素晴らしい世界に終わりを告げる

桜桃-サクランボ-

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創設者 ーアイ様ー

第25話 緊急事態

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 一人で廊下を歩くコウヨウは、周りの気配を意識していた。
 今回の会話がアイに聞かれていたことを考えると、恐怖で拳が震える。

 意味もなく周りを見たり、気配を探るが、今のところは何も感じない。
 コウヨウの額からは汗が流れ落ちる。
 呼吸も荒くなり、胸が苦しい。

 ここで、現れてしまったら。アイに今の会話が聞かれてしまっていたら。
 考えるだけで、体が硬直し歩みが遅くなる。

 そんな時、男性の叫び声が廊下を響き渡った。

『こんの!! 役立たずがぁぁぁぁ!!!』

 その声は、コウヨウはあまり聞いたことのない男性の声。
 だが、誰なのかはすぐに分かった。

「――――アネモネか」

 アネモネの主は、男性。コウショウは今、女性をあるじにしているため、コウヨウはすぐに分かった。

『ふざけるな!! あんたは私の世話係だろうが!!』

 殴る音、何かが崩れる音。
 コウヨウは、無意識に耳を塞ぐ。

 いつも、自分が言われている言葉、聞いている音。
 今は、愛実の世話係として働いている為、聞いていないが、以前までは毎日聞いていた。

 それなのに、なぜか胸が締め付けられるように痛い、息が苦しい。
 耳を塞いで周りの音を遮断していたコウヨウだが、一つ、今も聞いている声が聞こえ始め耳から手を離した。

「――――時間か」

 死者の呻き声が廊下に聞こえ始める。
 死者が屋敷の中に蔓延る時間だ。

 今、主が興奮してしまったと言う事は、アネモネは今回の戦闘には参加出来ない。
 そう考えたコウヨウは、コウショウの元へ向かった。

 廊下を早歩きで歩いていると、前からコウショウが現れる。

「コウヨウ!」

 コウショウもコウヨウに気づき、駆け寄った。

「コウショウ。おそらくだが今、アネモネの主が興奮状態となった。おそらく、アネモネは今夜の戦闘に参加できない」
「あぁ、そっか。アネモネがいないのは痛いけど、仕方がないね、よくあることさ」

 二人は、廊下の奥を見た。
 コウヨウは刀を、コウショウは拳銃を作り出し構える。

「今回は、俺がアネモネの代わりを務める。任せてもいいか?」
「大丈夫だよ。援護しか出来ないのが申し訳ないくらいだ」

 言っていると、徐々に呻き声が大きくなる。

「…………なんか、今日、多くない?」

 コウショウが呟くと、廊下を埋め尽くすほどの死者がコウヨウ達に襲い掛かってきた。

 コウヨウが姿勢を低くし、地面を強く蹴る。
 瞬間、ドンッと大きな音が鳴り響く。

 コウヨウは瞬きをした一瞬で、自身に向かって来ていた死者をすべて斬った。
 だが、次に反対側が残っている。

 床に足を付けたコウヨウは、またしてもドンッと大きな音を鳴らし、死者を斬る。
 だが、姿勢が最初程整っていないため、数人は取り逃がした。

 天井に足を付けたかと思うと、コウショウが発砲。取り逃がした死者を撃ち抜き、動きを止めた。
 天井を蹴ったコウヨウが、動きが止まった死者を一瞬で斬った。

「ふぅ……」
「いつ見てもコウヨウの動きって、化け物だよな」

 言い方に言い返そうとしたが、そんな暇すら与えることなく、次の死者達が襲ってくる。

「やっぱり、今日は多くない? これ、アネモネがいるいない関係ないよね?」
「関係ないな。アイ様の機嫌がすこぶる悪いらしい」

 言いながら、二人は走り出し、死者達を倒していった。

 ※

 ベッドで、愛実は眠っていた。
 だが、いつもは聞こえないはずの呻き声や、歩く音が耳に入り目を覚ました。

 なんだろうと、目を擦りながら寝返りを打つと、目の前には死者の顔があった。

「・・・・・・・・きゃぁぁぁぁぁああああ!!!」

 ベッドから転げ落ち、避ける。
 逃げるために慌てて立ちあがると、絶句する光景が部屋の中に広がり動けなくなってしまった。

「な、なに、これ…………」

 部屋の中に、なぜか大量の死者が入り込んでいた。
 皆、狙いは愛実。

「に、にげなきゃ…………」

 でも、出入口は死者達がいるため、出られない。
 部屋の中も、逃げるにはスペースがない。

 じりじりと近づく死者を目の前に愛実は怯え、部屋の隅に逃げる。
 だが、それは迂闊。逃げ道を自分で塞いでしまった。

 気づいた時には遅く、もう一歩も逃げられない。

「こ、コウヨウ、助けて……」

 顔を青くし、恐怖の表情を浮かべる。
 呻き声をあげ、死者が手を伸ばし愛実に襲い掛かった。

「ひっ!!」

 もう駄目。そう思った瞬間、愛実に伸ばされた手がパンッと打ち抜かれた。

「コウヨウ!! めぐっ――ココロ様が襲われている!!」

 拳銃を持ったコウショウが出入口で叫ぶ。
 瞬間、雷でも走ったかのように、次々と死者が斬られた。

 目にもとまらぬ何かが部屋の中を駆け巡り、次々と斬る。
 数秒もしないうちに、部屋を埋め尽くしていた死者は斬られ、地面に倒れるのと同時に姿を消した。

「な、なにが…………」

 戸惑っていると、上からトンッと、コウヨウが鞘に刀を戻しながら軽やかに舞い降りる。
 返り血がついているが、コウヨウには怪我がない。

「良かった、間に合ったみたいだな!」
「あぁ。コウショウも助かった」
「これくらいしか出来ないから」

 二人が話していると、愛実が駆け出し、コウヨウに抱き着いた。

「――――えっ」

 コウショウは驚き、コウヨウも動揺を見せた。

「ど、どうした、ココロ」
「怖かった。怖かったよ、コウヨウ……」

 涙を流し、コウヨウに縋る。
 動揺しているコウヨウなどお構いなしに愛実は「コウヨウ~、怖かったよぉ~」と、顔をグリグリとコウヨウの胸に押し付ける。

 なんと声をかければいいのか、どうすればいいのかわからず、コウヨウはコウショウに助けを求めた。
 だが、コウショウはニヤニヤと見るだけで、何も言わない。

 ここでなにか口にすれば愛実にも聞かれてしまう為、視線で訴えるしかないのだが、コウショウは無視。二人の様子を楽しんでいた。

『コウショウ!!』
『はいはい』

 愛実に聞かれないように小声で助けを求め、コウショウも時間がないと考え助けてあげる事にした。

「ココロ様、今はまだ安心なさらぬようにお願いいたします」

 涙で濡れた顔をコウショウに向け、愛実は不安そうに眉を下げた。
 そんな彼女の頭を撫で、コウヨウは空いている方の手で涙を拭いてあげた。

「まだ、死者は廊下に留まっている。ここに来るのも時間の問題だろう。今は、色々疑問が残るけれど、今晩をやり過ごすのを優先して行動するぞ」

 白い布で顔が隠れているコウヨウを見上げ、愛実は小さく頷いた。
 離れたくなかったが、今はそんなことを言っている場合ではない。これ以上迷惑をかけたくなかった愛実は、渋々離れた。

「まだ、今夜は始まったばかり。気を引き締めよう」

 コウショウの言葉に、コウヨウは頷く。
 愛実を安心させるように背中を撫で、口元に笑みを浮かべた。

「必ず守り抜く。絶対に俺とコウショウから離れるなよ」
「はい!!」

 コウヨウに背中を撫でられると、何故か不安も拭われる。
 完全に不安がなくなったわけではないが、必ずコウヨウが守ってくれると信じ、愛実は二人と共に走り出した。
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