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佐々木美鈴
第十七話 慣れない信頼感
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唖然とドアを見ていると、カクリがドアの影に立っているのが見えた。
おそらく、カクリが人の気配を感じ、開けたのだろう。
「な、なんで!?」
いきなり、先ほど酷いことを言ってしまった友人が現れ、美鈴は勢いよく立ち上がり叫ぶ。
変わらず笑みを浮かべている明人と鈴を、交互に見た。
「林から気配を感じまして。どうせならお二人のお悩みを解決しようと思ったのですよ」
「そんな、人の悩みを簡単に……」
明人の言葉に少し怒りが芽生えた美鈴は、反論しようと口を開くが隣に立つ鈴は何も言わない。
この状況に困惑しており、視線をさ迷わせていた。
鈴の心境を理解した明人は、カクリを見る。
だが、カクリはなぜ見られてるのかわからず首を傾げた。
二人の通じ合わない想いに、外から見ていたレーツェルは笑いながらもカクリへと近づいた。
頭を撫でると頭に直接声が届く。
『カクリも、人間の心に意識を向けるんだ。理解しなくていい、言葉だけでも寄り添うのだ』
頭の中で伝えると、レーツェルは鈴の隣へと歩く。
狐面を付けている妖しい青年に近づかれ、鈴は体を強張らせた。
「ちょっと!! 鈴に変なっことをしないで!!」
鈴が危険な目に合う。そう思い、美鈴の身体は勝手に動いた。
ソファーから駆け出し、レーツェルと鈴の間に割り込む。
まるで、鈴を守るような美鈴の咄嗟の行動に、鈴は目を大きく見開いた。
「――――では、お二人とも、こちらへ」
明人が収拾がつかなくなってきた空気をまとめるように、ソファーを差し二人を促した。
顔を見合わせながらも、二人は言われるがままにソファーへと座った。
「武田さんは、少々お付き合いいただく形となります。お時間は大丈夫でしょうか?」
「は、はい……」
明人の言葉が理解出来てはいないが、鈴は怯えながらも頷いた。
美鈴は、鈴に何をさせるのかと、明人に疑ったような視線を向ける。
その視線が面白く、明人は気づかれないようににやりと笑った。
「あ、あの?」
「なんでもありません」
鈴に呼ばれ、明人はすぐに仮面のような紳士的な笑みを張り付けた。
「では、さっそく、失礼しますね」
明人は立ちあがり、ポケットに手を入れる。
そこから取り出したのは、小瓶。中には、液体に浸かっている一輪の黄色い花が、キラキラと輝きを放っていた。
花の種類までは、見ただけでは二人にはわからない。
コスモスのようにも見える花の入った小瓶を、明人は二人へと近づかせた。
「あ、あの?」
「では、ここから始めますね。私に貴方達のすべてを、お委ね下さい」
言うと、小瓶をキュポンと開ける。
すると、そこから甘い匂いがふわりと溢れ、小屋へと広がった。
いい香りがすると思った瞬間二人は急に、抗えないほどの睡魔に襲われ夢の中へと入った。
ソファーへと寄りかかるように寝た二人を見て、明人は本当に寝たかを確認するため、頬をペチペチと叩く。
起きる気配はないことを確認すると、ふぅーと、大きな息を吐き出した。
「たく、めんどくせぇー」
「だが、いい感じに丸め込めたな」
レーツェルが狐面を外し、ケラケラと笑いながら明人を見下ろした。
「おめー、掻きまわして楽しいか?」
「あそこまで驚かれるとは思っていなかったのだ。流石に悲しい……」
わざとらしく嘘泣きをするレーツェルを無視し、明人はカクリを見た。
「んじゃ、ここからはお前の番だが、出来るか?」
明人に問いかけられたカクリは、ポンと狐の耳と二本の尾を出す。
準備は出来ているが、不安は拭えていない。
「出来るかはわからん。やってみてだ」
「失敗するなよ」
「……………………」
「おい」
顔を背け、カクリは明人の視線から逃げる。
自信がないのが一目でわかり、明人はまたしても深い溜息を吐いた。
レーツェルも、このままでは術が上手くいかないと懸念し肩を落とす。
「…………まぁ、カクリがなにか不都合を起こしたとて、今は俺がいる。それに、人間も多少は関与できる空間のはずだ。お互い信頼し合いながら行えば特に問題はないだろう」
明人とカクリを見て、レーツェルは言い切った。
二人は顔を見合わせ、苦い顔を浮かべる。
まだ、二人がお互いに慣れていないだけだというのはわかっているレーツェルは、やれやれとため息を吐きながら、カクリの頭を撫でた。
「ほれ、時間がないぞ。早くせんと、眠り花の効果が薄れてしまう」
明人が二人に嗅がせたのは、強制的に人を眠らせることが出来る眠り花。
二人が眠っている間に記憶を覗き、心へと言葉を訴える算段なため、眠り花は必需品だ。
訴えるのは、直接相手と話せるカクリ。
人間の心が理解出来ていないカクリが、二人の心に届く言葉を訴えられるのかが不安の種となっていた。
それは、明人も同様。
明人も、人の気持ちをすべて理解できておらず、正直、なぜ、二人がここまで仲たがいしているのか、話を聞いても理解が出来ていなかった。
「…………まぁ、もうここまでしたらやる以外の選択肢はねぇーんだ。さっさと終わらせるぞ」
「し、しかし……」
「安心しろ、失敗してもどうにかしてやる。こんな餓鬼、言いくるめるくらい簡単だ」
明人の言葉に、カクリは呆れてしまった。
だが、彼の言う通り、もう引き返せない。
今はもう、この男を信じるしかない。
この、人間に捨てられ、妖に拾われた男を。
「では、今回は特別に、俺も手を加えよう」
「何をするつもりだ?」
「人間は特にやることは変わらん。カクリも、思っていることを伝えればよい。ただ、マイナスなことではなく、プラスな発言を心がけるのだぞ」
レーツェルは二人を見て、ニヤリと笑った。
明人はげんなりし、カクリは首を傾げる。
そんなバラバラな二人の反応を無視しつつ、レーツェルは鈴の頭に手を添えた。
「ほれ、早くやるのだ。やり方は、わかっておるな? いや、刻まれていると言った方が良いか」
「改めて言い換えるのマジでめんどくせぇな。どっちでもいいわ。とりあえず。これを使えばいいんだろう」
言いながら、今まで藍色の前髪で隠していた左目を現した。
隠れていたのは、漆黒の瞳と、刻まれるように光る、赤い五芒星だった。
「そうだ。それは、俺の力を宿したという刻印であり、力を使う際の媒体。大事にするのだぞ」
「目なんだから、大事にしない訳にはいかんだろう」
なに言ってんだというような口調で反論しつつ、明人は美鈴へと手を伸ばした。
「なにかあれば、必ず拾い上げろよな」
「わかっている。さぁ、俺を信じて入るがよい」
ニヤニヤと笑っているレーツェルを、どうしても信じられない。
だが、もうやるしかないと決めた明人は、睨みながらも右目を閉じた。
すると、なぜか急に左目に刻まれている赤い五芒星が強い光を放ち始めた。
だが、明人に変化はない。
「明人?」
カクリが声をかけるが、返答はない。
いつもは憎まれ口の一つは飛んでくるのにと思い、カクリは不思議そうにレーツェルを見上げた。
「美鈴の夢へと入ったのだ。あともう少しで、カクリが入る空間を人間が作り出す」
「それは、わかるものなのでしょうか?」
「わかるようになる。それに、人間も慣れればすぐに作り出せる。今だけだ、考えなければならないのは」
レーツェルは、普段から飄々としている。
発する言葉が真実なのか嘘なのか簡単には判別できないくらいに、いつでも平然と物事を口にする。
だが、今回のような事態では、レーツェルであれど嘘は言わない。
それだけは、カクリも長くレーツェルと共にいてわかっていた。
「お願いします」
「カクリも、頑張れよ」
カクリは両手を二人の頭にかざした。
すると淡い光が現れ、カクリは目を閉じる。
呼吸は一定、カクリも明人と同様に夢の中へと入って行った。
おそらく、カクリが人の気配を感じ、開けたのだろう。
「な、なんで!?」
いきなり、先ほど酷いことを言ってしまった友人が現れ、美鈴は勢いよく立ち上がり叫ぶ。
変わらず笑みを浮かべている明人と鈴を、交互に見た。
「林から気配を感じまして。どうせならお二人のお悩みを解決しようと思ったのですよ」
「そんな、人の悩みを簡単に……」
明人の言葉に少し怒りが芽生えた美鈴は、反論しようと口を開くが隣に立つ鈴は何も言わない。
この状況に困惑しており、視線をさ迷わせていた。
鈴の心境を理解した明人は、カクリを見る。
だが、カクリはなぜ見られてるのかわからず首を傾げた。
二人の通じ合わない想いに、外から見ていたレーツェルは笑いながらもカクリへと近づいた。
頭を撫でると頭に直接声が届く。
『カクリも、人間の心に意識を向けるんだ。理解しなくていい、言葉だけでも寄り添うのだ』
頭の中で伝えると、レーツェルは鈴の隣へと歩く。
狐面を付けている妖しい青年に近づかれ、鈴は体を強張らせた。
「ちょっと!! 鈴に変なっことをしないで!!」
鈴が危険な目に合う。そう思い、美鈴の身体は勝手に動いた。
ソファーから駆け出し、レーツェルと鈴の間に割り込む。
まるで、鈴を守るような美鈴の咄嗟の行動に、鈴は目を大きく見開いた。
「――――では、お二人とも、こちらへ」
明人が収拾がつかなくなってきた空気をまとめるように、ソファーを差し二人を促した。
顔を見合わせながらも、二人は言われるがままにソファーへと座った。
「武田さんは、少々お付き合いいただく形となります。お時間は大丈夫でしょうか?」
「は、はい……」
明人の言葉が理解出来てはいないが、鈴は怯えながらも頷いた。
美鈴は、鈴に何をさせるのかと、明人に疑ったような視線を向ける。
その視線が面白く、明人は気づかれないようににやりと笑った。
「あ、あの?」
「なんでもありません」
鈴に呼ばれ、明人はすぐに仮面のような紳士的な笑みを張り付けた。
「では、さっそく、失礼しますね」
明人は立ちあがり、ポケットに手を入れる。
そこから取り出したのは、小瓶。中には、液体に浸かっている一輪の黄色い花が、キラキラと輝きを放っていた。
花の種類までは、見ただけでは二人にはわからない。
コスモスのようにも見える花の入った小瓶を、明人は二人へと近づかせた。
「あ、あの?」
「では、ここから始めますね。私に貴方達のすべてを、お委ね下さい」
言うと、小瓶をキュポンと開ける。
すると、そこから甘い匂いがふわりと溢れ、小屋へと広がった。
いい香りがすると思った瞬間二人は急に、抗えないほどの睡魔に襲われ夢の中へと入った。
ソファーへと寄りかかるように寝た二人を見て、明人は本当に寝たかを確認するため、頬をペチペチと叩く。
起きる気配はないことを確認すると、ふぅーと、大きな息を吐き出した。
「たく、めんどくせぇー」
「だが、いい感じに丸め込めたな」
レーツェルが狐面を外し、ケラケラと笑いながら明人を見下ろした。
「おめー、掻きまわして楽しいか?」
「あそこまで驚かれるとは思っていなかったのだ。流石に悲しい……」
わざとらしく嘘泣きをするレーツェルを無視し、明人はカクリを見た。
「んじゃ、ここからはお前の番だが、出来るか?」
明人に問いかけられたカクリは、ポンと狐の耳と二本の尾を出す。
準備は出来ているが、不安は拭えていない。
「出来るかはわからん。やってみてだ」
「失敗するなよ」
「……………………」
「おい」
顔を背け、カクリは明人の視線から逃げる。
自信がないのが一目でわかり、明人はまたしても深い溜息を吐いた。
レーツェルも、このままでは術が上手くいかないと懸念し肩を落とす。
「…………まぁ、カクリがなにか不都合を起こしたとて、今は俺がいる。それに、人間も多少は関与できる空間のはずだ。お互い信頼し合いながら行えば特に問題はないだろう」
明人とカクリを見て、レーツェルは言い切った。
二人は顔を見合わせ、苦い顔を浮かべる。
まだ、二人がお互いに慣れていないだけだというのはわかっているレーツェルは、やれやれとため息を吐きながら、カクリの頭を撫でた。
「ほれ、時間がないぞ。早くせんと、眠り花の効果が薄れてしまう」
明人が二人に嗅がせたのは、強制的に人を眠らせることが出来る眠り花。
二人が眠っている間に記憶を覗き、心へと言葉を訴える算段なため、眠り花は必需品だ。
訴えるのは、直接相手と話せるカクリ。
人間の心が理解出来ていないカクリが、二人の心に届く言葉を訴えられるのかが不安の種となっていた。
それは、明人も同様。
明人も、人の気持ちをすべて理解できておらず、正直、なぜ、二人がここまで仲たがいしているのか、話を聞いても理解が出来ていなかった。
「…………まぁ、もうここまでしたらやる以外の選択肢はねぇーんだ。さっさと終わらせるぞ」
「し、しかし……」
「安心しろ、失敗してもどうにかしてやる。こんな餓鬼、言いくるめるくらい簡単だ」
明人の言葉に、カクリは呆れてしまった。
だが、彼の言う通り、もう引き返せない。
今はもう、この男を信じるしかない。
この、人間に捨てられ、妖に拾われた男を。
「では、今回は特別に、俺も手を加えよう」
「何をするつもりだ?」
「人間は特にやることは変わらん。カクリも、思っていることを伝えればよい。ただ、マイナスなことではなく、プラスな発言を心がけるのだぞ」
レーツェルは二人を見て、ニヤリと笑った。
明人はげんなりし、カクリは首を傾げる。
そんなバラバラな二人の反応を無視しつつ、レーツェルは鈴の頭に手を添えた。
「ほれ、早くやるのだ。やり方は、わかっておるな? いや、刻まれていると言った方が良いか」
「改めて言い換えるのマジでめんどくせぇな。どっちでもいいわ。とりあえず。これを使えばいいんだろう」
言いながら、今まで藍色の前髪で隠していた左目を現した。
隠れていたのは、漆黒の瞳と、刻まれるように光る、赤い五芒星だった。
「そうだ。それは、俺の力を宿したという刻印であり、力を使う際の媒体。大事にするのだぞ」
「目なんだから、大事にしない訳にはいかんだろう」
なに言ってんだというような口調で反論しつつ、明人は美鈴へと手を伸ばした。
「なにかあれば、必ず拾い上げろよな」
「わかっている。さぁ、俺を信じて入るがよい」
ニヤニヤと笑っているレーツェルを、どうしても信じられない。
だが、もうやるしかないと決めた明人は、睨みながらも右目を閉じた。
すると、なぜか急に左目に刻まれている赤い五芒星が強い光を放ち始めた。
だが、明人に変化はない。
「明人?」
カクリが声をかけるが、返答はない。
いつもは憎まれ口の一つは飛んでくるのにと思い、カクリは不思議そうにレーツェルを見上げた。
「美鈴の夢へと入ったのだ。あともう少しで、カクリが入る空間を人間が作り出す」
「それは、わかるものなのでしょうか?」
「わかるようになる。それに、人間も慣れればすぐに作り出せる。今だけだ、考えなければならないのは」
レーツェルは、普段から飄々としている。
発する言葉が真実なのか嘘なのか簡単には判別できないくらいに、いつでも平然と物事を口にする。
だが、今回のような事態では、レーツェルであれど嘘は言わない。
それだけは、カクリも長くレーツェルと共にいてわかっていた。
「お願いします」
「カクリも、頑張れよ」
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