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麗華

「ようこそ」

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 林の中、導かれるように麗華は顔を青くして走っていた。

「どうすれば、私──」

 恐怖が麗華の身体を包み、目を見開き何かから逃げているようにただひたすらに走っている。
 何度も躓き、何回かは転んでしまい手を地面につけてしまい手や膝からは血が滲み出る。そんなの気にする余裕など彼女になく、ただひたすらに走り続けている。すると、いきなり道が開かれ、麗華の目の前には一つの小屋が現れた。

「ここって、前も来た……。確か、噂の……」

 麗華は小屋の前で立ち止まり、息を整えながら見上げる。すると、ドアが開きカクリが顔を覗かせた。

「やはり来たんだね。明人が中で待っている。入るがいい」

 カクリがドアを全開にし、麗華に中へと入るよう促した。その行動に彼女は戸惑いながらも、少しずつ小屋の出入口に近付き足を踏み入れようとする。だが、何かを感じたのか、入る前に一度立ち止まってしまった。
 頬には一粒の汗が流れ、緊張気味に喉を鳴らす。

「どうしたんだい? さぁ、早く中へ」
「う、うん」

 カクリに言われるがまま、麗華が足を小屋の中へと踏み入れた時──

「麗華!! だめ!!!」
「えっ?」

 振り向くと、木々の間から血相を変えた麗羅が、必死に彼女の名前を呼び止めようとする。右手を伸ばし、自身の元へと引き戻そうとしていた。だが──

「ようこそ。話を聞かせてもらおうか」

 明人が人を陥れ楽しんでいるような、そんな歪んだ笑みを浮かべながら。麗華の後ろに立ち、逃がさないように肩を掴んだ。

「麗華!!!」
「れい──ら」

 ────バタン

 麗羅が麗華に手を伸ばし、あともう少しで掴めそうだった時。明人が彼女を小屋の中へと入れてしまい、そのままドアが閉じられた。

「麗華!!! 麗華!!!」

 ドンドンとドアを叩くが、鍵がかかってしまったようで開かない。それでも諦めずに、何度も呼びかける。

「麗華!!! 麗華お願い!! やめて!!!」

 喉が避けるほど叫ぶ彼女の声は、小屋の中には一切──届いていなかった。

 ☆

「さぁ、こちらへ」

 明人はドアを閉め、麗華をソファーへと促した。戸惑いながらも彼女はソファーに座り、明人はドアに向いたまま言う。

「では、単刀直入に言います。貴方の匣を──抜き取らせてもらうぞ」

 ────ゾクッ

 明人は振り向いた。狂気的な笑みが浮かび、目は楽し気に開かれている。
 麗華は恐怖で身体を震わせ、咄嗟に逃げようとソファーから立ち上がろうとしたが、腰が抜け床の倒れ込んでしまった。

「おやおや、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。すぐに、何も分からなくなるので」
「な、なん……」

 麗華は震えて上手く声を出す事が出来ない。その様子を控えめに笑いながら、明人は彼女の前に移動し、目を合わせようと腰を折り顔を近付けた。

「では、約束は守ってもらうぞ」
「ひっ──」

 麗華は床に這いつくばりながらドアへと向かい、ドアノブを握る。ガチャガチャと回し逃げようとするが、何故か開かない。鍵がついている訳でも、物が置かれているわけでもない。見えない何かでドアは閉じられ、麗華を外に出さないように閉じ込めている。

「開けて! お願い!! 助けて!! 助けて!!!」

 必死に泣き叫びながら助けを呼ぶが、外の声が中に届かないのと同じく、中の声はもちろん外には届かない。ドアを叩いても意味はなく、背後に立つ人の気配にドアを叩いていた手が止まる。

「叫んでも無駄だ。お前の声は外には届かないし、ここから帰る事も許されない」

 いつの間にか麗華の肩に、明人の右手が置かれる。

「さぁ、お前の匣を俺に寄越せ!!!」

 無理やり彼女を自身へと向かせ、五芒星が刻まれている右目を露わに、目を合わせた。

「いやだぁぁぁあああ!!!」

 ────ガクッ

 麗華は明人の異様な笑みと、五芒星が刻まれた瞳に吸い込まれるように、そのまま体からは力がなくなり瞼を閉じた。
 目からは涙が流れており、頬を伝い床へと落ちる。

 そんな彼女の体を片腕で支えた後、肩に担ぎソファーへと移動させた。

「麗羅……。ごめん……なさ……」

 麗華は寝言なのか。ソファーに寝かされた時、静かな声でそのような言葉を零す。そんな麗華を見て明人は、ソファーに寝かせたあと少し動きを止めてしまった。

「どうした明人よ。匣を抜き取らないのかい?」

 動きを止めた彼を、不思議そうにカクリは覗く。

「────分かっている」

 低い声で言い、明人はやっと夢の中に入る準備をして目を閉じる。
 カクリは首を傾げつつも狐の姿になり、夢の中へと入っていった。
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