想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

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ベルゼ

『お帰りください』

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 優しく、温かい映像が流れ、明人は自身の隣に居る純彦に目を向けた。
 少年は悲しげな瞳で映像を見ており、この後に起こる事を予想させる。

 それからの映像も平和なものばかりだが、いつも家の中だった。
 男性は帰ってくると必ずどこかに傷を作っており、純彦が外出している場面がない。
 家の中の映像のみに対し、明人は不審に思い始め目を細める。

 純彦の過去を見続けてから少し経った時、男性が勢いよくドアを開け中に入る映像が映し出された。

『どうしたのあなた……?』

 女性が手に持っていた針と布を畳に置き、男性の方に慌てて目を向けた。純彦も不安げな表情を浮かべながら一緒に見る。

『役人がここまで来ている』
『なっ、なんで役人様がここまで──』

 男性と女性は顔を青くし体を震わせ始める。。純彦はなんの事か分からず、女性の袖を掴み見上げていた。

『やくにんってなに?』

 純彦の言葉に女性は何も言えず口を噤む。そのまま、宝物を包み込むように自身の胸に抱き寄せた。

『大丈夫、大丈夫よ。必ず、貴方は私達が守るから。大丈夫』

 女性は体を震わせ、何度も『大丈夫』と繰り返す。まるで、自分自身に言い聞かせるように。
 男性は出入口付近から動かないで、手でドアを押さえている。すると、いきなりドアが強く叩かれた。
 ドアを破壊しようとしているのではと思うほど強く叩かれ、押さえている男性は踏ん張り、開かないように必死に抑え込む。

『すいません。こちらは緋神あかがみさん宅でお間違いありませんか?』

 外から若い男性の声が聞こえた。その声には抑揚がなく、感情が込められていない。ただ、言われた事を言われた通りにやっている──そのような声色に、逆に恐怖を感じる。

 純彦も何かを感じ、女性の着物をぎゅっと握り直した。

『お留守じゃない事は分かっています。早くこちらを開けてください。でなければ、無理やりにでも開けますよ』

 その声に、男性と女性は目を合わせ頷いた。覚悟を決めたような顔を浮かべ、男性はその場から動き、ゆっくりと開ける。
 そこに立っていたのは、武士のような服を身にまとった男性二人と、おじいさんが一人。隣には、綺麗な着物を身にまとっている上品そうな女性が一人立っていた。

『なにか御用でしょうか』
『お宅に居ます、純彦という名の子供を引き取りに来ました』
『何故ですか』
『鬼神様への捧げ者として、今年は貴方達の子が選ばれたのです』
『ふざけないでください。なぜ私達の子なのですか』

 男性は冷静を保ちつつ、怒りで体を震わせながら突っかかる。だが、相手は刀を腰に差している武士。なにかすれば斬られてしまう可能性があり迂闊な事は言えない。

『貴方達の子は悪魔の子と呼ばれているそうですね。この村にとってその子は害をなす存在となったのです』
『あの子は悪魔の子なんかではありません、お帰りください』

 男性が言い切るが、役人の一人がまた口を開き説き伏せようとした。その時、後ろに立っていたおじいさんが一歩前に出て、役人を下がらせた。

『確かにその子は悪魔の子では無いのかも知れません。ですが、左右の目の色が違うではありませんか。それは、新たな病の可能性があります。それがもし周りに感染でもしたらどうするのですか。もしそれが不治の病だったら、貴方達は責任を取れますか?』

 おじいさんは前に出ると、諭すように言葉を投げかける。その声にも抑揚は無く、感情が一切感じられない。

『ですが、純彦は今まで元気に育ってきました。もし病気なのであれば、今は寝込んでいるはずです。なので、純彦が病気の可能性はひくっ──』
『しかし、ゼロではない。それは貴方達も分かっていると思います』

 男性の言葉に対し、間髪入れずにおじいさんが口を挟む。それにより、男性は何も言えず口を閉ざしてしまった。

『可能性がゼロじゃなければ、その病気が広がる前にこの村のため、生贄になってもらわねばならない。ただ死ぬのと、村のため生贄になるの。あの子にとってどちらが良い死なのか、親なら考えた方が良い』

 おじいさんは淡々と口にし、男性は後ろをちらっと見る。怯えた表情で今までの会話を聞いていた女性と純彦。その表情を見て、男性は決意を固めもう一度おじいさんに顔を向けた。

『なんと言われても、私達は純彦を貴方達に渡しません。お帰りください』

 男性が力強く言い切った。すると、おじいさんが一歩前に出て口を開く。その声と言葉は最初、暗闇に響き渡ったものと同じだった。

 それからは残虐な行為が明人の目の前で繰り広げられた。

 男性が最初に斬られ、次に女性が腕、腹部と切り落とされた。それにより、その場は血の海になり、純彦は動かなくなった両親へと、返り血で染まった服など気にせず手を伸ばす。

 血と涙が混ざり頬から流れ落ちる。両親に手を伸ばす姿を明人は、胸糞悪いと言いたげな瞳で見続けている。その拳は強く握られており、少しだけ震えていた。

 純彦はそのまま腕を引っ張られ、両親から無理やり離されてしまった。
 何度も何度も手を伸ばし、泣き叫び両親を呼ぶ。それでも、役人達は引っ張る手を緩めずそのまま引きずる。
 ずっと泣き叫び続ける純彦が煩わしくなったのか、左頬を殴り気を失わせた。
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