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コウセン
第6話 習慣
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愛実が問いかけると、コウヨウは一瞬、動きを止めた。
愛実から見つめられ、息を飲む。
「…………申し訳、ありません」
頭を下げ、謝罪。やっぱり答えられないかと、愛実は「いえ」と視線を下げる。
重苦しい沈黙が二人を包み込む。
なんで、あんなことを聞いてしまったんだろうと。こうなるのなら、聞かなければ良かったと、愛実は後悔してばかり。
また、涙がにじむ。
泣いてばかりで、何も言えない。
――――なんで、私はいつもこうなんだろう
我慢できず、涙が膝に置いていたクマに当たる。
すると、コウヨウが片膝を突き、愛実の涙を指ですくった。
「っ、す、すいません」
すぐに顔を逸らし、自分で吹く。だが、強く拭っている為、コウヨウが止めた。
「あまり強く拭くと、痛みが出てきますよ」
言いながら、ハンカチを取り出し優しく涙を拭く。
「怖い気持ち、不安な気持ち。今は、様々な気持ちが胸を占めていると思います」
言いながら、コウヨウはハンカチを話し、愛実を見つめた。
「今は、沢山泣いてください。我慢は体を壊します。ですが、必ず貴方の不安を取り除きます。必ず、笑わせます」
無表情だけど、感情が乗せられている言葉に、愛実の瞳に光が宿る。
まだ、不安はある、恐怖も消えていない。けれど、心のどこかに、今まですこしもなかった安心感が湧いて出て来た。
「まだ、時間はかかるかと思いますが……」
フイッと顔を逸らし、小さな声で言う。
そんなコウヨウが急に可愛く思い、愛実はクスッと笑った。
「コウヨウさん、ありがとうございます」
ここで初めて笑った愛実の笑顔。
その笑顔を見て、コウヨウも、クスッと笑った。
「あっ、そういえば、あの……。コウヨウさん、忙しいですか?」
「? いえ、何もございませんよ。なにか、ございましたか?」
「あの、私、まだ尾はないしていたかったので。もし、コウヨウさんが忙しく無ければ、まだご一緒にいていただけませんか?」
微笑みながら言う愛実を見て、白い布で隠れているコウヨウの頬が薄く染まる。
一瞬、時が止まったような感覚になったが、すぐに気を取り直し「わかりました」と、頷いた。
※
愛実は、コウヨウと毎日のように顔を合わせた。
いつ、朝と昼、夜にお食事を持ってくる。
食事を準備する時、愛実の時間感覚を失わないように、朝なのかお昼なのかを伝えながらコウヨウは食事の準備をしていた。
最初は、愛実も素直に受け取り、食べようとする。
だが、今まで愛実はここで食事を摂れた事はない。
なぜかわからないけれど、噛もうとすると硬くて噛めない。
今回も――……
「~~~~~~どうしていつも、食べる直前に硬くなるんですか!!」
「硬くなっているのではなく、元々そのくらいの硬さですよ」
「そんなことないですよね……。だって、さっき簡単に箸で切れたんですよ? 噛めないわけないと思います!!」
頬を膨らませ怒る愛実を横目に、コウヨウは無表情のままお皿を片付ける。
最初、愛実は何も言えず我慢すればいいと思って生活をしていた。
けれど、コウヨウの小さな気遣いや言葉に、徐々に心を開く。
今では、文句を言えるまでにコウヨウと仲良くなっていた。
「…………あの」
「なんでしょうか」
愛実の膝には、コウヨウが準備したクマのぬいぐるみがある。
頭を撫でながら、コウヨウを呼んだ。
「私、ここに来てから何も食べていないんですが、お腹が空いている感覚がありません。これって、この世界が影響しているんですか?」
普通、人間はしっかりとご飯を食べなければ思考は鈍り体調も崩してしまう。
けれど、ここ数日何も食べていないはずの愛実だが、何も変わらない。
思考も普通、夜も寝れるし体の調子も変わらない。
それを聞くと、コウヨウは顔向け、答えた。
「愛実様の言う通りです。コウセンでは、睡眠も食事も必要がないのです。ただ、時間の感覚や、人間の習慣を忘れないように行っているだけなのですよ」
「そうなんですね」
また、コウヨウは片づけを始める。
愛実は、コウセンに来てから、コウヨウに言われたことしかしていない。
食事を摂り、睡眠。それ以外の時間は全て、部屋の中で過ごす毎日。
コウヨウにお願いすれば話し相手になってくれるけれど、愛実はお願いできない。
本当にさみしい時に、コウヨウの服を掴みお願いするときはあるが、それ以外では言えず、一人で過ごすことが多い。
でも、流石にずっと一人で過ごすのにも時間を持て余してきており、またコウヨウがこの部屋から出てしまうと静かな空間が広がると思うと、気分が沈む。
クマの腕を上下に動かしながら、カチャカチャという、自分以外がいる音を聞く。
自分以外の音があると落ち着くけれど、すぐに終わってしまう。
今回も、すぐに終わってしまった。
「では、私はこれで失礼します。何かあれば名前をお呼びください」
終わってしまった。
愛実は、返事をせずコウヨウを見上げる。
なにか言いたいことでもあるのかなと、コウヨウは立ち止まり振り向いた。
「いかがいたしましたか?」
「…………その目、見えているんですか?」
「見えていなければ動けませんよ?」
「あ、そうです、よね」
ガクッと肩を落とし、愛実は「すいません……」と、謝罪した。
「あの、えっと。しつこくてすいません。なんで、見えているのですか?」
そこで、コウヨウはなぜか少し間を開ける。
「――――企業秘密です」
「え、ひ、秘密? 答えられない事だったんですか?」
「命令していただければお答えします。私達世話係は、主の命令には絶対なのです。なので、一言”命令”と言えば、何でもお答えしますよ」
――――え?
愛実から見つめられ、息を飲む。
「…………申し訳、ありません」
頭を下げ、謝罪。やっぱり答えられないかと、愛実は「いえ」と視線を下げる。
重苦しい沈黙が二人を包み込む。
なんで、あんなことを聞いてしまったんだろうと。こうなるのなら、聞かなければ良かったと、愛実は後悔してばかり。
また、涙がにじむ。
泣いてばかりで、何も言えない。
――――なんで、私はいつもこうなんだろう
我慢できず、涙が膝に置いていたクマに当たる。
すると、コウヨウが片膝を突き、愛実の涙を指ですくった。
「っ、す、すいません」
すぐに顔を逸らし、自分で吹く。だが、強く拭っている為、コウヨウが止めた。
「あまり強く拭くと、痛みが出てきますよ」
言いながら、ハンカチを取り出し優しく涙を拭く。
「怖い気持ち、不安な気持ち。今は、様々な気持ちが胸を占めていると思います」
言いながら、コウヨウはハンカチを話し、愛実を見つめた。
「今は、沢山泣いてください。我慢は体を壊します。ですが、必ず貴方の不安を取り除きます。必ず、笑わせます」
無表情だけど、感情が乗せられている言葉に、愛実の瞳に光が宿る。
まだ、不安はある、恐怖も消えていない。けれど、心のどこかに、今まですこしもなかった安心感が湧いて出て来た。
「まだ、時間はかかるかと思いますが……」
フイッと顔を逸らし、小さな声で言う。
そんなコウヨウが急に可愛く思い、愛実はクスッと笑った。
「コウヨウさん、ありがとうございます」
ここで初めて笑った愛実の笑顔。
その笑顔を見て、コウヨウも、クスッと笑った。
「あっ、そういえば、あの……。コウヨウさん、忙しいですか?」
「? いえ、何もございませんよ。なにか、ございましたか?」
「あの、私、まだ尾はないしていたかったので。もし、コウヨウさんが忙しく無ければ、まだご一緒にいていただけませんか?」
微笑みながら言う愛実を見て、白い布で隠れているコウヨウの頬が薄く染まる。
一瞬、時が止まったような感覚になったが、すぐに気を取り直し「わかりました」と、頷いた。
※
愛実は、コウヨウと毎日のように顔を合わせた。
いつ、朝と昼、夜にお食事を持ってくる。
食事を準備する時、愛実の時間感覚を失わないように、朝なのかお昼なのかを伝えながらコウヨウは食事の準備をしていた。
最初は、愛実も素直に受け取り、食べようとする。
だが、今まで愛実はここで食事を摂れた事はない。
なぜかわからないけれど、噛もうとすると硬くて噛めない。
今回も――……
「~~~~~~どうしていつも、食べる直前に硬くなるんですか!!」
「硬くなっているのではなく、元々そのくらいの硬さですよ」
「そんなことないですよね……。だって、さっき簡単に箸で切れたんですよ? 噛めないわけないと思います!!」
頬を膨らませ怒る愛実を横目に、コウヨウは無表情のままお皿を片付ける。
最初、愛実は何も言えず我慢すればいいと思って生活をしていた。
けれど、コウヨウの小さな気遣いや言葉に、徐々に心を開く。
今では、文句を言えるまでにコウヨウと仲良くなっていた。
「…………あの」
「なんでしょうか」
愛実の膝には、コウヨウが準備したクマのぬいぐるみがある。
頭を撫でながら、コウヨウを呼んだ。
「私、ここに来てから何も食べていないんですが、お腹が空いている感覚がありません。これって、この世界が影響しているんですか?」
普通、人間はしっかりとご飯を食べなければ思考は鈍り体調も崩してしまう。
けれど、ここ数日何も食べていないはずの愛実だが、何も変わらない。
思考も普通、夜も寝れるし体の調子も変わらない。
それを聞くと、コウヨウは顔向け、答えた。
「愛実様の言う通りです。コウセンでは、睡眠も食事も必要がないのです。ただ、時間の感覚や、人間の習慣を忘れないように行っているだけなのですよ」
「そうなんですね」
また、コウヨウは片づけを始める。
愛実は、コウセンに来てから、コウヨウに言われたことしかしていない。
食事を摂り、睡眠。それ以外の時間は全て、部屋の中で過ごす毎日。
コウヨウにお願いすれば話し相手になってくれるけれど、愛実はお願いできない。
本当にさみしい時に、コウヨウの服を掴みお願いするときはあるが、それ以外では言えず、一人で過ごすことが多い。
でも、流石にずっと一人で過ごすのにも時間を持て余してきており、またコウヨウがこの部屋から出てしまうと静かな空間が広がると思うと、気分が沈む。
クマの腕を上下に動かしながら、カチャカチャという、自分以外がいる音を聞く。
自分以外の音があると落ち着くけれど、すぐに終わってしまう。
今回も、すぐに終わってしまった。
「では、私はこれで失礼します。何かあれば名前をお呼びください」
終わってしまった。
愛実は、返事をせずコウヨウを見上げる。
なにか言いたいことでもあるのかなと、コウヨウは立ち止まり振り向いた。
「いかがいたしましたか?」
「…………その目、見えているんですか?」
「見えていなければ動けませんよ?」
「あ、そうです、よね」
ガクッと肩を落とし、愛実は「すいません……」と、謝罪した。
「あの、えっと。しつこくてすいません。なんで、見えているのですか?」
そこで、コウヨウはなぜか少し間を開ける。
「――――企業秘密です」
「え、ひ、秘密? 答えられない事だったんですか?」
「命令していただければお答えします。私達世話係は、主の命令には絶対なのです。なので、一言”命令”と言えば、何でもお答えしますよ」
――――え?
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