想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

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架唯

「小瓶に封印する」

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 明人は文句を口にしながらも膝をつき、カクリは苛立ちの表情を浮かべながら彼の右側に移動した。そして、右目に手を添える。それにより、カクリの視界を明人も見る事が出来るようになった。

「お、見えた見えた」

 右目は架唯を捉える事ができ、二人の視線がかち合う。

「えっ、見えた?」

 架唯は明人達の行動がわからず、ただただ立ち尽くす。だが、そんな彼女などお構い無しに、彼は真面目な顔で要件を話し出した。

「お前、俺の所に来たあと事故にあって死んだらしいな。正直、死んだお前がどうなろうと知った事ではない。だが、次に来た依頼人の匣を開ける、又は取り除く場合。お前の協力が不可欠となっちまったんだよ」
「依頼人? 協力? ちょちょちょ。待って待って。わかんない。どういう事? というか、その依頼人って誰?」

 架唯は明人の説明を聞いたあと、疑問が頭の中を埋め尽くす。ひとまず一番気になった質問を零し、彼を見返す。

「依頼人の名は静葉奏恵。ダチと喧嘩し謝罪したかったが上手く言葉を伝える事が出来ない。これが俺への依頼内容だ」
「奏恵が? でも、私も、酷い事……」
「お前らの喧嘩内容は心底どうでもいいし興味がねぇ」
「ちょっと……」

 明人は架唯の言葉を遮り、要件を進めようとする。彼女はその言葉に呆れ、肩を落とした。

「とりあえず、お前も成仏したいだろ。協力しろ」
「え、えっと。私はどうすればいいの?」
「お前の匣を俺に寄越せ」

 明人の短い言葉に、架唯は意味を理解できず首を傾げた。

「えっ、と。ハコ?」
「あ? あぁ、お前には説明していなかったか。そうだなぁ……。まぁ。簡単に言えば、お前の感情を俺に寄越せという事だ」

 さも当たり前のように彼は説明をし、手を差し出した。だが、その説明だけで感情と呼ばれている物を渡す訳にはいかない。それだけではなく、その話自体全てを理解出来た訳でないため、架唯は困惑し、叫ぶように明人へ言葉をぶつけた。

「いっ、いやいやいや!! 感情を渡せと言われても。はいどうぞって渡せる訳ないじゃない!」

 なんとか頭の中を整理しようとするが、疑問の中に疑問が浮上しまとまらない。明人は必死に理解しようとしている架唯を面倒くさそうに見ながら眉を顰め、もっと詳しく話出そうと口を開いた。

「つまり──」
「待って待って。ちょっと、落ち着く……」

 明人の言葉を遮り、顔が青いまま架唯は手を前に出し制止した。これ以上知識を詰め込む事は出来ないという意思表示だ。
 ジトッと彼は睨んでいるが、架唯が落ち着くのを素直に待つ事にし、大きな溜息をつき仏頂面で屋上から見える景色を眺めた。
 カクリは明人の片目に手を添えながら待ち続けている。

「えっと。私の匣を貴方に渡したからといって何かあるの?」

 やっと落ち着き始め、架唯はおそるおそる明人に質問した。

「お前は成仏でき、今の依頼人は匣を開ける事が出来る。皆幸せなハッピーエンドの完成だ」

 景色から目を離さず、簡単に説明する明人。口にした後、目線を架唯へと移し人を馬鹿にするような笑みを浮かべた。架唯は彼の思考が分からず、苦笑いを浮かべるのみ。

「……それ、私は何かする事ある?」
「奏恵と話す。それだけだ、簡単だろ?」
「いや、だから。それは今の状況では簡単じゃありません!!」

 当たり前だろと言うように彼は鼻を鳴らす。その様子を見て、架唯は今の状況を理解していないのかと声を荒らげた。
 カクリは冷めたような目を架唯に向け、彼も無表情になりだるそう頭を掻く。

「話す事も出来ないのかお前。女子はキーキーうるさく話すだろうが。周りの迷惑など考えずに電車の中やバスの中。携帯でうるさくギャーギャーと。お前は変わった人種らしいな」
「色々つっこみたいのですが、とりあえず一つだけ。私はバス内などでは電話しません!!」

 架唯は呆れながらも、否定の言葉を宣言した。
 明人はその言葉に呆れ顔を浮かべ、カクリは頭を支える。その二人の様子を見て、架唯は「ふんっ」と鼻を鳴らしてドヤ顔を向けた。

「あぁ。まさかの切り返しで呆れたわ」
「同じく」
「な、なんでですか?!」

 驚きを露わにする架唯を無視して、彼は続きを話し出した。

「とりあえず、お前の匣をこの小瓶の中に入れる。いいな?」
「私のハコって──」
「今のお前という存在を、この小瓶に封印する」

 その言葉に架唯は身体を震わせた。
 明人はいつものように依頼人を怖がらせるような言葉や雰囲気を出している訳では無い。淡々と今やるべき事を説明しているだけ。
 架唯が顔を青くした理由は、存在を小瓶に封印するという言葉に反応したからだ。

 存在を封印するという事は、架唯はもう自由に動く事は出来ないし、明人が彼女をどのように扱うかもわからなくなる。

 震える彼女を見て、明人は首を傾げている。体を震わせている理由がわからず、適切な声をかける事が出来ない

「何ビビってんだお前。早くこの小瓶に──」

 ポケットから小瓶を取り出し差し出すと、架唯は後ろに一歩下がってしまった。

「……おい。何逃げてやがる。そんな事しても意味ねぇだろうが。さっさとこの小瓶の中にはいっ──」
「ぜ、絶対に嫌!!!」

 架唯が甲高い声で叫んだ瞬間、明人とカクリに向かって急に突風が吹き、二人は目を瞑ってしまった。
 カクリは明人の目から手を離し、彼も右手で顔を隠す。

「な、なんだよ急に!!!」

 明人が困惑を口にした瞬間に突風が止み、二人は恐る恐る目を開けると。先ほどまでいたはずの架唯の姿が、なくなっていた。
 明人は突風によりカクリと視界共有を解除してしまっているため、そのせいかと確認の意味も込めて問いかけた。

「おい、いなくなったのか?」
「らしいな。私にも姿が見えん」
「おい、あいつ何勘違いしてんだよ」
「明人の説明不足が要因だと思うがな」

 カクリは土埃などを体から払い、明人の言葉に答える。
 明人も自身の服をポンポンと叩き、土埃を取っていた。

「ちっ、出直すか」

 心底めんどくさそうにげんなりとし、二人はその場を後にした。
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