49 / 80
犬宮賢と陰陽師
「本当に醜いな」
しおりを挟む
探偵事務所にいた犬宮は、最古を抱え人気のない道を歩いていた。
陽光の届かない路地裏。
ゴミが投げられ、猫が群がり悲惨な状態になっている。
壁に落書きまでされており、不穏な空気が漂っていた。
「翔、大丈夫。怖くないよ」
優しく声をかける犬宮に最古は小さく頷く。
だが、体はガタガタと震え、無理しているのは丸わかり。
いつもの笑顔も固く、犬宮は肩を竦め悲し気な笑みを浮かべた。
「巻き込んでごめんね、翔。何があっても、翔だけは守るから。だから、安心して」
安心させるように最古の頭を撫でながら進む二人の先にあるのは、心優の実家である真矢家。
なぜわざわざ遠回りまでして裏路地を使っているのかというと、最古の為。
今は犬宮以外の人には怯えてしまう程弱っている。本当は今回の事件が落ち着くまで待機をしていた方がいい。
だが、もうそろそろ犬宮自身も動き出さなければ、心優と黒田が危ない。
二人に頼ってばかりなのも犬宮のプライドが許さないため、最古に無理を言って動いていた。
一人分の足音が響いていた路地裏だったが、その音がピタリと止まる。
「……………………行き止まり……?」
一度足を止め、左右を見る。
次に上を見上げ、目を細めた。
「上から行くしかないか」
犬宮は最古の頬を撫で、微笑みかける。
それだけで今、犬宮が何を考えているのか最古にはわかり硬かった笑顔がさらに固まる。
「察したみたいだね。今以上に無理をさせてしまうのは申し訳ないけど、我慢してほしいな」
言いながら片手で抱きかかえていた最古を両手で支え、ニヤッと笑う。
すぐに膝を深く折ると、犬宮の頭と臀部に犬のような耳と尾が現れた。
「――――行くぞ」
「ヒッ!」
最古が小さな悲鳴を上げると同時に、地面を強く蹴り真上に跳んだ。
一回のジャンプでは行き止まりを飛び越える事が出来なかった為、壁を数回蹴り上へ。
風を切る音を耳にしながら、建物よりも高く跳び屋根にたどり着いた。
「よっと」
タンと、屋根に降り立った犬宮は、腕の中でガタガタと震えている最古をなだめるため頬を撫でてあげた。
「よしよし、我慢できて偉かったね。ここからは何もないから大丈夫だよ――――ご、ごめんて…………」
「……………………」
最古は笑顔のまま怒っていた。
いつもの笑みに圧が含まれており、犬宮は背中を撫でてあげながら謝り、歩き出す。
今、犬宮がいる場所から真矢家へはもう少し。
犬宮は真っすぐ前だけを見て進み、目的地へと向かった。
・
・
・
・
・
真矢家にたどり着いた犬宮は、最古を抱えたまま曲がり角の影に隠れ身を潜め顔を覗かせた。
――――遅かったかなぁ。
犬宮の視線の先には、巫女装束と狩衣を身に纏っている男女数人に囲まれている信三の姿がある。
ガヤガヤと話し合っているらしいが、犬宮の位置ではすべての言葉を聞き取る事が出来ない。
それでも何とか聞き取れないかと犬宮は思い、集団の声に集中した。
『協力をしてほしい』『――――の情報を寄こせ』『殺さないといけなくなる』
話し合いの単語を少しだけ聞き取る事が出来た犬宮は、同時に流れ込んでくる臭いに鼻をヒクヒクと動かし、眉間に深い皺を刻んだ
「…………くっさい臭いだな」
今まで様々な臭いを感じ取ってきた犬宮だが、今みたいに顔を歪め不愉快そうな顔を浮かべた事はない。
もう二度と嗅ぎたくない。
そう思う程に、ここら一体を漂う臭いは過激な物。
「――――人間の悪の臭い、欲求、傲慢。本当に醜いな」
最古は唖然と集団を見ていたが、頭の中に今まで封印していた記憶が砂嵐と共に蘇る。
――――さぁ、お前の血を寄こせ
――――これが今回の報酬だ
――――お前はここで血を利用される人生を歩むんだ。
――――奇血であるお前は一生、ここからは逃げられない
最古の身体から恐怖が一気にあふれ始めた。
顔を真っ青にし、今にも泣きわめきそうになっている彼を、犬宮は慌てて口に手を当て抑えた。
「しー」と、口に人差し指を当てお願いするが、最古の目の縁に涙が溜まり始める。
――――翔が限界か……。
狩衣を着て信三に詰め寄っているのは、紅城神社の陰陽師達。
巫女装束を着ている人達も同じ。
信三を一目見て、犬宮は舌打ちを零し苦い顔を浮かべた。
ここから今すぐにでも離れなければ、せっかく安定してきた最古がまた取り乱してしまう。
だが、巻き込んでしまった信三をほっておくのも犬宮には出来ない。
どうするべきなのか、何が正しいのか。
苦し気に歯を食いしばり考えていると、陰陽師達の隙間から見えていた信三と目が合った。
――――っ、わら、った?
信三は目が合った瞬間、口角を上げ強気に笑った。
その笑顔はまるで「任せておけ」といっているよう。
犬宮は信三の強い意思と、不愉快極まりない匂いが漂う中に潜む、ほんの少しの攻撃的な臭いを信じ、力強く頷いた。
瞬間、信三の視線に気づき、一人の陰陽師が後ろを振り向く。
そこには、もう誰もいなかった。
「何を見ていた」
「何も。ただ、野良犬がこちらを見ていたから、少し気になっただけよ」
「なにを……。まぁ、いい。それより、早く我々に協力すると言うんだ」
――――――――怪異である狗神と首無しを殺す協力をするとな
陽光の届かない路地裏。
ゴミが投げられ、猫が群がり悲惨な状態になっている。
壁に落書きまでされており、不穏な空気が漂っていた。
「翔、大丈夫。怖くないよ」
優しく声をかける犬宮に最古は小さく頷く。
だが、体はガタガタと震え、無理しているのは丸わかり。
いつもの笑顔も固く、犬宮は肩を竦め悲し気な笑みを浮かべた。
「巻き込んでごめんね、翔。何があっても、翔だけは守るから。だから、安心して」
安心させるように最古の頭を撫でながら進む二人の先にあるのは、心優の実家である真矢家。
なぜわざわざ遠回りまでして裏路地を使っているのかというと、最古の為。
今は犬宮以外の人には怯えてしまう程弱っている。本当は今回の事件が落ち着くまで待機をしていた方がいい。
だが、もうそろそろ犬宮自身も動き出さなければ、心優と黒田が危ない。
二人に頼ってばかりなのも犬宮のプライドが許さないため、最古に無理を言って動いていた。
一人分の足音が響いていた路地裏だったが、その音がピタリと止まる。
「……………………行き止まり……?」
一度足を止め、左右を見る。
次に上を見上げ、目を細めた。
「上から行くしかないか」
犬宮は最古の頬を撫で、微笑みかける。
それだけで今、犬宮が何を考えているのか最古にはわかり硬かった笑顔がさらに固まる。
「察したみたいだね。今以上に無理をさせてしまうのは申し訳ないけど、我慢してほしいな」
言いながら片手で抱きかかえていた最古を両手で支え、ニヤッと笑う。
すぐに膝を深く折ると、犬宮の頭と臀部に犬のような耳と尾が現れた。
「――――行くぞ」
「ヒッ!」
最古が小さな悲鳴を上げると同時に、地面を強く蹴り真上に跳んだ。
一回のジャンプでは行き止まりを飛び越える事が出来なかった為、壁を数回蹴り上へ。
風を切る音を耳にしながら、建物よりも高く跳び屋根にたどり着いた。
「よっと」
タンと、屋根に降り立った犬宮は、腕の中でガタガタと震えている最古をなだめるため頬を撫でてあげた。
「よしよし、我慢できて偉かったね。ここからは何もないから大丈夫だよ――――ご、ごめんて…………」
「……………………」
最古は笑顔のまま怒っていた。
いつもの笑みに圧が含まれており、犬宮は背中を撫でてあげながら謝り、歩き出す。
今、犬宮がいる場所から真矢家へはもう少し。
犬宮は真っすぐ前だけを見て進み、目的地へと向かった。
・
・
・
・
・
真矢家にたどり着いた犬宮は、最古を抱えたまま曲がり角の影に隠れ身を潜め顔を覗かせた。
――――遅かったかなぁ。
犬宮の視線の先には、巫女装束と狩衣を身に纏っている男女数人に囲まれている信三の姿がある。
ガヤガヤと話し合っているらしいが、犬宮の位置ではすべての言葉を聞き取る事が出来ない。
それでも何とか聞き取れないかと犬宮は思い、集団の声に集中した。
『協力をしてほしい』『――――の情報を寄こせ』『殺さないといけなくなる』
話し合いの単語を少しだけ聞き取る事が出来た犬宮は、同時に流れ込んでくる臭いに鼻をヒクヒクと動かし、眉間に深い皺を刻んだ
「…………くっさい臭いだな」
今まで様々な臭いを感じ取ってきた犬宮だが、今みたいに顔を歪め不愉快そうな顔を浮かべた事はない。
もう二度と嗅ぎたくない。
そう思う程に、ここら一体を漂う臭いは過激な物。
「――――人間の悪の臭い、欲求、傲慢。本当に醜いな」
最古は唖然と集団を見ていたが、頭の中に今まで封印していた記憶が砂嵐と共に蘇る。
――――さぁ、お前の血を寄こせ
――――これが今回の報酬だ
――――お前はここで血を利用される人生を歩むんだ。
――――奇血であるお前は一生、ここからは逃げられない
最古の身体から恐怖が一気にあふれ始めた。
顔を真っ青にし、今にも泣きわめきそうになっている彼を、犬宮は慌てて口に手を当て抑えた。
「しー」と、口に人差し指を当てお願いするが、最古の目の縁に涙が溜まり始める。
――――翔が限界か……。
狩衣を着て信三に詰め寄っているのは、紅城神社の陰陽師達。
巫女装束を着ている人達も同じ。
信三を一目見て、犬宮は舌打ちを零し苦い顔を浮かべた。
ここから今すぐにでも離れなければ、せっかく安定してきた最古がまた取り乱してしまう。
だが、巻き込んでしまった信三をほっておくのも犬宮には出来ない。
どうするべきなのか、何が正しいのか。
苦し気に歯を食いしばり考えていると、陰陽師達の隙間から見えていた信三と目が合った。
――――っ、わら、った?
信三は目が合った瞬間、口角を上げ強気に笑った。
その笑顔はまるで「任せておけ」といっているよう。
犬宮は信三の強い意思と、不愉快極まりない匂いが漂う中に潜む、ほんの少しの攻撃的な臭いを信じ、力強く頷いた。
瞬間、信三の視線に気づき、一人の陰陽師が後ろを振り向く。
そこには、もう誰もいなかった。
「何を見ていた」
「何も。ただ、野良犬がこちらを見ていたから、少し気になっただけよ」
「なにを……。まぁ、いい。それより、早く我々に協力すると言うんだ」
――――――――怪異である狗神と首無しを殺す協力をするとな
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
郷守の巫女、夜明けの嫁入り
春ノ抹茶
キャラ文芸
「私の妻となり、暁の里に来ていただけませんか?」
「はい。───はい?」
東の果ての“占い娘”の噂を聞きつけ、彗月と名乗る美しい男が、村娘・紬の元にやってきた。
「古来より現世に住まう、人ならざるものの存在を、“あやかし”と言います。」
「暁の里は、あやかしと人間とが共存している、唯一の里なのです。」
近年、暁の里の結界が弱まっている。
結界を修復し、里を守ることが出来るのは、“郷守の巫女”ただ一人だけ。
郷守の巫女たる魂を持って生まれた紬は、その運命を受け入れて、彗月の手を取ることを決めた。
暁の里に降り立てば、そこには異様な日常がある。
あやかしと人間が当たり前のように言葉を交わし、共に笑い合っている。
里の案内人は扇子を広げ、紬を歓迎するのであった。
「さあ、足を踏み入れたが始まり!」
「此処は、人と人ならざるものが共に暮らす、現世に類を見ぬ唯一の地でございます」
「人の子あやかし。異なる種が手を取り合うは、夜明けの訪れと言えましょう」
「夢か現か、神楽に隠れたまほろばか」
「──ようこそ、暁の里へ!」
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―
くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。
「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」
「それは……しょうがありません」
だって私は――
「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」
相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。
「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」
この身で願ってもかまわないの?
呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる
2025.12.6
盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる