犬宮賢の行動理念

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
48 / 80
犬宮賢と陰陽師

『次は失敗しません』

しおりを挟む
 地下牢から出ようとする二人だが、今は足踏み状態。
 監視の目が多く、地下牢の階段を上がりきる事が出来ずにいた。

 今は黒田を先頭に、階段の影に身を潜めている。
 階段を上がり切った先には、警備員が二人。余裕そうに談笑をしていた。

「――――あの二人以外に人はいねぇみてぇだな」

「わかるんですか?」

「気配を探ってみたが、あいつら以外の気配は感じなかった」

 そんな事もわかるのかと感心していると、黒田は振り向き顎に手を当て心優の顔を見た。

「え、なんですか?」

「いんや。地下牢に行くための出入り口は、神社の裏を奥へ進んだ先にあるここのみ。少し荒い事をしても、すぐにはばれないだろうなぁ~って、思ってさ」

「……………………つまり?」

 口角を上げ、企んでいるような表情を浮かべている黒田を見た心優の額に冷や汗が流れ出る。

 この後、心優は何を言われるのか大体予想が出来てしまい、口元を引きつらせ黒田を見上げた

「何をするのか言わなくてもわかったみたいだな。それじゃ、行こうか」

 今までにないほどの爽やか口調と笑顔を向けられ、心優は嫌でも頷くしか出来なかった。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

「でさぁ~、俺あの後マジでビビって~」

 無邪気に談笑を楽しんでいる警備員二人。
 そんな二人に背後から近づく二つの黒い影。

「――――っ」

 気づいた時には遅く。

 ――――ガンッ!! パタン……。

 談笑を楽しんでいた警備員二人は、呆気なく地面へと倒れ込み気を失った。

「いやぁ、こんな事、賢とは出来ないから助かったぞ」

「なんとなく腑に落ちないですが、まぁ…………」

 警備員二人を一瞬で倒したのは、ニヤニヤと笑っている黒田と頭を抱えている心優の二人。

 黒田は今まで様々な事を経験している為、人の後ろに立ち気絶させるなど容易い。

 心優も独学で格闘術を学び、昔から危険な事に巻き込まれてきた経験も活かされ容易く警備員を気絶させることが出来た。

「犬宮さんは守るというより、守られる側の男性ですもんね。ぜひ守ってあげてください、黒田さん。ライバル達から」

「心優ちゃんの台詞、性格を知らない奴らからしたら素晴らしい仲間想いの言葉ではあるんだよなぁ~」

 どーせ、BLに繋げているんだろうなと思い、黒田はこれ以上追及する事はしなかった。

「それより、早くここから逃げるぞ。すぐにばれないとはいえ、ここにずっといるのは危険だ」

「確かにそうですね。早く――あ、でも……」

 心優はポケットに手を添え、眉を下げる。

「ん? どうしたの、心優ちゃん」

「お守り……。取られたままなので、取り返したいなって……」

 巴に取られてしまったお守りを思い出し、心優は悲し気に目を伏せる。

 ――――現状はわかっている。お守りを取り返すのは難しい。
 でも、糞おやじとはいえ、私を思って買ってくれたお守り。出来れば取り返したい。

「あぁ、なるほど。でも、今は厳しいなぁ。それに、あのお守りを心優ちゃんが持っていると、俺の肌がチクチクするからちょっと不愉快なんだよねぇ~」

「え、チクチク?」

「うん――――あっ」

「えっ」

 黒田が腰に手を当て話していると、途中で何かに気づき心優を引き寄せ近くの木に隠れた。

 黒田に後ろから抱きしめられ、口を押えられてしまった心優。
 一瞬のうちに身を隠せる木の影まで移動され、心優は後ろにいる黒田を見た。

『しぃ~』

 左手の人差し指を口元に当て、声を出さないように指示。
 何が起きたのか視線で訴えるも、黒田はクイッと顎を動かし牢屋へと向けるだけ。

 警戒しているような瞳を浮かべている黒田を見て、嫌な予感が走り、背筋が凍る。
 だが、現状は理解しないといけない。

 心優も黒田の視線を追うように見ると、そこには巫女の姿をして固まっている巴の後ろ姿があった。

「――――え、なんで?」

 警備員二人が気絶している姿を見て、巴は驚きの声を零す。
 どうすればいいのか迷い、困惑していた。

「巴ちゃん…………」

「カモがねぎしょってやってきた――ね」

 黒田の口角は上がり、視線は巴の手元に移される。
 小さな手に握られているのは、黒く染まっている心優のお守り。

 心優は目を開き、黒田にどうするのか目だけで問いかけた。

「――――捕まえようか」

「!?!?!?」

 心優が黒田の言葉を理解するより先に、彼は地面を蹴り巴へと駆けだした。
 止める時間すら与えず、助けを呼ぶこともさせず。

 黒田は、巴を殴り気絶させた。

「――――っ、気絶しても発動するのか!」

 咄嗟に黒田が倒れた巴から離れる。すると、彼女のポケットから一人の女性が姿を現した。

 白い着物を身に纏い、水色の長い髪を翻す。
 氷のように冷たい瞳は、悔し気に歪めている黒田を見据える。

「……へぇ、てめぇがこの女の式神、氷柱女房しがまにょうぼうか」

『主の命のより、貴方達を凍らせます殺します

 黒田の質問を無視し、氷柱女房しがまにょうぼうは右手を前に出し冷気を放つ。
 すぐに黒田が「させるか!」と、同じく右手を前に出し赤い糸で氷柱女房を拘束した。

 瞬きした一瞬でそんな攻防が行われ、心優は目が追い付かず唖然。

 気づいた時には黒田の右手は凍り、氷柱女房しがまにょうぼうは赤い糸により左手を拘束されていた。

「さすが氷柱女房しがまにょうぼう。主が気を失っているというのに、ここまで動けるなんてな」

 凍り付いた右手を下ろし、口角を上げ笑う。
 だが、目は笑っておらず、逆にどこか焦っているような表情。
 
 黒田は悟らせないように平静を装い、赤い瞳を氷柱女房しがまにょうぼうに向け続けた。

『仕留めきれなかった……。次は失敗しません』

 一発で仕留める予定だった氷柱女房しがまにょうぼうは眉を顰め、口元を手で隠す。
 同時に、左手を拘束している赤い糸を凍らせ、簡単に壊した。

「おいおい……。俺の糸を簡単に壊しやがって。というか、糸を壊すという言い方を相手にさせるなんてすごいなぁ。普通は”引きちぎられた”とか”切られちまった”とかじゃないのか?」

 ――――いや、それは関係ないでしょ!!

 心優はやっと思考が追い付き、木の影から二人を見つつ心の中でツッコミを入れる。

 …………今出て行っても、私では役立たず。
 さすがに怪異相手には私の武術は効かないだろうし。

 木の影から顔だけを覗かせ、不安に思いながらも黒田の邪魔だけはしないようにと、気配を出来る限り消し見続けた。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

処理中です...