匣 -閉じ込められた感情、伝わらない想い-

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
38 / 43
柊夏

第三十八話 願いを込めて

しおりを挟む
 それから、数週間の時が経過した。
 柊は、変わらず病院で寝ている。

 そのため、コンテストへ参加できないと顧問は悲しそうに言っていた。
 柊が起きるのを待っていたい。顧問含め部員全員がそう思っていた。

 けれど、コンテストは待ってくれない。
 顧問もわかっている為、期限は伸ばさず最初から決められていた期日で提出するようにと伝えていた。

 そして、今日がその提出日。

 顧問と副顧問は、三年生だろうが一年生だろうが関係なく、技術とセンスで決める。

 提出してから二週間で、コンテストに出す作品が決まってしまう。

 二週間は、普通に生活していれば短く感じる期間だ。
 だが、なにかを待っている時の二週間は、普段より倍の長さを感じてしまう。

 作品を提出してから一週間経った頃、先に限界を迎えたのは鈴だった。

「美鈴~。早く、早くとどめを刺して~」

「なに物騒なことを言っているのさ」

 教室で机に項垂れている鈴の頭をポコンと軽く叩くと、ゆっくりと顔を上げた。

「だってさ~」

「泣きそうになってんじゃん。でも、私も同じだよ。早くとどめを刺してほしい」

「なに物騒なことを言っているのさ」

「あんたと同じことだよ!!」

 鈴のボケに突っ込んでいると、以前一緒に公園に向かった鈴の友人二人が近づいて来た。

「二人して辛気臭い顔をしているね。命でも懸けてるの~?」

「命と同じものは賭けているよ……」

「同じく……」

「芸術家ってこわ~」

 前までは、美鈴は上手く話せず鈴の友人とは距離を取りながら接していた。

 だが、今は鈴が積極的に美鈴にも声をかけ、その波に乗り友人達も美鈴に話しかけるようになった。

 美鈴も声をかけてくれることが多くなり慣れてきて、最近では四人でいることが多くなった。

 友達が増えたことは嬉しいし、美鈴も楽しい。
 けれど、まだ解決はしていない。
 まだ、心に残っている人がいる。

「そんなに気に病んでいるのなら、今日気晴らしに放課後、四人で遊びに行かない?」

 一人が提案してくれたが、美鈴と鈴には放課後、行かなければならない場所があった。

「あー、それはごめん。私達、部活がない放課後は、行く所があるんだよね」

 鈴が「ごめん!」と手を合わせ謝る。
 美鈴も、同じく頭を下げた。

「いや、別にそこまで謝らなくていいけど……。あまり気に病まないでね。なにかあれば付き合うからさ」

「それじゃね」と、友人二人はいなくなる。
 放課後行く所は、一つだけ。

 二人は学校が終わり、いつもの病院へと向かった。
 受付へと向かい、案内される。

 柊のいる、病室へ。

「それにしても、美鈴はもう入れてもらえないと思っていたよ」

「わ、私も……」

 美鈴は、初めて向かった時に騒ぎを起こしてしまった。

 そのため、二回目は断られてしまった。
 鈴が何度も何度も頭を下げ大丈夫だと訴えたことで、二度目はないと釘を刺されつつもお見舞いに行くことが許された。

 空笑いを浮かべながら歩いていると、すぐに柊の眠る部屋へと辿り着いた。
 ガラガラとドアを開けると、気持ちの良い風が頬を撫でた。

 病室の窓が開いており、白いカーテンが揺れている。

 いつもと同じ光景。
 電動ベットが柊の身体を起こしている姿も、同じ。

 悲しそうに笑みを浮かべながら、二人は柊が眠るベッドの隣に椅子を置き、座った。

「柊先輩、今日は抜き打ちテストがあったんですよ」

 そこからは、学校であった出来事を話す。

 聞いてはいない、そう思っているが二人は楽しそうに話を続ける。
 会話を続ける。

 感情の灯を燃え上がらせる。
 声をかけ続ける。数年かかっても、絶対に通い続け、話しかける。

 もう少しいい方法があるかもしれないと考えたが今は焦らずに、日常を柊にも味わってほしい。

 そう思いながら、週に一回は病院へと来ていた。

 柊が必ず目を覚ます、そう信じて――……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...