨呪ってなんですか。私が聞いたことないだけかな。
「恨呪って、なんですかそれ」
あ、彰一も知らないのか。恨呪……。怨呪とはまた違うのかな。
「恨呪とは、人の強い恨みが制御出来ず溢れ出てしまったモノだ。制御出来ない恨みは体から滲み出てしまい、あのように自我を持つ。ここまで育った恨みはどうすることも出来ない。それが今の現状。正直、恨呪については不明な点が多すぎるんだよなぁ。これ以上の情報がない。あ、でも。今回ので一つわかったことがあるねぇ」
「わかった、こと?」
京希さんは淡々と説明してくれてるけど、よく分からない。
恨みが自我を持つなんて……。それって、なんかもう一人の私に似てない?
他にわかったことってなんだろう。
「恨呪は憑依型で、別の奴に移ることが出来るらしいなぁ。それと、移動先も決められていたねぇ、さっきのを見るに。俺や拳銃使いには目を向けずに、輪廻ちゃんに一直線。避けられてしまった為、他に強い恨みを持った隊員に乗り移った──と。おもしろいねぇ」
なんで、顎に手を当て冷静そうに考えているのに、口角は上がっているんですか。
何が楽しいんです? 何が面白いんですか。説明をしてくれるのはすごくありがたいのですが、なんか……。複雑です。
えっと。とりあえず、今聞いた言葉を簡単にまとめると、あの男は強い恨みにより自我が恨呪に乗っ取られた。そして、その恨呪は人と人を移動できる。移動先も、恨呪の意のまま──って、感じかな。
あ。もしかして、私に最初狙いを決めたのは、もう一人の私に反応したってこと?
「シシッ。面白いもんを見れたし……。もうそろ可愛い可愛い弟を救ってやるか。京夜は本当にあまちゃんだからなぁ。俺がやるしかないねぇ」
その言葉を表面上だけで受け取ると、苦労している弟を助けようとしている兄。の、図ができ上がる。でも、今はそのように受け取れない。
今の話を聞くと今回死んでしまった男は、恨みが抑えきれず暴走させてしまった。その恨みが自我を持ち、ただ操られ殺された。そして、その男性を殺した張本人は──
「まっ、待ってくださいお兄さん!!!」
「そこはかわいい感じに京希さん、と呼んでくれねぇのかい?」
「それは無理です、言いたくありません。それより、まさか。また、殺すつもりですか?」
「それしか方法はないからなぁ。だが、京夜は今だ諦めていないみたいだし。まったく世話の焼ける弟だ。しっかりと現実を教えてやるのも、兄である俺の仕事だねぇ。シシッ」
あ、待って、行かないで、まだ殺さなくてもいい方法があるよ!! 絶対にまだ…………あ、うそっ。
ほんの一瞬、少しだけ出だしが遅れただけなのに。もう、下での戦闘が、終わってる……。
隊士の体が真っ二つ。もし、あれがもう一人の私なら問題は無いけど、普通の隊士なら即死だ。もう、動いてない。地面が赤く染まる。
「あ、あぁ……」
気持ち悪い、今まで何度も隊士の死や一般人の死体は見てきた。でも、それは私が弱かったせい。殺した相手は怨呪だ。それで、割り切れる。
でも、今回は違う。今回は怨呪が殺したんじゃない。人間が人間を、殺した。
「てめぇ……」
「遅いんだよ京夜。こういうのは早く殺らないと。ほれ、第三ラウンドが始まるよぉ」
っ、また。隊士から黒いモヤが現れた。今度は、誰を……。
「さて、浄化するか」
お兄さんが懐から癒白玉を取り出し黒いモヤに投げた。あの人、この状況を受けいれ、淡々と作業をしている。いや、割り切れているのではなく、あの人の場合元々人の心がないんだ。
人を人とも思っていない。そんな、冷酷非道な人……。だから、笑いながら人を殺せるし、浄化を流れ作業のように行えるんだ。
「さぁ、浄化するがいい」
ギャァァァァアアアアアアアアア!!!!
っ!!! 耳が痛い! 頭も、体も震える。なに、このけたたましい悲痛の叫び!! 両耳を抑えても聞こえてくる、重く、気持ちの悪い叫び。憎しみや怒り。恨みと言った負の感情が直接脳へと伝わってくる。頭が痛い!!
「っ……。やめて……。お願い、やめて」
聞くに耐えない叫び声、体から力が抜ける。気持ち悪くて、吐き気がする。視界が遠のく――……
※
な、なに。ここ……。何もない空間。真っ暗だ。でも、私の手は見える。ただ暗いだけじゃないんだ。え、いつ私はこんな所に移動したの? 私は確か叫び声で気が遠くなって、それで――……
…………あれ、何だろう。二人の男が強い口調で言い争ってる声が聞こえる。
『お前のせいだ!! お前のせいで俺の嫁が殺された。お前のせいだ!!!』
『いやいや。何を言っているんだよ。千鶴《ちずる》は自分で命を絶ったんだろう? そして、その原因を作ったのはお前だろ? お前が何人も女を作ったからだろう?』
『ふざけるな!!! 俺は千鶴以外の女なんぞに興味はない。お前が変な事ばかりを吹き込んだせいだろう!! 許さねぇぞ。お前を絶対に殺してやる!!!』
『なっ──お前!! それ、ほんとにし──』
男は、懐に小型の刀をしまい込んでいたらしく、「殺してやる」と叫んだ瞬間にもう一人の男に斬りかかった。
右肩から左の腰辺りまで切り込み、血が溢れ出て、そのまま倒れ動かなくなる。
斬りかかった男は息が荒く、血で汚れた刀を床に落とし、その場に崩れ落ち頭を支えるようにうずくまってしまった。
『千鶴……千鶴。俺は、どうすれば……。許せない、許せない。許せない許せない許せない許せないユルセナイユルセナイユルセナイ──殺し尽くしてやる』
男が叫ぶように言うと、勢いよく顔を上げた。その顔は、先程お兄さんに足を切られ絶命した男と、まったく一緒──
※
「──ね。──りん──ね。輪廻!!」
「っん。あれ、私……」
あれ。私……。いつの間に寝ていたのか。いや、気絶していたの方が正しい気がする。彰一が私の体を揺らし起こしてくれた。
「彰一……っ!!」
っ!! 頭が、痛い。それに、耳鳴りも酷い。早く治まってくれないと、また気絶する。
「輪廻。大丈夫か?」
「あ、きひと……」
彰一もまだ体調は戻っていないみたい。額から大粒の汗が流れてるし、顔色も青い。それでも冷静な口調で私に声をかけてくれたみたい。こういう所は優しいんだよなぁ。
「うん、大丈夫。少し、驚いただけ……」
私の手を握る彰一の手。温かくて、優しい。彰一の手から伝わる優しい温もりに、吐気や頭痛が少しだけ治まってきた。まだ、少し残ってるけど……。
「あ、あれ。まだ解決してないんだ」
「みたいだな。兄弟の仲は相当最悪らしい」
まだ、下で幡羅兄弟が睨み合っている。今にも飛びつこうとしている京夜さんと、蔑むような目で見下ろしている京希さん。二人の空気がここまで伝わってくる。少しでも動いたら私まで殺されそう。
体に突き刺さる殺気。どちらかが動けば、この張り巡らされている緊張の糸がぷつりと切れるだろう。その時はもう、ここは血の海になる。そんな、気がする。
「……なぜ殺した」
「それしか方法はないだろう? 殺すのが一番早いじゃないか」
「まだあるかもしれねぇだろうが。それに、恨呪はまだ謎が多い。今回も予想外のことが起きた。殺す他に方法があるかもしれなかっただろう」
「そんなもん関係ない。弱いから恨みに負けんだよ。制圧ができていない。そんな人間に隊士なんて務まらねぇよ」
な、何この会話。ふざけているの? 弱い? 弱いから隊士は務まらない? 意味がわかんない。
幡羅さんには最初、悪い印象しか無かった。彰一を無駄に怪我させた恨みがある。でも、それ以上に京希さんの方が酷い。
「どっちが百パーセント正しいとかは、僕には分からない」
「っ、なんで? まさか、彰一は京希さんの言葉も正しいと思っているの?」
なんで、彰一はこんな状況でも冷静なの。私の肩に手を置きながら、下の二人を見続け口にするその言葉。正直、理解できない。私には、分からない。
私は京希さんが間違っていると思うし、断言する。
まだ恨呪の謎が多いということは、解明できていない部分があるということ。その部分に助かる道があったかもしれない。
「今はまだ、殺す方法しかないと言っていた。今回の戦闘でそれ以外の方法を見つけられるとも思えない。その場しのぎにしろ、これ以上の被害が出る前に──と、考えられなくはない」
っ。これ以上の、被害を……。
彰一の冷静な口調に、何も返せない。いや、返したかった。でも、出来なかった。
納得出来る部分も、出来ない部分もあるから。
二人の言葉は、どちらも正しくて、間違っている。
「お前の弱い所を教えてやるよ。俺に追いつけない理由をな──」
京希さんの次の言葉……駄目、それはだめ。人に言ってはだめだよ、そんな言葉。あぁ、ダメだ。やっぱり、この人には──死んでもらわないと。
これ以上、人を……被害を増やさないため。これ以上、言葉で殺さないため。私が──俺が──……
「り、んね?」
俺が――……
「「殺さねぇと――……」」
でも、幻覚にしては、憎しみや怒り。悲しみといった負の感情が強く伝わる。幻覚では、ここまで感じないはず。
「お前について、話せる事だけでいい。話してくれ」
彰一が何も言えない私の代わりに、淡々とした口調で聞いてくれた。
「私は……私は裏切ってなど……いない。私の嫁は千鶴一人だ……。許せ……ない。あの男。許せない許せない……ころ、してやる」
その言葉を最後に、憎しみの籠った目に涙を浮かべながら、男は事切れた。目を閉じてしまい、それでも足からの血は止まらずどんどん溢れている。
体は冷たくなっていき、死んでしまったんだと実感してしまう。
「殺してやるって、どういうこと?」
「幡羅さんがなぜこの人を斬らなかったのか。何となくわかったな」
「いやわからん。どういうこと? なんでこの人はこんなに……」
あれ、急に後ろから影が……。
「この男、恨呪になるまで強い恨みを持っちまったらしいなぁ」
って、京希さん。私の声を遮って高みの見物しないでくださいよ。というか、恨呪ってなんですか。私が聞いたことないだけかな。
「恨呪って、なんですかそれ」
あ、彰一も知らないのか。恨呪……。怨呪とはまた違うのかな。
「恨呪とは、人の強い恨みが制御出来ず溢れ出てしまったモノだ。制御出来ない恨みは体から滲み出てしまい、あのように自我を持つ。ここまで育った恨みはどうすることも出来ない。それが今の現状。正直、恨呪については不明な点が多すぎるんだよなぁ。これ以上の情報がない。あ、でも。今回ので一つわかったことがあるねぇ」
「わかった、こと?」
京希さんは淡々と説明してくれてるけど、よく分からない。
恨みが自我を持つなんて……。それって、なんかもう一人の私に似てない?
他にわかったことってなんだろう。
「恨呪は憑依型で、別の奴に移ることが出来るらしいなぁ。それと、移動先も決められていたねぇ、さっきのを見るに。俺や拳銃使いには目を向けずに、輪廻ちゃんに一直線。避けられてしまった為、他に強い恨みを持った隊員に乗り移った──と。おもしろいねぇ」
なんで、顎に手を当て冷静そうに考えているのに、口角は上がっているんですか。
何が楽しいんです? 何が面白いんですか。説明をしてくれるのはすごくありがたいのですが、なんか……。複雑です。
えっと。とりあえず、今聞いた言葉を簡単にまとめると、あの男は強い恨みにより自我が恨呪に乗っ取られた。そして、その恨呪は人と人を移動できる。移動先も、恨呪の意のまま──って、感じかな。
あ。もしかして、私に最初狙いを決めたのは、もう一人の私に反応したってこと?
「シシッ。面白いもんを見れたし……。もうそろ可愛い可愛い弟を救ってやるか。京夜は本当にあまちゃんだからなぁ。俺がやるしかないねぇ」
その言葉を表面上だけで受け取ると、苦労している弟を助けようとしている兄。の、図ができ上がる。でも、今はそのように受け取れない。
今の話を聞くと今回死んでしまった男は、恨みが抑えきれず暴走させてしまった。その恨みが自我を持ち、ただ操られ殺された。そして、その男性を殺した張本人は──
「まっ、待ってくださいお兄さん!!!」
「そこはかわいい感じに京希さん、と呼んでくれねぇのかい?」
「それは無理です、言いたくありません。それより、まさか。また、殺すつもりですか?」
「それしか方法はないからなぁ。だが、京夜は今だ諦めていないみたいだし。まったく世話の焼ける弟だ。しっかりと現実を教えてやるのも、兄である俺の仕事だねぇ。シシッ」
あ、待って、行かないで、まだ殺さなくてもいい方法があるよ!! 絶対にまだ…………あ、うそっ。
ほんの一瞬、少しだけ出だしが遅れただけなのに。もう、下での戦闘が、終わってる……。
隊士の体が真っ二つ。もし、あれがもう一人の私なら問題は無いけど、普通の隊士なら即死だ。もう、動いてない。地面が赤く染まる。
「あ、あぁ……」
気持ち悪い、今まで何度も隊士の死や一般人の死体は見てきた。でも、それは私が弱かったせい。殺した相手は怨呪だ。それで、割り切れる。
でも、今回は違う。今回は怨呪が殺したんじゃない。人間が人間を、殺した。
「てめぇ……」
「遅いんだよ京夜。こういうのは早く殺らないと。ほれ、第三ラウンドが始まるよぉ」
っ、また。隊士から黒いモヤが現れた。今度は、誰を……。
「さて、浄化するか」
お兄さんが懐から癒白玉を取り出し黒いモヤに投げた。あの人、この状況を受けいれ、淡々と作業をしている。いや、割り切れているのではなく、あの人の場合元々人の心がないんだ。
人を人とも思っていない。そんな、冷酷非道な人……。だから、笑いながら人を殺せるし、浄化を流れ作業のように行えるんだ。
「さぁ、浄化するがいい」
ギャァァァァアアアアアアアアア!!!!
っ!!! 耳が痛い! 頭も、体も震える。なに、このけたたましい悲痛の叫び!! 両耳を抑えても聞こえてくる、重く、気持ちの悪い叫び。憎しみや怒り。恨みと言った負の感情が直接脳へと伝わってくる。頭が痛い!!
「っ……。やめて……。お願い、やめて」
聞くに耐えない叫び声、体から力が抜ける。気持ち悪くて、吐き気がする。視界が遠のく――……
※
な、なに。ここ……。何もない空間。真っ暗だ。でも、私の手は見える。ただ暗いだけじゃないんだ。え、いつ私はこんな所に移動したの? 私は確か叫び声で気が遠くなって、それで――……
…………あれ、何だろう。二人の男が強い口調で言い争ってる声が聞こえる。
『お前のせいだ!! お前のせいで俺の嫁が殺された。お前のせいだ!!!』
『いやいや。何を言っているんだよ。千鶴《ちずる》は自分で命を絶ったんだろう? そして、その原因を作ったのはお前だろ? お前が何人も女を作ったからだろう?』
『ふざけるな!!! 俺は千鶴以外の女なんぞに興味はない。お前が変な事ばかりを吹き込んだせいだろう!! 許さねぇぞ。お前を絶対に殺してやる!!!』
『なっ──お前!! それ、ほんとにし──』
男は、懐に小型の刀をしまい込んでいたらしく、「殺してやる」と叫んだ瞬間にもう一人の男に斬りかかった。
右肩から左の腰辺りまで切り込み、血が溢れ出て、そのまま倒れ動かなくなる。
斬りかかった男は息が荒く、血で汚れた刀を床に落とし、その場に崩れ落ち頭を支えるようにうずくまってしまった。
『千鶴……千鶴。俺は、どうすれば……。許せない、許せない。許せない許せない許せない許せないユルセナイユルセナイユルセナイ──殺し尽くしてやる』
男が叫ぶように言うと、勢いよく顔を上げた。その顔は、先程お兄さんに足を切られ絶命した男と、まったく一緒──
※
「──ね。──りん──ね。輪廻!!」
「っん。あれ、私……」
あれ。私……。いつの間に寝ていたのか。いや、気絶していたの方が正しい気がする。彰一が私の体を揺らし起こしてくれた。
「彰一……っ!!」
っ!! 頭が、痛い。それに、耳鳴りも酷い。早く治まってくれないと、また気絶する。
「輪廻。大丈夫か?」
「あ、きひと……」
彰一もまだ体調は戻っていないみたい。額から大粒の汗が流れてるし、顔色も青い。それでも冷静な口調で私に声をかけてくれたみたい。こういう所は優しいんだよなぁ。
「うん、大丈夫。少し、驚いただけ……」
私の手を握る彰一の手。温かくて、優しい。彰一の手から伝わる優しい温もりに、吐気や頭痛が少しだけ治まってきた。まだ、少し残ってるけど……。
「あ、あれ。まだ解決してないんだ」
「みたいだな。兄弟の仲は相当最悪らしい」
まだ、下で幡羅兄弟が睨み合っている。今にも飛びつこうとしている京夜さんと、蔑むような目で見下ろしている京希さん。二人の空気がここまで伝わってくる。少しでも動いたら私まで殺されそう。
体に突き刺さる殺気。どちらかが動けば、この張り巡らされている緊張の糸がぷつりと切れるだろう。その時はもう、ここは血の海になる。そんな、気がする。
「……なぜ殺した」
「それしか方法はないだろう? 殺すのが一番早いじゃないか」
「まだあるかもしれねぇだろうが。それに、恨呪はまだ謎が多い。今回も予想外のことが起きた。殺す他に方法があるかもしれなかっただろう」
「そんなもん関係ない。弱いから恨みに負けんだよ。制圧ができていない。そんな人間に隊士なんて務まらねぇよ」
な、何この会話。ふざけているの? 弱い? 弱いから隊士は務まらない? 意味がわかんない。
幡羅さんには最初、悪い印象しか無かった。彰一を無駄に怪我させた恨みがある。でも、それ以上に京希さんの方が酷い。
「どっちが百パーセント正しいとかは、僕には分からない」
「っ、なんで? まさか、彰一は京希さんの言葉も正しいと思っているの?」
なんで、彰一はこんな状況でも冷静なの。私の肩に手を置きながら、下の二人を見続け口にするその言葉。正直、理解できない。私には、分からない。
私は京希さんが間違っていると思うし、断言する。
まだ恨呪の謎が多いということは、解明できていない部分があるということ。その部分に助かる道があったかもしれない。
「今はまだ、殺す方法しかないと言っていた。今回の戦闘でそれ以外の方法を見つけられるとも思えない。その場しのぎにしろ、これ以上の被害が出る前に──と、考えられなくはない」
っ。これ以上の、被害を……。
彰一の冷静な口調に、何も返せない。いや、返したかった。でも、出来なかった。
納得出来る部分も、出来ない部分もあるから。
二人の言葉は、どちらも正しくて、間違っている。
「お前の弱い所を教えてやるよ。俺に追いつけない理由をな──」
京希さんの次の言葉……駄目、それはだめ。人に言ってはだめだよ、そんな言葉。あぁ、ダメだ。やっぱり、この人には──死んでもらわないと。
これ以上、人を……被害を増やさないため。これ以上、言葉で殺さないため。私が──俺が──……
「り、んね?」
俺が――……
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