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犬宮賢と陰陽師
「昔に見た事があるからな」
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――――コツン コツン
地下牢に続く道には、二人分の影と足音が響く。
――――コツン コツン
二人が進んだ先には警備員が一人、一つの牢屋の前に立っていた。
「目は覚ましたかしら」
「いえいえ~。今もぐっすり眠いっておりますよー」
「……? そう」
黒髪を帽子の隙間から覗かせ、ヘラヘラしている警備員に首を傾げつつ横を通り過ぎ牢屋の前に立ったのは、巫女の姿をしている御子柴と巴。
御子柴は、牢屋の中で椅子に縛られ気を失っている心優を見る。
頭に白い包帯が巻かれている心優は、軽装で椅子に縛られ項垂れている。
気を失っており、ピクリとも動かない。
「真矢さん」
御子柴が声をかけても、返事はない。
「御子柴さん。今のうちに…………」
「そうね。貴方の式神が真矢さんに手を出す事が出来ないのは、お守りを持っていたから。それだけかはわかりませんが、余計な物は排除しておきましょう」
「はい」
巴は警備員から鍵を受け取り、牢屋の扉を開け中に入る。
心優に近付き、ポケットの中に入っているお守りを手に取った。
――――ピクッ
「っ、う、ごいた?」
巴は心優が目を覚ましたと思い顔を覗くが、瞳を閉じており目を覚ました様子はない。
不思議に思っていると、御子柴がしびれを切らし声をかけた。
「あったかしら」
「…………はい」
取り出したお守りは、半分くらい黒く染まっている。
何かが付着してしまった汚れではないのはなんとなくわかる。だが、詳しい理由はわからない。
よくわからないまま巴は再度心優を見て、その場から離れた。
牢屋の扉を閉じ、鍵を閉める。
警備員と少し話、御子柴は地下牢から離れようと歩き出す。
巴も歩き出そうと一歩前に足を出したが、すぐに止まった。
肩越しにちらっと後ろ見るが、心優に動きはない。
「…………ごめんなさい」
誰にも聞こえないくらい小さな声で、何故か巴は謝罪。
眉を下げ、現実から目を逸らすように、巴は前を向き御子柴の元へと駆けだした。
その様子を警備員は赤い瞳で見つめ、上唇を舐め笑った。
「――――あいつ、使えそうだなぁ~」
・
・
・
・
・
――――行った、かな……。
少しだけ顔を上げ、心優は巴達が姿を消したのを確認。
心優が動き出したことで、警備員も帽子の鍔を掴み振り返る。
「いやぁ~、しっかりと騙されてくれて良かったねぇ~心優ちゃん」
にこっ、と笑い振り向いたのは、警備員に変装していた黒田朔。
「黒田さんの演技力のおかげですよ。怪異という事が気配でばれるか心配でしたが、良かったです」
「人間の臭いが濃く付着しているからなぁ、俺。気配を消すのも慣れてっし」
心優は、御子柴達が来る前には目を覚ましていた。
目を覚ました時には既に拘束されており、半パニック状態。
その時には既に警備員として潜入していた黒田が、パニック状態に陥っていた心優を落ち着かせた。
話をしようとした二人の耳に足音が聞こえ、咄嗟に心優は気を失っているふり、黒田は警備員としての役をやりきった。
「それにしても、本当にびっくりしました。頭は痛いし、縛られているし。それで、困惑している時に黒田さんがそんな姿で現れるし。情報量がえぐすぎます」
「情報量がえぐすぎるからと言って、咄嗟に俺をぶん殴ろうとしないで欲しかったなぁ。椅子が倒れただけで済んで良かったけど」
「その代わり、私が顔面強打しましたけどね。鼻血が出なくて良かったです」
「ほんとだよねぇ~。奇跡的に怪我もなくて良かったよ」
心優の拘束を解く為、黒田は鍵束を手に中へと入る。
縄を簡単に解き、心優は立ち上がった。
「頭の傷は大丈夫か? 他に痛みはねぇのか?」
「大丈夫です。丁寧に頭の方は軽く治療してくれているみたいですし、体の方は問題なしです。拘束される事には慣れているので」
「それは慣れていい物なんか……?」
心優の言葉に呆れつつ、黒田は縄を取り手を差し出す。
――――ん? え、なんで黒田さんは私に手を伸ばしているんだろう。掴めって事?
どうすればいいのかわからず黒田を見上げていると、じれったいと言うように眉を下げ、下げられている心優の右手を掴んだ。
「ほれ、ここからが本番だぞ。はぐれねぇーように、今はこのままな」
黒田の大きな手が、心優の手を包み込む。
怪異なのに温かく、黒田の優しさが流れ込んでくる。
心優は目を丸くしながらも黒田が歩き出したため、手を引かれ足を前に出す。
黒田の後ろ姿を見上げ、口元を綻ばせた。
「黒田さん、犬宮さんにも同じような事をしてください。絶対に落とせます」
「それはつまり、心優ちゃんは今、少しでも俺にときめいてくれっ――」
「ないです」
心優の即答に黒田は落ちこみ、涙目を浮かべる。
ウソ泣きをしている黒田を横目に、心優はため息を吐いた。
「――――?」
心優の視界の端に気になる物が映り込み、足を止めてしまった。
「っ、どうしたんだ、心優ちゃん」
「あの、黒田さん。あれって……」
地下牢の一番奥、光が届かない牢屋を指さし問いかけた。
暗くて目を細めないと見えない。
そんな中、微かに見えるのは近くに置かれている長テーブル。上には、様々な拷問器具や拘束具が置かれていた。
手錠や縄、首輪などなど。
見ているだけで背中に冷たい何かが伝い、心優は息を飲む。
「あぁ……。安心しろ。あれは、絶対に使わせねぇよ」
「っ、え、使わない? あの、あれがどのような形で使われるのか、黒田さんはわかっているんですか?」
「まぁ、実際に使っているところを数回、昔に見た事があるからな」
心優の隣に立つ黒田の表情は物哀しいものを感じる。
過去を思い出し後悔しているような、懺悔しているような。
迷いのある黒田の赤い瞳を見上げ、心優は数回瞬きした。
――――なにか、重たいものを黒田さんも抱えているんだろうな。
もしかしたら、ここが黒田さんの過去に関わる鍵になっているのかもしれない
聞いてもいいのだろうか。
なぜ、黒田さんが今、悲しげな表情を浮かべているのか。
聞いてもいいのだろうか。
ここで過去、何かがあったのか。
聞いてもいいのだろうか。
今、黒田さんはなぜ、今にも泣き出しそうな顔を浮かべているのか――……
地下牢に続く道には、二人分の影と足音が響く。
――――コツン コツン
二人が進んだ先には警備員が一人、一つの牢屋の前に立っていた。
「目は覚ましたかしら」
「いえいえ~。今もぐっすり眠いっておりますよー」
「……? そう」
黒髪を帽子の隙間から覗かせ、ヘラヘラしている警備員に首を傾げつつ横を通り過ぎ牢屋の前に立ったのは、巫女の姿をしている御子柴と巴。
御子柴は、牢屋の中で椅子に縛られ気を失っている心優を見る。
頭に白い包帯が巻かれている心優は、軽装で椅子に縛られ項垂れている。
気を失っており、ピクリとも動かない。
「真矢さん」
御子柴が声をかけても、返事はない。
「御子柴さん。今のうちに…………」
「そうね。貴方の式神が真矢さんに手を出す事が出来ないのは、お守りを持っていたから。それだけかはわかりませんが、余計な物は排除しておきましょう」
「はい」
巴は警備員から鍵を受け取り、牢屋の扉を開け中に入る。
心優に近付き、ポケットの中に入っているお守りを手に取った。
――――ピクッ
「っ、う、ごいた?」
巴は心優が目を覚ましたと思い顔を覗くが、瞳を閉じており目を覚ました様子はない。
不思議に思っていると、御子柴がしびれを切らし声をかけた。
「あったかしら」
「…………はい」
取り出したお守りは、半分くらい黒く染まっている。
何かが付着してしまった汚れではないのはなんとなくわかる。だが、詳しい理由はわからない。
よくわからないまま巴は再度心優を見て、その場から離れた。
牢屋の扉を閉じ、鍵を閉める。
警備員と少し話、御子柴は地下牢から離れようと歩き出す。
巴も歩き出そうと一歩前に足を出したが、すぐに止まった。
肩越しにちらっと後ろ見るが、心優に動きはない。
「…………ごめんなさい」
誰にも聞こえないくらい小さな声で、何故か巴は謝罪。
眉を下げ、現実から目を逸らすように、巴は前を向き御子柴の元へと駆けだした。
その様子を警備員は赤い瞳で見つめ、上唇を舐め笑った。
「――――あいつ、使えそうだなぁ~」
・
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――――行った、かな……。
少しだけ顔を上げ、心優は巴達が姿を消したのを確認。
心優が動き出したことで、警備員も帽子の鍔を掴み振り返る。
「いやぁ~、しっかりと騙されてくれて良かったねぇ~心優ちゃん」
にこっ、と笑い振り向いたのは、警備員に変装していた黒田朔。
「黒田さんの演技力のおかげですよ。怪異という事が気配でばれるか心配でしたが、良かったです」
「人間の臭いが濃く付着しているからなぁ、俺。気配を消すのも慣れてっし」
心優は、御子柴達が来る前には目を覚ましていた。
目を覚ました時には既に拘束されており、半パニック状態。
その時には既に警備員として潜入していた黒田が、パニック状態に陥っていた心優を落ち着かせた。
話をしようとした二人の耳に足音が聞こえ、咄嗟に心優は気を失っているふり、黒田は警備員としての役をやりきった。
「それにしても、本当にびっくりしました。頭は痛いし、縛られているし。それで、困惑している時に黒田さんがそんな姿で現れるし。情報量がえぐすぎます」
「情報量がえぐすぎるからと言って、咄嗟に俺をぶん殴ろうとしないで欲しかったなぁ。椅子が倒れただけで済んで良かったけど」
「その代わり、私が顔面強打しましたけどね。鼻血が出なくて良かったです」
「ほんとだよねぇ~。奇跡的に怪我もなくて良かったよ」
心優の拘束を解く為、黒田は鍵束を手に中へと入る。
縄を簡単に解き、心優は立ち上がった。
「頭の傷は大丈夫か? 他に痛みはねぇのか?」
「大丈夫です。丁寧に頭の方は軽く治療してくれているみたいですし、体の方は問題なしです。拘束される事には慣れているので」
「それは慣れていい物なんか……?」
心優の言葉に呆れつつ、黒田は縄を取り手を差し出す。
――――ん? え、なんで黒田さんは私に手を伸ばしているんだろう。掴めって事?
どうすればいいのかわからず黒田を見上げていると、じれったいと言うように眉を下げ、下げられている心優の右手を掴んだ。
「ほれ、ここからが本番だぞ。はぐれねぇーように、今はこのままな」
黒田の大きな手が、心優の手を包み込む。
怪異なのに温かく、黒田の優しさが流れ込んでくる。
心優は目を丸くしながらも黒田が歩き出したため、手を引かれ足を前に出す。
黒田の後ろ姿を見上げ、口元を綻ばせた。
「黒田さん、犬宮さんにも同じような事をしてください。絶対に落とせます」
「それはつまり、心優ちゃんは今、少しでも俺にときめいてくれっ――」
「ないです」
心優の即答に黒田は落ちこみ、涙目を浮かべる。
ウソ泣きをしている黒田を横目に、心優はため息を吐いた。
「――――?」
心優の視界の端に気になる物が映り込み、足を止めてしまった。
「っ、どうしたんだ、心優ちゃん」
「あの、黒田さん。あれって……」
地下牢の一番奥、光が届かない牢屋を指さし問いかけた。
暗くて目を細めないと見えない。
そんな中、微かに見えるのは近くに置かれている長テーブル。上には、様々な拷問器具や拘束具が置かれていた。
手錠や縄、首輪などなど。
見ているだけで背中に冷たい何かが伝い、心優は息を飲む。
「あぁ……。安心しろ。あれは、絶対に使わせねぇよ」
「っ、え、使わない? あの、あれがどのような形で使われるのか、黒田さんはわかっているんですか?」
「まぁ、実際に使っているところを数回、昔に見た事があるからな」
心優の隣に立つ黒田の表情は物哀しいものを感じる。
過去を思い出し後悔しているような、懺悔しているような。
迷いのある黒田の赤い瞳を見上げ、心優は数回瞬きした。
――――なにか、重たいものを黒田さんも抱えているんだろうな。
もしかしたら、ここが黒田さんの過去に関わる鍵になっているのかもしれない
聞いてもいいのだろうか。
なぜ、黒田さんが今、悲しげな表情を浮かべているのか。
聞いてもいいのだろうか。
ここで過去、何かがあったのか。
聞いてもいいのだろうか。
今、黒田さんはなぜ、今にも泣き出しそうな顔を浮かべているのか――……
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