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恨呪
優しさと冷たさ
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妖雲堂の会議室。そこには、和音を抜いた妖裁級六人が少年の前で正座をしていた。
「今回は予想外なことが起き続けた。それでも皆、冷静に対処してくれたこと、感謝するよ」
静かな空間を破ったのは、妖殺隊創立者の跡取り、翡翠薫織。優しい口調だが、無表情で冷たい印象。
身長は140で小柄だか、実年齢は十七と。見た目だけでは判断できない。
「これから妖裁級が一人増える。皆で協力し合い、高めあって欲しい」
薫織の言葉に、その場にいる全員が頷き敬意を見せた。
「それから、京夜。今日はここに招かれざる客が来たみたいだけど、誰かわかったかな」
「はい。おそらく、以前から我々が警戒していた人物。上級に所属している樹里彰一かと」
「そうなんだね。目的はまだ分からないけれど、怪しまれないよう気をつけつつ、警戒を続けていこう」
「「「はっ!」」」
※
妖雲堂の訓練場で、いつものように拳銃を構える。前方には壁にかけられている的。中心が赤くなっているから、そこを貫くことが出来れば……。
「────っ」
パン!!
「っ……。やっぱり難しいなぁ」
的の少し右側にそれちゃった。何で当たってくれないんだろう。何が悪いのかわからない。しっかり基礎通りにやっているはずなのに……。
私は刀が得意という訳では無い。かと言って拳銃が得意とかでもない。どちらかと言うと苦手。
拳銃使いはもう一人の私で、戦闘も主にもう一人の私が行っている。
私は転生者で、この世界の住人じゃない。いや、もう一人の私が転生者って言ってたかな。なら、私は一体何者なんだろう。
もう一人の私が本来の私で、今の私は──
「分からない。どうして私は、ここに存在しているんだろう」
私がここに立っている意味は何? 戦闘はもう一人の私に任せているし、妖殺隊としての私は、私じゃない。
私は、存在する価値があるのだろうか。せめて、何か。何かで役に立てれば……。
「…………はぁ、考えていたところで意味なんて──」
「おい」
「っひゃぁぁぁああああ?!?!」
「るっせ!!!」
「いったい!!! あ、彰一」
あ、頭を叩かないでよ! いきなり後ろから声をかけるからじゃん?!
いつ訓練場に来たのよ。しかも、なんで不機嫌丸出しなの彰一……。私がその顔したいんだけど……。
「何やってんだお前」
「いや、ちょっと考え事してて……」
自然と拳銃を握る手が強くなってしまう。
私は彰一にも勝てないし、負けてばっかり。それでも、転生者ってだけで妖殺隊の最後の砦である最強部隊、妖裁級に入ってしまった。
このことはまだ誰にも言っていないし、明かされてもいない。
私の実力がまだまだというのもあるけど、ただの中級がいきなり妖裁級に飛び級だから。その理由も考えなければならないらしい。
もっと力があれば、こんなことで悩まなくてもよかったのに……。
…………ん? いたたたたた?! ちょ、なに?! いきなり右頬を引っ張られたんだけど?! 地味に痛いよその攻撃!!
「いひゃいいひゃい!!」
彰一の手をパシパシ叩いてんのに離す気配見せないじゃん。いや、マジで痛いんだってば!!
「何を悩んでんだか知らねぇが、お前はいつも当たって砕けろ精神だろう。何時でも砕けて来いよ」
っ! いや、そんな真顔で言わないでよ。というか、なんで悩んでいるってわかったのさ。
……いや、さすがに砕かれたくないし。それに、いつも当たって砕けろ精神とか酷くない!?
私はいつでも冷静沈着だから!! いや、時々慌ててしまうけど……。
────ポンッ
「えっ?」
「だから、あまり思い詰めんなよ」
そ、そんな優しい目で見られると、なんか。それに、いきなり頭を撫でてこないでよ。慣れていないみたいだけど。
温かい、優しい。こんな感覚、初めてかもしれない。
いつもなら子供扱いするなと、手を払ってしまっていたけど。今はもっと、撫でてほしい。この温もりを感じていたい。
「それじゃ」
「あっ……うん」
彰一が訓練場を出て行ってしまう。
あれ、私はこの。前に伸ばしてしまった手で、何を掴もうとしたんだろう。何を、求めたんだろう。
『それじゃ』
……~~~~~!!!! もう!! なんなのさぁ!!
思わずその場にしゃがんで顔を隠してしまう。いや、だって。仕方がないじゃない。あんな顔向けられたことないし……。
「ちょっと、ばっかじゃないの。あのアホ」
顔が赤いのが自分でもわかる。頬が熱いしニヤケが止まらない。
「────ばーか」
……でも、ありがとう。
「よし!! 悩んでも仕方がないし、できることをやっていこう!!」
※
彰一は今、輪廻に向けていた微笑みを消し無表情で廊下を歩いていた。
「あと、もう少し──」
先程とは違い妖しく、何かを企んでいるような表情を浮かべながら、彰一は小さく呟き、そのまま姿を消した。
「今回は予想外なことが起き続けた。それでも皆、冷静に対処してくれたこと、感謝するよ」
静かな空間を破ったのは、妖殺隊創立者の跡取り、翡翠薫織。優しい口調だが、無表情で冷たい印象。
身長は140で小柄だか、実年齢は十七と。見た目だけでは判断できない。
「これから妖裁級が一人増える。皆で協力し合い、高めあって欲しい」
薫織の言葉に、その場にいる全員が頷き敬意を見せた。
「それから、京夜。今日はここに招かれざる客が来たみたいだけど、誰かわかったかな」
「はい。おそらく、以前から我々が警戒していた人物。上級に所属している樹里彰一かと」
「そうなんだね。目的はまだ分からないけれど、怪しまれないよう気をつけつつ、警戒を続けていこう」
「「「はっ!」」」
※
妖雲堂の訓練場で、いつものように拳銃を構える。前方には壁にかけられている的。中心が赤くなっているから、そこを貫くことが出来れば……。
「────っ」
パン!!
「っ……。やっぱり難しいなぁ」
的の少し右側にそれちゃった。何で当たってくれないんだろう。何が悪いのかわからない。しっかり基礎通りにやっているはずなのに……。
私は刀が得意という訳では無い。かと言って拳銃が得意とかでもない。どちらかと言うと苦手。
拳銃使いはもう一人の私で、戦闘も主にもう一人の私が行っている。
私は転生者で、この世界の住人じゃない。いや、もう一人の私が転生者って言ってたかな。なら、私は一体何者なんだろう。
もう一人の私が本来の私で、今の私は──
「分からない。どうして私は、ここに存在しているんだろう」
私がここに立っている意味は何? 戦闘はもう一人の私に任せているし、妖殺隊としての私は、私じゃない。
私は、存在する価値があるのだろうか。せめて、何か。何かで役に立てれば……。
「…………はぁ、考えていたところで意味なんて──」
「おい」
「っひゃぁぁぁああああ?!?!」
「るっせ!!!」
「いったい!!! あ、彰一」
あ、頭を叩かないでよ! いきなり後ろから声をかけるからじゃん?!
いつ訓練場に来たのよ。しかも、なんで不機嫌丸出しなの彰一……。私がその顔したいんだけど……。
「何やってんだお前」
「いや、ちょっと考え事してて……」
自然と拳銃を握る手が強くなってしまう。
私は彰一にも勝てないし、負けてばっかり。それでも、転生者ってだけで妖殺隊の最後の砦である最強部隊、妖裁級に入ってしまった。
このことはまだ誰にも言っていないし、明かされてもいない。
私の実力がまだまだというのもあるけど、ただの中級がいきなり妖裁級に飛び級だから。その理由も考えなければならないらしい。
もっと力があれば、こんなことで悩まなくてもよかったのに……。
…………ん? いたたたたた?! ちょ、なに?! いきなり右頬を引っ張られたんだけど?! 地味に痛いよその攻撃!!
「いひゃいいひゃい!!」
彰一の手をパシパシ叩いてんのに離す気配見せないじゃん。いや、マジで痛いんだってば!!
「何を悩んでんだか知らねぇが、お前はいつも当たって砕けろ精神だろう。何時でも砕けて来いよ」
っ! いや、そんな真顔で言わないでよ。というか、なんで悩んでいるってわかったのさ。
……いや、さすがに砕かれたくないし。それに、いつも当たって砕けろ精神とか酷くない!?
私はいつでも冷静沈着だから!! いや、時々慌ててしまうけど……。
────ポンッ
「えっ?」
「だから、あまり思い詰めんなよ」
そ、そんな優しい目で見られると、なんか。それに、いきなり頭を撫でてこないでよ。慣れていないみたいだけど。
温かい、優しい。こんな感覚、初めてかもしれない。
いつもなら子供扱いするなと、手を払ってしまっていたけど。今はもっと、撫でてほしい。この温もりを感じていたい。
「それじゃ」
「あっ……うん」
彰一が訓練場を出て行ってしまう。
あれ、私はこの。前に伸ばしてしまった手で、何を掴もうとしたんだろう。何を、求めたんだろう。
『それじゃ』
……~~~~~!!!! もう!! なんなのさぁ!!
思わずその場にしゃがんで顔を隠してしまう。いや、だって。仕方がないじゃない。あんな顔向けられたことないし……。
「ちょっと、ばっかじゃないの。あのアホ」
顔が赤いのが自分でもわかる。頬が熱いしニヤケが止まらない。
「────ばーか」
……でも、ありがとう。
「よし!! 悩んでも仕方がないし、できることをやっていこう!!」
※
彰一は今、輪廻に向けていた微笑みを消し無表情で廊下を歩いていた。
「あと、もう少し──」
先程とは違い妖しく、何かを企んでいるような表情を浮かべながら、彰一は小さく呟き、そのまま姿を消した。
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