18 / 43
佐々木美鈴
第十八話 夢の中
しおりを挟む
美鈴は、浮遊感に襲われ目を覚ました。
立たされていた空間は真っ暗で、何も見えない。
いや、見えないのではなく、本当に何もない。
壁も床も。生活するうえで欠かせない、あって当たり前なものが存在しない。
「な、何が、起きているの?」
思わず出た美鈴の声が、辺りに反響した。
遠くまで声が響き、なんとなく恥ずかしい。
周りを見回し、恐る恐る足を前に一歩、出してみる。
だが、足音は響かない。
なにかを踏んでいるような感覚もない。
スカッと、踏み外したような感覚でふらついてしまった。
「な、なに、ここ……」
小さな声も反響し、自分の声に包まれた。
頭が混乱し、何も考えられない。
そんな時、淡い光が後ろに灯る。
気配に気づき、美鈴は勢いよく振り返った。
丸く淡い光が視界に入った。
怖くて、逃げたい。だが、動けない、目を離せない。
その光は、徐々に大きくなる。
自分に近付いてきているのはわかる。
近づけば近づく程、その光の温かさが伝わり、怖さが和らいでいく。
真っ暗な空間から抜け出せるかもしれないと、縋りたくなるような光。
動けず、近づいて来る光を見続ける。
すると、その光が小屋で出会った少年であることが認識できた。
「あっ――え?」
その少年は、小屋にいた時とは少しだけ異なっていた。
耳は狐のように三角で、少年の背中では二本の太い尾がゆらゆらと揺れている。
「き、君は……」
美鈴の目の前に現れたのは、明人の小屋にいた少年のカクリだった。
困っている表情を浮かべる美鈴を見ても、カクリの表情に変化はなかった。。
怒っている訳でも、笑っている訳でもない。
ただ、美鈴を見上げるのみだった。
「え、えぇっと……」
何を聞けばいいのかわからず、美鈴は頭をひねった。
カクリは、美鈴の困惑など気にせず、さっそく本題へと入った。
「君は、何に悩んでいたんだい?」
「え? えっと、小屋の中で話していたと思うのだけど……」
自分の言葉に、ハッとなる。
「そ、そういえば、私、なんでこんな所にいるの? 貴方は、何者なの? なんで、こんな事態になっているの!? 私の身に何が起きているの!? 私は――……」
「私が先に質問しているんだが?」
美鈴から次々と出てくる問いを、カクリは不機嫌そうに遮った。
じぃ~と、大きな漆黒の瞳で見られてしまい、美鈴は息を飲み、言い返せない。
「だ、だから、小屋の中で話して……」
「なぜ、柊と言う人間にいじめを受けている?」
カクリからの質問が直球で、美鈴の頭に冷や水がかかったかのような感覚に陥る。
体全体が冷たくなり、自然と震える。
唇が上手く動かず、答えられない。
「答えられんのかい?」
カクリは、純粋に聞いていた。
だからこそ、何故ここまで美鈴が取り乱しているのか分からない。
首を傾げつつ、焦らせるようなことはせず美鈴の返答を待つ。
気まずい空気になり、耐えられなくなった美鈴が重たい口を開いた。
「そ、そんなこと、分かるわけがない。私は、何もしていないんだから」
本当に、美鈴は何もしていない。
ただ、絵を描いていただけ。コンテストに参加しただけ。
まさか、コンテストに立候補しただけで、ここまで関係性が悪化するなんて誰が想像出来るだろうか。
それも、学校一の秀才である柊からだ。
「わかった。では、さっきの君の質問に答えよう」
「っ、え、質問?」
ここまであっさり引き下がると思っておらず、目を丸くした。
「さきほど、君はここはどこだと問うた。もう答えは求めていないのかい?」
「あっ、い、いえ。お願い、します」
自分が質問したことすら忘れるほどに取り乱しており、少し恥ずかしくなってしまった。
「まず。ここは、君の夢の中だと考えてくれたまえ」
「夢……?」
「その方がわかりやすい。そして、今。私らは君の夢の中に入っている状態だ」
普通なら、そんなことできるわけが無いとここで強く言い返してしまう。
だが、なんとなく嘘を言っているようには見えず、言葉の続きを待った。
「そして、ここからが私らのやるべきこと。後ろを見てみるといい」
振り向くと同時に強い光が急に闇に現れ、思わず目を閉じてしまった。
立たされていた空間は真っ暗で、何も見えない。
いや、見えないのではなく、本当に何もない。
壁も床も。生活するうえで欠かせない、あって当たり前なものが存在しない。
「な、何が、起きているの?」
思わず出た美鈴の声が、辺りに反響した。
遠くまで声が響き、なんとなく恥ずかしい。
周りを見回し、恐る恐る足を前に一歩、出してみる。
だが、足音は響かない。
なにかを踏んでいるような感覚もない。
スカッと、踏み外したような感覚でふらついてしまった。
「な、なに、ここ……」
小さな声も反響し、自分の声に包まれた。
頭が混乱し、何も考えられない。
そんな時、淡い光が後ろに灯る。
気配に気づき、美鈴は勢いよく振り返った。
丸く淡い光が視界に入った。
怖くて、逃げたい。だが、動けない、目を離せない。
その光は、徐々に大きくなる。
自分に近付いてきているのはわかる。
近づけば近づく程、その光の温かさが伝わり、怖さが和らいでいく。
真っ暗な空間から抜け出せるかもしれないと、縋りたくなるような光。
動けず、近づいて来る光を見続ける。
すると、その光が小屋で出会った少年であることが認識できた。
「あっ――え?」
その少年は、小屋にいた時とは少しだけ異なっていた。
耳は狐のように三角で、少年の背中では二本の太い尾がゆらゆらと揺れている。
「き、君は……」
美鈴の目の前に現れたのは、明人の小屋にいた少年のカクリだった。
困っている表情を浮かべる美鈴を見ても、カクリの表情に変化はなかった。。
怒っている訳でも、笑っている訳でもない。
ただ、美鈴を見上げるのみだった。
「え、えぇっと……」
何を聞けばいいのかわからず、美鈴は頭をひねった。
カクリは、美鈴の困惑など気にせず、さっそく本題へと入った。
「君は、何に悩んでいたんだい?」
「え? えっと、小屋の中で話していたと思うのだけど……」
自分の言葉に、ハッとなる。
「そ、そういえば、私、なんでこんな所にいるの? 貴方は、何者なの? なんで、こんな事態になっているの!? 私の身に何が起きているの!? 私は――……」
「私が先に質問しているんだが?」
美鈴から次々と出てくる問いを、カクリは不機嫌そうに遮った。
じぃ~と、大きな漆黒の瞳で見られてしまい、美鈴は息を飲み、言い返せない。
「だ、だから、小屋の中で話して……」
「なぜ、柊と言う人間にいじめを受けている?」
カクリからの質問が直球で、美鈴の頭に冷や水がかかったかのような感覚に陥る。
体全体が冷たくなり、自然と震える。
唇が上手く動かず、答えられない。
「答えられんのかい?」
カクリは、純粋に聞いていた。
だからこそ、何故ここまで美鈴が取り乱しているのか分からない。
首を傾げつつ、焦らせるようなことはせず美鈴の返答を待つ。
気まずい空気になり、耐えられなくなった美鈴が重たい口を開いた。
「そ、そんなこと、分かるわけがない。私は、何もしていないんだから」
本当に、美鈴は何もしていない。
ただ、絵を描いていただけ。コンテストに参加しただけ。
まさか、コンテストに立候補しただけで、ここまで関係性が悪化するなんて誰が想像出来るだろうか。
それも、学校一の秀才である柊からだ。
「わかった。では、さっきの君の質問に答えよう」
「っ、え、質問?」
ここまであっさり引き下がると思っておらず、目を丸くした。
「さきほど、君はここはどこだと問うた。もう答えは求めていないのかい?」
「あっ、い、いえ。お願い、します」
自分が質問したことすら忘れるほどに取り乱しており、少し恥ずかしくなってしまった。
「まず。ここは、君の夢の中だと考えてくれたまえ」
「夢……?」
「その方がわかりやすい。そして、今。私らは君の夢の中に入っている状態だ」
普通なら、そんなことできるわけが無いとここで強く言い返してしまう。
だが、なんとなく嘘を言っているようには見えず、言葉の続きを待った。
「そして、ここからが私らのやるべきこと。後ろを見てみるといい」
振り向くと同時に強い光が急に闇に現れ、思わず目を閉じてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする
九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる