輪廻を周り、恨みを払う刃となれ

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
30 / 44
恨呪

優しさと冷たさ

しおりを挟む
 妖雲堂の会議室。そこには、和音を抜いた妖裁級六人が少年の前で正座をしていた。

「今回は予想外なことが起き続けた。それでも皆、冷静に対処してくれたこと、感謝するよ」

 静かな空間を破ったのは、妖殺隊創立者の跡取り、翡翠薫織ひすいかおる。優しい口調だが、無表情で冷たい印象。
 身長は140で小柄だか、実年齢は十七と。見た目だけでは判断できない。

「これから妖裁級が一人増える。皆で協力し合い、高めあって欲しい」

 薫織の言葉に、その場にいる全員が頷き敬意を見せた。

「それから、京夜。今日はここに招かれざる客が来たみたいだけど、誰かわかったかな」
「はい。おそらく、以前から我々が警戒していた人物。上級に所属しているかと」
「そうなんだね。目的はまだ分からないけれど、怪しまれないよう気をつけつつ、警戒を続けていこう」
「「「はっ!」」」

 ※

 妖雲堂の訓練場で、いつものように拳銃を構える。前方には壁にかけられている的。中心が赤くなっているから、そこを貫くことが出来れば……。

「────っ」

 パン!!

「っ……。やっぱり難しいなぁ」

 的の少し右側にそれちゃった。何で当たってくれないんだろう。何が悪いのかわからない。しっかり基礎通りにやっているはずなのに……。
 
 私は刀が得意という訳では無い。かと言って拳銃が得意とかでもない。どちらかと言うと苦手。
 拳銃使いはもう一人の私で、戦闘も主にもう一人の私が行っている。


 私は転生者で、この世界の住人じゃない。いや、もう一人の私が転生者って言ってたかな。なら、私は一体何者なんだろう。

 もう一人の私が本来の私で、今の私は──

「分からない。どうして私は、ここに存在しているんだろう」

 私がここに立っている意味は何? 戦闘はもう一人の私に任せているし、妖殺隊としての私は、私じゃない。

 私は、存在する価値があるのだろうか。せめて、何か。何かで役に立てれば……。

「…………はぁ、考えていたところで意味なんて──」
「おい」
「っひゃぁぁぁああああ?!?!」
「るっせ!!!」
「いったい!!! あ、彰一」

 あ、頭を叩かないでよ! いきなり後ろから声をかけるからじゃん?! 
 いつ訓練場に来たのよ。しかも、なんで不機嫌丸出しなの彰一……。私がその顔したいんだけど……。

「何やってんだお前」
「いや、ちょっと考え事してて……」

 自然と拳銃を握る手が強くなってしまう。

 私は彰一にも勝てないし、負けてばっかり。それでも、転生者ってだけで妖殺隊の最後の砦である最強部隊、妖裁級に入ってしまった。

 このことはまだ誰にも言っていないし、明かされてもいない。
 私の実力がまだまだというのもあるけど、ただの中級がいきなり妖裁級に飛び級だから。その理由も考えなければならないらしい。
 もっと力があれば、こんなことで悩まなくてもよかったのに……。

 …………ん? いたたたたた?! ちょ、なに?! いきなり右頬を引っ張られたんだけど?! 地味に痛いよその攻撃!!

「いひゃいいひゃい!!」

 彰一の手をパシパシ叩いてんのに離す気配見せないじゃん。いや、マジで痛いんだってば!! 

「何を悩んでんだか知らねぇが、お前はいつも当たって砕けろ精神だろう。何時でも砕けて来いよ」

 っ! いや、そんな真顔で言わないでよ。というか、なんで悩んでいるってわかったのさ。
 ……いや、さすがに砕かれたくないし。それに、いつも当たって砕けろ精神とか酷くない!?

 私はいつでも冷静沈着だから!! いや、時々慌ててしまうけど……。

 ────ポンッ

「えっ?」
「だから、あまり思い詰めんなよ」

 そ、そんな優しい目で見られると、なんか。それに、いきなり頭を撫でてこないでよ。慣れていないみたいだけど。
 温かい、優しい。こんな感覚、初めてかもしれない。

 いつもなら子供扱いするなと、手を払ってしまっていたけど。今はもっと、撫でてほしい。この温もりを感じていたい。

「それじゃ」
「あっ……うん」

 彰一が訓練場を出て行ってしまう。

 あれ、私はこの。前に伸ばしてしまった手で、何を掴もうとしたんだろう。何を、求めたんだろう。




『それじゃ』





 ……~~~~~!!!! もう!! なんなのさぁ!!
 思わずその場にしゃがんで顔を隠してしまう。いや、だって。仕方がないじゃない。あんな顔向けられたことないし……。

「ちょっと、ばっかじゃないの。あのアホ」

 顔が赤いのが自分でもわかる。頬が熱いしニヤケが止まらない。

「────ばーか」

 ……でも、ありがとう。

「よし!! 悩んでも仕方がないし、できることをやっていこう!!」

 ※

 彰一は今、輪廻に向けていた微笑みを消し無表情で廊下を歩いていた。

「あと、もう少し──」

 先程とは違い妖しく、何かを企んでいるような表情を浮かべながら、彰一は小さく呟き、そのまま姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...