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柊夏
第三十八話 願いを込めて
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それから、数週間の時が経過した。
柊は、変わらず病院で寝ている。
そのため、コンテストへ参加できないと顧問は悲しそうに言っていた。
柊が起きるのを待っていたい。顧問含め部員全員がそう思っていた。
けれど、コンテストは待ってくれない。
顧問もわかっている為、期限は伸ばさず最初から決められていた期日で提出するようにと伝えていた。
そして、今日がその提出日。
顧問と副顧問は、三年生だろうが一年生だろうが関係なく、技術とセンスで決める。
提出してから二週間で、コンテストに出す作品が決まってしまう。
二週間は、普通に生活していれば短く感じる期間だ。
だが、なにかを待っている時の二週間は、普段より倍の長さを感じてしまう。
作品を提出してから一週間経った頃、先に限界を迎えたのは鈴だった。
「美鈴~。早く、早くとどめを刺して~」
「なに物騒なことを言っているのさ」
教室で机に項垂れている鈴の頭をポコンと軽く叩くと、ゆっくりと顔を上げた。
「だってさ~」
「泣きそうになってんじゃん。でも、私も同じだよ。早くとどめを刺してほしい」
「なに物騒なことを言っているのさ」
「あんたと同じことだよ!!」
鈴のボケに突っ込んでいると、以前一緒に公園に向かった鈴の友人二人が近づいて来た。
「二人して辛気臭い顔をしているね。命でも懸けてるの~?」
「命と同じものは賭けているよ……」
「同じく……」
「芸術家ってこわ~」
前までは、美鈴は上手く話せず鈴の友人とは距離を取りながら接していた。
だが、今は鈴が積極的に美鈴にも声をかけ、その波に乗り友人達も美鈴に話しかけるようになった。
美鈴も声をかけてくれることが多くなり慣れてきて、最近では四人でいることが多くなった。
友達が増えたことは嬉しいし、美鈴も楽しい。
けれど、まだ解決はしていない。
まだ、心に残っている人がいる。
「そんなに気に病んでいるのなら、今日気晴らしに放課後、四人で遊びに行かない?」
一人が提案してくれたが、美鈴と鈴には放課後、行かなければならない場所があった。
「あー、それはごめん。私達、部活がない放課後は、行く所があるんだよね」
鈴が「ごめん!」と手を合わせ謝る。
美鈴も、同じく頭を下げた。
「いや、別にそこまで謝らなくていいけど……。あまり気に病まないでね。なにかあれば付き合うからさ」
「それじゃね」と、友人二人はいなくなる。
放課後行く所は、一つだけ。
二人は学校が終わり、いつもの病院へと向かった。
受付へと向かい、案内される。
柊のいる、病室へ。
「それにしても、美鈴はもう入れてもらえないと思っていたよ」
「わ、私も……」
美鈴は、初めて向かった時に騒ぎを起こしてしまった。
そのため、二回目は断られてしまった。
鈴が何度も何度も頭を下げ大丈夫だと訴えたことで、二度目はないと釘を刺されつつもお見舞いに行くことが許された。
空笑いを浮かべながら歩いていると、すぐに柊の眠る部屋へと辿り着いた。
ガラガラとドアを開けると、気持ちの良い風が頬を撫でた。
病室の窓が開いており、白いカーテンが揺れている。
いつもと同じ光景。
電動ベットが柊の身体を起こしている姿も、同じ。
悲しそうに笑みを浮かべながら、二人は柊が眠るベッドの隣に椅子を置き、座った。
「柊先輩、今日は抜き打ちテストがあったんですよ」
そこからは、学校であった出来事を話す。
聞いてはいない、そう思っているが二人は楽しそうに話を続ける。
会話を続ける。
感情の灯を燃え上がらせる。
声をかけ続ける。数年かかっても、絶対に通い続け、話しかける。
もう少しいい方法があるかもしれないと考えたが今は焦らずに、日常を柊にも味わってほしい。
そう思いながら、週に一回は病院へと来ていた。
柊が必ず目を覚ます、そう信じて――……
柊は、変わらず病院で寝ている。
そのため、コンテストへ参加できないと顧問は悲しそうに言っていた。
柊が起きるのを待っていたい。顧問含め部員全員がそう思っていた。
けれど、コンテストは待ってくれない。
顧問もわかっている為、期限は伸ばさず最初から決められていた期日で提出するようにと伝えていた。
そして、今日がその提出日。
顧問と副顧問は、三年生だろうが一年生だろうが関係なく、技術とセンスで決める。
提出してから二週間で、コンテストに出す作品が決まってしまう。
二週間は、普通に生活していれば短く感じる期間だ。
だが、なにかを待っている時の二週間は、普段より倍の長さを感じてしまう。
作品を提出してから一週間経った頃、先に限界を迎えたのは鈴だった。
「美鈴~。早く、早くとどめを刺して~」
「なに物騒なことを言っているのさ」
教室で机に項垂れている鈴の頭をポコンと軽く叩くと、ゆっくりと顔を上げた。
「だってさ~」
「泣きそうになってんじゃん。でも、私も同じだよ。早くとどめを刺してほしい」
「なに物騒なことを言っているのさ」
「あんたと同じことだよ!!」
鈴のボケに突っ込んでいると、以前一緒に公園に向かった鈴の友人二人が近づいて来た。
「二人して辛気臭い顔をしているね。命でも懸けてるの~?」
「命と同じものは賭けているよ……」
「同じく……」
「芸術家ってこわ~」
前までは、美鈴は上手く話せず鈴の友人とは距離を取りながら接していた。
だが、今は鈴が積極的に美鈴にも声をかけ、その波に乗り友人達も美鈴に話しかけるようになった。
美鈴も声をかけてくれることが多くなり慣れてきて、最近では四人でいることが多くなった。
友達が増えたことは嬉しいし、美鈴も楽しい。
けれど、まだ解決はしていない。
まだ、心に残っている人がいる。
「そんなに気に病んでいるのなら、今日気晴らしに放課後、四人で遊びに行かない?」
一人が提案してくれたが、美鈴と鈴には放課後、行かなければならない場所があった。
「あー、それはごめん。私達、部活がない放課後は、行く所があるんだよね」
鈴が「ごめん!」と手を合わせ謝る。
美鈴も、同じく頭を下げた。
「いや、別にそこまで謝らなくていいけど……。あまり気に病まないでね。なにかあれば付き合うからさ」
「それじゃね」と、友人二人はいなくなる。
放課後行く所は、一つだけ。
二人は学校が終わり、いつもの病院へと向かった。
受付へと向かい、案内される。
柊のいる、病室へ。
「それにしても、美鈴はもう入れてもらえないと思っていたよ」
「わ、私も……」
美鈴は、初めて向かった時に騒ぎを起こしてしまった。
そのため、二回目は断られてしまった。
鈴が何度も何度も頭を下げ大丈夫だと訴えたことで、二度目はないと釘を刺されつつもお見舞いに行くことが許された。
空笑いを浮かべながら歩いていると、すぐに柊の眠る部屋へと辿り着いた。
ガラガラとドアを開けると、気持ちの良い風が頬を撫でた。
病室の窓が開いており、白いカーテンが揺れている。
いつもと同じ光景。
電動ベットが柊の身体を起こしている姿も、同じ。
悲しそうに笑みを浮かべながら、二人は柊が眠るベッドの隣に椅子を置き、座った。
「柊先輩、今日は抜き打ちテストがあったんですよ」
そこからは、学校であった出来事を話す。
聞いてはいない、そう思っているが二人は楽しそうに話を続ける。
会話を続ける。
感情の灯を燃え上がらせる。
声をかけ続ける。数年かかっても、絶対に通い続け、話しかける。
もう少しいい方法があるかもしれないと考えたが今は焦らずに、日常を柊にも味わってほしい。
そう思いながら、週に一回は病院へと来ていた。
柊が必ず目を覚ます、そう信じて――……
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