素晴らしい世界に終わりを告げる

桜桃-サクランボ-

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創設者 ーアイ様ー

第23話 罰

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「ココロ!! 声が聞こえていたら返事をしてくれ!」

 愛実を探していたコウヨウは、一瞬だけ瞬きをした。
 すると、いつのまにか廊下ではなく、創設者であるアイの部屋にまで移動していた。

 浮遊感も何もなく移動させられ、コウヨウは一瞬動揺を見せた。
 深呼吸をし気持ちを落ち着かせ、姿勢を正す。

「――――アイ様。いかがいたしましたか」
「すぐに気持ちを落ち着かせたね、コウヨウ。素晴らしいよ」


 闇から現れたのは、さっきまで愛実と共にいたアイだった。
 まだ雰囲気は陰っており、コウヨウは肩に力が入る。

 一粒の汗が流れ、体が強張る。
 でも、動揺を見せないように表情を引き締めた。

「ねぇ、僕が君をここに呼んだ理由、わかるかい?」

 そんな話をしている時間など、今のコウヨウにはない。
 けれど、ここで変にあしらえば簡単に空気に呑まれ、コウヨウは殺される。

 コウセンでは、世話係がいくら主に殺されても生き返る。
 それは、創設者であるアイの力がそうさせていた。

 世話係の命は、アイに握られている。そのため、アイの気分を害してしまえば、簡単に殺される。
 言葉一つで殺す事ができ、生き返らない。

 そのため、コウヨウもアイには人一倍気を使い、絶対に言葉を間違えないように心掛けている。
 今回は最初から不機嫌なアイに、コウヨウは絶対に間違えないように言葉を繋げた。

「申し訳ありません」
「ふーん、わからないんだ。まぁ、今回はそうだよね。コウヨウは、本当に可愛いなぁ」

 言いながら歩き、コウヨウの前まで移動した。
 すると、一瞬でコウヨウの頭の上まで跳ぶ。

 次の瞬間、コウヨウの頭に強い衝撃が走りその場に崩れ落ちた。
 頭を支えていると、髪を引っ張られ、顔を無理やり上げさせられる。

 強い衝撃のあまり鼻血が垂れ、頭から血が流れていた、
 それでもお構いなしに、アイはコウヨウの髪を鷲掴み、顔を寄せる。

 そんな時に、目元を隠していた白い布がヒラリと落ちた。
 現れたのは、赤色と、アイと同じ青白磁色の左右対称の瞳。

「なんで、こんなことをされているのか、わかる?」

 そんなことを聞かれても、コウヨウにはわからない。
 いや、思い当たる節はある。けれど、それだけは絶対に言ってはいけない。

 気づかれていたとしても、うまくかわさなければならない。
 コウヨウは、何とか頭を働かせ、口を開いた。

「っ、わ、私の主が、何かいたしましたか……」

 苦しげな声で聞いたコウヨウ。その問いは間違いではなかったらしく、髪を掴んでいた手が緩む。

「…………そうだね。ちょっと、お話をしたんだよ。面談みたいな感じだね」

 ニコッと笑うアイ。
 身震いしてしまう笑みに、コウヨウは言葉が出ない。

「その時にね、少し、気になる言葉を聞いたんだよ」
「気になる、言葉ですか……?」

 痛みに耐えながら、コウヨウが問いかける。

「コウセン、素敵じゃないんだってさ。ねぇ、どういうことなの?」

 アイの言葉に、コウヨウは目を見開いた。
 同時に、なぜか口角が上がる。

 笑ったコウヨウにアイは驚き、笑みを消した。

「ねぇ、なんで今、笑ったの?」
「っ、申し訳ありません。主には、今回のような事が無いように伝えさせていただきます」

 すぐにコウヨウは表情を引き締め、謝罪した。
 それでも、アイの苛立ちは落ち着かない。

 緩んだ手にまた力が入り、コウオウの髪を強く掴む。
 そのまま、地面に叩きつけた。

 ガンッと、大きな音が辺りに響き渡る。
 子供の力とは思えない程強く、逆らえない。

 苦痛で歪むコウヨウなど無視し、怒りをぶつけ続ける。
 何度も何度も、コウヨウの頭を地面に叩きつけ、「なんで、なんで」と、呟き続けた。

 その間も、耐え続けるしかないコウヨウは、少しも抗えない。
 顔を叩きつけられている為、声を出す事すら出来ず、ただただ耐え続けた。

「まぁ、いいか。まだ来たばかりだしね。これからに期待しようか」

 やっと気持ちが落ち着き始めたアイは、叩きつけていた手を離す。
 その場に立ち上がり、空《くう》を見た。

「ねぇ、コウヨウ。次、僕が君の主に同じ質問した時、意見が変わるように指導してね。まぁ、その時に主の怒りに触れてしまえば、君は何度でも殺されるだろうけどね。でも、それは仕方がないよね。君の落ち度なんだからさ」

 清々しいような笑みを、咳き込んでいるコウヨウに向ける。血を吐きながら、体を起こした。
 赤い目は潰れ、血がボタボタと落ちる。顔は傷だらけで、赤く染まっていた。

「ね、コウヨウ」

 口は切れ、歯は折れ。口を開けば血が流れる。
 うまく話せず、頷くしか今のコウヨウには反応の術がなかった。

 ニコッと笑いかけたアイは、背中を向けコウヨウから離れた。

「コウヨウ――――いーや、久留実紅葉《くるみもみじ》。君は僕のお気に入りだから、今日はここまでにしてあげる。でも、また余計な事をすれば、わかっているよね?」

 言葉を切り、振り返る。

「仏の顔も、三度まで。せいぜい、頑張りなね?」

「あははははははっ!!!」と、笑い声をあげ、歩き去る。
 だが一つ、思い出したことがあり、アイは足を止めた。

「そーだ。君の主である愛実……今はココロだったかな。その子は今、部屋のベッドの上で寝ているよ」
「っ、!」
「安心してよ。その子には何もしていないからさ。少し驚かせただけ」

 それだけを残し、アイは今度こそ闇の中に姿を消した。
 残されたコウヨウは、ユラユラと立ち上がる。
 その際、痛みが走り、顔を歪ませる。咳き込み、血を吐いた。

「――――すぐには、治りそうにないな」

 ここまで暴力を振るわれてしまえば、一日二日では治せない。
 コウヨウは愛実にどのような言い訳をしようか考えながら、落ちていた白い布を拾い上げる。

「…………仏の顔、か…………」

 ぼそりと呟き、コウヨウは布を目元に付けた。
 その際、口元には微かな笑みが浮かぶ。

 何を思っての笑みなのか。今、何を考えているのかわからない。
 口元だけを先に治したコウヨウも、闇の中へと姿を消した。
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