想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
102 / 130
作戦会議

「今は関係ねぇだろ」

しおりを挟む
 怒りの声が響いた直後、ファルシーの右腕を誰かが掴んだ。

「あら?」

 掴まれた腕を見て、ファルシーは不思議そうに首を傾げ横に目を向ける。そこには、笑みを浮かべた音禰が立っていた。だが、その笑みは明るいものではなく、何か。どす黒い空気を醸し出しているような感覚があった。

「何を、やっているのですか?」

 再度同じ質問を繰り返す彼女に、明人も横を向きいつも通り軽口を言おうとした。だが、顔を向けた瞬間、顔を青くし口を閉じた。

「質問に答えてください。何をしていたんですか?」
「ふ、普通に話していただけよ……?」
「普通に話している割には距離が近いように感じますけれど。こんなに近付く必要ありますか?」
「いや、それはつい──」
「つい、なんですか?」
「────なんでもありません」

 ファルシーは彼女の勢いに負け、口を閉ざす。

「相想、なんでこんな事になっているのかしら?」
「いや、俺は関係な──」
「関係ない??」
「────いえ、なにも」

 明人もファルシーと同じく彼女の勢いに負け、目を逸らしバツの悪そうな顔で口を閉ざしてしまう。

 二人して口を閉ざした時、真陽留が眠気まなこを擦り、欠伸をしながら小屋から出てきた。

「音禰、嫉妬するのもいいけど、二人にそんな気は全くないと思うよ」
「しっ!? っとなんて、してないわよ!!!!」

 真陽留の言葉に、音禰は顔を赤くし甲高い声で叫ぶ。

「なぁんだ、嫉妬か。安心してよ、人間の男になんて興味無いわ。あぁ、でもこの男は完全な人間ではないから、少し興味あるかも」

 唇を舐め獲物を狙うような目を明人に向けファルシーが言う。音禰が先程とは違う意味で顔を赤くし、彼女の肩を掴み揺さぶる。なんと言えばいいのかわからず、言葉になっていない声で叫んでいた。

 そんな二人を後ろから眺めている明人と真陽留。
 真陽留は明人を眠気まなこで見ており、彼はわざとらしく顔を逸らしていた。

「…………それで、何を話してたんだ?」
「話そうとした時に乱入されたんだよ。なにも話してねぇわ」
「にしては、親密そうだったらしいじゃねぇか。音禰があそこまで怒るんだからな。これだと僕にもまだチャンスあるかな」
「──どうだろうな」

 明人の口から零れた言葉に、真陽留は驚き目を丸くする。

「どうだろうなって、お前なぁ。もしかして、まだ自分は隣にいる資格はないとか思ってんじゃ──」
「さぁな。今は関係ねぇだろ」

 会話を無理やり終わらせ、明人はまだファルシーを揺さぶっている音禰の肩に手を置き止めさせた。

「じゃれ合いはそこまでにしろ。早く休まねぇと明日体が持たねぇぞ」
「一番最初に起きたのは相想じゃない。何を話していたの?」
「何も話してねぇよ」
「嘘」
「嘘じゃねぇ」

 音禰は頬を膨らませ明人に口答えする。それを軽く流し、彼はファルシーの方に顔を向けた。

「そうだわ。なんで貴方は起きてきたの? 何かを感じてしまったのかしら」
「”しまった”って事は、何かあったのか?」

 明人の言葉に、ファルシーは浮かべていた笑みを消し、小屋の奥を見る。

「強い力を感じるのよ。ここまでビシビシと伝わってくるの。正直、気持ち悪いわ」

 明人も釣られるように奥を見て、険しい表情を浮かべる。その時、どこからか彼を呼ぶ声が聞こえた。

『明人とやら、そのまま真っ直ぐ進んで、此方へと来て欲しい』

 男性の声のようだが低すぎず、通る声だ。明人とファルシーは声の下法に顔を向ける。だが、今の声は二人にしか聞こえておらず、いきなり一点に集中し始めた二人に、真陽留と音禰は首を傾げた。

「どうするつもり? 多分だけれど、この強い力は今の声の主だと思うわ。もしかしたら──言っても無駄だったわね」

 ファルシーの言葉を最後まで聞かずに、明人は声がした方に進んでいく。
 真陽留と音禰もついて行こうとしたが、彼女がそれを止め「待っていましょう」と笑みを向けながら口にした。

 真陽留と音禰は不思議に思いながらも、彼なら大丈夫と思いその場で待つ事にした。

 ☆

 小屋の奥に進み続ける。そこまで道は広くないため、明人は歩きにくそうにしていた。
 何度か転びそうになっていたが、それでも歩みを進め声の主を探している。すると、またしても声が聞こえた。

『人間、無事で何よりだ』

 どこから聞こえるか分からない声に、明人はその場に立ち止まり周りを見回す。すると、木々の間にポツンと立っている人を見つける事が出来た。
 その人の服は赤く染っており、顔色も悪い。そして、何かに耐えるように肩を支えていた。
 普通ではない雰囲気に明人は、一瞬息を飲み身構える。

「時間が無い、手短に話そう」

 そこに立っていたのは、力を制御できず苦し気な顔を浮かべているレーツェルだった。口角は上がっているが、力が暴走しそうになっており、抑えるので精一杯の様子。
 額から流れているのは汗だけではなく、赤い血も顔を伝い地面に落ち赤く染める。
 血の匂いが漂い、出血の量が目視しているより遥かに多く感じる。もしかすると、見た目以上に酷い傷を負っている可能性もあった。
 よく見てみると腕や足も怪我しているようで、そこからも血が流れている。

「重症だな。よく立っていられるもんだ。それに、俺でも分かるほど溢れ出ているその力、どうにか出来ないのか?」
「どうにかしたいのは山々だが、そう上手くはいかない。なので、ゆっくり話す時間もない。悪いがすぐに本題に入らせてもらうぞ」

 それからはレーツェルの言葉に耳を傾け、明人は相槌すら打たずに聞いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

処理中です...