素晴らしい世界に終わりを告げる

桜桃-サクランボ-

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創設者 ーアイ様ー

第22話 闇の空間

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「――――ここは、どこ?」

 愛美は今、何も無い大広間に一人、立っていた。

「え、な、なんで? コウヨウ?」

 コウヨウの名前を呼ぶが、返事はない。
 周りをいくら見回しても、闇が広がる空間が広がっているだけ。

「こ、怖い。コウヨウ、ねぇ、コウヨウどこ!!」

 叫ぶが、いつもの様に差し伸べてくれる手は現れず、名前も呼んでくれない。

「どこ……」

 涙を浮かべ周りを見ていると、闇の中からコツン、コツンと。足音が聞こえ始め振り返る。

 ――――コツン、コツン

 足音が聞こえる方を震えながら見ていると、闇の中から一人の少年が姿を現した。

 歩く度にふわふわと揺れる銀髪、色白の肌。
 銀髪から覗き見える両耳には、月と星の耳飾りがチリンと言う音を鳴らしながら揺れていた。

「コウヨウは、ここにはいないよ」

 愛実を見る瞳は、青白磁色《せいはくじいろ》。
 声は子供特有の高さで、通る。

「き、君は?」
「僕の名前はアイ。コウセンを作った創設者だよ」

 ニコッと笑いながら、子供用の狩衣を身に着けている少年が簡単に説明した。
 だが、そんな説明で愛実は理解できず、困惑の表情は消えない。

「創設、者?」
「そうそう。僕がこの空間を作ったの。どう? 僕が作った世界。素敵でしょ?」

 なんの疑いもなく無邪気に笑う少年、アイは愛実の前まで近付いた。
 青白磁色の瞳で愛実を見上げ、無邪気に聞く。

 素敵とは、何を持って言っているのだろうと愛実は考える。
 確かに、主という立場の人からしたら不自由はないかもしれない世界。

 死者と言う恐怖はあるが、必ず世話係が対峙する。
 ご飯も身の回りの家事も、すべて世話係がしてくれる。
 他にも命令すれば、様々なわがままを世話係が叶えてくれるだろう。

 けれど、その世話係にとって、コウセンという世界はどうなんだろうと、愛実は思う。
 主の命令には一切逆らえず、暴言暴力に耐え続けなければならない。
 殺されることもあると聞いた時、愛実はドスンと心が重くなり、悲しくなった。

 そんな状況の世界を”素敵でしょ?”と聞かれても、愛実は頷くことなど到底できない。
 何も反応しない愛実に、アイの口元に浮かんでいた笑みが消えた。

「どうしたの? 何か不満があるの? それなら君の世話係に命令するといいよ。絶対に叶えてくれるよ」

 またニコッと笑うアイに、愛実は息を飲んだ。
 何か答えないと、反応を示さないといけない。

 汗をにじませ、愛実は震える唇を開いた。

「す、素敵では、ないと思います」

 愛実の言葉を聞いたアイの顔から、感情が消えた。
 青白磁色の瞳には影が差し、だらんと左右の手が垂れる。

「どうして? なんで?」

 アイの纏ってる空気が一変する。
 どす黒い空気が愛実に流れ、後ずさる。

 周りの闇が濃くなり、愛実を包み込む。
 見渡しても意味は無く、言葉を間違えた事に気づき、焦り恐怖した。

「なんで、答えてよ。なんで、そんなこと言うの? 君にとっては、ここは素敵な場所でしょ? 何もしなくていいんだよ? 好きな事がやりたい放題なんだよ? なんで?」

 後ずさる愛実に、ゆっくりと近づくアイ。
 アイの纏っている空気が怖く、近づかれないように愛実は後ろに下がり続けた。

 その間も、アイは「なんで?」と質問をし続けた。
 怖くて体が震え、言葉がまとまらない。喉が絞まり、声が出ない。

 逃げなければならない。だが、愛実の後ろの闇が濃くなり、愛実の逃げ道を封じられた。
 後ろを見るが、壁があるわけではない。闇が、進行方向を封鎖している。

 後ろに気を取られてしまい、アイが近づいていたことに気づかなかった。
 腰辺りにある銀髪に、咄嗟に前を向く。

「ねぇ、教えてよ。なんで、そんなことを言ったのぉ~??」

 俯かせていた顔を、ゆっくりと上げた、
 その顔には、顔と言ったものは存在しなかった。

 ブラックホールのような、ぐるぐると回る闇が、アイの顔に張り付いていた。

「きゃぁぁぁぁあああああ!!!」

 恐怖のあまり悲鳴と共に気を失ってしまった愛実は、その場に倒れ込む。
 立ち尽くしているアイは、倒れた愛実を見下ろした。

「コウヨウに言わないと。コウセンがどれだけ素敵なのか。どれだけ幸せなのか。それを、主に伝えてもらわないと」

 ブツブツと呟くアイの顔は、いつの間にか少年の顔に戻っていた。

「これは、罰を与えないといけないね、コウヨウに。しっかりと伝えなかったんだから」

 裂けるほど横に引き延ばされた口、青白磁色の瞳は闇に染まり、黒くなっていた。
 顔を上げたアイの顔は、激しく歪んでいた。

 今はもう、どのような罰をコウヨウに与えるかだけしか、頭になかった。
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