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ベルゼ

「さぁ、終焉の時間だ」

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 映像はそこで途切れてしまい、闇の空間に戻った。

 明人は何も言わず、映像が途切れた空間を見続けている。手が白くなるほど強く握りしめており、怒りの感情を抑え込めていた。
 隣に立っている純彦は、死んだような瞳を浮かべながら立ち尽くし、動こうとしない。

「おい、この後生贄にされたのか? つーか、鬼神様ってなんだよ。んなもん、人間が妄想で作った偽神だろうが。んなもんのために生贄とか、とち狂ってるとしか思えねぇわ」

 呆れたように彼は肩を落とし、純彦を見る。

『僕は、生贄にされた。殺されたんだ。でも、なんで僕が殺されなければならなかった。なんで僕が死ななくちゃいけなかったの。なんで、僕のお母さんとお父さんは殺されなくちゃいけなかったの』

 最初は一定の口調で口にする純彦だったが、感情が高ぶり始め。それはどんどん荒くなり、声量が大きくなる。

『どうして僕が悪魔の子と呼ばれないといけなかったの?! 許せない、許せない。僕が悪魔なのなら、悪魔と呼ぶのなら。それなら、本当に──悪魔に、なってやる』
「おまっ──」

 純彦は俯いていた顔を上げ明人を見上げた。その表情は悲しみに満ちた子供の顔ではなく、口角が上がり、目を細め、楽しげな表情を浮かべている、悪魔のような顔だった。
 肌は黒く染まり、赤く光る瞳が浮き出ているように見える。

 明人を見上げ、狂ったように笑い声を上げた。その笑い声は彼の鼓膜を揺らし、脳にまで響かせる。

『だから我は、悪魔に全てを捧げ、その力を手に入れた。我は悪魔になり、力を求め、人間を滅ぼす。我の邪魔する者全て、殺し尽くす。そのためには力が必要だ。貴様の力も貰うぞ』

 明人の隣に立っていた純彦は、徐々に姿を変えていき見覚えのある姿へと変貌した。

「ベルゼ……」
『まさか人間がここまで入ってくるとは思わなかったぞ。やはり、その力は我が使う方が良い。今すぐに渡せ』

 ベルゼは手を差し出し明人を見るが、その手を彼は握ろうとしない。憐れむような、軽蔑しているような。複雑な瞳でベルゼを睨んでいる。

「今のはお前の記憶か?」
『半分以上は忘れていたがな。今はどうでも良い記憶だ。それより力だ。我にもっと力を寄越せ。もっと、もっとだ。我に力を寄越せ!!!!』

 明人に向かってベルゼが勢いよく走り出した。それを、すぐさま横に避けるが回り込まれてしまい、腕を掴まれる。そのまま力を入れられてしまい、明人のは簡単に折られてしまった。

 この空間は想いで作られているため、明人の現実世界で折れてしまった右手などは元に戻っていた。だが、それも今ので折られてしまい、動かす事が出来なくなってしまう。

「ぐっ!!! 人の右手を折るのがお趣味なようで、悪魔さんよぉ!!!」

 痛みに耐え、叫びながら右足を蹴り上げたが、ベルゼは簡単に避けてしまう。折れてしまった右腕を支え、明人は痛みで顔を歪めながらもベルゼを睨み続けた。

「お前、人間を憎んでんじゃねぇのかよ」
『憎いさ。だが、今はどうでも良い。昔は憎くて憎くて仕方がなかったが、今は──どうでも良い』
「そんなもんだったのか、お前の想いわ。なら、簡単そうだな」
『なんだと?』

 先程まで何も出来なかった明人だったが、今は何故か勝ち誇ったような笑みまで浮かべる。その態度と言葉に、ベルゼは険しい顔を浮かべた。

「想いという言葉を口にするのは簡単だ。だが、その想いがなければ俺達人間は動く事すら難しいだろう。やりたい事、楽しい事。嬉しい、悲しい、辛い、苦しい。それは全て、想いから生まれ出てくる感情だ」
『だから、なんだと言う』
「想いは、それだけ人間──いや。生き物の中で重要だという事だ。お前の憎しみという名の想いがその程度なら、俺一人でもなんとかなる。想いは、人を弱くする時もあれば、人を強くする時もあるんだよ。だから、を相手にするのは骨が折れたぞ。今のお前の方がやりやすい」

 明人は言い切り、ベルゼを指さす。

「人の想いや記憶を無下に扱った報いを受けるがいい」

 勝ち誇ったように明人は言い放った。それを、ベルゼは嘲笑うように大きな笑い声を上げる。

『報いを受けろだと? そんな事ある訳が無いだろう。それに、貴様一人ではどうする事も出来ん。諦めるんだな』

 余裕な笑みを浮かべ、人を馬鹿にするように鼻で笑う。だが、明人も企んでいるような笑みを浮かべながらベルゼを見返していた。

「そうか、一人だけは不服か。しょうがねぇな。なら、お前の要望通り、二人で相手をしてやるよ」
『なに?』

 明人がしたり顔で言うと、小さな人影が急に闇の空間に現れ、勢いよくベルゼに向かって行く。ベルゼは目の端に映った影から咄嗟に避けたのだが、体が勝手に動いただけなため、驚愕していた。

『このっ、子狐が!!!!』

 突如闇の空間に姿を現したのは、少年の姿に戻ったカクリだった。

「ベルゼよ。私はお主に力を渡す訳にはいかぬ。先程抜き取った力も返してもらうぞ」

 カクリは明人の横に膝をつき、鋭い爪を構えながら言いきった。その目は怒りや悲しみという負の感情ではなく、ただ真っ直ぐと迷いの無い瞳をしていた。

「さぁ悪魔よ。これで、二対一だ。勝てるかねぇ?」

 不敵な笑みを浮かべながら、明人はカクリの頭に手を乗せる。

『一人増えたところで死に損ないの子狐だろう。力は半分無くなっている。どうする事も出来んよ』
「いや、出来るぞ。これでな!!」

 明人は折れていない方の手でポケットから何かを取り出し投げた。

『なんだこれは──』

 投げられた物をベルゼは弾こうとしたが、ひらりと交わされそのまま腕に張り付く。
 それは、現実の世界で明人がレーツェルから受け取った、空の小瓶に貼られていた、五芒星が書かれている小さな紙。

「なんだこれ……」

 ベルゼは剥がそうとするが、しっかりとくっついてしまい剥がす事が出来ない。

「さぁ、終焉の時間だ」
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