素晴らしい世界に終わりを告げる

桜桃-サクランボ-

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コウセン

第5話 思いがけない質問

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 見た目は普通の、可愛いクマのぬいぐるみ。
 片手で持てる程度の大きさ。

「落ち着きましたか?」
「は、はい」
「それならよかったです」

 ホッと胸をなでおろすコウヨウを見て、愛実は目線を上げた。
 初めて表情が動いたコウヨウに、愛実はポカンと目を丸くした。

 視線を感じ首を傾げ、コウヨウは問いかけた。

「いかがいたしましたか?」
「い、いえ。今、初めて表情が変わったような気がして……」

 問いかけられ、ずっと見ていた自分が恥ずかしくなり目を逸らす。
 顔が赤くなっているのを感じ、頬を抑えた。

「――――そうですか」
「あっ、す、すいません」

 機嫌を損ねてしまったと、すぐに謝罪をする。
 これも、愛実は嫌だった。

 何が悪いのかわからないのに謝っても、また同じことを繰り返す。
 でも、怖い。謝ってしまえば、この場だけでも凌げる。

 それが勝手に出てしまい、すぐに謝罪を行ってしまう。

「そのように感じましたか?」

 まさか、そう返答が来るとは思っておらず、逸らした視線をまた戻す。

「い、いえ、なんか、嫌だったかなぁって、思ってしまって……。すいません」

 また、謝ってしまった。
 苦しそうに視線を下げると、コウヨウが片膝を突き顔を覗き込んだ。

「機嫌がよろしくないのは、私ではなく貴方のようですね」
「わ、私?」
「はい。なにか、抱えていますね」

 白い布でコウヨウの目は見えないはずなのに、なぜか愛実は彼が純粋に聞いて来ているとわかった。
 心配も含まれている言葉に、愛実はなんと言えばいいのかわからず口を閉ざす。

 数秒待ったかと思うと、コウヨウは「ふむ」と、先に口を開いた。

「まだ、こちらに来て日は浅い。ゆっくりでいいですよ。ゆっくりと、話してください」
「すいません…………」
「大丈夫ですよ。では、私はこれで失礼しますね」

 一礼をして、コウヨウは部屋を出ようとした。
 でも、今の愛実は、一人になりたくない。

 気まずい気持ちと不安。何より、相手の真意がまだわからず、このまま戻ってこないかもしれないという恐怖が頭を占める。

 ――――ガシッ

 咄嗟にコウヨウの服を掴んでしまった事を後悔する。
 それでも、この手を離したくはない。このまま、いなくなってほしくない。

「す、すいません。でも…………」

 今にも消え入りそうな声。
 掴んでいる手がカタカタと震えている。

 それを感じたコウヨウは、そっと震えている手に自身の手を重ねた。
 白い手袋をはめているけれど、ぬくもりを感じる。

 愛実が顔を上げると、白い布が目に入った。

「――――あ、あの。も、もう少しだけ、いていただけませんか?」

 勇気を出して言った言葉。コウヨウは何か聞こうと口を開きかけたが、愛実の様子に口を閉ざす。
 小さく頷き、「わかりました」と、伝えた。

「ですが、どうしましょう。なにかしたい事や、お話したいことなどはありますか?」

 手を離し、コウヨウは問いかける。
 けれど、愛実も、ただ一人になるのが怖かっただけで、何か話したい事があったわけではない。

 でも、引き止めたのは愛実だ。
 ここで、何かを言わなければ失礼に当たる。

 なにかいい話題はない視線をさ迷わせながら考えると、一つの絵画に目が留まった。

 それは、まるで”夢”をテーマにしているような輝かしい絵画だった。
 下半分は海、上半分は星空。これだけではただの景色絵。
 色使いが変わっている。

 海は、橙色。星空は水色。なぜ星空と認識したのかは、至る所に星のようにきらめく光が点々とちりばめられていたからだ。
 海は、橙色に白い波のような模様が刻まれているから、頭が勝手に海と判別した。


 色が違うのに、頭では海と星空が認識できた。
 不思議な感覚に思わず見ていると、コウヨウが絵画を見た。

「あちらが気になりますか?」
「あ、はい。不思議な色だなと思いまして……」
「確かに、不思議なお色をしておりますね。ですが、綺麗です。あちらは、アイ様が描いたものなんですよ」

 ”アイ様”
 この名前を聞くのは二回目。

 確か、アイ様という人物が愛実を呼んだとコウヨウは説明をしていた。
 でも、詳しくアイ様については聞いていない。

「外の世界を書きたかったけれど、色がわからなかったから想像で描いた。とおっしゃっておりました」

 コウヨウが説明する中、愛実はアイ様という人物について考える。
 子供なのか、大人なのか。
 どういう人物なのか、どんな性格をしているのか。

 聞いていいか、答えてくれるか。

「? 愛実様?」

 コウヨウが、何も反応がない愛実の名前を呼ぶ。
 愛実は、咄嗟に口から疑問が飛び出した。

「アイ様って、どんな人、ですか?」
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