憑依転生した先はクソ生意気な安倍晴明の子孫

桜桃-サクランボ-

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最終決戦

祈願

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『私が許せないのは、主ではなく、蘆屋道満なのです。お願いします、私達の主を殺さないでください。もとの主は、私達にとって、たった一人の主なんです』

 涙を流し、その場にズルズルとしゃがんでしまった。
 静樹は今だに顔を上げようとしない。氷の結界の中で顔を俯かせ、ピクリとも動こうとしない。

 二人の様子を見て、話を聞いた夏楓はどうすればよいのか分らず紅音の方を見た。
 彼女は法力に集中していたが話は聞こえており、汗を流しながらも歩き夏楓の隣に移動した。

「夏楓の好きにしろ。今は、夏楓がワタシ達の主だ」

 紅音から放たれたのは、意外な言葉。少し驚き思考が停止した夏楓だったが、紅音の赤く燃え上がる真紅の瞳を見て、これからやるべきことを考え口を強く閉じた。

 力強く頷き、本を大事に抱え絡新婦へと近付いて行った。

『大丈夫なのですか?』
「わからぬ。だが、今は夏楓に任せるしか出来ない。ワタシには、現状でいい判断を出来る自信はないからな。今すぐに殺せばよいと思っている」

 最後に付けだされた言葉に苦笑いを浮かべた氷柱女房は、眉を下げ心配そうに絡新婦へと近付いて行った夏楓を見届けた。


 ゆっくりと近づいた夏楓は、絡新婦の隣でしゃがみ顔を上げさせた。
 目を合わせようとすると、彼女の顔は完全に女性へと戻っており、蜘蛛の部分は一切残っていない。
 その事に安堵しつつ、気を引き締め静稀を見ながら語り掛けた。

「私達の立場上、こちらの方を放置しておくわけにはいきません。それは、貴方ならわかるでしょう」

 夏楓の言葉に、何も言えない絡新婦。返答がないまま、夏楓は言葉を繋げる。

「貴女が主を助けてほしいと言っても、その主が私達にまだ敵意を見せていましたら、対応しなければなりません。私達を待っている人がいるので、負けるわけにもいきません。なので、貴方の言葉を鵜呑みにすることは出来ないのです」

 横に垂らせいていた手に力が込められ、絡新婦は拳を作り歯を食いしばった。

「ですが、このお方が貴女の言うように、優しく紳士的な方に戻ってくださったのなら、話は別です。貴方次第で、主の命運が変わります。どうか、頑張ってください」

 それだけを告げると、夏楓はその場から立ち上がり紅音達に戻って行く。
 何もしかけてこなかった夏楓に疑問を抱き、絡新婦は振り返り叫ぶように問いかけた。

『なぜ、今の私達に何もしないのですか? 放置をするわけにはいかないのでしょう!?』

 困惑の含まれている声に、夏楓は途中で足を止め、顔を向けずに質問に答えた。

「言ったはずです、貴方次第だと。今すぐどうにかはしませんよ、安心してください。私達がこの空間から逃げ出す事が出来たら、その氷の結界も解きますよ。二人でしっかりと話し合ってください。なお、この本はいただきますね。私が大事に燃やさせていただきます」

 手に持っていた本を掲げ、肩越しに振り返り笑顔を向けて言い放った。
 そのまま返答を待たずに氷柱女房と紅音の所に向かい歩き出す。

 夏楓の背中を見ていた絡新婦は、これ以上何も言えずに顔を俯かせた。そうすればいいのか、どんなことをすればいいのか。
 いつも指示を貰って動いていた式神からすれば、放置されている現状は困りもの。それに、姿もいつまで保つことが出来るのかわからない。早く静稀と話して、目を覚まさせなければ、彼はまた蘆屋道満の指示に従おうと危険なところへと行ってしまう。

 また顔を上げると、夏楓と紅音、氷柱女房がここから抜け出すための案を出し合っていた。


 ”私達がこの空間から逃げ出す事が出来たら、その氷の結界も解きますよ”


 先程の夏楓の言葉が頭を過り、絡新婦は拳を握る。顔を俯かせながら、口を開いた。

『天井を壊せば、この空間から抜け出せます。来た道を戻るだけなので、氷柱女房が居れば問題ありません』

 まさか、絡新婦から教えてもらえると思っていなかった三人は驚愕の顔を浮かべ彼女を見るが、夏楓が優しく微笑み「ありがとう」とお礼を言った。

 氷柱女房と目を合わせ、頷きあう。
 天井を見上げ、氷柱女房が氷柱を作り出し、氷で覆われている天井を壊した。

 崩れたところを見ると、黒い渦が巻いているのが見えた。
 あれが、元の世界に戻る為の道なのだとわかり、夏楓は再度俯いている絡新婦を見た。

「…………優夏さんなら、同じことをしますよね」

 呟き、氷柱女房に顔を向けた。

「氷柱女房、氷の結界を解いて、私達をあの空間に入れてください」
『仰せのままに』

 氷柱女房は、言われた通り氷の結界を取り、二人を抱きかかえ黒い渦の中へと姿を消した。
 残された絡新婦と、静稀は何も発する事はなく、動かない。

 今だ俯いている静稀を見つめ数秒、息を吐き目を閉じた。

『主、どうか、元の優しい主に、戻ってください』
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